575 ヴァレンティンの目的
五百七十五
「ところで、ここに君達がいるって事は、ダンブルフさんも近くにいるって事かい?」
感動の再会も束の間。ヴァレンティンは少し期待するように周囲を見回した。
「近いというほど近くはにゃいですが、少し離れたところで見守ってくれておりますにゃ」
「今は、吾輩の目と耳を通して現状を把握しておりますワン」
そう答えた団員一号とワントソは、現在の状況と遂行中のミッションについて説明した。
「意識同調か、凄いね。でもそれなら話は早いか。実は僕も君達と同じような目的でここにきたんだ──」
ミラ側の事情を把握したヴァレンティンは丁度いいといった様子で、今ここにいる理由を教えてくれた。
なんと、この場で出会った目的は同じで、ヴァレンティンもまた悪魔の噂を聞きつけて調査に来ていたというのだ。
しかもそれだけではない。先に到着して調査を進めていた事もあって、彼は悪魔に繋がる痕跡などを複数発見しているそうだ。
「──というわけで必要なら共有しますよ。あ、今どこにいますか? 色々あるので直接お届けします」
そして必要なら、これらの情報を提供するとも言ってくれた。
『おお、話が早いのぅ。では──』
その情報があれば、いざという時に備えられる。しかも退魔術士のヴァレンティンは、対悪魔の専門家のようなものだ。そんな彼が調査して見つけた情報となれば、精度は極めて高いだろう。
ゆえに是非とも欲しいと、そうワントソを介して伝えようとしたところだ。
ミラは、そこで不意に躊躇いを浮かべた。
なぜなら、当時と今とで大きな違いがあるからだ。
『──……是非とも頼むと伝えてくれるか』
躊躇ったものの、彼が九賢者として帰還すればバレる事になる。
わざわざ先送りにする必要もないと考え直したミラは、覚悟を決めてワントソに伝言を頼んだ。
まさかの場所で出会ったのは、九賢者最後の一人、ヴァレンティン。
そしてそんなヴァレンティンは今、ミラが調査拠点としている屋敷精霊にいる。しかも会って話そうと言ってから、一、二分後の事である。
「これまた興味深いのぅ……とはいえこれに憧れていたのは、もう昔の事じゃがな!」
ヴァレンティンとの合流は、彼が転移の術を使った事で、あっという間だった。転移先の目印となる術具を団員一号が預かったところで送還して再召喚すれば、目印がミラの元に届くという仕組みだ。
その方法で直ぐに再会となったわけだが、ミラはもう転移を羨む事はなかった。ミラもまた『異空間の始祖精霊リーズレイン』という独自の方法を確立しているからだ。ゆえに心の平穏は保たれていた。
「……え? ダンブルフさん……? え?」
と、そうして堂々と構えるミラを前にして戸惑うのはヴァレンティンだ。
とはいえ、それもそのはずか。彼が知るダンブルフとは、その見た目がまったく違うのだから。
「うむ、説明しよう──!」
何だかんだで、その反応も久しぶりだ。そうなるだろうと頷いたミラは、これまでもこういう場合に使ってきた経緯を並べていった。
「──まあ、そう言うのならそうなんですかね……?」
九賢者を探すために云々かんぬん。確かにその方が動きやすいと納得するも、まだ何かありそうだと疑った様子のヴァレンティン。
実際のところ初期の頃に比べて、今はもう随分ミラとしての生活に慣れてきてしまっている。それどころか楽しみ始めている部分も多々あった。
「では改めて、情報交換といきましょうか」
彼はミラの仕草や諸々から、その辺りも感じ取った様子だ。とはいえヴァレンティンには、そういったところをチクチク刺して楽しむつもりはないようだ。直ぐにも本題へと話を移す。
そして深く突っ込まれたくないミラもまた、即座に頷いた。
セロから教えて貰った、異常を示す魔属性のエネルギー波形を検知したという地点。悪魔が絡んでいるかもしれないというその現場を調べていたところ、まさかの九賢者ヴァレンティンと再会する事になった。
話を聞くと、彼もまた悪魔に関係する情報を追ってここまで来ていたそうだ。
「──なんと、昔の頃の悪魔に、じゃと!?」
ヴァレンティンが調査した情報を教えて貰うのと同時に、ミラは彼が今携わっている大きな任務についても知る事となった。
アルカイト王国に戻っていない理由。それは、人類の敵となった今の悪魔を、そうでなかった昔の頃の悪魔に戻すという活動をしているからだそうだ。
しかも彼のみならず、同じ事を目標とする者達が集まった組織が存在しているらしい。
「はい。ですので見つける事が出来たら、一度僕に対応させていただけませんか」
「うむ、そういう事なら全然構わぬが」
既に多くの悪魔で成功しているという。そして今回、ここに来ていたのもまた、そのためであったわけだ。
悪魔を倒す必要はない。それどころか上手くいけば仲間になる。これに反対する理由はないだろう。
更に精霊王とマーテル、そしてリーズレインも、それは素晴らしいとヴァレンティンの活動を大絶賛していた。
「ああ、それと一応じゃな──」
帰る帰らないはともかくとして、一度ソロモンに会うようにと伝えるミラ。既に当初の目的は達成しているため、九賢者捜しの緊急性はなくなった。
けれど、仲間が行方不明のままというのも落ち着かないものだ。直ぐに帰国出来なくとも、何だかんだで心配している彼のために顔くらい見せておけと、そう言い含める。
「そう、ですね。今回の任が終わったら、そうします」
今受け持つ任務の重要性を理由に疎遠となっていたが、確かにその通りだとヴァレンティンも改めて気づいたようだ。そのように約束してくれた。
そうこうして互いに利害は一致した。どちらにしろ何かを企んでいる悪魔を放っておく事は出来ない。よってミラとヴァレンティンは、ここから共同で作戦を遂行していく事となる。
「──それじゃあ、次の場所に向かいましょう。うちのチームが見つけた調査ポイントが、もう一つありますので」
では早速といった様子で立ち上がるヴァレンティン。専門のチームというだけあって彼が所属している組織は、悪魔の追跡においてミラ達の一枚も二枚も上をいっているようだ。
他にも悪魔が関与していそうな場所を見つけているという。
「うむ、ならば次はわしの出番じゃな!」
自信満々に言い切ったミラは、屋敷精霊を送還してから続き、その場にワゴンを設置してガルーダを召喚した。
「なるほど。これはいいですね!」
ミラが用意したそれを前にして、これから何をしようとしているのか察したようだ。ヴァレンティンは興味深げにワゴンを見つめる。
吹雪いていない今ならば、存分に飛べるというもの。次の目的地を確認した二人はガルーダワゴンに乗り込むと、目的地に到着するまでの間、空の旅を楽しみながらなんて事のない雑談に明け暮れるのだった。
ガルーダワゴンで移動する事、二時間と少々。大雪原を離れたミラ達は、常緑樹に覆われた森の上空にまでやってきていた。
ヴァレンティンが言うに目的地──古い遺跡は、このちょうど下のあたりにあるそうだ。
だが今そこに広がっているのは、立派な常緑樹に覆われた森。上空からでは遺跡どころか、木の幹すらも確認出来ない。正に鬱蒼という言葉がぴったりな場所だった。
「ここから先は、足で探すしかなさそうじゃが……はて、どうしたものか」
そう判断したミラであったが、ここで一つ問題が発生した。あまりにも森が深すぎて着陸出来そうな場所がどこにもないという問題だ。
とはいえ九賢者が二人も揃えば、解決策など幾らでも生まれるというもの。
ミラが期待を込めて視線を送れば、「それじゃあ僕が着陸場を用意しましょう」とヴァレンティンが応える。そしてワゴンからひょいと顔をだしたところで中空に結界を展開した。
結界の効果は、多種多様。使い方次第では足場にだって出来る。その範囲を広げれば、空中にガルーダワゴンを着地させる事だって出来るのだ。
「よし、ばっちりじゃな」
九賢者ともあって、ヴァレンティンの結界は非常に強力だ。ワゴンを載せたところでびくともしない。
悠々とワゴンを降りたミラはガルーダを労い送還すると、次にワゴンも収納して準備完了と振り向いた。
「では、このまま下りましょうか」
言うなり結界を解除するヴァレンティン。するとそのまま落下していく事になるのだが、そこからも慣れたものだ。ミラは《空闊歩》でひらりひらりと跳ぶように降りていく。そしてヴァレンティンもまた、斜めに展開した結界を利用して滑り降りていった。
「なんとも、思った以上に薄暗いのぅ……」
常緑の葉と枝を抜けて辿り着いた大地は、昼間だというのに随分と暗く見えた。
今まで太陽の光に満ちた場所にいたからというのもあるが、やはり一番の原因は空すら覆い尽くす緑の屋根だろう。風が吹き枝葉が揺れようが微塵の隙間も出来ず、木漏れ日のしようもない状態だ。
「空からだと緑が輝いているように見えましたが、下はなんだか不気味ですね」
ヴァレンティンもまた、随分な変わりようだと苦笑しながら周囲を見回す。
その言葉通り、薄暗い常緑樹の森は、どこか気味の悪さが漂っていた。しかも地面は一帯がぬかるんでおり、何とも言えない臭いも漂っている。そして風が吹けば、更に色々な臭いが通り抜けていく始末だ。
それこそ中には、死体でも交じっているのでは、とすら思うような臭いまで感じられる。
「よし、とっとと見つけて調べて退散するとしよう!」
どちらにしろ、あまり長居したい環境ではないと直ぐに調査を開始する。そしてヴァレンティンもまた、その通りだと動き出した。
常緑の森の調査を始めてから一時間と少し。ヴァレンティンの情報に加え、ここでも出番となった団員一号とワントソの活躍もあって、目的の遺跡は無事に発見出来た。
そして内部を隈なく調べたものの、そこに悪魔の姿はなかった。だが今回もまた、次に繋がりそうな手掛かりは見つけられた。
「しかしまた、思った以上に急いだ方がよさそうじゃな」
「ですね。早く見つけて阻止しないと」
見つけた悪魔の痕跡を辿り、ガルーダワゴンで次の場所に移動する間、ミラとヴァレンティンは得られた情報を繋ぎ合わせて、悪魔の狙いについて予想していた。
それこそ甚大な自然災害を誘発したり、魔物や魔獣などを誘導したりといった様々な企みがところどころに確認出来た。
けれど、それもまだほんの一部に過ぎない。中でもミラが気になったのは、どれもこれもが霊脈に関係しているという点だった。
環境のみならず大地そのものにも影響を与える霊脈。とはいえそのエネルギーは膨大であるため、悪魔だからとてそれ自体をどうこうするのは不可能だ。
だが、そのエネルギーを利用する事ならば可能だ。
ただそこに、ミラ達のみならず精霊王とマーテルも気にした点があった。
「今はまだ見つかっておらぬようじゃが、このまま続けていけばいずれ当たりを引いてしまうかもしれぬからのぅ」
「特別な力で隠蔽されているとはいえ、相手もそれは承知のはず。それで行動を起こしたというのなら、こちらも急いだ方がいいのかもしれませんね」
ミラ達が懸念している事。霊脈に関係する中で最も厄介な案件。それは、今追っている上位の悪魔の狙いが『魔物を統べる神』の分かたれた遺骸かもしれないというものだった。
そしてその件について、ミラは以前に精霊王から説明を受けたから知っていたわけだが、どうやらヴァレンティンもまた、所属している組織の長から聞き及んでいたそうだ。
確実にそうだと断言出来る状態ではない。ただ状況と痕跡から絞り込んでいくと、十分に確率が高まっていく。何よりも今動いているという事は、動くに値する情報か何かを向こうが得たのかもしれない。
だからこそ、追跡を急いだ方がいいだろうと二人の意見は一致。どうにか見つけた痕跡を手掛かりにして、次の調査地点へと向かった。
先日の事です。
ちょっといい事があったのに加え、まだチートデイをしていなかったので少し豪華にいっちゃおうかなんて思い立ったのです。
そして何にしようかと色々考えた結果、
そうだ、寿司にしようと決めました!
思えば、前回はま寿司を食べてからどのくらいか……。
もう一年以上は経っているのでは、なんて思いまして。
久しぶりのはま寿司だと意気込んでいったわけです。
ただここで、不意に不安が過ぎりました!!
何故かというと……
そう、この私! ザギンでシースーというもはや頂点クラスの寿司を味わってしまった事があるからです!!!
あの日あの時味わった寿司の味といったらもう……。
なのでもしかしたら……なんて思いつつ食べました。
美味しい!!!
なんかもう、十分に美味しかったですね。
むしろ、1000円そこらでこんなに満足出来ちゃうとか、はま寿司凄いなんて思ったりしました。
きっとあの日食べた一品一品が、この日食べたはま寿司一食分以上だったでしょうからね。
次は、いつ食べようかな!!




