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523 空からの連絡

五百二十三



「じゃあ、いってくるよ」


「うむ、またな」


 土産話と世界の危機について語り終えた後、幾らかの雑談を交わして昼食も共にしたミラとソロモンは、そのまま食堂前にて別れた。

 ソロモンは、これから会議のようだ。なお議題は、来年に開催される春祭りについてだという。


「春……か。その頃にはどうなっているのじゃろうな」


 今と変わらずか。それとも面倒事が片付いているか。または更に面倒な事が出て来ているか。リーズレインの件は進展しているか、超越召喚の研究は進んでいるか、聖域の開拓は実現しているか。

 春、そして夏に秋、冬。次の一年では、どのような出来事と出会えるだろう。そして連綿と続いていくであろうこの時代を、世界の危機から守れるだろうか。


「──まあ、何とかすればいいだけの話じゃな!」


 未来への希望と不安が入り交じる感情を胸に秘め、ミラは大いに笑った。

 不安もまた、未来への糧にしてしまえばいい。危機を乗り越えた先には、きっと今よりも成長した自分がいるのだから。

 ミラは、ずっと未来を見据えて歩き出した。

 この先、どんな冒険が待っているのか。また、この世界についての謎が解き明かされるのは、いつ頃か。

 楽しみは、まだまだ無数に散らばっている。そして何よりも、愛する者達がここにはいる。

 ミラは決意を新たにして帰路につく。

 だがその歩みは、ほんの数歩も続かなかった。なぜなら進む先に、侍女長のリリィがいたからである。

 来年は、どのような服を着せられているのか。避けようのない危機もあると思い知ったミラは、諦めの境地で侍女区画へと攫われていくのだった。





「よもや、あのような場所が出来ておるとはのぅ。思った以上に長居してしもうた……!」


 アルカイト王国上空、ガルーダワゴン内。シルバーホーンに向かう途中にて、ミラは沈みかけの太陽に目を細めながら呟く。

 侍女区画より解放されたのは、連れ込まれてから数時間が経過してからであった。しかも最初は強引であったが、後半は自主的に留まり過ごしていた。

 なぜなら、侍女区画内にウサギカフェが出来ていたからだ。可愛らしく、そしてよく躾けられているウサギ達の可愛さときたら、もうこれに抗える者などいるはずもない。

 いったい、なぜそのような場所が作られたのかは不明だが、今では大人気のスポットという事だ。そしてミラもまた、その人気の一端を存分に感じてきた次第だ。

 侍女と可愛いウサギ達(深い意味は無い)に囲まれて過ごした時間は、正に至福の一時。侍女達の巣窟である事も忘れて存分に満喫してしまったわけだ。


「しかしまあ、今回も力作じゃのぅ。わしの可愛さが留まるところを知らん」


 当然ながら、それだけで終わるはずもない。いつものように着せ替え人形にされたミラは今、侍女達謹製のミラカスタム・ノワール仕様となっていた。

 もう直ぐ新年。だからこそ一度原点に立ち戻ろうという気持ちも込めてのゴスロリ魔法少女風である。

 これもまたいつもの事。むしろ上等な服が無料で手に入るイベントだと思えば、幾らか気は紛れるというものだ。そのように考える事にしたミラは、何だかんだで、また自分の可愛さが際立っているなと自画自賛しつつ、窓から外を眺めた。


「さて、年明けくらいまでは、ゆっくり出来そうかのぅ」


 日之本委員会の研究所を後にする際、アンドロメダが言っていた。諸々の準備が整うには幾らかの時間を要すると。それはだいたい年が明けて少ししたくらいだ。

 更にミケいわく、注文分のマナ貯蔵器の完成についてもそのくらいとの事だった。

 よって、次に向こうを訪ねるのは新年行事が色々と落ち着いたあたりで問題なさそうである。


「ふーむ、何から手を付けていくべきじゃろうか」


 では、次までどうしていようというのが悩みどころだった。

 召喚術の研究や実験など、腰を据えてやりたい事は盛りだくさんだ。

 他にも開拓出来そうな聖地候補探しやリーズレイン所縁の地訪問と、出かける先も無数に存在する。そして何よりも一番大切なのは、マリアナ達との安らぐ一時だろう。

 特にこれから年末年始を迎えるとあって、イベントが目白押しだ。


「む?」


 まずは、どれから取り掛かろう。そう考えていたところだった。不意にワゴン備え付けの通信機から呼び出し音が響いたではないか。


「なんじゃなんじゃ、追加の注文とかではないじゃろうな」


 はて、ソロモンか。なにか言い忘れでもあったのか、それともいつも落ち着けそうな頃に注文してくる魔封石の大量納品についてだろうか。

 どちらにしろ面倒事に違いないとため息を漏らしつつ、ふすまを開けたミラは、押し入れに頭から突っ込んで受話器を手に取った。


「はいはい、何の用じゃー?」


『あ、じっじ!』


 気だるげに受話器を耳に当てた途端、そこから響いてきたのはソロモンとまったく違う声だった。

 少女の声、しかしよく聞き覚えのあるその声は、短いながらも相手を特定するのに十分だった。


「なんじゃ、フローネか。久しぶりじゃのぅ」


 そう、九賢者仲間の一人であるフローネだ。ついでに色々と噂になっている天空城の施工主でもあり、今もその完成に向けて暗躍中だ。


『やっと繋がった! 何度も掛けたのに全然繋がらなかったんだから!』


 はてさて、そんな彼女が何用かと首を傾げたところで、怒涛の文句が受話器から響いてきた。

 その様子からして、繰り返し通信を試みようとしていたようだ。しかしながら現代に存在する通信手段に比べて、この通信機はその点で色々と不便がある。留守電やメッセージといった類は残せないからだ。

 離れていても会話が出来るという非常に便利な道具ではあるが、そういう面では不便もあった。

 加えてミラが所有する通信機の状態は、少々特殊だ。


「いやはや、すまぬな。このワゴンの通信機は、ちょいと出られるタイミングが限られておるのじゃよ。移動中以外はアイテムボックスの中でのぅ」


 直ぐに連絡をとりたい相手からしたら、なんとももどかしいであろう。

 重要な機関などで用いられる場合、だいたい傍に通信担当者が配置されている。

 ただミラの場合、通信機のあるワゴンごと特殊な箱に入れてアイテムボックスに収納してしまう。ゆえに、呼び出しすら出来ない場合も多い。今のように長距離移動中などでなければ、繋がりすらしないのだ。場合によっては、本当に番号が合っているのかわからなくなってしまう事だろう。


『繋がりにくい番号を教えられたこっちの身にもなって』


 だからこそフローネは、余計に苛立っているのかもしれない。

 とはいえ、こうして繋がったのだから、もういいだろう。「すまん、すまん」と軽めに返したミラは同時に、わざわざフローネがこうして連絡してきた意味について考えた。


「もしや、連絡してきたという事は、いよいよじゃったりするのか!?」


 そして思い付いたのは、一つ。天空城が完成し凱旋の準備が整ったのか、というもの。ミラは遂にその日が来たかと期待を浮かべながら続けた。

 するとどうだ。


『そう、いよいよ! 年明けのパーティータイムにドーンと行くつもり。だから手伝ってね!』


 予想は大当たり。フローネは一転してはしゃぐように答えると、同時にそんな事を言い出した。

 なんでも年の初めを思いっきり盛り上げ、その勢いのまま『私は帰ってきた』とド派手に登場する予定だそうだ。


「ふむ、なるほどのぅ。どれどれ詳しく──」


 ようやく完成した天空城。その雄大な姿と共に現れ帰還を告げる九賢者。きっとアルカイト国民のみならず、ソロモン含め他の九賢者達の度肝も抜ける事だろう。

 流石はフローネのやる事だ。これはきっと伝説になると、ほくそ笑むミラは、これでもかというくらいに乗り気で当日の打ち合わせを始めた。

 更にはそこに精霊王とマーテルまで加わる。

 とても楽しそうだからという理由だが、これにはもう一つの理由もあった。


「──今からソロモンの驚く顔が目に浮かぶのぅ! じゃが、その前にクリアしておかなければならない問題があってじゃな──」


 それは天空城のこれまでと、その在り様、更には今後についての扱いにおいて色々と都合を合わせるためだ。

 空を飛ぶ大きな島。しかも所有者は、歩く対軍兵器としてその名を轟かせる九賢者の中で最強と謳われる『超常のフローネ』だ。これを軍事利用するとなったら、周辺諸国が黙っているはずもない。

 兵器を満載にした島が空を飛んでやってくる。そんな事にでもなったら、脅威以外のなにものでもないのだから。

 加えて各地の噂話から、これがかの天空城であると気づかれるのも時間の問題。そして他国の上空で何をしていたのだという問題へと発展していくわけだ。

 ゆえに、この天空城が軍事とは一切関係のないものであると証明しなければいけない。これを大公開した結果、アルカイト王国が窮地に立たされる事にならぬように。


『そんな事全然ないのに……面倒』


 当然、フローネには一切そのつもりはなかった。軍事利用など毛ほども考えておらず、また考えるはずもない。彼女にあるのは遊び心のみであり、天空城に兵器の類は一切搭載されてはいなかった。

 だが外交において、そのような言い訳が通用するはずもないというものだ。

 とはいえ辻褄を合わせたり、理由を後付けしたりする事ならば幾らでも出来た。そして、そこで活躍するのが精霊王達である。


『素晴らしい。そこまで完成していれば十分だ。ならば我の名のもとに、『祝福の街(シン・ベネディクス)』の名を授けよう』


 天空城には、フローネが保護した多種多様な種族に加え、多くの精霊達が暮らしている。その事実を大いに利用するという形だ。

 多種族と精霊が共存共栄する理想郷。その始まりとなる街。定義には他にも色々と必要ではあるが、今回は空を飛ぶ島という前例のないものだ。

 加えて、既に多くの精霊達が住んでおり、そこには種族を越えて家族となった者もいる。その歴史と、その在り様、そして未来への可能性として、精霊王がこれを認めたという形にする。

 もしもそんな平和の街を兵器だと言うつもりなら、それは精霊王に、転じて三神教にも喧嘩を売るようなもの。というような状態に仕立て上げるのが、この作戦の肝というわけだ。


「精霊達との共存。色々なところで計画されておるが、よもやそこが第一号になるとはのぅ」


 この結果に、何とも感慨深げに呟くミラ。

 精霊と人間が共に暮らす街。これについてはソロモンも実現に向けて動いていた。

 偶然感は否めないものの、この件はそれを形にするための大きな一歩になるかもしれない。ものがものであるがゆえ、お陰でインパクトは抜群である。


『うん、悪くないと思う。精霊王公認……くふふふふふ』


 外交関係で色々と問題にならないように。フローネは、そういった意味合いも理解して呑み込んだようだ。そして何よりも精霊王公認というのが、なんか強そうだと嬉しそうでもあった。




 天空城についての外交問題は、一先ずどうにかなりそうだ。少なくとも最悪な状態にはならないだろう。後は辻褄──というよりは口裏合わせについてだが、こちらは今度直接行って話し合う事となった。よって今は、最近どうだなんだという雑談中だ。


『なにそれ!? もっと詳しく!』


 幽霊船やら日之本委員会のご飯は美味しいやらと語った流れのついでに、世界の危機という話題についても共有しておいた。

 何かと器用なフローネである。気分次第というところもあるが、協力者としては申し分ない。

 そして今度、その関係で高高度にある中継基地に行く予定だと話した時だ。これにフローネが前のめりで喰いついてきたではないか。


「実は遥か昔から存在しておってな──」


 彼女は、どのあたりに興味を抱いたのか。いざという時の助力を期待するミラは、その点について詳細に説明していった。





『上空百キロメートル……空間に完全固定された空中施設……凄くイイ!』


 詳しく話し終えたところ、フローネは随分と興奮した様子だった。

 特にそこまでの高度となると、フローネの力と天空城の性能を以てしても届かず安定も出来ないらしい。

 だからこそ、ミラの話に興味を持ったわけだ。ただそれでいて彼女が喰いついた部分は、それを可能とする技術云々についてではなかった。特定の地点に固定された状態にある中継基地そのものにあった。


『──というわけで、今度渡すからこっそり仕掛けてきてくれる?』


 とても理想的な位置と状態だ。そう絶賛したフローネは、続けてそんな頼み事を口にした。

 いわく、それは天空城に設置し、限界高度まで上げて使う予定だったという。高度にして三十キロメートルで発動させる、とっておきの術具だ。

 けれど、その計画は妥協した結果であった。理想は、もっとずっと高い位置。そこに飛び込んできたのが、ミラの話だ。

 上空百キロメートル。理想にはまだ届かないまでも、今よりはずっと理想に近いと、それはもう嬉しそうだ。


「んーむ。わしが管轄しておる施設ではないからのぅ」


 テンションを上げていくフローネのノリに惑わされる事なく、ミラは平静を保ったまま答える。

 場所が場所だ。世界の危機に関係する重要な施設という事もあって、ミラも今回ばかりは慎重だ。「ちなみに、それはどのような術具じゃ?」と確認する。

 これに対するフローネの答えは、『秘密』であった。けれど、それではますます要望には添えないとミラが告げたところ、彼女は仕方がなさそうに、その術具の効果について話した。


『──という感じなんだけどさ。ねぇ、いいでしょ、じっじー!』


 企んでいたその内容を明かしたフローネ。最後は祖父におねだりする孫のようではあったが、彼女のそれに惑わされるようなミラではない。


「ふむ……よしきた、仕掛けてこようではないか!」


 だがそれでいて、フローネの頼みを引き受けると答えた。何といっても、その内容を面白いと判断したからだ。

 危険なものではなく、本来の機能を阻害するようなものでもない。ただただフローネらしさが詰め込まれただけの術具。ゆえの快諾である。


『流石じっじ、愛してる!』


「うむうむ、そうじゃろうそうじゃろう。じっじに任せなさい」


 惑わされたわけではないが、調子にはのっているミラだった。











前回は、唐突な不意打ちの値上げで日和ってしまいましたが、

今回は、しっかりとその分も覚悟をもっていったので、しっかりと買ってこれました。


そう、唐揚げです!


1個80円から100円になってしまってから、どのくらいか。

久しぶりに行ける機会があったので、10個購入の大盤振る舞い!!


そしてまた、1個オマケしてもらいました!


やはり唐揚げは美味しい。

とはいえ、揚げ物であるため当然ながらカロリーも凄くなってしまうわけです。



しかし、唐揚げは食べたい。


そして再び考えるのが、ノンフライヤー。

ノンフライヤーによる、ノンオイル調理の唐揚げ。

ダイエット中でも罪悪感なく食べられる唐揚げ。


はたして満足のいく美味しさで作れるのだろうか。

完成品の味は、どんな感じなのだろうか。


未知の領域という事もあってか、なかなか手を出せずにいます……。


ノンフライヤーの可能性は、いったいどれほどのものなのか……。

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― 新着の感想 ―
ソロモンだから 私は帰ってきた! なのかwwww
[一言] ちょっと高くてもしっかりしたの買ったほうがいいですよ。 からあげからフライドポテト、揚げ物の再加熱など便利です。 祖母の家にあったのですが、年齢もあって重宝してました
[一言] ティファール アクティフライを愛用しており、唐揚げをよく作ります。 衣の厚いざくじゅわな感じの唐揚げは望むべくもありませんが十分美味しい唐揚げを作ることが出来ますよ。 一般にイメージされるノ…
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