534 宇宙へ
宇宙と書いて そら と読む!!!
五百三十四
「うん、問題なしだね」
「ああ、完璧だ」
宇宙服を着て更衣室を出た後、その場でミケとアラトによる最終点検が行われ完了した。サイズは完璧、機能も正常。この宇宙服があれば、宇宙に行っても大丈夫との事だ。
「こういうのは何かとごわつきそうなイメージじゃったが、存外、着心地は悪くないものじゃな」
宇宙服は、人が生存出来ない場所でも活動出来るようになる特別な服だ。命を守るための機能が山盛りであるため、快適さなどが犠牲になっていそうなイメージもあったが、実際に着てみるとそうでもなかったと驚くミラ。
と、何となく思った言葉を口にしただけであったのだが、その言葉が、どうやら余計だったらしい。直後にミケが渋い顔をすると、技術者連中もまた「あーあ」と、ミラの失敗を責め立てるように声を上げた。
いったいどういう事か。疑問を抱いたのも束の間。その意味は、直後に判明する。
「ああ、そうだろう。なんてったって宇宙服は、十年以上に亘って研究と改良を繰り返しているからな──!」
それはもうハツラツとした顔で答えたのは、アラトだった。宇宙開発の花形といったら、やはりロケットだろう。だがアラトは、何よりも宇宙服を愛しているという。ゆえにその情熱は凄まじく、今の品質に辿り着くまでの工夫と閃きは、それこそ神がかり的であったと自画自賛を始めるばかりか、そこから怒涛の開発話が展開されていった。
どうやらこうなると止まらないようだ。もう既にそれを理解しているようで、見ればアンドロメダを含め、技術者連中はテーブルにスイーツを用意して休憩モードに移行していた。
美味しそうなスイーツである。だが今回、アラトのそれの矢面に立たされる事となったミラは、そこから逃げられず、ひたすら彼の長話を聞かされた。
「──これは究極の命題だった。けれどもこのように、この世界では完璧な解決方法が完成したわけさ」
「どうするのかと思うたが、まさかそんな感じじゃったとは……」
長く続くアラトの専門的な宇宙服話。ただ、その中にも少しばかり興味を引かれる部分があった。それは人間が生きていく上で絶対に欠かせない要素について。
トイレ問題だ。
アラトは、これを見事に解決したと、それはもう得意げに語った。
一度着たら、生存可能空間に戻るまで脱ぐ事の出来ない宇宙服。場合によっては宇宙空間で十時間を超えて作業しなければいけない時もある。
ではその時、トイレはどうするのかというと、我慢するか、オムツなどを利用するか、または宇宙服専用のトイレキットを使う事になる。
アラトは、このトイレキットを改良すると共に、宇宙服をその使用に合わせて調整したそうだ。
まず、宇宙服の袖に仕込んだ骨格を伸ばして袖を固定。そうする事で両手が袖から引き抜けるようになり、宇宙服内である程度自由に動かせる状態を作り出した。
そこから先は簡単だ。宇宙服内に仕込んだアイテムボックスからトイレキットを取り出して用を足し、それを再びアイテムボックスに収納するだけである。
そう、宇宙服にアイテムボックスを仕込む事で、トイレキットの収納と排泄後の処理を全て解決したわけだ。
後は、再び袖に腕を通して固定した骨格を解除すれば完了だ。
「ふむ……して、どこをどう──」
「ああ、ここにアイテムボックスを組み込んであるから──」
宇宙服でのトイレ事情。いざという時に備えて知っておくべきとあって、ミラはついでにその方法についてもアラトに教わった。
袖の骨格の固定方法から、見えない状態でのアイテムボックスの操作方法、更にはトイレキットの使い方まで。細かく丁寧な講習を受けるミラ。
ただ、二人は至って真面目だったのだが、それを遠巻きに見つめる技術者連中の目は、そうもいかなかった。
中身はどうであれ、見てくれは完璧な美少女が大だ小だと言いながら服の中でもぞもぞしているのである。しかもすぐ傍にいるアラト──大人の男がその隣で、零れないよう密着させてだとか、手とそれ以外も拭く紙がセットになっているから気にせずしっかり手で押さえてだとか、かなりギリギリな発言をしていた。
美少女のトイレ事情。それは、非常に興味をそそられるものであり、聞いている方が恥ずかしくなってしまうものでもあった。
なお、本来は後ほどミケがミラに教える予定だったが、こうなっては止められないとあって、ミケはもう諦めモードでスコーンを頬張っていた。
宇宙服とトイレ事情を教わってから先は、全て順調に進んだ。
各種の最終チェックも終わり、いよいよ宇宙を目指して飛び立つ時がきたのだ。
「では、ミラ殿」
「うむ」
アンドロメダの声に頷き答えたミラは、ロザリオの召喚陣を展開して詠唱を紡ぎ始めた。
「詠唱だけでも、凄い迫力だな……」
「皇竜か。いったいどんな感じなんだろう」
これから技術者達を上空十万メートルの世界に連れていくのは、天空の覇者とも呼ばれる皇竜だ。いずれは竜の王になるとされる伝説の種族とあって、皆の反応は様々。
そんな中、アラトは組み立て場の片隅を見つめていた。実験段階のロケットが並ぶ一角だ。
「いつか、お前より高く飛んでみせるからな」
今回は間に合わなかったが、いつかは自分のロケットで宇宙へ。アラトは、圧倒的な存在感を纏い降り立ったアイゼンファルドを見上げながら挑戦的に笑った。
「さて、準備はもうよいか?」
ミラは、ロープで繋がれた技術者連中を見やり、もう行けそうかと声をかける。
「ああ、大丈夫だ。大丈夫ったら大丈夫だ!」
「早く、一思いに飛んでくれ!」
そんなミラの声に対して、皆はどことなくやけくそ気味に答えた。
「これが一番効率的だとは思うけど、絵面が酷いね」
「まあ、これだけの人数がいるから仕方がないといえば、仕方がないが」
ハーネスに繋がったロープを握りながら苦笑を浮かべるミケと開き直った様子のアラトもまた、同じようにスタンバイ済みだ。
「うむうむ、大丈夫そうじゃな。では行くとしようか!」
ミラがそう告げると、一気に緊張感がその場に広がっていった。
さて、十数人といる技術者達を、どうやって上空十万メートルまで運ぶのか。確実性と効率を考慮した結果、ロープで繋ぐという方法に決定した。
両端にハーネスを括りつけたロープをアイゼンファルドが束ねて持つのだ。今、スタンバイを完了したその絵面は、どこからどう見ても大きな竜に捕まった憐れな人間達であるが、この形で最終合意したのは技術者達本人である。
当然ながらミラは堂々とアイゼンファルドの背に乗っている。なお乗ろうと思えば、まだ幾らか背に乗る事も出来たのだが、争いに発展しそうであったため全員ロープで落ち着いた次第だ。
「よいか、アイゼンファルドや。まずはあちらに真っすぐじゃ。そして大陸の上空に差し掛かったあたりで、また少し方向が変わるのでな。注意するのじゃぞ」
「はい、母上。では大陸が見えてきたら報告いたしますね!」
飛翔直前に再確認するミラとアイゼンファルド。その内容は、中継基地に到達するまでのルートについてだ。
以前の事からして、アイゼンファルドがそこらの空を飛ぶというのが、どれほどの影響を及ぼすのかわかっている。よって今回は、しっかりとルート上にある国に予め打診済みだった。
ただその際、色々と考慮した結果、事情の説明などが簡単な元プレイヤー国主の治める国を主軸に組み立てたため、少しルートが複雑になっていたりする。
(しかしまあ、こう見ると思った以上に元プレイヤーの国が残っておるのじゃな)
ゲーム時代に乱立したプレイヤー国家。当時からある程度は整理されたようだが、空白地帯を含めればアース大陸の中ほどにまで繋げられるくらいのルートが出来上がるのだから、なかなかの残存ぶりだ。
つまり、この世界に来ているプレイヤーと来ていないプレイヤーがいる中、少なくともルート上の国の国主は、変わらず元プレイヤーであるというわけだ。
はたしてアルカイトやニルヴァーナのみならず、他の元プレイヤーの国はどのように発展しているのだろうか。地図を見ながらそんな事を思ったミラは、いずれやりたい事に元プレイヤー国家探訪を加えた。
日之本委員会から出立して三時間と少し。幾つかの国の上空を通過し山脈も越えて到達したのは、アース大陸の中央付近。かの五十鈴連盟が本拠地を構える四季の森のある山が遠くに見える地点であった。
ここから更に高度を上げていった先に、目的地となる中継基地が存在しているとの事だ。
「どんとこいとは言ったが、思った以上の迫力だったな……」
「誰だよ、目的地点の下までは飛空船で行こうって案を却下した奴らは。……俺もか」
「ああ、愛しの大地よ」
いったん休憩にして着陸したところ、技術者連中が次々と地面に横たわっていった。
日之本委員会の研究所から最速で到着するには、アイゼンファルドで来るのが一番早い。飛空船でここまで来るには最速でも丸一日はかかる。そんな理由で出発からアイゼンファルドで移動したものの、やはり三時間も吊るされたままというのは精神的にくるものがあるようだ。
しかも皆が宇宙服を着用済みである事に加え、風圧の影響を緩和する術具なんてものまで持ち出した事でアイゼンファルドは本領を発揮。音速に近い速度で飛ぶものだから、さながら空飛ぶ宙づりジェットコースターだ。
よって現在は、高度十万メートルアタック前に、それぞれが英気を養っていた。
「ふーむ、やはりそれらしいものは見えぬな」
「まあ、迷彩が施してあるらしいからね」
遠見の無形術を使って遥か上空を見据えるミラと、望遠鏡を覗き込むミケ。二人は、そこにあるが地上からは確認する事が出来ないという中継基地を探し、本当にまったくわからないと確かめるなり、これは凄いと感心する。
空は、ほんの僅かな違和感すら存在しない。それでいて中継基地は、遥か古代から誰にも気づかれずそこに存在しているというのだ。
これからミラ達が向かうのは、そんなとんでもない施設である。
だからだろう、何気なく返したようなミケだが、その声にはワクワクとした好奇心が秘められていた。
また周囲を見てみれば、技術者連中もぐったりしながら、その目は未知に挑む冒険者のように輝いている。
『反応あった。この近くだ!』
肉体的、精神的な準備を整えてから挑んだ高度十万メートル。開始してから二十分と少々が経過したところで、アラトからの報告が入った。
宇宙服に組み込まれた短距離通信装置のお陰で、どのような状況であろうとクリアな会話が可能となっている。そしてそれは、ここにいる全員に開かれているため、その声と共に皆が『どこだ?』『どこどこ!?』と一斉に周囲を見回し始めた。
『近くにあると言われても、さっぱりわからないね。いったいどれだけのステルス性能なんだ』
注意深く周りを確認したミケもまた、それでいて傍に何かあるとは思えない光景に驚き、そして笑った。
『ふむ……確かにさっぱりじゃな』
アンドロメダの話によると、中継基地はかなり大きな施設との事だ。けれど、近くにあるというそれの姿は影すらも見えず、視界の先には宇宙の黒が広がっていた。
(しかしまあ、このような光景を肉眼で拝む日が来るとはのぅ)
上空十万メートル。ほぼ空気の存在しないそこから見える景色は、地上と大きく違う。
彼方に望むのは、湾曲する地平線。そして宇宙と地が交わるほんの合間に、空の青色が閉じ込められていた。
地上から見上げた空は、無限にすら思えるほど広かったが、宇宙から見下ろす空は、今にも潰れてしまいそうなほどにちっぽけだ。
だがここには、そんな青空に代わり、それこそ無限に広がる海がある。
そう、星の海だ。見上げたその先には、溢れるほどの光の粒が空いっぱいに輝いていた。
『地上から見る星空とは、随分と違って見えるのだな。これは星座を考えるのも大変だ』
『本当は、こんなに沢山あったのね。素敵だわ』
宇宙から見る星空は、精霊王とマーテルも初めて見たようだ。地上とは比べ物にならないくらいの星達を前に、少し興奮気味である。
『よーし、それじゃあ皆、準備はいいか? ステルスを解除するぞ』
宇宙の光景に見入っている中、いよいよというアラトの声が響いた。
見ただけでは、どこにあるかもわからない中継基地。だが、アンドロメダから預かった端末があれば、すべて解決だ。
どのあたりにあるのかわかるのみならず、中継基地のステルス装置を停止する機能も搭載されているからだ。
『よし、いつでもこい』
『ああ、やってくれ!』
肉眼で探すのは不可能と思い知った技術者連中は、次々に頷き早く早くと口にする。
『よし、いくぞ』
アラトもまた、中継基地がどれほどのものなのか楽しみなのだろう、弾むような声で答えるなり『それ、ポチっとな』と軽快に端末の解除ボタンを押した。
変化は、直ぐに表れた。今か今かと待ち構える全員の正面。まだ数百メートルほどの距離がある地点が大きく揺らぎ始めたのだ。
そして直後、まるでヴェールを脱がすかのように、それは姿を現した。
『よし、こっちはちゃんと生きていたか!』
その様子を目にしたアラトは、一番にステルスが解除出来た事を喜んだ。もしかしたら解除信号の受信も受け付けない状態にあるかもしれないと、アンドロメダから聞いていたからだ。
その場合は、おおよその座標を目安に、あらゆる機器でも検出出来ない中継基地を手当たり次第に探す事となっていた。
だがそうはならずに済んだと、まずは安堵である。
『聞いてはいたが、やっぱりでかいな』
『まったく、こんなものが空に浮かんでいるとか』
ステルス状態を解除した中継基地は、先ほどまでとは一転。これでもかというくらいの存在感を見せつけてくれた。
遥か昔から空高くに浮かんでいた人造物。何ともロマン溢れる背景を持つ中継基地は、それでいて現代的なフォルムをしている。
大きさは、直径二百メートルほどだろうか。まだある程度離れた位置にあるが、それでも巨大さが窺い知れる。
全体は白く、その形は建造物というより巨大な箱といった方が近い。だが下部には、この基地の象徴ともいえるレーダーのような巨大な装置が並んでいた。霊脈の力を中継するためのものだろう。
(ふーむ……フローネの空飛ぶ島を見たせいじゃろうか。むしろこちらの方が現実味があるような気になってくるのぅ)
空飛ぶ島よりも、空に浮かぶ施設の方が不思議と腑に落ちる。そう感覚がおかしくなってきていると自覚しつつ、ミラはその施設の上に着地するようアイゼンファルドに告げた。
今年のいつ頃からか、
特別なアイスタイムを楽しんでおりました。
それは、どのようなアイスタイムかというと……
誰もが憧れた事のあるアレをするタイムです!!!
そう、一食用ではない大きなアイスを、直接スプーンですくって食べるというあの夢を叶えてしまったわけですよ!!!
しかも!!
大事なところなので、あえて言います。
ラクトアイスではなく、アイスクリームだと!!!!
と、ひそひそとそんな贅沢時間を堪能していたのですが、
先日、そこから更に一歩踏み込んでみちゃいました。
これまで買っていたアイスではなく……
ここでハーゲンダッツをチョイスしちゃったのです!!!!!!
これまで買っていたアイスの実に二倍のお値段という、誰もが知る高級アイスのハーゲンダッツ!!!
これでやっちゃったわけですよ。スプーンで直接!!!
流石、ハーゲンダッツ。なんだかとても高級そうなお味で美味しかったですね!
今回はバニラでしたが、次があるとしたらチョコとかも試してみたいところです。
これでまた、子供の頃の夢が一つ。
フフフフフ。
次はどんな夢を叶えてみようか。ワクワクですね!




