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530 ドッキリも過ぎて

五百三十



『──如何だったかな。かの精霊王様より新年を祝う言葉が頂けた、この幸運。加えて、新たに九賢者の一人であるフローネが帰ってきてくれた。しかも、とんだお土産を引っ提げてだ。もう今年は特別な年になりそうな予感がすると思わないか。私は、きっと素晴らしい一年になると感じている。そしてそれは、君達にとっても素晴らしい一年である事を祈る。では、皆、風邪をひかぬようほどほどにな』


 怒涛のドッキリが過ぎ去った後、どうにかこうにかこれをまとめて新年の挨拶に代えたソロモン。そして最後に『フローネの帰還については、後日詳細に発表しよう』と付け加え、年越し祭り最後の出番を終えた。


「これは、とんでもないぞ!」


 ルナティックレイクにて、記者達がこれは特ダネだと走り回る。


「このような祭りに精霊王様が姿を現すなど初めての事」


 また、信心深い者達は祈りを捧げていた。その目は精霊王が浮かんでいた空のみならず、天空島にも向けられている。精霊王が祝福した街。そこは今後、宗教的にも特別な意味を持つ事になりそうだ。

 他にも誰かがとにかくめでたいと囃し立てれば、あちらこちらで祝い酒が振る舞われる。

 新年祝いとして用意されていた酒や料理は、今回の出来事を祝うためのそれに代わるばかりか、次から次へと足されていく。

 いつもなら賑やかに盛り上がり、料理と酒が切れたところで自然とお開きになるのが毎年の年越し祭りだ。

 けれど、どうやら今年は朝まで続きそうである。


「どうじゃ。なかなかのものだったじゃろう?」


「驚いちゃったかな? 驚いちゃったね? うしししし」


 イベントも一通り完了して、ソロモン達も今回の出番を終えたところだ。アルカイト城のテラスにて誇らしげに胸を張る、ミラとフローネ。ドッキリ大成功と得意げに笑い、ソロモンのみならずルミナリアらの反応を確かめた二人は、その成功具合にほくそ笑む。


「新年早々、ド派手な登場だったな。でもフローネちゃんのそういうところ、嫌いじゃないぜ」


「おじいちゃんも共犯って事よね。いつの間にフローネちゃんを見つけてたの? こういう事するなら私も交ぜてよ」


 九賢者きってのトラブルメーカーであるフローネ。その気質も相変わらずそうだと笑うルミナリアは、けれど旧友の帰還とあってか素直に嬉しそうであった。

 そして実はドッキリ仕掛け人に憧れていたカグラは、特にこういう楽しいドッキリは大好きなのにと口を尖らせる。


「やれやれ、面倒な奴が……」


「最初から通して見事な演出だった! だが最後に爆発と決めポーズがないのが惜しかったな!」


 一癖も二癖もある九賢者だが、その中でも輪にかけて面倒だとうんざり顔のソウルハウル。対してラストラーダは、あまりにも見事に全ての視線を掻っ攫っていったフローネの演出を絶賛する。ただ、最後はやはり豪快に決めるべきだったと、少しだけ残念そうだ。


「また会えて嬉しいわ、フローネちゃん」


「フーたん師匠! またお手合わせお願いしたいヨ!」


 アルテシアの表情は慈愛に満ちていた。無事の再会を喜んでいるようだ。そしてメイリンはというと、こちらはもういつも通りである。特に九賢者最強と謳われるフローネに対しては憧れのような感情すら抱いているためか、当時からこうして何かと手合わせを希望していたものだ。

 なお、その要望が通る時は、決まってフローネに実験したい何かがある時だったりする。


「いやほんと、ビックリだったよ。まさか二人でこんな仕掛けを用意していたなんてね。精霊王さんが新年に祝いの言葉を贈ってくれるなんて急だから何かあるとは思ったけど、まさかこのための仕込みだったなんて、そこにもビックリだよ」


 勝ち誇った様子のミラとフローネの言葉を受けて、ソロモンは素直にそう返した。精霊王までも前振りに使うとは、それはもう見事にしてやられましたと宣言したわけだ。


「くふふ。この日のために、いっぱい準備した。精霊王さんもドッキリをよくわかっていた。グッジョブ」


 作戦は大成功である。長い年月をかけて準備した甲斐があったと喜ぶフローネ。そして何よりも精霊王の演出が加わった事で、より完璧になったと満足そうだ。


「にしても、ほんと。あれには特に驚いたよ……」


 そう言ってソロモンが空を見上げると、ルミナリア達も、まったくその通りだと言ってそちらに目を向けた。

 そこにあるのは、フローネが造り上げた天空島だ。何といっても、これが空に現れた時の驚きといったら、もはや筆舌に尽くし難かったと語るソロモン。


「いやぁ、あれはすげぇって。ただまあ、フローネちゃんの仕業だってわかれば納得出来ちまうのが恐ろしいな」


 驚きと共に呆れたような色を覗かせるルミナリア。他にもカグラやラストラーダが常識はずれな光景を前に同じような感想を零す。いわく、確かにフローネが関与しているとわかったら、この不可思議な状況も納得してしまえると。


「ちなみにじゃが、ここで一つ注意事項があるので伝えておくぞ」


 ひとしきり皆が驚いたところで、そう切り出したミラは、ここでわざわざワーズランベールを召喚する。そして声が一切漏れないようにしてもらってから、周知しておかなければいけない重要な情報をソロモン達に聞かせた。





「うわぁ……とんでもないもの造ってくれちゃって……」


 フローネの天空島は、大陸各国からちょろまかした大地を移植して造られている。ミラがその事実を伝えたところ、素晴らしい技術の結晶だと絶賛していたソロモンの態度は急変。爆弾娘が本当に爆弾を持ってきたといった顔で、空に目を向けた。


「なるほどなぁ、そりゃあもうこの瞬間に国家機密入りだ」


 国境の侵犯どころか、その国土を強奪していた。この事実が明るみになってしまったら、多くの国からつるし上げられてしまうのは必至である。事の重大性を理解したルミナリアは、これは扱いに困りそうな代物だと苦笑する。


「じゃがまあ、そういう理由もあって精霊王殿が気を利かせてくれたのが今回の一件でもあるのでな。何かお偉いさんがあの天空島を利用しようなどと言うたら、その辺りを前面に押し出して断るのがよいじゃろう」


 一通りの状況を周知した後、ミラはそのように言葉を締めた。

 天空島の秘密を守る一番の手段は、これを知る者以外の立ち入りを一切認めない事。そして断る際には、かの精霊王が名を与えた特別な場所であるため、今は余計な混乱を与えないよう立ち入りを制限しているとすればいいというわけだ。

 どれほどの権力者であろうと、精霊王の名を出せば納得せざるを得ないのだから。


「一応、一目見て気づかれぬように土壌や植生の調整も始めておるのじゃが、流石にまだまだ時間がかかるのでな。まあ、犬に噛まれたと思って対応してくれ」


 とはいえ、いつまでもその手で押し通すつもりもない。そこは人と精霊の共存という理想の街であるからだ。

 いざ参考にしようにも、直接見る事が出来なければ意味がないというもの。

 ゆえに現在天空島にて、継ぎ接ぎのように移植されている大地を、もっと自然に見えるよう改良する計画が実行されていた。

 精霊ネットワークを通し、ミラが契約している精霊達がマーテルの名のもとに各地を奔走。彼女の眷属となる多くの精霊達に声をかけ、天空島に集まってもらっていた。

 そして精霊達の力を合わせ、国色豊かな自然に溢れる大地を天空島という色に統一するのが最終目標だ。


「今は核弾頭……後々に宝箱って感じかな。まあ、うん、わかったよ。どうにか善処しよう」


 どっと疲れた顔で頷いたソロモンは、それでも一切悪びれた様子のないフローネを見やり呆れたように笑う。ただ、その目には彼女の帰還を喜ぶ感情も見え隠れしていた。


「……っと、それじゃあ、あの島の扱いについても話し合わなきゃだし先に行くね。君の帰還セレモニーだったりとかについては、また昼頃にでも話し合おうか。それじゃ!」


 どこか、しみじみとした様子から一転、何やら慌てたようにそう告げたソロモンは、テラスからぴょんと跳び下りて、階下にある重役ばかりの年越しパーティーの会場に消えていってしまった。


「まったく、行儀が悪いのぅ。そう慌てて行くような事でもないじゃろうに」


 とりあえずは精霊王の御墨付となった天空島だ。そこまで慌てずとも騒ぎにはならないだろうと、ミラは階下を眺めながら呟く。

 見事に国の重役ばかりが揃えられた会場。なお城内には、もう一つ大きな年越しパーティー用の会場が用意されている。

 そう、重役が居てはパーティーも楽しめないだろうとソロモンが配慮した結果が、この形というわけだ。


「ほれみろ、スレイマンが渋い顔をしておる」


 そんな国のトップクラスばかりが集まる場所に上から飛び降りていったものだから、王様らしい立ち居振る舞いにうるさいスレイマンの反応が目に見えてわかる。お叱りを受ける事確実だ。

 と、何気なくソロモンの身を案じていたところ──。


「ああ、フローネちゃん、お帰り! 会いたかったわー!」


 もう堪えきれないといった声と共に、アルテシアが疾風の如き早業でフローネを抱きしめていた。


「あぅ……あぅぅ……」


 あまりにも一瞬の出来事であったため、フローネは目をぱちくりさせながら狼狽える。何事かと確認する間もなく視界まで塞がれるのみならず、熱烈過ぎる抱擁は身体の自由すらも奪うほどの愛に溢れていたからだ。

 数十年ぶりの再会という事もあってか想いは強く、たとえフローネとてその愛から逃れる事は出来そうもない。


(……あ)


 久方ぶりなのだから、今回は見守るだけにしておこうか。暫くすれば熱も冷めるだろう。そう考えたミラだったが、直後アルテシアの中に渦巻く激愛に気づく。

 思えばあのフローネを一瞬で捕らえてしまうほどの瞬発力は、いつものアルテシアを超えるものだった。

 では、その要因は何かと考えれば、一つの答えに行き着く。

 ソロモンから聞いていた話だ。年末年始の行事もあって、最近のアルテシアは相当に忙しかったと。つまりはそれだけ、子供達と遊ぶ時間が削られていたという事になる。

 つまり、今の彼女は子供分不足。その状態に陥ったアルテシアは、かなり見境がなくなってしまうと以前から把握していたミラ。そのためロリ寄りなフローネは、もう助からないだろうと救出を諦めざるを得なかった。

 きっとソロモンは、そろそろ爆発しそうなアルテシアの様子に勘付いたのだろう。だからこそスレイマンの説教も覚悟して、テラスから飛び降りるなどという手段で脱出を図ったわけだ。


(……せめて、あと十秒ほど早く気づけておればのぅ)


 そして、どちらかというでもなくロリ寄りなミラもまた、十分にアルテシアの守備範囲内。

 ロリではないと主張するが、不本意ながらもアルテシア目線から見たら、そう見えてしまっていると理解するミラは静かにその場からの離脱を試みた。


「ほーら、ミラちゃんも一緒にねー」


 けれども禁断症状を発症してしまったアルテシアが相手では、既に手遅れ。もはや理解が追い付かないレベルの手際で捕獲されると、そのままフローネと一緒に城内へと連れ込まれてしまう。

 なお、ここで抵抗すると後々にどうなるのか、流石のメイリンも学んだようだ。蛇に睨まれた蛙の如く、無抵抗のままアルテシアの誘導に従っていた。

 それから三人は仲良くお風呂に入れられて、アルテシアの気が済むまで思いっきり可愛がられお世話されたのだった。











シャトレーゼ祭り開催から、一ヶ月ちょっと。

遂に残りは、僅かに数えるのみとなってしまいました。

賞味期限が長めのラスクと、冷凍保存しておいた幾つかです。


しかしきっと来週の今頃には、すっかり尽きてしまっている事でしょう……。


シャトレーゼフォーエバー。また会う日まで……。

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― 新着の感想 ―
ドッキリといえば野呂圭介だよね。 まあ、本当に(政治的な意味で)核弾頭ミサイルレベルの天空の島を作ってくるとは、ソロモンも大変だねぇ。 ミラとフローネは、お仕置きがわりに、アルテシアの激愛で美味し…
[一言] ドッキリも終わり宴も終わり 何だか少し寂しいですね 新しい年はどんな事があるのか、そちらを楽しみにしておきます 天空島にはホント行ってみたい 精霊王様にも会ってみたい 想像して楽しめる展開が…
[気になる点] アルテシアの守備範囲は、見た目少年少女なら、ばっちり網羅してるんですかね……?( ・∀・) [一言] 大事に食べてたお菓子や、買い込んでおいた食材が尽きてくると、次のメニューに頭を悩ま…
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