537 地上へ
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五百三十七
中継基地に到着してからの二日間は、怒涛のように過ぎていった。
アラト達技術班は、中継基地の復旧と正常な稼働の再開を完璧に成し遂げた。もういつでも幾らでも霊脈の力の送受信が行える状態になったわけだ。
残りは聖域に装置を設置して、実際に稼働するかどうかのチェックを行うのみとなった。
ただアラト達にしてみれば、そこまででようやく目標の半分。むしろここからが本番だといった勢いで、新たな設備を中継基地に造り上げる。これで宇宙研究が一気に早まると、宇宙研の者達は大喜びだ。
ミラはというと、これといって特別な作業をする必要はなく、ただひたすらに自分の時間を過ごしていた。
アイゼンファルドと上空十万メートルを飛び回ってみたり、原初の星座について考えたり、ここから見える景色を通信装置でマリアナに伝えたり。
待っているだけだったものの、暇する事はなかった。
『うむ、しっかり結んだようじゃな。では行くぞー』
そうこうして、いよいよ帰還の時。来た時と同じようにアイゼンファルドの背に乗ったミラは、同じく紐で繋がれたアラト達に出発だと声を掛ける。
『ああ、やってくれ』
『いつでも、大丈夫』
そんな返事の後、アイゼンファルドがその紐を束ねて持ち上げる。
『じゃあ、またなー』
『気をつけて帰るんだぞー』
そう挨拶を交わすのは、居残り組だ。復旧したとはいえ、まだ何が起こるかわからないため様子見要員が暫くの間、この中継基地に寝泊まりする事になっているのだ。
ただそれは、居残る理由の半分。やはりというべきか、見送る彼らの声は、これから始まる宇宙実験への期待で溢れていた。
そのための物資や、いざという時のツールに予備の機材など、全てを彼らに預けてある。聞けば、年単位で滞在し続けられるだけの量が揃っているため当分は心配ないらしい。
いざという時、または帰る時は、宇宙服に組み込まれているパラシュートで降下可能であるため、迎えにくる必要はない。
ただ、もしかしたら予定外の機材などが必要になったら、また頼むかもしれないとの事だった。
ちなみに居残り組を決める際、アラトが率先して立候補していたのだが、やはり室長という立場であるためか却下されていた。
(しかしまた、来た時とは随分と様変わりしたものじゃな……)
アイゼンファルドが飛び立ち、遠く離れていく中継基地。振り向いてその全体像を確認すれば、来る時にはなかったあれやこれが、ゴテゴテと追加されている姿が目に映った。
その全てが、技術者連中によって増築された設備だ。この宇宙でどのような実験や調査を行おうというのか。そして、どこを目指そうというのか。そこにあるのは、どこまでも高く遠くへ手を伸ばす、人間のエゴと夢が入り交じった光景でもあった。
中継基地を出てから四時間も経たない頃。ミラ達は日之本委員会の研究所に帰還した。
「やあ、おかえりおかえり。ご苦労様だったね」
宇宙研の組み立て場。そこにアイゼンファルドが降り立つなり、労いの言葉を口にするのはアンドロメダだ。
ここの作戦室に設置した機器で、中継基地の状態は万全だと確認出来たようだ。それはもうよくやってくれたとアラト達の仕事ぶりを絶賛する。
「これも全て、アンドロメダさんに教えていただけたからですよ。今回の事で、かなり理解が深まった気がします」
中継基地の設備に使われている技術は、アラト達が知るものより先をいっていた。
そんな中継基地の復旧と再稼働を成したこのチームは、日之本委員会でも頭一つ抜きん出た技術者になったといっても過言ではない。
事実、帰ってきた皆の顔は自信で溢れており、どこか誇らしげでもあった。
「そうかい、そうかい。私も頑張って教えた甲斐があったよ。まあともあれ、長時間空の上だったんだ。疲れたでしょう。こちらの装置の調整は済ませておいた。続きの話は夕食後にするとして、暫くは皆休んでくるといい」
アンドロメダは嬉しそうに頷くと、そう続けた。
実際、長時間紐で吊り下げられていた状態にあったため、アラト達の疲労具合はそれなりだ。ゆえに皆は、そんなアンドロメダの言葉に従い、この場で解散していく。
「それじゃあちょっと、報告がてらうちの部署に顔でも出してこようかな」
中には、まだまだ元気な者もいる。それどころか、宇宙服を着たまま意気揚々と出ていった。
アンドロメダに最先端の技術を教わったとあって、今の日之本委員会では宇宙組と呼ばれるアラト達が、ちょっとしたエリート的立場となっている。
そしてその象徴となるのが、この宇宙服だ。それを着たままというのは、つまり彼の狙いはそういう事というわけだろう。
修めた技術は素晴らしいが、やはり俗物感は否めない。そんなところもまた日之本委員会であった。
「さて、ところで君に少し聞きたい事があるんだ」
それぞれが着替えや自慢のために解散していく中、同じように宇宙服を脱ぎに行こうとしたミラは、ふとアンドロメダに呼び止められた。
「む、何じゃ?」
はて、このタイミングで何の話だろうかと立ち止まり振り返るミラ。するとアンドロメダは、近くに誰もいない事をよく確認してから次の言葉を口にした。
「ところで、初日に何か仕掛けていたみたいだけど、あれはどういった代物だったんだい?」
なんでも中継基地の各所には整備用の点検カメラが備え付けられていたらしい。中継基地の復旧と共に再起動したそれらを確認していたところ、隅の方でこそこそと何かを仕掛けているミラの姿が映ったというのだ。
「あー……」
どうやら、フローネに内緒で頼まれた術具を設置していたところを、ばっちり見られていたようである。
考えれば当たり前の事だが、アラト達が中継基地に増設した設備などはアンドロメダも容認済みであろう。そんなところに内緒で術具を仕掛けたとなれば、それがいったい何なのかを確認されるのも当然である。
そしてこれに対しては幾らフローネに秘密と言われていても、その正体を明かさないわけにはいかないというものだ。
「あれはじゃのぅ──」
とはいえ、やましいものでも怪しいものでもない。ミラは渡された予備の方の術具を見せながら、これがどういったものなのかについて詳細に説明した。
「──いいね! これまた面白いものを作ったものだ!」
アンドロメダはミラの説明を聞き終えるなり、それはもう愉快そうに笑った。
実験だ研究だと情熱を燃やして中継基地を利用するアラト達に比べ、フローネのそれは、あまりにも趣味に走り過ぎていた。
それでいて他の邪魔にならぬよう、周囲に干渉しないよう緻密に設計されているときたものだ。
「これなら許可しようじゃないか。しかしまあ、随分と専門的な知識を持っているんだね。しかもその技術でコレとか愉快な事を考える。そのフローネさんというのは、どんな人物なんだい?」
そこには、本気の遊び心がふんだんに詰め込まれていた。だからこそアンドロメダは、これなら問題ないと認めると共に、これをミラに託したフローネという存在にも興味を抱いたようだ。
「それはもう突拍子もない事ばかり思い付く奴でのぅ──」
九賢者の中でも、特に問題発生率が高いのがフローネだ。ミラは過去の色々な出来事を交えながら、フローネとはどんな人物なのかについて、未だ計り切れていないけれどと前置きしてから語る。
事故や事件のみならず、転じて誰かの役に立っていたり、まったくの無駄であったり。とにかく勢いと感情のみで突っ走る事が多く誰の迷惑も顧みないが、本当に嫌がられるようなところまでは手を出さない。
無邪気でありつつ、冷静さも併せ持つ。それがフローネだ。
「──という感じで、最近は空飛ぶ島なんてものも造っておった。今回のコレは、その島に取り付けるつもりだったそうじゃが、わしが中継基地の事をちょいと話したら、それはもう目を輝かせてのぅ。高ければ高い方がいいというわけで、まあ預かってきた次第じゃよ」
フローネという人物について周知されている部分を一通り語った後、最後に天空島のエピソードを付け加えたミラ。
するとどうだ。
「空飛ぶ島!? 凄いね!」
話を聞きながら面白い人物だと笑っていたアンドロメダが、そこで驚きを露わにした。趣味と悪戯心が高じて、遂には空に島まで浮かべてしまうなど何をどうすればそんな発想に至るのかと。
「是非とも、そのフローネさんに会ってみたいんだけど!」
そんな謎の行動力に惹かれたのか、アンドロメダは、ますます興味を示した。
「ふむ、アンドロメダ殿もか。実は、フローネの奴もアンドロメダ殿に会いたいと言うておった。しかしのぅ、引き合わせたいのもやまやまじゃが、あれでいて国を代表する重役でのぅ。おいそれと国から動く事が出来ぬのじゃよ」
フローネとアンドロメダ。お互いに興味を持ち是非とも会ってみたいと願うも、そう簡単にいかないのが政治の壁というものだ。
特にアルカイト王国の将軍位に復帰したとあり、フローネの行動範囲は今、相応に制限されている。街一つ程度ならば単独で壊滅させる事の出来る戦力が国境を越えるのは容易ではないのだ。
「それじゃあ、会いに行こう!」
ミラがある程度説明したところで、アンドロメダがそう告げた。
アラト達に技術を教えるのも一段落した。そして中継基地も無事に復旧した。現段階で出来る事は完了し、後はもう安全装置を設置してからだ。
ゆえに、ある程度ならここを離れても問題はないとの事だった。
「というわけで、ミラさんにはこれを渡しておこう」
有無を言う前に半ば押し付けるようにしてアンドロメダから渡されたのは、金属製の棒のようなものだった。
「なんじゃ、これは?」
不思議な文様が刻まれている他、何となく不可思議なマナが感じられる棒。ミラはそれをまじまじと見つめながら、これはどういったものなのかと問う。
するとその質問に、驚きの答えが返ってきた。
「それは、転移先の目印だよ。フローネさんと会える事になったら連絡して。それを目印に転移するから」
もはや造作もない事だといった態度で話すアンドロメダ。対するミラはというと、『転移』という言葉に興味津々だ。
(いやいや、気になる……気になるが、わしにはもう既にその宛てがある。じゃが、こうも目の前にそれがあると、やはり……。いや、だめじゃ。約束もしたからのぅ。……まあ、そちらがダメになったら改めて、という事にするとしようか。うむ、そうじゃな。それがよさそうじゃ)
是非とも転移について教えてほしい。そんな考えが頭を過ぎったが、ミラには他にもそこに至る手段があった。それは精霊王とマーテルがしつこく薦めてくる、異空間の始祖精霊リーズレインの目覚めだ。
まずはこちらに挑戦し、もしも手を借りる事が出来なかったら、アンドロメダに相談すればいい。
そのように思い直したミラは、「では、その準備が整ったら連絡しよう」と答え金属の棒を受け取るのだった。
さて続きまして
更に新作ゲームが発売になりましたね!
そう
スターフィールドです!!!!
エルダースクロール、そしてフォールアウトもそこそこやってきたからこそわかります。
これは面白いやつ!!!!
発売日は6日ですが、アーリーアクセス権を存分に活用して絶賛エンジョイ中です!!!
今は新しい宇宙船を買うためにお金を貯めているところです!
宇宙船を買うためにお金を稼ぐ……
なんだかもう、それだけでわくわくしちゃいますね!!!
とりあえず手に入れた密輸品を拠点に隠し、売れそうなタイミングに……。
フフフフフ。




