562 拝謁の儀・改
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五百六十二
アリスファリウス教会の礼拝堂には、我こそはと名乗りを上げた多くの聖職者達が集まっていた。これから執り行われる精霊王との拝謁会に参加するためだ。
信心深い者から、そうでない者。司祭から大司教まで、ここに集まった人数は百を超える。
(こう改めて見ると、やはりとんでもないのぅ)
三神教において重要な地である三神国とあってか、その教会の大きさといったらスケールが違う。
敷地面積もそうだが、この礼拝堂一つとっても、他の教会とは一線を画すほどに荘厳で壮大だ。罰当たり、などという事を考慮しなければ、ここで運動会も開催出来てしまうだろう。
しかもそれほどの広さがありながら、床や壁や天井に至るまで、その全てが絢爛で厳かだ。職人技が光る装飾と、壁一面に広がる宗教画は、もはや壮観以外の言葉が見つからない。
そして何よりも、そんな礼拝堂を更に特別な場所へと変えているのは、窓一面を埋め尽くすステンドグラスだ。そこを抜ける陽光が、この礼拝堂を煌びやかに色づけていくのである。しかも時間ごとに陽光の角度が変わると、礼拝堂を染める色も変わっていくという仕掛けだ。
連綿と続く歴史と技術、そして多くの願いが、この教会には込められている。それが一目で感じられる、とても神聖な光景だった。
(これほどの場所にいて、なおも欲の皮を突っ張らせる者は、はてさてどれほどおるのやら)
感嘆しつつも、そこに集まった聖職者達を祭壇の脇よりじっと見回すミラ。
心まで洗われそうな場所だが、ここには汚職に塗れた者もいる可能性があるわけだ。
「──では、心して御拝謁いたしましょう」
敬虔な信徒、普通の信徒に交じる悪徳な信徒は、いったい誰なのだろうか。ミラがさりげなく観察している間にも、挨拶を終えた教皇。更に続き、精霊王様との拝謁が許可されたと宣言すれば、そこに集まった信徒達から喜びの声が溢れた。
「さて、わしらの番じゃな」
「ああ、やるか」
打ち合わせ通りの進行。ミラとソウルハウルは教皇の合図に合わせて、拝謁の準備を始めた。
祭壇の前に並ぶのは、精霊女王のミラと、九賢者のソウルハウル。いったいこれはどういう組み合わせなのだろう。かの精霊王とは、どのように拝謁出来るのだろう。特にソウルハウルの存在が場違い感もあってか、信徒達の顔には期待のみならず困惑も浮かび始めた。
『ざわめいておる、ざわめいておる』
『よしよし、いい感じに温まっているな』
その様子を前にしてほくそ笑むのは、ミラと精霊王だ。
ここから先は、少しばかりパフォーマンスが含まれる。信徒達が望むそれを、目の前にて精霊王の降臨という形で叶えようという作戦だ。
何をするでもなく、ただ奥から登場するよりも、今まさに降臨したという瞬間を目撃すれば、より一層偉大そうに見える、というわけだ。
なお、これらは全て精霊王自身の発案である。
「さあ、今ここに、精霊王様がご降臨なされます」
信徒達が固唾を呑む中、ソウルハウルが祭壇の前に依代を作り出したところで、教皇が恭しく祈りのポーズをとる。
すると信徒達もまた、そんな教皇に続き両手を組んだ。
いよいよ、その時だ。依代に触れると同時、ミラの全身に精霊王の加護紋が浮かび上がった。
精霊ごとに、その加護紋は千差万別。だが精霊王ともなると、規模から何からまでもが全く違う。
だからこそわかりやすくもある。なんと凄まじく神々しいのかと、信徒達がミラの姿に息を呑んだ。なお、この加護紋がよく見えた方がより演出効果が高そうという事で、女王風衣装に幾らかアレンジが加えられ露出を増やされている。
(……あの男は間違いなく黒じゃな!)
身体に浮かぶ加護紋よりも、ミラの揺らめくスカートと太ももに視線を注いでいる男が一人。あれは悪徳信徒だと確信しながら、ミラは役目を遂行した。
僅かの後、依代が眩く輝いたところで遂に精霊王が降臨する。かの精霊王そのものの姿が、依代を得てこの礼拝堂に現れたのだ。
「我が友、三神の信徒らよ。此度は、会えて嬉しく思うぞ」
堂々とした佇まい。そして重厚に響くその声。それらは、そこに並ぶ信徒達の目に、耳に、そして心にまで優しく強く響き渡った。
そして何よりも、依代を介する事で可能となった精霊力の一部開放により、礼拝堂に満ちる気配が一気に変わっていく。もはや信仰がどうこうなど関係ないくらいに、誰でも感じ取れるほどはっきりとした気配が一帯に満ちていったのだ。
「おお、精霊王様……」
「なんという、なんという……」
精霊王という絶対的な存在感。意識せずとも本能で実感させられる圧倒的な気配。それは信心がどうこうなど関係なく、はっきりと実感出来るものだった。
紛れもない本物である。そう本能で感じたのだろう、直後ここにいる全員が、その場に跪いた。
「──よく励み、よく学び、より良き信徒として、我が友の良き理解者となってくれるよう願っている」
精霊王降臨から、二十分と少々。この日のために色々と用意していたらしい。信徒達を前に、じっくり長々と語った末、ようやく満足そうに言葉を締めた精霊王。
それはどことなく、朝礼で長話をする校長のそれに似たものがあったのだが、やはり精霊王ほどにもなると反応は違うようだ。
信徒達は恭しく跪いたまま打ち震えていた。しかも中には、何てありがたいお言葉なのかと涙を流し喜ぶ者までも見受けられるではないか。
(何だかんだで、やはりとんでもない影響力じゃのぅ……)
気軽に相談出来る知恵袋に近い感覚にまでなっていたが、信徒達の反応を前にしたミラは、改めて精霊王という存在の格というものを認識し直した。
『流石でございました。心に染みるお言葉の数々、皆の心にもしかと伝わったようです』
『な、なんだミラ殿。急にどうした?』
ここは信徒達に倣い、敬意を表しておこうと考えたミラ。しかし、唐突に扱いが変わったとあってか、精霊王は何事かと困惑した様子だ。
『思ったのでございます。これほど偉大なお方を前にして、今まで通りでよいのかどうかと。ゆえにここは初心に戻るべきと考え、まずは接し方からと──』
『──急に心の距離を離すのはやめてほしいのだが!? 我とミラ殿の仲ではないか!』
三神に並ぶ尊き存在の精霊王。だからこそと態度を改めたが、どうやら不評のようだ。
結果、精霊王側の猛抗議もあって、今後もいつも通りの接し方にするようにと約束させられるミラだった。
「ひとまず、わしらの仕事はこれで終いじゃな」
拝謁会は恙なく完了した。信徒達の反応からして、十分な出来栄えであったと確信出来る。精霊王発案だった目の前降臨作戦は、うまく嵌まったようだ。
その精霊王が帰ると、依代としていたゴーレムの素体は、そのまま塵となって消えていく。
これにて、ミラとソウルハウルの仕事も完了となった。だが、この場にはもう一つの作戦が残っている。
そう、教皇による、信心の抜き打ちチェックだ。
直ぐには解散とはならず、奥の部屋へと案内されていく信徒達。その向かう先の部屋には試しの儀が待ち構えている。希少な家具精霊が用意されているのだ。
それは少し前、この教会にある聖秘牢の間より、ミラと教皇で見極めたもの。
はたして、何人が突破して敬虔な信徒であると証明出来るのか。そして何人がボロを出すのか。
ともあれ、それを調査するのは教皇の仕事だ。
「とりあえず、先に戻っておくとしようかのぅ」
「ああ、そうだな」
興奮冷めやらぬ様子の信徒達を見送ったところで、ミラとソウルハウルもまた礼拝堂を後にする。
だが、まだ帰るには早い。ここには、もう一つの目的──神器のチャージもあるからだ。
そしてそのためには、教会の重要な区画に踏み入らなければいけない。ともなれば当然、その許可であったり何だったりというのが必要になる。
アンドロメダが言うに、この件については三神教会の中枢にいる者に神託が下されているため、その者に話を通すのが早いとの事だった。
ただ問題は、その辺りについて細かく説明がなかった点だ。
三神教会の中枢と一言で言っても、はてどの程度の中枢に神託が下っているのかまでは把握出来なかったからだ。
「にしても、教皇が来ているってのはラッキーだったな」
「そうじゃな。お陰で色々と探る手間も省けたわい」
三神国の教会の大司教あたりならば、中枢クラスかもしれない。とはいえ絶対とも言い切れない。
ゆえに、色々と探るための手段を考えていた二人だが、ここで教皇登場という嬉しい誤算が舞い込んだわけだ。
三神教のトップならば、間違いなく中枢だ。という事で相談してみたところ大正解。あちらの用事を終えたら、神器のチャージについても付き合ってくれると約束してくれた。
よってミラ達は教会の談話室にて、試しの儀が終わるのを待つ。
その間は、それぞれ自由に時間を過ごした。
ミラはマリアナ、リリィと話し込んでいる。内容は、アリスファリウスの名物やグルメ、特徴的なお土産などについてだ。
なお、その話題においてはリリィが圧倒的な実力を発揮した。他国の事情についても相当に詳しく、旅行ガイドといったものにも記載されていないような情報を幾つも握っていたのだ。
拝謁のための三神国巡りについて、現在の日程は、今日と明日がアリスファリウスに滞在となっている。
「やはりグルメは外せぬな。今回はたんまりと資金も出ておるので、夕食は一番高いところがよいのぅ!」
「こんなに大きな小物市が。風水基盤を更に盤石に出来るかもしれませんね!」
「織物通りにも是非伺いましょう。アリスファリウス国内でしか流通していない生地が沢山あるはずですので」
今日中に全ての用事を済ませれば、明日は丸一日が空き時間となる。それもあってか一番楽しむにはどうするのがいいかと、観光ルートを決めるだけで大盛り上がりだ。
「フォーレンハイド博物館の最深部に入る許可が得られるとはな。明日が楽しみだ」
ちなみにソウルハウルは別行動の予定だ。アリスファリウスには聖墓の他にも、聖遺物やら何やらと、死霊術に関係のあるものが多く存在している。
それらが秘蔵されている場所に入れるよう、謁見した際に女王から許可を得ていたのだ。
だからこそ明日が待ち遠しいのだろう、新調した研究ノートを手にするソウルハウルは機嫌がよさそうだ。
談話室にて明日の予定で盛り上がり、更にはグリムダートとオズシュタインの観光計画まで立て始めた頃だ。
「お待たせいたしました」
試しの儀を終えた教皇が戻って来た。計画は成功し、なかなかの結果が出たと満足そうである。
「では早速行くとしようかのぅ」
「ああ、早く終わらせちまおう」
立てた観光計画をその通りに遂行するため、用事は直ぐ済ませるに限る。そう気合を入れて立ち上がるミラとソウルハウル。
「……随分とやる気だね。では直ぐに向かおうか」
テーブルに広がったガイド雑誌の数々。それらをちらりと見やった教皇は少しだけ羨ましそうに微笑んで、「まずは大司教のところだよ」と告げた。
アリスファリウス教会の重要な区画に立ち入るためには、いくら教皇でも勝手にというわけにもいかない。しっかりと管理者に話を通すのが筋というものだ。
マリアナとリリィには、またこのまま待機してもらい、ミラとソウルハウルは教皇の案内で大司教の職務室へと向かった。
と、そんな二人を見送ったマリアナとリリィは、ひっそりと笑みを浮かべながらテーブルに何かを広げる。そこには、衣服のみならず小物に至るまで幅広いデザインがびっしりと並んでいた。
(立派なものじゃのぅ)
アリスファリウス教会にある大司教の職務室。そこは豪華というよりは質素であるが、祭事やら何やらで使う祭具などが置いてあるためか、何かと騒がしくも見える場所だった。
普段から大事に手入れをしているのだろう、その全てが新品のように輝いている。
「教皇様。重要なお話があるとの事でしたが、それはどういった内容なのでしょうか」
教皇の前にて一礼してから、そんな疑問を投げかけてくるのは大司教だ。つまりは、この教会のトップである。教皇に用事があるとだけ言われ、こうして待っていたようだ。
なお、そんな大司教は、一番に教皇の試しを受けて、これを見事に突破したらしい。
流石は三神教の一角。三神国の教会に勤める大司教か。彼は以前から、僅かに何かしらの気配を感じる事があったそうだ。
そして今回、謁見を済ませた事により、それがなんだったのかを明確に理解したという。
いうなれば、三神教徒のエリートとでもいうべき存在だ。だがそんな彼は今、教皇とミラとソウルハウルを前にして、この顔ぶれでいったい何用だろうかと底知れない緊張感を浮かべていた。
「それについてですが、こちらのお二人が詳しくお話しするので聞いてくれますか」
あくまでも教皇は取次役。今回の件はミラとソウルハウルの用事である。よって内容は、ミラ達から伝えるべきというわけだ。
「さて、実は神託についてなのじゃが、大司教殿はこういった言葉を聞いた事はないじゃろうか──」
紹介を受けるような形で前に出たミラは、そう話を切り出した。そして、神器や決戦について一つずつ確かめるように並べていった。
世界の滅亡に繋がる脅威と、それに対する対抗手段。試練と特別な神器。そして神器のチャージ。これらの存在について聞かされ、そしてここにやってきたのだと告げる。
「なんと……それをご存じという事は、つまり……」
どうやら大司教も、その神託を把握していたようだ。ミラが一通りを話し終えたところ、深く息を呑んだ彼は、何かを確認するかのように神妙な面持ちで教皇の方へと視線を向けた。
「ええ、このお二人が候補者で間違いないでしょう」
その視線を受け、教皇が頷き答える。神託にあった者が遂に現れたのだと。
「わかりました。では神託に従い、お二人をご案内いたしましょう」
これまでの長い間に代々下され続けた神託。遂にその該当者が現れたとあって、緊張を顔に浮かべた大司教。
何といってもその神託は、同時にこの世界の滅亡も示唆されている。だからこそ立ち上がる彼の仕草は、どこか重々しかった。
肉の脂に対しては、そろそろ限界が近づいてきていると感じますが、
魚の脂なら、まだ幾らか猶予があるとも感じる今日この頃。
最近、これ好き! というお菓子に出会いました。
ミーノというお菓子です。
どんなお菓子かというと、とってもシンプル!!
大豆です。
原材料名にあるのは、
大豆(北海道産ゆきほまれ100%}
植物油
食塩
酸化防止剤(V.C
以上!
なんてシンプル!
この感じからして、大豆を油で炒って塩を絡めた、という感じでしょうか。
これがなんとも香ばしくて美味しい!
しかも大豆で健康的!
どうやら植物油の方も、また猶予がありそうです。




