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556 帰国

五百五十六



 念願叶って遂に転移の力を手に入れたミラ。だがまずは転移先を指定するためにその場所へ行く必要があるとの事で、早速実践して帰還というわけにはいかないようだ。

 とはいえ今は傍にリーズレインがいる。よって帰りは彼の力で送ってもらえる事となった。


「では、また──」


「──ちょっと待って」


 幾らかの挨拶を交わした後、いざアルカイト王国──の前に日之本委員会へ転移させてもらおうとした直後だった。どうにもずっと思案顔だったアナスタシアが、急に呼び止めてきた。

 はて、どうしたのだろうか。ミラが「何じゃ?」と答えたところ、アナスタシアがまさかの提案をしてきた。


「ねぇ、私も精霊になったって事だからさ、その召喚契約っていうの出来ないかな? まだミラさんの役に立てるかはわからないけど、是非リーズレイン様とおそろ──ううん、亡霊だった私を救ってくれたミラさんの力になりたいの!」


 どうやら彼女はミラがリーズレインと召喚契約をした時から、その事を考えていたようだ。

 殊勝な言葉から始まったものの、一番の目的はやはりリーズレインがどうこうである。つまるところ、彼とお揃いがいいという乙女心からの申し出であるが、むしろアナスタシアらしい理由といえる。


「何やら神妙な顔をしているかと思えば、そういうわけじゃったか」


 これはまさかの申し出だと驚くミラは、それでいて興味も抱いた。アナスタシアは無色の精霊であると同時に、元人間という出自から何からまで含め、かなり特殊な精霊であるためだ。

 ゆえにミラの研究者気質な部分が、そこに大きく惹かれたわけだ。


「お主がそうしたいというのなら、まったく構わぬぞ」


 役に立つ立たないは関係ない。それを望むと言うのなら、こちらは受け入れるつもりだとミラは答える。

 実際のところ、便利だとか役に立つからといった理由で召喚契約をした事は一度もなかった。全ては興味や好奇心、そして仲間意識が大半だ。

 なお、契約した後、共に戦いながら少しずつ自分の好みに染めていくというのがミラのやり口である。


「じゃが契約出来るかどうかは分からぬが、それでもよいか?」


 今回に至っては、あくまでもアナスタシアから言い出した事だ。その部分をはっきりさせたミラは、溢れ出る好奇心を抑えながら確認する。彼女に対しての興味もあるが、リーズレインとお揃いになれなかったからといって呪われでもしたら堪ったものではないからだ。


「うん、大丈夫。やろう!」


 自信があるというよりは、早くお揃いになりたいという気持ちが強いのだろう。アナスタシアは、非常に積極的だった。

 ともあれ、事実、考えるよりも試してみるのが一番早い。その通りだと頷いたミラは、早速アナスタシアを相手に《契約の刻印》を発動した。

 アナスタシアは、それに触れて、これを受け入れる。

 すると彼女の身体から仄かな光が溢れ出て、さやさやとミラの身体に吸い込まれていった。


「……上手くいった?」


「そう、じゃな。完了したようじゃ」


 契約は、成功した。結果としては、なんともあっけないものだ。アナスタシアのような特殊な精霊でも、特にイレギュラーな事もなく普通に契約出来た。

 あえて違った点を挙げるのならば、思った以上に反応が地味だったというところか。だがこれはむしろ、リーズレインのそれが激し過ぎたため、そう感じられたというのもある。


(とはいえ……不思議といえば不思議な感じじゃな)


 召喚契約を結んだ場合、その繋がりを介して、相手側の能力といった部分がある程度伝わってくるものだ。けれど無色だけあってか、アナスタシアからは何も伝わってこない。

 ゆえに、こんな契約は初めてだとミラもまた未知の感覚に驚く。

 対してアナスタシアはというと、もはや召喚がどうこうという事より、その目的が叶った事に喜んでいた。


『聞こえますか、リーズレイン様!』


『ああ、聞こえているよ、アナスタシア』


 精霊ネットワークに触れて、そこに参加しリーズレインとお揃いになった事で、全ての感情がそちらに振り切れていた。

 これでもう何があろうと、離れる事も見失う事もない。精霊ネットーワークを介して、その事を大いに喜ぶアナスタシアとリーズレイン。

 だが、それを皮切りに二人がそのままイチャコラし始めた。目の前にいるのだから普通に話せばいいというのに、わざわざ精霊ネットワークを介して愛を囁き合う。

 と、そのような状況に陥ったのも束の間。少しして二人の声が遠く聞こえなくなっていった。


『安心してくれ。今、隔離しておいた』


『流石は精霊王殿。仕事が早い!』


 精霊王にしてみても、共通回線でいちゃつかれるのは、堪ったものではなかったようだ。いわく、アナスタシアとリーズレインのみの回線を専用で用意しておいたとの事だった。

 これで主回線の平穏は保たれた。

 ひょんな事で契約する事となったアナスタシア。彼女の成長は気になるところだが、それはそれ。精霊王の迅速な対応に、ほっと胸を撫で下ろすミラであった。





「おお、あっという間に帰ってこれたのぅ!」


 リーズレインの力による転移は、極めて鮮やかなものであった。

 ミラは、まず初めに日之本委員会へと送ってもらった。そこでアンドロメダ達に聖域復興が順調に始まった事などの報告を済ませる。

 その後、それはもう自慢するように、これでもかと見せつけるようにして、皆の目の前からアルカイト城にあるミラの部屋に転移させてもらったのが今だ。


「何かあれば、いつでも呼んでくれていいからね」


「うむ。その時は、大いに頼らせてもらおう!」


 そう言葉を交わしたところで帰っていったリーズレイン。義理堅いと言うか、若干過保護とでも言うべきか。アナスタシアとの再会を遂げた彼は、相当な恩義をミラに抱いているようだ。

 ともあれ、いざという時に始祖精霊の協力を得られるとなったら、これほど心強い事はない。ミラは、その思いを素直に受け止める。


「さて、今頃わしが転移したのを見て、大いに羨ましがっておるじゃろうな」


 日之本委員会のミケ達は、どんな反応をしているだろうか。いつの間にか転移という力を得ていた事にどれほど驚いているだろうか。

 ミラは次に会う時が楽しみだとほくそ笑みながら、ソロモンの執務室へと赴いた。


「む? 留守か」


 鍵がかかっており、執務室のドアノブは回らなかった。

 いつもならば、ここで山盛りの仕事に追われているのだが、今日は珍しい事もあるものだ。

 とはいえ、いつも多忙なソロモン王だ。また別の場所で仕事しているに違いない。そう思ったミラは、軽く周囲を窺った。


「お、ちょいとそこの──」


 近くにいた衛兵に尋ねてみたものの、存じ上げないという答えが返ってきた。見回りの衛兵は、ソロモンのスケジュールを詳しく把握はしていないようだ。

 とはいえ、不思議な事ではない。防犯などの理由から考えれば、むしろ誰もが知っていると考える方がおかしいのだ。王様の動向ともなれば、それこそ知るのは極一部が当たり前だ。


「さて、どうしたものか」


 きっと近衛騎士隊長のレイナードや側近のヨアヒム、補佐官のスレイマン、侍女長のリリィあたりならば、きっと把握しているはずだ。

 とはいえ、これらのメンバーもまた何だかんだで重役揃い。そう簡単に見つけられるようなものではない。

 一人を除けば。


「おーい、リリィはおるかー?」


 捜せば、あっさりと見つけられそうな気がする侍女長リリィ。だが、何なら捜すよりもこの方が早いかもしれないと、ミラはそう思い付き呼びかけてみた。

 それから数秒後の事だ。


「あら、ミラ様! 如何なさいましたか!?」


 やはりと言うべきか。城に来てからとっくにこちらの事を捕捉していたのかもしれない。リリィは、颯爽と駆け付けた。


「……うむ、ちょいと聞きたいのじゃがな──」


 期待通りではあるが、期待通りが過ぎるともあって若干引き気味のミラ。とはいえ彼女ならば知っているだろうと、ソロモンの居場所について問うてみる。

 結果、リリィはそれを把握していた。いわく、現在ソロモンは会議中だそうだ。何やら三神国から、重要な用件で連絡があったらしい。


(三神国から、とな……。あー、多分ヨルヴィレド将軍の事じゃろうな。葬儀だなんだと色々あるはずじゃからのぅ)


 祭の境界で出会う事になった、ヨルヴィレドの魂。三神将の逝去ともなれば、大陸中に影響を及ぼす一大事だ。会議も相当に慎重で熱も入っている事だろう。

 はたして、あとどれくらいで終わるのか。それまでの間、どうしたものか。

 ちらりと目を向ければ、リリィがにこやかに微笑んでいる。何かと問題の多い侍女達ではあるが、新作衣装やら何やらさえなければ、そこまで酷い目に遭う事はない。

 そして新作については前回からまだ一ヶ月も経っていないため、流石に大丈夫だろう。

 ならば、以前に訪れた侍女区画のウサギカフェでのんびりするのも悪くはない。

 と、そう思ったミラであったが、直後リリィの目の奥に光る怪しげな輝きを見逃さなかった。


(あの全てを見透かそうかという……服の下までも見透かそうという目は……もしや!?)


 まるで獲物を狙うかのようなリリィの気配。それを前にしてミラは悟る。新作の衣装ではないが、それに近い何かが用意されている事を。


「ではまた、会議が終わったくらいに来るとしよう。では、わざわざすまんかったな!」


 残念だが、ウサギカフェはお預けだ。言うや否や、ミラは即座に踵を返して駆け出した。


「ミラ様、今回は直ぐに済みますので──」


 けれど、当然というべきか。明確な目的を持つリリィを前にして、逃げる事など出来るはずもない。

 鮮やかな手腕で捕獲されたミラは、そのまま侍女区画へと連れ込まれていくのだった。





「こ……このままではいずれ、頭のてっぺんからつま先まで染められてしまいそうなのじゃが……」


 新たな魔法少女風衣装ではなかった。だが無関係というわけでもない。何と今回は、そんな魔法少女風に仕立てられた下着とパンツ隠しが用意されていたのだ。

 ゴスロリチックな今の衣装にもぴったりな、可愛らしくもクールな下着。様々なカラーやデザインが揃うそれらを片っ端から着替えさせられる事となった。

 しかもそこに加えて、タイツやスパッツにアンダースコートまでも合わせてくる始末である。

 近い将来、着るもの全てがリリィ達の手によるものになりそうな予感に愕然とするミラは、同時に不思議な違和感も覚えていた。


「しかしまた……色合いといいワンポイントといい、以前マリアナが風水的にどうとか言うておったものが見事に含まれておるのじゃが──偶然じゃろうか」


 部屋の小物のみならず、マリアナが用意してくれていた着替えの数々は、さりげなく風水が考慮されたものとなっていた。

 そして今回、リリィ達が仕立てたものにもまた、それらがしっかりと含まれていたのだ。

 よもや、リリィとマリアナが。もしもそうだとしたなら、もはや逃げ場はないと震えるミラ。

 とはいえ下着自体はというと、これがもう抜群の着心地であった。言ってみれば、素材から何からまで徹底的に拘りが詰め込まれた完全なオーダーメイド製だ。その全てがミラに合わせて作られているのだから当然といえば当然だろう。

 たとえ全てをリリィ達に染められたとしても、問題はなにもないわけだ。あえていうのならば美少女っぷりが更に際立ってしまう事になるのだが、近頃のミラはもうその辺りも受け入れつつあった。

 理想から遠ざかるほど、もう一つの理想に近づいていく。ミラは何ともやるせないものだと天を仰いだ。

 と、そんな事を考えながらルナティックレイクの商店街にやってきたミラ。ソロモンの会議がまだまだ続きそうな事に加え、ウサギカフェのうさぎ達が、お昼寝の時間になってしまったというのだ。

 ゆえに時間を潰すため、散歩を楽しむ事にしたわけである。


「うむうむ、賑わっておるのぅ」


 ルナティックレイクの街で久しぶりに、ゆっくりとした時間を過ごすミラ。

 ソロモンの尽力もあってか、街は平穏そのもの。商隊護衛の冒険者の姿もそこそこ見受けられるため景気もよさそうで、ミラも満足顔だ。

 また、建国祭から年末年始にかけて怒涛の九賢者帰還ラッシュに加え、精霊王が祝福の言葉を贈ったともあって、その盛り上がりは、まだまだ加速していた。

 ソロモンが言うに、九賢者グッズの売り上げがとても好調との事だ。生産ラインを増設して対応しなくてはいけないくらいだと笑っていた。

 ただ、未帰還勢であるダンブルフとヴァレンティンの分は、多少引っ張られて上がった程度らしい。

 九賢者の代表であるはずが、その人気はもはや。そんな事実に打ちひしがれるミラであったが、代わりに『精霊女王ミラ』としての知名度はグングン上昇中だったりする。


(こっちが立てば、あっちは立たず……。わしも随分と有名になったものじゃのぅ)


 活気に溢れた街の様子も含めて楽しみながら散策していると、ところどころで声を掛けられたり、サインを求められたりする事があった。

 ただ、そのほとんどは年齢的にはミラの見た目とさほど変わらないくらいか、うんと年下な子供ばかりだったりする。

 どうやら『精霊女王』の知名度は子供達にまで及んでいるのみならず、憧れの的にもなっているようだ。見た目の年齢が近いためか、より親近感が増すのだろう。子供達のヒーロー的存在になっていた。

 これに対し得意げになったミラは、さらりさらりと求められるままにサインを書いていく。

 なお、大人達からの注目もあるのだが、彼らは遠巻きに見ているだけだった。サインを欲しそうな顔をしているものの、そこから一歩踏み出す者はいない。

 きっと周りの目や世間体を気にしての事だろう。いい歳した大人の男がミラのような少女に近づくというのは、何かとハードルが高いものなのだ。

 ただ女性の場合は、これといって問題はなさそうだ。お姉さん方に囲まれて、ミラもまた嬉しそうである。


「あの、僕もお願いします!」


 そうした中、是非これにサインをと、一枚のカードを差し出してくる者が現れた。

 緊張気味なその少年が手にしていたカード。それは、レジェンドオブアステリアのカードだった。しかもつい最近に登場した新弾の目玉として収録された『精霊女王ミラ』のカードだ。


「なんと、もう引き当てたのか? ようやった、偉いぞ!」


 ミラの姿が美麗なイラストで再現されたそのカード。少々ポーズが可愛らし過ぎるところもあるが、性能と評判は上々だ。

 そんなカードに本人のサインを求めるとは、少年にしてかなりのコレクターかもしれない。

 少年よ、君は運がいい。ミラはそんな心持ちで気分よくサインした。


「トリプルレア……か」


 今はまだ登場したばかりとあってか、トリプルレアの『精霊女王ミラ』だが、いつかはきっとレジェンドレアに。サイン入りカードを手に喜び帰っていく少年を見送りながら、ミラは心に新たな目標を掲げる。

 九賢者ダンブルフとは違い、今は一介の冒険者というのが世間一般におけるミラの立場だ。ゆえに国の重鎮でレジェンドレアのルミナリア達とは、大きな隔たりがある。


(やはり重要なのは実績じゃろうか)


 だが、このまま負けてなどいられない。そう奮起したミラは、レジェンドレアに昇格するために必要なものは何かと考えた。そして出した答えが実績だ。

 思い立ったが吉日。実績を上げる簡単でわかりやすい方法として冒険者稼業を思い付いたミラは、久しぶりに冒険者総合組合へと赴くのだった。











速い事で、前回からもう半年以上が過ぎました。



そう、

シャトレーゼ祭りの話です!!!


冷凍と冷蔵は一緒に注文出来ないというまさかの罠にかけられたあの六月の日。

次はシャトレーゼの冷凍祭りだと誓ったあの日から、もう随分と経ってしまいました……。


そんなある日、ふと近くのスーパーのアイス売り場を見たところ……


なんとチョコバッキーが置いてあるではないですか!!!

委託販売的な感じなのでしょうか。こういうのもあるのですね。

とにもかくにも、近所のスーパーでチョコバッキーを入手出来ました!!!



シャトレーゼ冷凍祭りをすると、大きくなったうちの冷凍庫も流石にぱっつぱつになってしまうでしょう。

とりあえずチョコバッキーはどうにかなったので、次もするならスイーツ祭りにしようかな



なんて思った今日この頃でした。


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― 新着の感想 ―
リリィ「ミラ様を侍女区画に引きずり込め!」(某宇宙刑事の敵組織風に。)
[一言] 新衣装か・・・これは挿絵に期待したいですね! 冷凍庫は常にパンパンです。冷凍したいものが多すぎて・・・
[良い点] 更新ありがとうございます。 まさかアナスタシアまで召喚契約するとは予想外でした。うるさいだろうなと思ったら、専用回線を用意するとは精霊王様ナイスです。 そして、初心に帰って冒険者稼業をする…
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