561 精霊王活用法
五百六十一
「流石はアリスファリウス。オシャレじゃのぅ」
通された客室を見回しながら貧困な感想を零すミラ。
飛空船といえば日之本委員会が開発して各国に技術供与したものであるが、国ごとに色々な工夫が施されているため、その特色が随所に見られる。中でも三神国ほどになると、特にそれが顕著だった。
船内の細部に至るまで、見事なまでのアリスファリウス様式で染め上げられているのだ。特に今回の飛空船は国賓の送迎用とあってか、より特色づけがされているようだ。神聖で格式の高い、まるで神殿にいるかのような気分にさせる、そんな内装であった。
「凄いです、ここからだと塔も見えるのですね」
高度が上がっていく中、窓から外の景色を眺めていたマリアナは、遠くに銀の連塔が見えるとはしゃぐ。
「おお、思った以上に目立つものじゃな」
同じように窓を覗き込んでみれば、九本の塔が並んでいる姿がはっきりと確認出来た。ルナティックレイク上空からではそれなりに距離もあるが、軽く見ただけでもわかるほどに存在感が際立っている。
(あの場所から全てが始まったわけか。懐かしいのぅ)
ソロモンとの出会い。今はもう随分と昔にすら感じられる当時を思い返しながら、ミラはそっと目を細めた。
「さあさあミラ様。到着まで半日ほどかかるそうですので、楽な服にお着替えしちゃいましょう」
感傷に浸った矢先の事。明らかに何か含みのある笑顔でリリィが迫ってきた。
瞬間、やはりこうなるかと緊張に震えたミラであったが今回はいつもとは違う。何といってもマリアナがいるからだ。
昨日の夜、マリアナと一緒に荷造りをしていた。その際に、部屋着など楽に着られる服というのも用意したのだ。
ゆえに、ここでリリィがどのような服を出してこようと、もうマリアナが用意してくれた服があるからと答えるだけでいい。
「さあミラ様、どうぞこちらを!」
案の定、どこのお姫様かというくらいに可愛らしいワンピースが飛び出してきた。しかも間違いなく似合ってしまうと直感出来るくらいの仕上がり具合である。
「いや、もう用意はあるのでな──」
けれど、言いなりになってやるものかと、僅かに残るプライドを燃やして抵抗するミラ。用意しておいた部屋着の出番だとマリアナを見やる。
すると、どうした事か。マリアナの視線が不意にあらぬ方へと向けられた。
「……準備してはいましたが、そちらの方が素敵ですね、リリィさん!」
一体全体何がどうしたというのか。突如としてマリアナがそんな事を言い出したではないか。しかも、その態度と声色には少々違和感があった。まるで言わされているかのような、どことなく芝居がかっているかのような、そんな違和感だ。
「まあ! マリアナ様に認めて頂けるなんて、嬉しい限りでございます!」
対するリリィは、煌めくような笑顔でそう答えていた。なおそこには、マリアナに似た違和感は垣間見られない。
「ではマリアナ様、是非ともこちらをミラ様に」
「はい、そうしましょう」
あれよあれよと展開していく、着替えの時間。その最中、ミラは別の違和感を抱いていた。まるでこうなる事が決まっていたのではないか。そう思ってしまうほどに、二人の手際がよかったからだ。
ともあれそうして始まった空の旅は、何だかんだで快適そのもの。飛空船を護る護衛の兵士も精鋭揃いで、空の魔物は音もなく処理されていくため安心安全も兼ね備えていた。
よってミラは、悠々自適に到着までの時間を過ごした。特に今回はソウルハウルもいるという事で、術研究が大いに捗る事となる。人が扱う術は九に分類されているが、基礎部分では繋がっている。ゆえに召喚術以外の知識も巡り巡って役に立ったりするのだ。
そしてそれは、ソウルハウルにとっても同じ事。結果、折角マリアナと出かけているにもかかわらず、ミラは術の研究に没頭してしまっていた。
だがそれでいて、マリアナが機嫌を悪くするような事にはならなかった。
なぜならば彼女も彼女で、リリィとの話がやけに盛り上がっていたからだ。
途中ミラが、はてあの二人はあれほど仲が良いものだっただろうかと疑問を抱くほどの盛り上がりぶりだ。
この時、ミラはまだ知らなかった。マリアナとリリィが、ある目的のために結託している事を。そして、これに気づく頃には既に手遅れになっているという事を。
ミラ達を乗せた飛空船がアリスファリウス聖国首都リデルに到着するのは、真夜中の予定だ。そのため諸々の用事は全て夜が明けてから。よってこの日は飛空船にて一夜を明かす事となっている。
とはいえ国賓クラスの送迎用ともあってか、設備から何からまでが完璧に整えられた飛空船だ。そこらの高級ホテルよりもずっと居心地がよく、サービスも満点だった。
「……寝巻の用意もあったはずじゃが──」
「ささ、ミラ様。どうぞこちらを」
「流石はリリィさんです、とっても素敵な仕立てですね!」
豪華な食事と空の上での入浴を存分に満喫したミラは、いざ寝る準備の段階で用意されていた寝巻を前に困惑していた。
出発前、マリアナと一緒に荷造りしていた時に、シックな紺色のシルクローブを寝巻用に選んだ。
けれど今、目の前に置かれたそれは、羊の着ぐるみかというくらいに、ふわもこしていた。
しかも事は、それだけに止まらない。同じような寝巻があと二着ある。そう、ミラとマリアナとリリィとで、お揃いになっているのだ。
「ミラ様とお揃いなんて、なんだか嬉しいです」
ミラが反論を口にするより先に袖を通したマリアナが、はしゃぐように微笑む。
「折角の機会でしたので、お揃いというのも面白いかと思いまして。喜んでいただけて何よりでございます」
続きふわもこスタイルになったリリィは、そんなマリアナを見て満足げだ。
そしていよいよ、二人の視線がミラに向けられる。
「──仕方がないのぅ……」
リリィの様子からして狙い通り感は否めないが、マリアナにそんな期待を向けられたら、もはや断る事など不可能だった。
頷いたミラは、あれよあれよとふわもこ寝巻を着せられて、森の仲良し三人組に加えられてしまうのだった。
飛空船で一夜を過ごした次の日の朝。支度を済ませた後、マリアナとリリィがアリスファリウスの宰相と打ち合わせをしている間の事。
「お、なかなか偉そう、というか様にはなっているな」
船内のロビーで待機していたところ、遅れてやって来たソウルハウルの一言目がそれだった。
ミラは今、自他ともに認めざるを得ないほどの精霊女王スタイルであったからだろう。あの日の女王風マジカル・コーデが、マリアナとリリィの手によって格式高く、より完璧に仕上げられた結果である。
「……なんというか、本物の女王よりも偉そう感がある気がするのじゃが、大丈夫なのかのぅ」
ロビー備え付けの姿見を前にして、不安を滲ませるミラ。
その言葉通り服装だけを見れば、以前目にした事のあるアリスファリウスの女王にも見劣りしないほどの出来栄えだ。
だからこそというべきか、こちらの方が偉いぞとマウントを取っているように見えてしまわないだろうか。不敬にならないだろうかと、ミラはそんな事を気にしていた。
「別にいいんじゃないか? 精霊王さんの名を背負ってきているんだ。そのくらいしないとだろ。むしろまだ大人しいもんだ。なんなら精霊の百や二百は伴っていそうなイメージもあるからな。ちょっと着飾った程度、問題ないだろ」
本心か、それとも他人事だからか。そう軽く笑い飛ばしたソウルハウルは、そのままロビーのソファーに腰かけて「準備が出来たら起こしてくれ」と目を瞑り、二度寝を始めた。
(まあ、何かあったら精霊王殿にこれを薦められた、とでも弁明すればよいか)
適当そうなソウルハウルではあったが、精霊王の名を背負わされてここに来たという点は確かだ。ならば、問題があればそこを前面に押し出していこう。
ミラは、そんな最強の言い訳を手に入れたのであった。
色々と不安のあったアリスファリウス聖国女王との謁見だったが、事は恙なく進んだ。
(いやはや、面倒がなくて助かったわい)
堅苦しいアレコレが苦手なミラの事を、ソロモンがそれとなく伝えておいてくれたのだろう。はたまた礼儀作法がなっていないのを考慮し、恥を晒す可能性を回避する意図か。女王との謁見は、会議室での簡略的なものとなった。
儀礼的に挨拶を交わし終えたら、これから行う事についてをリリィが説明する。
ミラが発言する場面は少ないため、そのあたりもまた安心だ。色々とあるがリリィがいてくれてよかったと、ミラは女王相手でも凛々しく言葉を交わすリリィに崇敬の念を抱く。
(しかしまた、あの男。只者ではなさそうじゃな……)
打ち合わせだなんだというやり取りが交わされる中、ミラは女王の傍に待機する一人の男を窺っていた。
歳は、顔だけで判断すると五十前後か。それでいて身体の方は全盛期かというくらいの活力で満ちており、衰えは一切感じられない。
(闘気の扱いに長けた戦士は肉体の衰えも遅いという話じゃが、あの様子なら相当じゃな)
流石は女王の護衛か。この男は、このアリスファリウスでも屈指の実力者であるのだろう。そう予想したミラは、そこでもう一つの好奇心を疼かせた。
はてさて、それではこの実力者の名は何というのだろうかと。
「──……!?」
男の顔を見据えて調べた瞬間、ミラは瞬時に出かかった声を押し殺した。
はたして、これはどういうわけか。その男の名を正確に把握する事が出来なかった。しかも調べられないわけではない。調べた結果が、ノイズで乱れたようになっているのだ。
その状態からして、元プレイヤーとはまた違う。ではいったい、彼は何者だ。
驚きと同時に興味も抱いたミラは、それとなくそっと観察しながら、果たしてその正体はと妄想を膨らませていった。
ミラが集中しておらずとも、女王との謁見は何事もなく終了した。
緊張感のある場ではあったが、女王はその威厳っぷりもありながら思った以上に気さくな性格だった。
特に今回の謁見は、英雄王フォーセシア以降初めて精霊王の加護を与えられたミラに一度会ってみたかったというのが大きかったらしい。
そしてその感想は精霊王の威光のみならず、噂に違わぬ可憐さであると大絶賛だった。
(しかしまあ、大物が続くのぅ……)
王様クラスとも色々と親交のあるミラだが、流石に三神国の女王にもなると違う。
しかもそんな女王との謁見後、続きアリスファリウス教会にて今度は教皇との打ち合わせが始まっていた。
そう、教皇である。この日のために、わざわざロア・ロガスティア大聖堂よりやってきたらしい。つまり三神国の女王の次は、現在における三神教会のトップであるわけだ。
また今回は、精霊女王としての活躍が前提となるため、ミラがメインで相対していた。
その心労ともなると相当なのだが──。
(とんでもなくトップクラスのお偉いさんなのじゃが……なんじゃろうか。このほんのりと漂う残念美人感は)
女王とはまた違った緊張感があったのだが、打ち合わせが進むほどに、それは少しずつ解けていった。
その理由は教皇も気さくだった──というよりは、少々熱血寄りで若干心配性で、更にはあわてんぼう気味なエルフの女性であったからだ。
「──という事でして。お恥ずかしい事に神に仕える身でありながら、その立場を私利私欲のために利用する者もいるというのが現実。しかも根深い! 精霊王様のお耳に入れるのは忍びないのですが、これが今の三神教会の現状です。しかし当然、このままでいいはずがありません! そこでミラさんと精霊王様には、是非ともこの背信者あぶり出し作戦、略して『精霊王様万歳落とし』にご助力いただきたいのです!」
精霊王の謁見を執り行う前に、少しだけ込み入った話がある。そう言われ教皇の私室に通されたミラは、そんな企みを聞かされた。なお教皇は、さも名案だろうといった顔でドヤっていた。
教皇の企み。それは今回の精霊王謁見を機に、教会内の不穏分子を見極めようという内容だ。
いわく、精霊王の謁見については、三神教徒達の間でかなり話題になっているが、実はその詳細まではほとんど伝わっていないそうだ。
どういう事かというと、ミラが精霊王の謁見を始めたそもそもの理由──家具精霊を見分けるためという部分が正しく伝わっていないというのだ。
となればどうなるのか。教皇の話によると、精霊王に謁見する事で一段階上の存在になれる──つまりは聖職者として箔がつく、というような話になってしまっているらしい。
しかも実際に謁見が叶った者達は、その者達でなければ出来ない特務を遂行し、他の者達よりも華々しく活躍している。だからこそ謁見を望む声が次から次へと湧いて大きくなっていったとの事だった。
そしてその中には真に信心深い者のみならず、それこそ私利私欲のために箔をつけたいためだけの者も含まれているわけだ。
「ふむ……何ともかんともじゃのぅ……」
教皇も、現状にはかなり頭を悩ませているようだ。熱く語る彼女であるが、その顔には計り知れないほどの苦労も浮かんでいた。
そんな時に降って湧いてきたのが今回の噂であり、これだと思い付いたのが今回の作戦だ。精霊王との謁見の後、家具精霊の存在を見抜けない者はふるい落とされ出世コースから外れる事になる。しかも身辺調査のターゲットとしても目を付けられる事になる、という事だ。
「いやまったく、今の教皇は面白い事を考えるのだな!」
爆発寸前の信徒達の望みを叶えると共に内部査察までも行ってしまおうという教皇の案。これを面白いと称賛するのは、依代を得て降臨した精霊王だ。
ソウルハウルの技術力の賜物か、その姿は精霊王自身のそれにとても近いものとなっているとあって、なかなかの威厳である。
「ちょいとやり過ぎ感もあるが、それも仕方がないのかのぅ」
教会とはいえ、そこに集まる人間は千差万別。中には感情に流される者もいる。極端な話、仕方なくという者もいるだろう。
ゆえに少々やり過ぎではないだろうかとも思うミラ。
「そこはご安心ください。狙うのは悪徳信徒のみですからね」
その辺りについては、教皇も承知しているようだ。けれども、それ以上に我慢の限界だったらしい。
清廉潔白で、それこそ全てを他者のために捧げられるような、そんな聖人ばかりを残したいという事ではない。人間味があって問題はなく、むしろそのくらいで丁度いいとすら考えているそうだ。
ゆえに今回は、そこから踏み外し過ぎている者、特に悪辣な者達を一斉に粛清するためのものでもあるという事だった。
ふふ
ふふふ
ふふふふふふふふふふふ
遂に実現しました。実現してしまいました!
いったい何がというと……
あの伝説の!
ザギンでシースーです!!!!!!!!!!
贅沢の極みの代名詞です!!
いやはや、遂に自分にもザギンでシースー出来る日がきたわけですねぇ。
というのもまあ、いつものあれです。
神様の如き編集さんに連れて行ってもらったというやつです!(神と付けるよう編集さんが言ってた
というわけでして、とてもとてもお高いお店でご馳走してもらったわけです。
コース料理みたいな感じで、色々な美味しいものが出てきました!!
人生でぶっちぎりお高い大トロとか食べました!!!
イクラうにキャビアのミニ丼とかもありました!!
これがとんでもなく美味しい!
たっぷりのウニ巻きなんてもう、めっちゃウニでしたね!
昔食べたウニはちょっと……な感じだったのですが
やはりいいところの店のものは違うものなのですねぇ。
とろけましたね!!!!
更に他にも美味しいものが沢山!
話にしか聞く事のなかった、のどぐろも食べました!!
最高に美味しいひと時でした!!
ありがとう、神!(そう呼ぶように言われた




