579 悪魔召喚
五百七十九
色々と話が揺れたものの話し合いは終わり、様々な事実が明らかとなった。ヴァレンティンもまた、ようやく目的だった情報が得られたと満足そうだ。
とはいえ、問題はここからである。
「次は何より、そのデラパルゴという悪魔を探すのが先決じゃな」
「ええ、そうですね。是が非でも取り戻して封印し直さなくてはいけません」
世界の破滅を目論む者達の手に『魔物を統べる神』の骸があるという状況は、極めて危険である。ゆえにミラとヴァレンティンは、この件をこのままにはしておけないと意見を一致させる。
次の目的地は、アトランティスだ。
「その前にとりあえず、ヴァレンティンや。一度、国に顔を出してもらえぬか? 出会ってこのままさようならしたと報告しようものなら、ソロモンに怒られそうじゃからな。それにあれであやつも心配しておる。直ぐに戻れずとも、無事な姿だけでも見せてやってくれ」
アトランティスといえば、元プレイヤー達が集まる国だ。そして国主同士という事もあって、アトランティス王とソロモン王は知らぬ仲ではない。
よってアトランティスへと赴き色々活動するのなら、ソロモンから連絡を入れておいてもらった方が何かと動きやすくなるというものだ。また事態を把握すれば、相応の協力も得られるだろう。
だからこそこれからソロモンに報告するわけだが、今回は得られた情報が多い。しかも悪魔を浄化して云々から始まるものだ。
それは、かなり重要な要素といえる。だからこそ当事者であるヴァレンティンも連れていって直接話してもらった方が話が早いと、ミラはそう考えたわけだ。
そして何よりも、まだ見つかっていなかった九賢者最後の一人だ。偶然とはいえ、これでミッションコンプリート。もしかしたら凄い褒美がありそうだと、そんな期待もあったりする。
「そう、ですね。そろそろ僕もきちんと挨拶くらいはと思っていましたので、そうしましょう」
ミラの思惑について気づいた様子はなかった。それよりも、ここでこうして出会ったのだから、このまま知らん顔して帰るわけにもいかないと考えたようだ。ヴァレンティンは、顔くらい見せておけというミラの言葉に、その通りだと頷き承知した。
「さて、それで一度帰るわけじゃが……」
まずはソロモンに報告して、その後、アトランティスへ出発。うまく向こう側の協力も得て悪魔デラパルゴを捜索し見つけ出す。
そう決まったところで、ミラはふとダンタリオンを見据えて、どうしたものだろうかと悩んだ。
浄化済みとはいえ、公爵級悪魔である。このまま連れ帰ったとして、誰も彼もが無条件に受け入れてくれるとは考え辛いというのがミラの予想であった。
「たとえ火の中水の中、君主様の行くところならば、どこへでもお供いたします」
ダンタリオンは、どこだろうと付いてくる気満々だ。いわく、彼は君主に仕える騎士という存在の絶対的な高潔さに憧れていたという。
だからこそ、その情熱は余計に燃え上がっているようだ。
王城とはいかずとも、一先ずは召喚術の塔のどこかに部屋でも用意すればどうにかなるかもしれない。
ただそこでミラは、ふと考えた。塔に、このイケメンが常駐しているという環境がどういうものかと。
(近づけるわけにはいかん……いかんぞ!)
塔に居れば、マリアナと顔を合わせる時も度々あるだろう。そう思った瞬間、ミラの脳は壊れかけた。
マリアナの事は、十分に信頼している。心の底から信じている。だがダンタリオンのイケメンぶりといったら、その心が揺らぎそうになるほどの脅威を秘めていた。
「いや、お主はヴァレンティンの仲間達と合流するべきじゃな。そちらには同じような境遇の悪魔達がいるという話じゃ。まずはそこで現状についてしっかり整理した方がよい。それに、こういった繋がりがあった方が何かと協力もしやすそうじゃからのぅ」
嫉妬ではない。もしもを憂いているわけではない。ただ一番効果的な方法がそれなのだと決めつけて指示をするミラ。
「私の事情までお考え下さるとは! 君主様のご命令とあらば、そのように!」
ダンタリオンはというと、むしろそれを心遣いと受け取ったようだ。その顔には喜びが浮かんでいる。
「……うむ、よし! というわけで受け入れてもらえるか?」
何だかよくわからないが、それでよさそうだ。ではダンタリオンがその気になってくれているならと、素早くヴァレンティンに確認する。それでいて、よもや断るまいなといった意気込みも含ませる。
「まあ、それについては僕としても望ましい状況なので大歓迎ですよ」
どうやら確認するまでもなかったようだ。悪魔を浄化して回っているとあってか、むしろ受け入れ態勢は常に出来ているらしい。加えてシグマ・アーカイブ管理者である彼が来てくれるのが最も理想的だと快諾であった。
「と、そういえばもう一つ。ちょいと試したい事があるのじゃが──」
ダンタリオンの所在については、いい方向にまとまった。そう確信したミラは、続いて少しずつ私利私欲を露わにしていった。
ダンタリオンをヴァレンティン側の組織に出向させる事にしたが、何だかんだで彼は公爵級悪魔だった存在だ。浄化によって幾らか力は削がれたものの、それでもその身に秘めた力は、まだまだ莫大である。
ゆえに、ただ送り出すだけでは勿体ないと感じたミラは、そこでふと思いついた事を試そうと考えたのだ。
では、何を思い付いたのかというと──
「悪魔が相手は初めてじゃが、召喚契約が出来たら凄そうではないか!?」
そう、悪魔との召喚契約だ。
これまでは人類の絶対的敵対者という存在でしかなかった悪魔だ。ゆえに、その可能性について考えた事はなかった。むしろ契約なんてしようものなら、どのように利用されるかわかったものではない。
加えて、他の誰かにどう思われるかも問題だ。場合によっては、人類を敵に回すなんて事になる場合も考えられた。
しかし、浄化後のダンタリオンは別だ。邪悪さなど微塵もない。それどころか見れば見るほど嫉妬心が湧き上がってくるほどのイケメンぶりだ。むしろそれを妬むミラの形相の方が邪悪ですらある。
ともあれ悪魔との召喚契約を試した者などそうはいないだろう。だからこそ、もしかしたらという可能性が脳裏を過る。
「召喚契約……! おお、この私を君主様の錚々たるお仲間に加えていただけると!? なんなりとお試しください! 出来るならば成功するまでお試しいただくのがよろしいかと!」
ダンタリオンは、召喚契約にとても前向きだった。むしろ理想的ですらあると前のめり気味にそれを望み、さあ如何様にもとその身を捧げる。
「う、うむ。ならば存分に試すとしよう!」
若干鬱陶しいくらいの勢いだが、ダンタリオンも乗り気ならば丁度いい。召喚術の契約は、はたして悪魔にも有効なのか。ミラは興味と好奇心の赴くままに契約を開始した。
ダンタリオンの額に手の平をかざす。
するとどうだ。契約の刻印を示した直後、大きく脈動するかのように光り出したのだ。
(おお、悪くない反応じゃぞ!)
成功するにしろ失敗するにしろ、刻印は反応する。そもそも召喚契約が出来ない相手の場合は、何の反応もないものなのだ。
つまりこうして反応したという事は、可能性があるという意味になる。
あとは、お互いの相性や縁などを含む様々な要素が、新たな絆として結びつくかどうかだ。
「これは……! ふむ、やはりとんでもないのぅ」
光が一気に集束すると同時、ミラの契約対象に新たな名前が刻まれた。
悪魔ダンタリオン。その力は確かだった。ロザリオの召喚陣が四つ必要となる最上級の召喚術に加わったのだ。つまりは切り札となるアイゼンファルドと同列の扱いである。
「これが召喚契約の絆。先ほどよりも更に強く君主様を感じる事が出来ます。その温もりまでも! なんと不思議な体験でしょう!」
ダンタリオンはというと、その結びつきを感じて悦に入った様子だった。
今はそっとしておいた方がいいかもしれない。そう思ったミラは喜びと更なる好奇心に加え、ちょっぴりの後悔を抱くのだった。
「ではわしは、このまま帰るとしよう。そちらの事はよろしく頼んだぞ」
とにもかくにも用事は済んだ。という事でダンタリオンも含めてヴァレンティンに全てを任せるミラ。
「……わかりました。それじゃあ、これを預けておきますね」
ダンタリオンの様子を前にして、幾らか思うところがあるのだろう。とはいえ、有力な仲間である事に変わりはない。
そう呑み込んだヴァレンティンは、そんな言葉と共に金属の棒を差し出してきた。
何でもそれが、転移の目印になるそうだ。
「ほぅ! そんな機能が──」
「分解とか組み換えとかしないでくださいよ」
それはもう興味津々な目で棒を見つめるミラに対して、そう釘を刺すヴァレンティン。
新しい術具や術式の類を前にすると分解分析せずにはいられないというのが九賢者である。
だからこその言葉であり、だからこそ効果的でもある。ミラは残念そうに、その金属の棒を受け取った。
「それじゃあ僕らは、ここで仲間が来るのを待ちますね。今少し忙しいみたいで、十分ほどかかるようですので──」
今日は、このまま解散。ヴァレンティンは、新しい仲間であるダンタリオンを組織の本拠地に連れて行くべく、転移マスターの仲間を待つそうだ。
彼が使えるのは、自分一人のみを転移させる術。ゆえにダンタリオンを連れ帰るには協力が必要らしい。
「──それで帰ったら彼を皆にも紹介しておきます。あと、ソロモンさんに挨拶に行くのはいつ頃がいいでしょう。ここからですとアルカイト王国まで結構かかりますよね」
この後の予定について、さらりと触れるヴァレンティン。ソロモンにも顔を見せるという約束についても忘れていない。
頃合いをみて、ミラに渡した目印へと転移するつもりらしい。とはいえそれは、ミラがこの場所からアルカイト王国に帰ってからの話。つまり彼は、数日後くらいになると考えているようだ。
だがそれは、移動手段が空路や陸路しかなかった場合の話。今のミラには、第三の選択肢があった。
「ふむ、それならばそう時間はかからん。転移が出来るのは、お主だけではないのじゃよ。都合がよければ一、二時間後くらいでも構わんぞ!」
それはもう自信満々に答えたミラは、同時に空絶の指環をチラチラと見せつけた。
既に転移先として召喚術士の塔を指定済みである。そのため、今すぐここから帰る事が出来るのだ。それから城に向かえば、一時間もかからずソロモンに今回の件を報告出来る。
「こちらもある程度の制約はあるが、今日中にソロモンとご対面も可能というわけじゃよ」
それはもう甘く見られたものだと、自慢げに胸を張って答えるミラ。
「これは……僕達とはまた違う技術みたいですね」
やはり彼も九賢者とあってか、興味を引かれたようだ。そこらの術具とは明らかに違う力を秘めていると気づいたのだろう。空絶の指環をじっくり見つめては感心したように唸るヴァレンティン。
「なかなかの代物じゃろう」
「ええ、これは凄い。見ただけでは、どういった形式なのかもわかりません。とはいえ方法があるのなら大丈夫そうですね。今日にでも会いましょう。では先に戻って伝えておいてください」
ミラが得意げに微笑むと、ヴァレンティンは素直にそう答え、好奇心をその顔に浮かべた。ただそこから先に踏み込むつもりはないようだ。人知を超えた技術だからこそ、その使い手としても弁えているのだろう。彼自身も、言えない事が多そうだ。
ゆえに詳しくは触れず、これからの予定を並べていった。
迎えが来てからダンタリオンを仲間達に紹介し、準備が整ったところでヴァレンティン側から合図するという。
預かった棒が震えたら準備完了だそうだ。その後、棒を振るか叩くなどすれば、こちら側の合図も伝わるとの事。
そうしてどちらも準備が出来たらヴァレンティンが転移してくると、簡単に打ち合わせ、ソロモンとの再会までの流れが決まった。
「では、先に行っておるぞ。……ああ、それとダンタリオンをよろしくのぅ」
予定も決まったところで、いよいよ転移による帰還だ。と、その前に念を入れて頼む。浄化済みとはいえ、ダンタリオンという悪魔は何かと厄介そうなタイプであると予感したからだ。
「ええ、それについては彼の仲間も沢山いるので……きっと大丈夫でしょう」
ヴァレンティンも少し感じているのだろう。けれど古い馴染みの友人達がどうにかしてくれるはずだと答える。なおその言葉には、そう信じたいという彼の想いも込められていた。
「君主様、御用があればいつでもお呼びください。いついかなる時でも素早く参上いたしますので」
ミラの前に跪き、それはもう喜色満面に見上げてくるダンタリオン。
「うむ……その時がきたらよろしく頼む」
そうミラが返したところ、彼はとても誇らしげに「畏まりました」と答えた。
「む……誰もおらんな」
空絶の指環の転移を起動して塔に戻って来たミラは、直ぐにマリアナとルナを生体感知で探したが反応は無し。一緒に出掛けているのだろう、今は塔にいないようだ。
「ふーむ、ちょいとおやつでも食べてからにしようと思うたが、まあ仕方がないのぅ。それならソロモンに馳走になるとするか」
多少ゆっくりしていったところで問題もないため、おやつタイムでも楽しもうと考えていたミラ。けれど、マリアナが留守ならば仕方がない。
マリアナお手製のスイーツこそが一番ではあるが、今回はソロモンのところの高級菓子で満足しておこう。そう妥協したミラは、そのまま塔の屋上に上がりガルーダワゴンに乗り込んで首都ルナティックレイクへと向かうのだった。
先日の事です。
冷凍餃子を取り扱っていたりするお店が近くにあるのかどうかとネットで調べてみたんです。
するとどうでしょう。何やら餃子で有名な感じのお店が近くにちらほら存在するという事が判明したのです!!
ほとんど外食などしないため、近場の飲食店とかほとんど知らなかったんですが、有名店あるみたいです。
なので更に詳しく調べてみたところ、冷凍餃子を扱っている店を発見!!
というわけで次に買うのは、このお店にしようと決定しました。
とはいえ、まだ今の分が残っているので、もう少し先になりそうですが。
有名店の餃子!!
今から食べるのが楽しみです!




