569 首都ヘンゼル
五百六十九
精霊王との拝謁と神器のチャージ。そしてダンブルフの弟子を名乗るロウジュとの邂逅。
グリムダートでの任務が完了した次の日は、お待ちかねの観光タイムだ。
「ふむ、絶好の観光日和じゃな」
「とっても綺麗な青空です」
いざ出陣だとホテルを飛び出すミラ一行。伝統と礼節を重んじる騎士の国の首都ともあって、その街並みはクラシカルで重厚な雰囲気に包まれている。街自体に護られているかのようにも感じられる安心感に満ちた街だ。
「さあ、本日もはりきっていきましょう」
「来たのは百年ぶりくらいだから、どう変わっているか楽しみね」
マリアナとリリィのみならず、今回も当然といった顔で教皇も合流済みだ。
離れた位置には、しっかり護衛二人の姿もある。その目は、「今日もよろしくお願いします」と告げていた。
グリムダートの首都ヘンゼルへと繰り出したミラ達は、今日も今日とて観光を楽しむ。
グルメのみならず、有名なグッズや開運アイテムなども買っていく。他にもメジャーな観光スポットを見て回っていたかと思えば、教皇の案内で曰くつきスポットに誘い込まれたりと、終始賑やかに時間が過ぎていった。
「……着いてしまったか」
途中までは有意義な時間だった。しかし、リリィによって巧妙に組まれたルートにそれはあった。
マジカルナイツの新規姉妹店『ウィザード・エデン』。新シリーズである魔女っ娘風衣装をメインに扱う、クール&ゴシックがテーマの店だ。
こうなる事はわかっていたが、ミラ以外全員が希望しているとあっては避けようもない。
よって今日も当たり前に連れ込まれて存分に着せ替えられたミラ。
「同じ系列店でも、リデルにあったお店とは随分違うのね。私はこっちの方が好みかも!」
そんな中、前回のマジカルナイツでの一件もあってか、教皇はここの服にも興味を持ったようだ。見事にコーディネイトされたミラをじっくり観察しながら、そんな言葉を口にした。
「ならば今回も着てみてはどうじゃ?」
前回と同じよう仲間に引き入れようと画策するミラ。すると教皇は「そうね、それじゃあお二方も一緒に着ましょ!」と無邪気に提案した。
その結果、再び形勢はミラ側へと傾いた。そう、着せ替えられるのなら諸共である。
なまじ自分だけが着せ替えられるから目立って恥ずかしいのだ。
ゆえに一蓮托生。皆で着れば恥ずかしくないと、ミラは前回の件で大いに学んでいた。
「──なんだか、ちょっと大人になった気分です」
「なるほど、このような感じですか」
今回も上手い事マリアナとリリィも魔女っ娘に染め上げる事が出来た。
クール寄りな衣装を着こなすマリアナは、これまでとはまた違った魅力に満ちている。
そしてリリィはというと、これが妙に様になっていた。それこそ正に、怪しげな魔女そのものといった仕上がりだ。少女の生き血でも啜っていそうである。
「これ素敵ね! とってもイイ!」
そう一際嬉しそうに笑うのは教皇だ。魔女っ娘コーデに身を包む彼女は、どうやらマジカルコーデ以上にその服が気に入ったようだった。
何でも聖職者とあって、教皇が着るのはいつも白い衣装ばかりだそうだ。
しかし、ここ『ウィザード・エデン』にある衣装は、その正反対といっても過言ではないほど、クールでダークな雰囲気に満ちたデザインが多い。
だからこそ、これまでの反動とでもいうのか。マジカルナイツでは一通り着替えるだけで終わったが、今回は違った。
「ねぇ、今日はここの服を着ていこ!」
と、そんな事を言い出したのだ。つまり全員魔女っ娘コーデで観光を続けようというわけだ。
「むむ……」
店内で全て完結させるつもりであったミラは、流石にそれはと難色を示す。ここでなら周りの全てが魔女っ娘一色であるため、そこまで気にはならない。だが外に出れば話は別だ。
マジカル・コーデの方ならば着慣れてしまっている事に加え、大衆にも認知されているので一般に紛れても今は目立つものではなくなった。けれど魔女っ娘コーデは新機軸のファッションだ。今のままでは、ちょっとしたハロウィン集団に見えるのではあるまいか。と、そのようにミラは懸念を抱いていた。
ただ目立ってしまうだけならば、まだいい。精霊女王だとバレるくらいなら、もはや慣れたものだ。
ただ問題は、教皇という存在に気づかれる場合であった。
「折角のお忍びじゃろう。目立っては余計に気づかれそうじゃからのぅ。今まで通りの私服スタイルでいる方がよいと思うぞ」
歴の長い三神教のトップだ。目を惹かれた大衆の中に気づく者がいるかもしれない。だからこそ余計な事はせず、一般民に成りすましていた方がいい。
そうミラが説明したところ、教皇はあからさまにしょんぼりと肩を落とした。それほどまで気に入っていたのか、その顔には悲壮感まで浮かんでいる。
ハロウィンパーティを避けるためとはいえ、ミラの言葉もそれはそれで納得のいくものでもあった。教皇がこんなところにいるとバレたら、相当に面倒な事になるのは明白だ。
と、教皇が項垂れていたところだ。死角になるところから護衛の女性が素早く駆け寄ってくると、ひそひそと告げてきた。
護衛いわく教皇は、お揃いのテーマの服で揃える、という仲良しの友達同士でやるような事に憧れているのだそうだ。
彼女の立場柄もあってか、もう長い事友達と言えるような存在は彼女の周囲にいないらしい。
けれど今は違う。これほど楽しそうにしている教皇を見たのは初めてだと語る護衛は、だからこそ何卒と懇願する。是非とも教皇の願いを聞き届けてほしいと。
「いざという時の露払いは、私が責任をもって引き受けますので──」
そう最後に付け加えた護衛。その目は、本気のそれであった。護衛という任で付いてきてはいるが、彼女達が最も望むのは教皇が存分に息抜き出来る事だという。
(いったい何をするつもりじゃ……)
いざという時の露払いとは、何をどうするというのだろうか。その言葉にはそこはかとない恐ろしさが滲み出ている。だが、これを断れば彼女の本気がどこへ向かうか明々白々。
このまま魔女っ娘集団の一人になるしかないのか。マジカルコーデのみならず、魔女っ娘コーデにまで手を染めてしまう事になってしまうのか。
そう覚悟を決めかねていたところだ。
「是非とも、こちらで──」
頼み込むように手を握ってきた護衛は、その瞬間、ミラの手にそっと金貨を十枚ほど握らせてきたのだ。
彼女が言うに、これは衣装代だそうだ。しかも釣りは要らないとの事である。
「──よし、わかった! まあ折角じゃからな。四人で遊んだ記念に、揃えてみるのも面白そうじゃ。別に目立ったからといって、確実にバレるというわけでもないからのぅ。二人もそれでよいな?」
金貨を手にしたミラは、即決した。
店内を見る限り、魔女っ娘コーデは五万リフあれば一人分を十分に揃えられる価格だ。それを四人分で二十万リフ。金貨は一枚で五万リフであるため、残りは三十万リフ。
ちょっと服装を合わせるだけで、これだけの利益だ。しかも考えられる面倒事は護衛側でどうにかしてくれるとの事もあり、ミラの判断は迅速だった。
「はい、面白そうです!」
「私でよければ、どこまでもお付き合い致しましょう!」
お揃いコーデという部分に目を輝かせるマリアナと、更に魔女っ娘コーデを試せると気合十分なリリィ。
「やったー!」
色々な感情交じりではあるが比較的前向きな三人の反応に、教皇もまたとても嬉しそうだ。そして店の奥から見守る護衛の二人も満足げであった。
四人揃って魔女っ娘コーデにすると決めてから、約一時間ほど。
あーだこーだと姦しくしながらも、ようやく全員のコーデが完成した。
まるで太っ腹なところを見せつけるかのようにミラがドヤ顔で会計を済ませた後は、そのまま更衣室で着替えてお披露目だ。
「ふむ、まあこんなもんじゃろう」
ミラは、カジュアルでライトにまとめたコーディネイトだ。魔女っ娘というコンセプトに余計な手を加えず忠実に。それでいて可愛らしさを保ちつつ、けれど厚めのマントで防寒対策もばっちりという仕上がりだ。
「とっても素敵に決まりましたね!」
マリアナはというと、いってみればミラとほぼお揃いであった。ミラが黒と赤を基調としているのに対して、マリアナは黒と青といった具合だ。
「動き方によっては地肌まで見えてしまう、この仕掛け……。面白いですね。次に使えそうです」
魔女っ娘コーデの影響か。セクシー寄りで揃えたリリィは先ほどにも増して怪しげに、その危険性が際立っていた。
しかもそこから学びまで得たようだ。ミラカスタムの次回作がいったいどうなるのか、今はまだ彼女の頭にあるのみだ。
「なんだか知らない自分を新発見したみたい! こういう黒い感じの着てみたかったの」
教皇はというと、そのイメージから一転。それはもう見事なくらいドシックな魔女へと変身していた。基本を押さえつつ、それでいて見栄えもする見事な魔女っぷりである。
ほとんどの服が白だからこそ、ここの雰囲気にとても惹かれたのだと話す教皇は、もうじっとしていられないといった様子で更衣室を飛び出していく。
随分と気に入ったようだ。そう感じつつ、ミラ達もまた嬉しそうな教皇の後に続くのだった。
ミラ達は魔女っ娘コーデのまま、グリムダートの首都ヘンゼルでの観光を楽しんだ。
古くから存在する国であるため、三神国は歴史的な観光スポットが豊富に揃っている。
五百年ほど前に三神の使いが降臨した大木だとか、初代三神将の屋敷だとか、かつて国王の右腕として活躍していたケット・シーの長の墓だとか。
それはもう、歴史を挙げればきりがないほどの豊富さだ。
中には無理矢理気味なこじつけ感のある場所も存在しているが、観光地というのは案外そういうものである。
楽しめればそれでいいと、あちらこちらを巡っていくミラ達。存分に楽しんだら仲良く記念撮影をして、また次だと教皇を先頭に駆け出していく。
(ふむ、多少は目立っておるが、真逆のイメージじゃからな。簡単には気づかれんみたいじゃのぅ)
魔女っ娘コーデは、まだ新規のファッションとあってか、マジカルコーデに比べるとそこまで浸透はしていない。
そのためかがっつり決めたミラ達は、予想通りにある程度の注目を集める四人組になっていた。
とはいえ肝心の教皇の変わりぶりは、なかなかのものだ。きっと顔見知りでも、直ぐには気づけないだろう。
きっと護衛が、あれこれするような事態にはならないはずだ。
と、そう思いつつ、ちらりと護衛の方に目を向けたミラは、そこで何とも言えない光景を目撃した。なぜか魔女っ娘コーデに着替えていた女性の護衛が、神職らしき人物を相手に何かを言い聞かせていたのである。
何となくではあるが「あれは教皇ではありません」とでも言いくるめているようにも見える。
流石に教会関係者ともなると、気づく者がいるかもしれない。そう察したミラは、かといってこうなってはどうしようもないと気持ちを切り替え、全ての処理を護衛達に任せて一切を気にしない事にした。
というわけでして、前回購入した餃子を食べきりました。
美味しかったです!
そして思いました。
もっと色々な餃子を食べてみたいと!!
唐揚げも美味しいですが、やっぱり餃子もいいですね。
という事で、色々な餃子を買ってみようと思いました!
まずはいつものスーパーで目ぼしい餃子から!
そしてその後は更に別の店の餃子を……!
今から楽しみになってきましたね!!!




