571 ロア・ロガスティア大聖堂
五百七十一
三神国巡りを終え、アルカイト王国に戻ってきてからの二週間は怒涛のように過ぎていった。
隠れ九賢者として割り振られた仕事。アンドロメダへの報告や今後についての打ち合わせ。大聖域復興計画の進捗確認。教皇と行く天空島見学会。フローネとアンドロメダの邂逅。そしてお留守番だったルナのご機嫌取りと、それはもう大忙しな毎日だった。
「それなりに影響は出ると思ったけど、まさか組合経由で僕のところにまで話が回って来るとはね……」
「うむ、まさかこんな形で広まるとはのぅ」
色々あって、教皇が取り仕切ってくれる事となった精霊王との拝謁の儀。その影響力は凄まじく、多忙だった二週間の半分は、その対応に費やされたといっても過言ではない。
あのような人物だが、なんだかんだで三神教のトップだ。そんな教皇と精霊王を動かした中心人物として、精霊女王の名は更に高まっていた。
そしてこれが話題となり、更に多くの聖職者達から拝謁の儀を望む声が殺到する。
ミラは後から知った事だが、今回は三神国以外の国や地方にある小さな教会などに一切の連絡がなかったそうだ。そのため、蔑ろにされたと思う者達も大勢いたわけだ。
だからこそ余計に騒ぎとなった。そして次には、どうしたら精霊王との拝謁の儀に参加出来るのかという話になっていく。
その結果導き出されたのが、精霊女王に直接会えばいいというものだ。そしてそんな精霊女王は冒険者という事で、次には冒険者総合組合に問い合わせが殺到。
とはいえ、これまでほとんど冒険者活動をしていなかったミラは、あまり組合を訪れない。
ゆえに組合側でも問い合わせに対する返答を得る事も出来ず、それでいて問い合わせは日々増えていき、いよいよ組合全体の問題となっていった。
そこで対応を引き受けたのが、カラナックの組合長であるレオニールだ。
彼はミラが冒険者になった時に手続きをした者であり、だからこそミラが誰の推薦で冒険者になったのかを把握していた。
その結果、連絡のとれないミラに繋ぐため、組合への問い合わせがそのままソロモンに流れてきた次第だ。
「まあとにかく、いい感じには纏まったかな」
「そうじゃな。これで当分は大人しくなるじゃろう」
精霊女王に連絡を取り許可を得れば誰も彼も精霊王との拝謁が叶う。気づけばそんな噂にまで好き勝手に発展していたが、流石にこれをこのままにしておいたら収拾がつかなくなるというもの。
要望のたび、それに応えていたらきりがないからだ。しかも教皇が試しの儀を行っていた事からして、当然希望者の中には邪な気持ちで近づいてくる者もいるだろう。
はたしてそのあたりをミラが見抜けるかどうかは、怪しいところだ。
ゆえに幾度と会議を開き、その拝謁の儀における様々な決まりや条件といったものを徹底的に話し合った。しかも今は丁度、教皇がアルカイト王国に滞在しているという事もあり、その内容は予定よりも大きく本格的な規模へと膨らんでいった。
結果、今後一年に一度のペースで行われるという形で収まった。
時期は、今回三神国巡りをしたあたり。そして拝謁の儀が執り行われる場所は、ロア・ロガスティア大聖堂の入り口にもなっている聖別の城塞。そしてこれに参加するためには、教会側が定めた幾つもの試験を突破して資格を得る必要があると、そう様々なルールが決まった次第だ。
「まあ、いきなり制限をつけられたって事で、最初の内は文句を言う人もいるだろうけど、よろしくね」
「その点は大丈夫じゃ。既に精霊王殿から、言い訳に名前を出してもよいと許可を貰っておるのでな」
今後考えられる様々な状況を考慮して完成した決まり事。そしてこれの作成には精霊王も直々に参加し承認した。もしも文句を言う者がいたなら、その事実を突きつければいいと、本人も了承済みだ。
そもそも実際のところ、拝謁の儀は精霊王に時間を作ってもらい行う事になる。つまりは精霊女王の都合ではなく精霊王の都合だという認知が浸透すれば、自然に落ち着くという予想だ。
ちなみに、その検定試験の開始は、近いうちに教皇が頃合いを見て公表するという事になった。
大忙しだった二週間の次は、比較的穏やかで平穏な日々が続いた。
九賢者という国防の要がほぼ揃った事に加え、祝福の街やらなにやらと話題に事欠かなかったアルカイト王国。
それゆえか、周辺で燻っていた戦火の火種は悉くが沈静化したようだ。これまでのミラの努力が、結果として表れたわけだ。
だが、完全にミラの任が解かれたわけではない。未だ行方知れずの九賢者ヴァレンティンについての調査は継続中。情報を掴み次第、捜索に行く予定だ。
とはいえまったく情報のない今は、ミラもまた好き勝手に過ごしていた。
「ふーむ……これがどうやって陣になるのじゃろうか」
特に今は、アストラの十界陣の研究に夢中だ。これまでに得られた情報を基礎とするのみならず、精霊王にマーテルとも相談しながら研究を進めている。
そして最近、一つの可能性が浮かんできた。
十の星を結んで完成する原初の星座。その結び方は今もまだ判明していないが、もしかしたらそれで完成する星座は一つではないのかもしれないという可能性だ。
「しかもここにきて、更に複雑になるとはのぅ」
加えて、新たな情報も舞い込んできた。
その情報は以前、中継基地のある宇宙にまで上がった時、共に星を観測した者達から送られてきた情報だ。
何でも、中継基地に設けた観測所が本格始動したらしい。そして観測していく中で、ある事実が判明したそうだ。
それは、朝の星と夜の星。つまりミラが観測していた時間から時計が一回りした頃の空では、見える星の配置も大きく変わる。
すなわち反対側の空にも、以前に発見したものと同じような十の星が見つかったというのだ。
合計にして二十の星。更に困難になってしまったが、とはいえ情報を欠いたまま研究を続けるよりは、ずっと有意義というものだ。
「朝と夜で別々に見えるが、そもそも星から見た星空というのは、どういうものになるのやら……」
『星から、か。思えば我も、この大陸から見える空しか知らなかったな』
ミラが呟くと、精霊王もまた世界の広さに感嘆する。
と、そこでミラは、大きな不安要素に気づいた。
それは、こことは違う遠くの大陸から見える星なども、アストラの十界陣に関係してきたりするのではないかという事だ。
北半球と南半球とでも星空は違ってくる。ならばこそ、もしかしてと考えたわけだ。
だが、そんなミラの不安に対してマーテルは、『私を召喚するためのものなのよね。ならきっと大丈夫よ』などと、随分気楽な様子だった。
あまりにも自信たっぷりであるため、そう思う根拠は何かと問うたところ、マーテルは女の勘と答えた。
「……なるほどのぅ」
頼りになるのかならないのか、実に曖昧な女の勘。だがそこには不思議な説得力がある。特にマーテルのとなれば、何となくで信じてしまうほどに何かがありそうだった。
なんやかんやありつつもアストラの十界陣のために研究の日々を過ごす事、更に幾日か。
そんなある日、ミラ宛てに驚くような話が届いた。
先日、一緒にアルカイトまでやってきて存分にソロモンの胃を苦しめた教皇から、なんとロア・ロガスティア大聖堂への招待が届いたのである。
「まさか総本山にも行く事になるとはのぅ……」
送迎用の飛空船内にて、何となく地平線あたりを眺めながら、何があってこうなったのかと呟くミラ。
何といっても、場所が場所である。ロア・ロガスティア大聖堂は三神教の本拠地であり、聖地でもある場所だ。
そしてそこには、厳格なルールが存在していた。どれだけの金や権力をもっていようとも、三神教会が定める大司祭位以上でなければ、その領域に入る事すら許されないという、とびきりに神聖な場所なのだ。
そしてそれは、たとえミラが精霊王と密接な繋がりを持っていようと例外ではなかった。だからこそ本来ならばミラにとっては無縁の場所になっていたはずだ。
けれどここにきて、まさかの縁が結ばれた。というよりは、結ばされたといった方が適切だろうか。
先日の三神国巡りによって聖職者に多大な影響を与えた事、三神教会に貢献した事が大きく評価された。そして最終的には人と精霊達の懸け橋となれる存在であると認められた結果、ミラに『精霊王の使徒』なる特別な地位が教皇より授けられたのだ。
しかもその地位は、大司祭に並ぶものであった。というわけでミラは、あれよあれよと招待されてロア・ロガスティア大聖堂への立ち入りも許可されたというわけだ。
(まあ当然、これも込みじゃろうな……)
やはり、というべきか。到着したその日の夜に、拝謁の儀が行われた。
教皇曰く、三神国巡りの件が、ここでも連日一番の話題になっていたそうだ。
三神国で行われた神聖な儀式。精霊王の声を拝聴出来るという栄誉。是非ともその現場にと願うも、希望者は全員。それを許せばロア・ロガスティア大聖堂は、その時無人になってしまう。
三神国ごとに日程をわけるという案もあったが、旅程を考えると結局無人になる事は避けられない。
かといって人数を限定すれば、不平が生まれる。
ゆえに三神国巡りの時は、トップである教皇と、その護衛だけがここを出たわけだ。
「なんか面倒掛けちゃってごめんね。精霊王様も、ありがとうございました」
拝謁の儀も終わったところで客室に案内されたミラは、美味しいお茶とお菓子を堪能しながら、教皇の言い訳を聞かされていた。
ここに帰ってきてから暫くして、各地の教会より多くの吉報が舞い込んだという。
直接的か間接的かは不明だが、参拝者や相談者が増えたり、寄付金が増えたり、見習い希望が増えたりと、どこもかしこも好い影響が出ているそうなのだ。
現在、精霊王と祝福の街の存在が大陸全土で話題になっているとあって、相乗効果が発生しているらしい。そんな民衆の関心が高まる中で行われた拝謁の儀だ。
その結果が数字に表れた次第である。
だがロア・ロガスティア大聖堂は、そんな話題の外にいた。三神教の中心地という立場でありながら、ここには拝謁を成せた者がいなかったのだ。
「いきなりの事で驚いたが、まあこんな珍しいところにも来れたわけじゃからな」
『構わん構わん。世を良くするためならば、我も喜んで協力しよう』
三神教の中心地としての役割と責任。その責務をきっちり果たすため、様々な方法を模索して規律内にはめ込んだのが今回の策というわけだ。
ともあれ、そのお陰で縁もないと思っていた大聖堂を見られたと単純に喜ぶミラ。精霊王も世のためになるのならと快諾し、これで三神達に恩を売れたかもしれないと笑っていた。
翌日。折角ここまで来たのだからという事で、それはもう張り切った教皇が意気揚々と大聖堂の見学ツアーを組んでくれた。
朝食なども終えた後、教皇と行くロア・ロガスティア大聖堂巡りの始まりだ。
「来る時に見えて驚いたものじゃが、こう改めて見ると、やはりとんでもないのぅ……」
ロア・ロガスティア大聖堂。立派な本堂は大きな敷地の北側に構えられているのだが、では南側はというと、これもまたそこには本堂にも負けないものが聳えていた。
それは、三神教の初代教皇を模った像だ。見上げるほど大きなそれは、高さにして五十メートルに届くだろうか。そんな像が聳える姿は、迫力と威厳に満ちていた。
この初代教皇は、何と三神に育てられたらしい。しかも術とはまた違う、それこそ奇跡さえ起こす事が出来たそうだ。
そんな初代教皇像の全貌を見上げる事が出来るのは、この場所からのみとあって、背筋を伸ばしたミラは無病息災の奇跡を祈る。
そのように大聖堂の象徴的なものの他にも、教皇は各施設に至るまで細かく案内してくれた。
「食事は皆一緒に食べるの。やっぱり一緒がいいよね。おやつの時間もあるから」
「うむ。一人落ち着いても悪くはないが、皆と一緒が一番じゃな」
いつも暮らしている場所や、共に過ごす同志達をミラ達に紹介出来るのが嬉しいようだ。礼拝堂に祭壇、食堂に談話室、中庭、続けて修道院と隅から隅まで徹底的に回っていく。
彼女が随分とご機嫌だからだろう、途中で出会う皆もまた、どことなく嬉しそうだ。
とはいえ教皇が自身の私室を紹介した後、それぞれ他の者の私室まで開け放っていった時は流石に慌てて止めていた。
と、そうこうして、ほぼほぼ見終えたところだ。
「それじゃ次は、地下に行こっか!」
前哨戦はここまでだと言わんばかりの笑顔で、教皇がそんな事を言い出したのだ。
「地下、じゃと……!?」
この場所には、三神教会の中心地として十分なほどに充実した環境が整っている。素人目でもわかるくらいの施設だが、どうやらこれで終わりではないようだ。むしろ、真に凄いのは地下の方であると、教皇の目は語っていた。
いったいこれ以上に何があるというのだろうか。もしやプールやバーなどの娯楽施設でまでも完備しているというのか。
ミラはそんな想像を抱きながら、足取り軽く先導する教皇の後に続いた。
土曜と日曜の朝食に、餃子。
これが最近のマイブームとなっております!
そして先日は、なんだかいつも見ていたものよりちょっと高級そうな感のある大阪王将の冷凍餃子。そして浜松餃子をチョイス!
美味しい!!!
という感じで餃子ブームも継続中。
そんなある日、久しぶりにスマホで見れるマーケットを開いてみたところ、
なんだか美味しそうな餃子がタイムセールで半額に!!!
これは運命だと感じ、注文しちゃいました!
黒豚餃子とスタミナ餃子のセットです!
到着日は、5月10日。
今から楽しみです!!!!




