533 ラビットミラ
五百三十三
そろそろ一月も半ばに差し掛かった頃。マリアナ達とのんびりする以外にも、ミラはアルカイト学園にてエミリアをしごいたり、孤児院で子供達の面倒を任されたり、精霊王達と色々な案件について会議したりして忙しく過ごしていた。
「──というわけで今朝、通信があってね。向こうの準備が出来たってさ」
王城の会議室にて九賢者揃っての会議中、ミラも当然のように招集されるその席で、ソロモンより日之本委員会から連絡が来たという報告を受けた。
「──うむ、わかった。では、明日の朝に出発するとしよう」
アンドロメダからの技術継承が十分に完了したそうだ。立候補した技術者達は、中継基地のメンテナンスを行えるだけの技術と知識を身に付けた。
後は、その技術を活かすだけ。いよいよ、上空十万メートルの世界に挑む時がきたのだ。
「世界の平和を守るために、空の彼方へと飛翔する勇者達か。熱いな!」
いつか来る最終決戦のためにも中継基地の修復は不可欠。だが、それが存在する場所は人が生存出来る環境の外にある。ゆえにラストラーダは、これへと挑む者達を勇者であると賛美する。
「十万メートルまでは、まだ行った事がないヨ。私も行ってみたいネ!」
修行といえば、高山修行。当然ながら幾度と経験し、八千メートル級の山でも幾度となく修練に励んだ事のあるメイリン。それよりも更にずっとずっと高いところに行くとあってか、修行場所として興味を示したようだ。
「メイちゃんでも流石に無茶だと思うから、ここにいようね」
とはいえ、幾ら無茶を可能にしてきたメイリンとて、そればかりは無謀に過ぎるとカグラが釘を刺した。
現在、日之本委員会の研究結果から、ここも地球と同じように十万メートル上空では、ほとんど空気がないと判明している。つまり、そこはもう宇宙といっても過言ではないのだ。
生身で宇宙に行くなど、もはや自殺と同義である。
「むぅ……わかったヨ……」
カグラに対しては相応の信頼があるようだ。不満そうながらも無茶であるとは理解したのだろう、メイリンは素直に頷いた。
「……──」
そんな会話の間に、そっとアピールする者が一人。フローネだ。彼女は、ぱちくりとウインクでミラに伝える。『例の件、忘れずによろしく』と。
それに対してミラは、こんな面白そうなもの忘れるはずがないと微笑みで返した。
会議後、その日は早めに塔へと帰ったミラは、いつものようにマリアナと共に明日の旅支度を整えていた。
「こちらが、今回のお着替えセットになります」
既に用意してあったのだろう、そう言ってマリアナが持ってきたのは、いつもの旅カバンだ。帰ってきた時にそのままマリアナに渡せば、洗濯から詰め直しまで全てしてくれるという、マリアナの優しさも詰め込まれたカバンである。
そして中には、風水によってマリアナが選んだ下着や普段着などが収められている。
「うっ……マリアナや、こ、これは本当に……」
前回、日之本委員会に赴いた際は黒一色で統一されており、大人の色気が全開となっていたものだ。
だが今回は、その反動とでもいうのだろうか。思いもよらぬ統一性を目にしたミラは、何かの冗談ではなかろうかとマリアナを見やった。
「はい、全ての統計において、今のミラ様に相応しいのは、こちらになります!」
マリアナは、困惑するミラを前に堂々と宣言した。これこそが今現在、一番の運気に満ち満ちているものだと。
「なんとまた……」
そんな中でも特に一押しだとマリアナが掲げた一着を目にしたミラは、平静を装いつつも困惑が入り混じった顔を浮かべた。
マリアナが手にするそれは、兎をモチーフにした、とっても可愛らしいパジャマ。
そう、今回マリアナが用意した全ては、『兎』で統一されていたのだ。
いわく、風水的に『大吉』であるのみならず、今年は絶好調の運勢であるルナの運気にもあやかった最強激運のコラボレーションセットだと、マリアナは自信満々に言い切ってみせた。
(ピンク一色も耐えきったわしじゃが、流石にここまでとなると……──)
マリアナが自分のために考え用意してくれている事については、感謝しかない。とはいえ、それでもここまで兎ばかりに染められると、素直に喜べないというのが心情だ。
以前、ピンクで統一されていた時は、女の子し過ぎていると感じたものだが、慣れてしまえばもう美少女ゆえに似合ってしまうものだと開き直れたもの。
しかし今回は、その見た目が子供過ぎて開き直るどころではなかった。
「ルナと一緒にパワーも送り込んでおきました。ご利益は、抜群ですよ!」
これを受け取るには、尊厳っぽいものを手放さなければいけない気がする。そのようにミラが決断を躊躇っている中、マリアナが更にそう続けた。
遠くで活躍するミラのためにマリアナが出来る事。それは出かける前に妖精の加護を更新するだけ。十分に強力な効果ではあるが、それでは満足出来なかった彼女が思い付いたのが、この風水による安全祈願だ。
しかも今回は運勢絶好調のルナまで一緒に祈願したとの事で、効果は抜群らしい。ルナも、どことなく自信ありげな態度である。
「そ、そうか……。いつもすまぬな。感謝するぞ」
そんな両名に対して、ミラにはそれを拒む事など出来るはずもなかった。ものはどうであれ、そこに込められた想いは本物なのだから。
パンツから何から全てが兎で統一されたカバンを受け取ったミラは、覚悟を決めて礼を口にした。
ソロモンが気を利かせてくれた事で、ミラのガルーダワゴンは今、召喚術の塔の屋上から離着陸出来るようになっていた。ゆえにお見送りは、屋上からだ。
「では、行ってくる!」
「はい、いってらっしゃいませ」
「きゅいー!」
ガルーダワゴンを準備した後、ミラが景気よく振り返ると、マリアナとルナが応える。
いざ、旅立ちの時。再び日之本委員会の研究所へ。ミラはマリアナ達の声に頷き答え、颯爽とワゴンに乗り込んだ。
その時、強い風が吹き抜け、ミラのスカートの裾をひらりと撫でていった。ちらりと覗いたミラのパンツには、可愛らしい兎がばっちりプリントされていた。
シルバーホーンを発ってから二日後の昼過ぎ。ミラは予定通り、日之本委員会の研究所に到着した。
「やあ、一ヶ月ぶりだね。明けましておめでとう」
「うむ、明けましておめでとう。忙しいと一ヶ月も早いものじゃな」
研究所の船着き場にガルーダワゴンを着陸させると、そこにはミケが待っていた。
ワゴンから降りるなり、そう挨拶を交わしたミラは、そのすぐ後に「して、わしが頼んだ術具の仕上がり具合はどうじゃ?」と前のめりに続けた。
中継基地の件もあるが、ミラにとって一番気になるのは、やはりそれだ。
今後の戦略を大きく変える可能性のあるマナ貯蔵用の術具。これが設計通りの性能を発揮したならば、今まで諦めるしかなかったあれやこれやの多くが実現可能に近づくのだ。
効果自体は、マナを貯蔵するだけという実に単純なもの。けれどミラにとっては可能性の塊だった。
「着いて早々にそっちの話とは、まあ予想通りだ。で、仕上がり具合についてだけど、それはもう期待してくれていいよ。苦労はしたけど、作った私達も驚くくらいのものに仕上がったからね」
余程の自信があるのか、そう答えたミケの顔には挑戦的な笑みが浮かんでいた。
「ほぅ、それは楽しみじゃのぅ!」
あのミケがここまで言うという事は相当なのだろう。普段ならばイラっと来る表情であるが、こういう時の場合は実に頼もしく見えるものだ。
では、そこまで言う仕上がり具合を確かめたい、とミラが口にしようとしたところ──。
「ああ、ただ受け渡しは後でね。アンドロメダさんと選抜メンバー達が、君の到着を首を長くして待っているからさ。先にそっちを済ませてからだ」
逸るミラの気持ちを察したのか、先回りするように告げたミケは、すぐさま「じゃあ行こうか」と歩き出す。ミラにしてみれば術具が一番だが、それ以外からすれば中継基地のメンテナンスこそが最優先なのだ。
「……まあ、楽しみは後にとっておくとしようか」
待っているのならば仕方がないと、ミラはミケに案内されるまま研究所の奥に進んでいく。
その途中でミケから聞いた話によると、どうやら神器や中継基地など、『決戦』に関係する諸々を統括するために専用の作戦室を用意したそうだ。
アンドロメダを含めて、この作戦の関係者全員はそこに集まっているとの事であった。
そうこうしてミケに案内されたのは、『宇宙科学技術研究開発部』だった。
「何というか、違和感が半端ないのぅ」
今作戦における全てを統括する作戦室。アンドロメダを特別室長として据えたそこは、宇宙研の奥にある組み立て場の片隅にあった。
宇宙ロケットも丸ごと収まるほどの広大な空間を有する組み立て場。見ると、その一角に基地のようなものが出来上がっていた。幾つものコンテナを組み合わせて造られた、どことなく終末感の漂うコンテナ製基地だ。
もしもこれと同じものが洞窟の奥などにでもあったとしたら、それこそ秘密基地っぽさに溢れていた事だろう。間違いなく心躍る光景になっていた。だが、多くの機材だなんだでごちゃごちゃとした、この組み立て場においては間借りしている感が著しかった。
なお、ミケが言うに、この場所にしたのはアンドロメダのリクエストに応えたからであって他意はないとの事だ。今後の事に加え、色々な準備を整えるためには、この宇宙研の組み立て場が最も適していると判断したそうだ。
「中継基地のメンテナンスが無事に完了したら、アンドロメダさんがいたところから色々な機材を持ち込む予定でね。いったいどんな設備が完成するのか、私も含め皆が楽しみにしているところだよ」
いざという時に神器を整備出来る設備を整えるのみならず、決戦に備えての準備は、まだ幾つもあるらしい。
ただそれは、全てアンドロメダと、ここのメンバーで行える事だという。よってミラは今予定している分を完了させてくれれば、それで十分だそうだ。
「遂に本番だ。皆、今日までよく頑張ってくれたね──」
今作戦のメンバーと合流して簡単に挨拶を交わした後、アンドロメダより作業の流れが改めて説明される。
だがミラが担当するのはアイゼンファルドを召喚して皆を送迎するだけ。ゆえに早い段階で、その辺りの確認は終わった。そして続くのは復旧についての小難しい内容だったため、ミラは途中から人間観察を始めていた。
(皆、面構えが違うのぅ。これから十万メートルの宇宙に挑む勇者達……という感じなのじゃろうか。まあ自信がありそうなのはいい事じゃな)
中継基地の復旧、更には今後のメンテナンスも出来るように行われた一ヶ月間の技術講習。相当にハードなものだったのだろう、宇宙研の室長アラトを筆頭に、ここに並ぶ技術者連中の顔は一ヶ月前のそれに比べ真剣みが違っていた。
あの時は興味や好奇心が先行している様子だったが、今はそれこそ空に挑む宇宙飛行士のそれだ。
本番を前にして余裕の笑みまで浮かべるその表情からは、確かな自信が垣間見える。だが全員、どことなく自宅で過ごす休日といった格好をしているためか、まったく締らない絵面であった。
「──という感じだ。何かあったら、いつでも連絡してくれたまえ」
アンドロメダは、今作戦の流れの確認をその言葉でもって締めると、そのまま「では皆、着替えてからアイゼンファルド殿に登場してもらおうかな」と続けた。
着替え。そう、当然だが十万メートル上空は、もう宇宙だ。ゆえに生身で行けるはずもない。だからこそ出番となるのが宇宙服である。
「よーし、本番だ!」
やる気満々にコンテナ部屋へと駆けこんでいく技術者達。既に皆の分はそこに置いてあるようで、いそいそと着替え始める。
「で、これが君の分だ。一応最終チェックをするから、こっちで着替えてくれるかな」
その途中、ミケがアイテムボックスから一着の宇宙服を取り出した。日之本委員会特製の宇宙服は、一昔前のずんぐりむっくりしたそれと違い、幾らかスリムな形状をしている。最新モデルの宇宙服だ。
「おお、本格的じゃのぅ!」
当然ながらミラも生身で行けるわけではないため、その着用は必須だ。そして宇宙服といえば、宇宙飛行士の制服のようなもの。つまりは、エリート中のエリートである証だ。
自分用のそれが用意されているという事に、少しテンションが上がったミラ。ただ、言われるままに連れていかれた女性用更衣室にて一転、窮地に立たされていた。
「ほら、早く脱いでこれを着るんだ。チェック出来ないじゃないか」
更衣室に着くなり、そのまま手早く着替えを終えたミケは、まだ服すら脱いでいないミラを前にそう急かす。
対してミラは、この場で着替える事を躊躇っていた。
なぜなら服を脱いだら、兎柄の下着をミケに見られる事になるからだ。
今の下着以外であったなら、それこそ前回来た時の下着であったなら、微塵も躊躇う事などなかったであろう。堂々と下着姿を晒し、とっくに着替え終えていたはずだ。
けれど、今回は事情が違う。こんな子供っぽい下着姿を見られたら、はたしてミケはどんな反応をするだろうかと、ダンブルフのイメージに縋るミラにとっては、それが恐ろしくて仕方がないのだ。
「もう、ぱっと足を突っ込んで引っ張り上げるだけで着れるんだから、難しいものじゃないよ!」
以前、各種数値の測定の際、ためらう事無く素っ裸になったミラであるため、今更下着を見られる事に躊躇っているなどミケが察する事など出来るはずもない。
だからこそ、宇宙服の着方がわからないのだろうという考えに至るのも仕方がなかった。
ミケはミラの宇宙服を手に取り広げて着る準備を整えると、そのままミラの服に手を掛けた。
「いや、そっちではなくてじゃな──!」
問題は宇宙服ではない。そう訴えようとしたミラであったが、次の瞬間、ものの見事に服をはぎ取られ下着姿を晒される事となった。
「あ……あー……。うん、そういう事か。なんかごめんね。まさかそういう感じの趣味だとは」
剥ぎ取った服を手にしたまま、ミラの姿をまじまじと観察したミケは、どこか納得したように頷き、そっと視線を逸らした。
「いや待て、違うぞ! これには色々と深いわけがあるんじゃ。よいか、これはじゃな──!」
美少女の姿になったのみならず、子供用の下着を着て楽しんでいる。それが今のミラを目にしてミケが受けた印象だった。
けれどそれは、誤解である。多少なりとも美少女の姿は楽しんだが、その先については不名誉極まりないとして、ミラは全力で弁明した。主に兎柄の下着については、非常に避けられなかった理由があるのだと。
「風水、ねぇ。こういう世界だから、何かしらそういうのも意味はありそうな気になるけど……実際、それを着てどうだい? 何かいい事はあったかな?」
どちらかというと科学者寄りの考え方なミケ。だがそれでいて魔法だなんだが存在するファンタジーな世界に居るとあってか、ある程度柔軟に考えられるようだ。
そんなミケは、風水だ占いだという類いに実感出来るような効果はあるのかと気になったらしい。ミラの兎パンツをまじまじと見つめながら、真剣な目で問うてきた。
「少なくとも、今はまだじゃな……」
マリアナの想いが込められた風水コーデだ。それはもう抜群であると胸を張って答えたいミラであったが、現状を鑑みた結果、そう言うにはあまりにも失ったものが多いために言葉を濁す。
「ふーむ、そういう科学では説明出来ない、超常的なものも科学的に組み込めるようになったら面白いと思ったんだけどね。まあその内に、もしも何か効果があったと思ったら教えてくれるかい?」
占いがどうの運気がどうの開運がどうの。ミケは、そういった要素もいずれは取り込めたら面白いと考えたのか、好奇心をその顔に浮かべていた。
「ふむ。そう思えるような事があれば、まあよいじゃろう」
実際のところは、それこそ心霊だなんだというものと同じで不確定な点が多い。だがマリアナが真剣に取り組んでいるとあって、ミラはこれを一切否定する気はなかった。むしろ証明してくれといった気持ちで頷き答えていた。
最近、ほしいものが出来ました。
それは、電動スライサーです!!
毎日の食事に野菜を多めにとりいれようと思っているのですが、
やはりそこで難点となるのが、野菜の下処理!
切ったりなんだりで、これがもう手間がかかる手間がかかる。
だからこそ既にカットされている野菜というのも売られていますが……
正直なところ割高感が凄すぎて、買う気になれないんですよね。
その野菜を買って切った場合に比べると、だいたい二倍くらい高くなりますから。
そう計算してしまうと、その辺りには手が出せません。
そこで考えました。
野菜たっぷりを実現出来て、手間も最小限にする方法はないかと。
そして行き着いたのは、電動スライサーです。
玉ねぎと根菜類。とりあえずこれらを全部スライスして冷凍しておけば、いつでもたっぷり野菜に出来るのではと!
しかし、これがまた理想の電動スライサーが見つからないという事態に。
そんな時、テレビを見ていた先日の事です。
とある通販番組がちょこっと流れたのですが
その時に気になるものが登場したのです!
ハンドルを回すとスライスしたり千切りに出来たりとかするスライサーです!!
電動ではありませんでしたが、その分価格は低め。
という事で、そんな万能スライサーの導入によって、どの程度食生活に彩りが生まれるか試すべく
買ってみました!!
使ってみました!!
にんじん、凄いです。細いやつが一気に出来ました!
このくらいの手間ならば、今後はにんじんも常用分に入れてもいいと感じましたね。
そして次にたまねぎですが……
こちらがどうにも上手くいきませんでした。何やら刃の部分が詰まってしまい、さっぱりスライス出来なかったんですよね。
とはいえ可能性は感じました。
次は、大根やレンコンなどにも挑戦してみようかと思います。
野菜の種類もたっぷりになったら、もっと健康感が増す気がします!!!




