572 初代
五百七十二
「なるほどのぅ……これまたとんでもないところじゃな!」
教皇に案内されてやってきた、ロア・ロガスティア大聖堂の地下。そこにあったのは娯楽施設などではなく、三神教の歴史が全て収められた博物館のような場所だった。
流石は総本山である。ここにある資料は、どれもこれもが貴重なものばかり。しかもそれが大量に保存されていた。
「そうでしょう? 特にこの辺りなんてね──」
教皇はそれらの中でも、これは凄い、これは希少、これは重要、これは興味深いと、多くの歴史に触れていった。
三神教の歴史。資料と共に教皇が語るそれらには、今はまったく表に出てきていないような情報も多々あった。当時の日常から創世時代の神話まで、その分野も多岐にわたる。
「なんと、これは……!」
しかもここに眠る歴史は、人類のものばかりではない。精霊や神の歴史にまで触れられていた。
中でも特にミラが興味を惹かれたのは、太古の星々について書かれた部分だ。しかもその一節によると、なんでも初代教皇はこの大地と、つまりこの星と会話する事が出来たという。
そして資料には太古の星座が描かれた星図も記載されていたのだが、最近は毎日のように星図とにらめっこしていたからこそ、ミラはそれに気づけた。
太古の星図には、地上から観測出来なかったあの二十の星が明確に記されていたのだ。
「初代教皇は星と会話が出来たとあるが、もしやここにある星座は、初代がこの星から教わったものという事じゃろうか!?」
もしもそうであったなら、アストラの十界陣解明に大きく前進出来るかもしれない。
「うーん、どうだろう。そもそも初代様は、どの資料を読み解いてみても、かなり奇抜で特異な方だったみたいだから。星と会話したというのも、ね」
期待するミラだったが、教皇の答えはどうともいえないものだった。
いわく、初代教皇は随分と奇妙な行動の多い人物だったらしい。だからこそ幻聴を星の声などと思い込んでいたのかもしれないというのが、これを知る大多数の印象のようだ。
「まあ私としては、どちらとも言い切れないかな。星と話せるなんてロマンチックだし。もしかしたら、それに近い何かを感じ取っていた可能性もあるから」
教皇も多数寄りの考えらしいが、それでもまったく嘘というわけではないとも思っているそうだ。
「ところでじゃが──」
はたして初代教皇は、本当に星の声を聞いていたのか。その真偽は定かではない。ただ、太古の星図に気になる星が記されているのは確かだ。
だからこそミラは、アストラの十界陣のヒントになるかもしれないと考え、この資料の貸し出しを求めた。けれどやはり、ここにあるものは全て持ち出し厳禁のようだ。一切の例外なく許可されていないとの事だった。
貴重なものである事に加え古いものでもあるため、扱いが極めて難しいらしい。
だが、どうしてもというならと、教皇は後日必要な部分の写しを用意してくれると約束してくれた。
ロア・ロガスティア大聖堂から帰った後は大きな用事もなく、ミラはアルカイト王国にて落ち着いた日々を過ごしていた。
九賢者がほぼ揃ったアルカイト王国は、限定不戦条約失効後もこれまでと変わらずに平和である。
だがその代わりに癖の強い者ばかりとあってか、国の平和と引き換えにソロモンの平穏は遠くへと旅立ってしまった。
メイリンが抜き打ちで兵士達と模擬戦を繰り広げていたり、孤児の受け入れ要請がいつの間にか認可されていたり、ウサギカフェに続いて侍女区画に猫カフェが出来ていたり、警備用に改修した魔導人形──プロティアンドールが更に魔改造されて犬型になっていたり。
それはもう毎日、何かしらと奔走していた。
『──それは凄いのぅ。今度見に行くのが楽しみじゃわい!』
決戦に向けて同時進行しているあれこれについても、これといった問題もなく順風満帆だ。
かの大聖域復興計画についても、精霊王伝いで定期的に報告が入っている。
その内容によると、聖域は順調にその規模を拡大しているようだ。リーシャも聖域の管理者として色々と慣れてきたらしい。それに伴い霊脈の活性率も上がってきているとの事だ。
また、三ヶ所の聖域については安全装置の設置も完了。動作テストなども問題なく済んでいる。
後は彩霊の黄金樹海の一端でも復活すれば、神器を使う準備は整ったと言ってもいいそうだ。
「新たな聖域造りのデータも集められて一石二鳥じゃな!」
報告にあった要点をノートに纏めながら、にんまりとほくそ笑むミラ。
この調子で彩霊の黄金樹海が復活したならば、きっとそこに至るまでに得られた知識は次に繋げられるはずだ。
ダンブルフ時代には果たせなかった、新規聖域造りという野望に。
「ふむ……この下限値の部分をもっと詳細に確かめるには──」
ついでに幾らか集めた聖域候補地のデータをタブレット端末で確認するミラ。霊脈調査のためにアンドロメダから預かったそれは、ある程度は好きに使っていいという許可も得た代物だ。
とはいえ機能を全て把握しているわけではないため、時折アンドロメダに操作方法を聞く事もあった。
「──っと、確か昨日からフローネのところじゃったな……」
今日も今日とて、そうしようかと考えたミラだったが直前に思い直す。
先日、約束通りアンドロメダとフローネを引き合わせたところ、それはもう大いに意気投合したらしい。最近はアンドロメダが頻繁に訪れており、二人でこそこそ企んでいる様子だ。
きっとろくでもない事だろう。そして巻き込まれたら、またソロモンにどやされる事になるはずだ。
天空島の件で、かなり面倒な事を複数押し付けられたものだ。ゆえに今回は終始かかわらないと決めたミラは、聖域計画を一旦棚にあげて次の研究に移った。
「これは……うむ、却下じゃな」
資料を整理しようとしたところで目に入った一枚の要請書。日之本委員会からミラ宛てにこっそり届けられたそれは新ビキニアーマーの試用テストについて協力を願うものだったが、流石にもうあの変態達に付き合ってやる義理もない。
ミラはこれをゴミ箱に投げ捨てるのだった。
隠れ九賢者として国に貢献したり、研究したり息抜きしたり。大きな事件や事故──凄惨な事故もなく、ミラは穏やかに日々を重ねていた。
アストラの十界陣の研究も、いよいよ終盤。ロア・ロガスティア大聖堂で得られた情報のお陰もあって、ようやく可能性が見えてきた。
そうして月日はめくるめく過ぎ去り、そろそろ春の陽気がそこかしこに見え隠れし始めた頃。
「お、今日はここから見えるのぅ」
召喚術の塔の賢者の部屋。その窓から望める景色の中には、何度見ても不可思議で、だからこそ人々を魅了するそれが浮かんでいた。
そう、一定のルートで周遊している天空島の姿だ。年明けの頃に比べある程度は騒動も落ち着いたが、今でも観光の目玉スポットだ。
「しかしまあ人気の大半を掻っ攫われて、何とも複雑な気分じゃな」
ここから天空島が見える日は、街の方がいつもより賑やかになる。その姿を拝もうと、多くの観光客が押し寄せるからだ。
シルバーホーンの名物といえば銀の連塔だったが、目新しくてド迫力とあってか、今では天空島の人気で端へ追いやられている状態だ。
新しいもの好きな若者の目的は、ほとんどが天空島。わざわざ銀の連塔を見に来るのは、年寄か九賢者に憧れる術士くらいのものだ。
とはいえ、天空島効果による集客を見込んだ政策も幾らか形になってきており、最近は観光収入の報告を聞く時間が一番の癒しだと、ソロモンはたいそうご満悦だったりする。
「まあ、色々な要素がてんこ盛りじゃからのぅ」
空に浮かぶ島という衝撃的なビジュアルもそうだが、この人気の一端はやはり精霊王の影響によるものが大きいだろう。
精霊達のみならず、人類にとっても支柱的な存在となりうる精霊王だ。しかも宗教的にも重要な立場にあるとあって、多くの意味で注目度が高い天空島。
だからこそ観光資源として、より多くの利益を齎していた。
とはいえ、そんな恩恵を金稼ぎに使うのは少々罰当たりのようにも感じられるところだが、精霊王本人はまったく気にしていないため問題はなさそうというのが現状だ。
むしろ、そこで稼いだ資金で精霊都市計画が着実に進んでいるとあって、むしろ嬉しそうですらあった。
そんなある日の事だった。
「──ってわけで、たまには組合に顔を見せに行ってよ。もう半分は君への苦情みたいなものでもあるんだからね」
ふとソロモンから連絡があったかと思えば、それは文句交じりの報告であった。
なんでも冒険者総合組合経由で、ミラ宛てに緊急の用件が届いているとの事だ。
ある程度は落ち着いたものの、今もまだミラ宛てに拝謁の儀がどうたらというメッセージもあるらしい。だがそれについては、既に教皇と話し合い解決済みだ。
そのため、それらのメッセージは組合側で処理してくれているが、それ以外にも幾らかミラ宛てに届いているらしい。
けれど未だ、当の本人は滅多に組合を訪れない。そんな中、あのエカルラートカリヨンの団長セロより、極めて重要という案件のメッセージを預かったという事で、またレオニールからソロモンに連絡が入ったそうだ。
「あー、うむ。わかったわかった。気が向いたらちょくちょく寄ってみる事にしよう」
どうやら前回の一件で、その情報伝達ルートが確立してしまったようだ。ミラ宛てに届いた重要案件は、ソロモン経由で伝えればいいと。
「いーや、行くなら曜日とかちゃんと決めておいて。君の場合、ずっと気が向かないで終わるでしょ」
もはやお見通しだと、呆れ気味に返してきたソロモン。
そもそもミラが定期的に組合に立ち寄れば、こういった手間が増える事はない。しかも精霊王の影響もあるため、今後もこういった事は十分に有り得るからと、ミラはかなり愚痴られた。
「わかっておる、行けばよいのじゃろう。仕方がないのぅ。して、その重要な案件とは、どういった案件じゃ?」
愚痴が始まったら、もう止まらない。ミラは途中で強引に口を挟んで、その内容を問うた。
「……まったく、えっとね──」
わかっているのかいないのか。きっとほとんどわかっていないだろう。そう溜息を漏らしつつ、ソロモンはセロから届いた内容を伝えた。
いわく、極めて重要な用件であるため直接会って話したい、という事らしい。
「ふむ、直接か。となれば相当な話のようじゃな。今はまあ、そこまで予定もない。いつでもよいぞと返しておいてくれるか」
「あのねぇ……。まあ、今回は僕の方から返事しておくけど、次からは君の方で頼むからね。わかった?」
組合に行けといった矢先に、この答えだ。呆れたように溜息を漏らしたソロモンは「これが最後だからね」と続けながら、何だかんだで伝言を引き受けてくれたのだった。
カップスープっていいですね!!
ちょっと小腹が空いた時の足しにもなりますし。夜遅い時間とか、特に!!
定番は、やはりコーンポタージュですよねぇ。
中でも、じっくりコトコトのあれは、ちょっとお高いですが絶品です!!
他にもお気に入りは、
カマンベールチーズ入り国産オニオンのスープです!
これもまた美味しい!
野菜スープとかもいいですよね。
という感じで、カップスープに注目中。
ヘルシーに小腹を満たして間食予防!
最近まで電池切れしていた体重計に電池を入れたら、衝撃の事実が発覚したので余計に力を入れております。
なお、コーンポタージュはカロリー高めなので注意が必要そうですね……。
種類も沢山あるので、色々なカップスープを試していこうと思います!




