522 骸の行方
五百二十二
「まったく。楽しそうに冒険してきたかと思えば、重い話を持ち帰ってきたものだね……。近いうちに重要な報告があるって連絡はきていたけど、それの事かぁ」
テーマパークっぽさのあった日之本委員会の見学話。そして幽霊船調査という冒険。自慢が半分以上だったが、それでもワクワクに満ちていたミラの土産話。
だというのに最後に投下されたのが、世界滅亡の危機ときたものだ。
その落差加減に、どこか呆れたように言うソロモンは同時に納得もしていた。なんでも日之本委員会から各国に宛てて、今度重要な発表があるというお達しはきていたようだ。
きっと、これのことだろう。そう苦笑したソロモンは、大変な事になりそうだと心労をその顔に浮かべる。
「にしても、そこで『魔物を統べる神』の名が出るなんてね。つまりはあの時の事が、もしかするとそこに繋がっていくかもしれないわけだ……」
特にソロモンが気にしていたのは、そこだった。
魔物を統べる神。この名を初めて聞いたのは、以前にネブラポリスの地下で悪魔がどうたらという関係の話をしていた時だった。
「そうじゃのぅ……。あの盗み出されたと思われるそれが、もしかしたら世界の危機の始まりになるやもしれぬな……」
ミラもまた、その時に交わした言葉を思い出しながら難しい顔で唸った。
それは以前、ソロモンと話していた際に明らかとなった事。古代神殿ネブラポリスの地下にあった大空洞についてだ。
ネブラポリスの最深部にある白亜の城。ソウルハウルがこっそり占拠していたその近くで遭遇した爵位持ちの悪魔。
悪魔がそのような場所で何をしていたのかと調査を進めた結果から予想された答えが、その『魔物を統べる神』の骸の奪取であった。
そして、アンドロメダから聞いた話の中に、世界滅亡の危機をもたらす元凶として挙がったのが『魔物を統べる神』である。
つまり、もうその頃から状況は滅亡に向けて動き出していたわけだ。
「して、追跡調査しておるのじゃろう? 足取りは追えておるか?」
この件については、ソロモンとルミナリアが鍛えた精鋭部隊ゲーティアを追跡調査に宛てると話していた。
その結果は、どうなったのだろうか。世界の危機に繋がるとわかった今、これまで以上に気になったミラは、その動向について問う。
対するソロモンはミラの言葉を受けて不敵に微笑むも、暫くして眉間にしわを寄せた。
いったい、どういう感情だろう。結局どうなっているのかとミラが再度要求したところで、ソロモンは現状を教えてくれた。
「──という事で、先日に無事解決したと思ったわけだけどさ……また面倒になりそうかな……」
いわく、追跡調査の結果、骸を盗み出した犯人は特定出来たそうだ。更にはそこから捜索を進めた末、一悶着ありつつも犯人達を一網打尽。盗み出された骸についても、その場での確保に成功したとの事だった。
「ほぅ、なんじゃ問題なさそうではないか」
どこか不安げなソロモンの表情。その顔からして、作戦が上手くいっていないのではないかと思えたが、骸を取り返せたのなら状況としては申し分ない。骸の一部を押さえている今の状況は、極めて有利といえる。
後は元凶の骸をこちら側で厳重に封印しておき、準備が出来次第、神器の力で消滅させるなどという手段もあるからだ。
これで《魔物を統べる神》の完全復活という最悪のシナリオは回避出来る。むしろ、精霊王ですら知らない骸の場所を教えてくれた悪魔に感謝してもいいくらいだ。
「して、今はどこに封じておる? この事をアンドロメダに伝え、どのようにしておくべきか聞いておいた方がよいじゃろう。なんなら日之本委員会に預けるのが一番かもしれぬな」
やがて訪れるという世界の危機。一部とはいえ、その元凶をいち早く処理出来るとなれば、これに越した事はない。
とはいえ、独断で決めるわけにはいかない。神器関係については、まだ完全に教えてもらっているわけではないからだ。
神器そのものの他、安全装置に中継地点など、場合によっては回数制限のようなものがある事も考えられる。それこそ完全復活させてから全てを吹き飛ばさなければ、中途半端に消した部分がにょきにょきと再生してしまう、なんて事になり兼ねない。
だからこそ早くこの件を伝えてアンドロメダに判断してもらい、あわよくば神器の試し撃ちだと意気込むミラ。
対してソロモンはというと、ここにきて今までにないくらいにばつの悪そうな顔を浮かべていた。
「何か嫌な予感がするのじゃが、もう一度訊こう。かの骸は今、どこにある?」
もしやまさかと不穏な雰囲気を感じつつも、改めて同じ問いを口にするミラ。するとソロモンは、いよいよ意を決したように顔を上げるなり、キリリと王様モードで告げた。
「今は……三神教の総本山、『ロア・ロガスティア大聖堂』で厳重に封印されている──」
ソロモンの口から初めに飛び出したのは、そんな言葉だった。またそこから続けられた言葉からして、そうする事しか出来なくなったため、そうしたのだとわかった。
ソロモンが言うに、追跡調査の段階でアリスファリウス国内にまで犯人が逃亡しているとわかったらしい。
当然ながら調査隊の立ち入り許可の申請が必要となるわけだが、悪魔が関係している件とあって、アリスファリウス側からも専門家が派遣された。
わざわざ派遣してきたとあってか、その者達は極めて優秀。追跡調査もかなり捗ったそうだ。
そして任務は無事に完了。骸の回収に加え、悪魔と繋がりのあった組織の壊滅にも成功。特殊部隊ゲーティアは、初任務でこれ以上ないくらいの成果を挙げた。
だが、問題はそこから先。魔物を統べる神という存在については、一般に知る者はなく、歴史にも登場しない。それほどまでに遥か太古の存在だ。
けれど、三神国の中でも極々一部が、かの存在を知っていた。
そして、その一部の中の一人──アリスファリウス聖国軍筆頭、三神将ヨルヴィレド・ポラリスより直接に打診があったという。その骸を、ロア・ロガスティア大聖堂で管理させてはもらえないかと。
「まあ、ほらさ。その時の状況から考えたら、これを断る理由もなかったからね──」
なんでも三神将と三神教の大司教のみに伝えられていた神託に、魔物を統べる神に関係するものがあったらしい。
もしも封印の一部が破られた時、そして備えとして、ロア・ロガスティア大聖堂が建造された頃より、特別な封印の間が用意されていたというのだ。
遂に、その日がきた。骸は、そこに封じておいた方がいい。と、そのように打診されたソロモンは、それを受け入れたわけだ。
まず、そもそもアルカイト王国に、そういった特殊な何かを封じる設備はない。今回の件で急遽建造を始めてはいたが、その効果は実験的なもの。絶対に大丈夫とは言い切れない。
よって、どう考えても三神のおひざ元であるロア・ロガスティア大聖堂の、更には古くから専用に用意されていたというそこに納める方が確実といえるだろう。
「──まあ、何かあったら向こうに責任を押し付けられる、なんて思ったりもしたけどね」
そんな多少の打算も含めつつ、ソロモンは取り返した骸を預けたという事だった。
「ふーむ、なるほどのぅ……」
確かに、その場の判断としては、それが一番といえただろう。
三神将といえば、絶対正義としても知られる大陸最強の存在だ。だからこそ逆らい辛いというところもあるだろうが、だからこそ任せられるという信頼もある。
しかも封印場所は、三神教の聖地であり総本山となる、ロア・ロガスティア大聖堂だ。幾重にも張り巡らされた結界は、Aランク級の魔物すら消滅させてしまうほどに強力である。
これらを踏まえて考えると、下手にアルカイト王国で保管するより、ずっと安全で確実だ。
「しかし、ちょいと面倒そうじゃな」
「だよねー……」
だが今回、その判断が裏目に出る事となった。そのような場所で厳重に封印されているという事は、おいそれと近づけなくなったという意味でもあるからだ。
つまり、神器の準備が整ったところで、手始めに軽くその骸を消してしまおうというわけにはいかなくなったのだ。
アルカイト王国にて保管していたなら、全てソロモンの一存で事を済ませられた。日之本委員会に移送出来たら、更に完璧だ。
しかし、今は違う。三神教にとって最も重要な場所にて、極々一部のお偉いさんしか知らない秘密のそれに対し秘密の神器を使うとなれば、当然ながら相応の説明は必須。
つまりはあちら側に、アンドロメダやら日之本委員会のあれこれを詳細に話さなくてはいけない事が想定されるわけだ。確かな勝算があるのだと証明するために。
『ならばもう、我が話をつけてしまおうか──』
魔物を統べる神の骸の一部を消すための試み。あちら側にそれを快く受け入れてもらうには、どうするべきか。そうミラとソロモンが困っていたところ、ふと精霊王がそんな言葉を告げてきた。
つまるところ、三神教にも多大な影響のある精霊王の威光を存分に使えばいいという意味である。
『ふーむ、それもありといえば、ありじゃが……』
実際のところ、そうしてもらえば問題なく作戦は遂行可能だろう。
全ては、精霊王様の御心のままに。精霊王様が用意してくださった特別な武器を使い、精霊王様のお力を借りて、魔物を統べる神の骸を消滅させるのです。と、このように面倒な説明が必要な部分を全て精霊王に置き換えてしまえば、その威光で乗り切れるという算段だ。
だが、ミラには懸念があった。代わりに、自身のイメージが今より更に大きく変化してしまうかもしれないという懸念だ。
現状、精霊女王として様々なイメージが広まっている。特に三神教関係者に対するそれは顕著だ。中にはあくどい聖職者が味方に取り込もうと目論んでいるという話まである。
そのような状態の中、更に精霊王の威を借りてロア・ロガスティア大聖堂に乗り込むばかりか、秘密の場所にまで入り込むというのだ。
敬虔で真面目な信徒にしてみたら、三神教の教えを知らぬ冒険者が虎の威を借りて大切な場所に土足で上がり込んでいくようにも見える事だろう。努力してきたがゆえ、その頭の上を、ひょいと跨ぎ越された気持ちになる者も少なからずいるはずだ。
つまり、精霊王という後ろ盾が大き過ぎるがゆえに反感も相応に強そうだというのがミラの気がかりであった。
『気にし過ぎだと言いたいところだが、人間の問題だ。判断はミラ殿に委ねよう』
実際のところは、どうなるかわからない。ミラが悪い方に考え過ぎているだけで、蓋を開けてみれば問題など一つも起きないかもしれない。
だが人の心は千差万別。ゆえに精霊王は手段の一つとしてそれを示した後、それ以上に何かを言う事はなかった。
「ん、どうしたんだい? なんか難しい事考え過ぎてバカになったような顔しているけど……。もしかして、精霊王さんが何か言ってた?」
小難しい事、特に政治的であったり、他者との関係であったり。それらに悩むミラの顔というのは、ソロモンにとって見慣れたものなのだろう。すぐに様子を察し、尚且つこのような場面でそんな顔になった理由にも勘付いていた。
これまでにも幾度とあったため、それを予想するのは比較的簡単だったようだ。裏で精霊王と何かしら話をしていたのだろうと。
「む……ようわかったな。その通りじゃが……今、バカと言うたか?」
流石はソロモンだ。よく見ていると感心するも、その言葉の流れに含まれた一部に過敏な反応をみせるミラ。
「え、そんなの気のせいに決まっているじゃないか。それよりもさ、ほら。何か妙案でも出たんじゃない?」
惚ける、というよりはそれこそ、そんな事あるわけがないといった態度で続きを促すソロモン。精霊王と話した結果、どんな策が浮かんだのかと。
「……まあよい。して、精霊王殿が言うには、もう直接話をつけてくれるというものじゃったぞ」
相変わらずな調子のよさだと追及を諦めたミラは、ため息の後に精霊王と話していた内容を簡潔に伝えた。
「え、ほんと!? 三神教において精霊王さんは、三柱の神にも並ぶ存在だからね。もう、それをしてもらえたら全然行けそうな気がするけど! 是非是非お願いしようよ!」
その後の影響云々については触れず、精霊王の提案だけを切り取ったところ、ソロモンは諸手を上げるくらいの勢いでその案に賛同を示した。
日之本委員会でのあれやこれを話す事無く、精霊王の威光だけで押し切る事が出来る。ソロモンもまたその考えに至り、その形で済ませられるのが一番であると考えたようだ。
この世界のため、皆のためにと日夜研究に勤しんでいる研究所だが、それが全てその通りとは言い切れないからこそ、日之本委員会についてはあまり表に出さない方がいいのである。
「簡単に言うのぅ。それで矢面に立つのは、わしじゃぞ。精霊王殿の権力を笠に着てと騒がれそうではないか」
あまりにもあっけらかんとしたソロモンに、そうした時の悪影響がどれだけあるかと文句を言うミラ。古今東西、現実だろうと創作だろうと、借り物の権力を振りかざして好き放題やっていた者共は、だいたい悲惨な最期を遂げていると。
「うーん、君を取り巻く状況やら何やらからして、そこまで問題もないと思うけどなぁ」
警戒するミラに対して、考え過ぎだと諭すソロモン。そもそも、その好き放題やっていた者共とミラとでは立場が違う。向こうは悪党、対してミラには精霊女王だと持て囃されるに至る功績もあるのだから。
「しかし、あれじゃろ。ああいう組織というのは一枚岩ではない。中には快く思わぬ者もいそうじゃろう」
けれど、相手が相手──絶対に敵に回すべきではない三神教とあってか、今回のミラは過剰なまでに慎重であった。しかし実際のところ、そんなミラの憶測というのは当たらずとも遠からずであったりする。
人が気安く精霊王と懇意にしているなど分不相応であるという声も、教会内で上がっているのだ。
なお、その声のほとんどは『精霊王自身が選んだ事であり、我々がとやかく言う事ではない』という上層部の言葉で鎮まっているが、もやもやを抱える信者がいるというのは確かだ。
「全然なんの問題もないって。君は三神教の教義に反するような事はしていないし、少なくとも、このアルカイト王国の三神教会の皆は君に多大な感謝を述べていたよ。そしてそれは、君がこれまでに積み重ねてきた功績に対する正当な評価だ。そんな君を悪く思う者なんて、いやしないさ」
ミラに対する印象。それをある程度把握しながらも、ソロモンはそのように告げた。ミラが気分よく気持ちよく頷き、精霊王の提案を実行してくれるように。そして何よりもソロモン自身が、そう思っているからだ。
「ほぅ、そうかそうか! なるほどのぅ、まあ、色々と貢献してきたのは確かじゃからな。うむ、実際のところ、この手が一番確実そうでもあるからのぅ」
説得を受けて、心が傾きかけてきたミラ。その反応を確認したソロモンは、更にここで言葉を続けた。「そして君がそこで見事に事を成せば、世界の危機が遠くなる。そしたら君は、いよいよ正真正銘のヒーローだ」と。
ロア・ロガスティア大聖堂に赴く目的は、世界を危機から救うために魔物を統べる神の骸を消滅させる事。そしてミラがそれを果たしたならば、平和への貢献は計り知れない。反感なんてその途端に吹き飛ぶというものだ。
実際のところ問題は複雑であるため、どのようになるかは不明だ。けれどソロモンは、それこそが約束された未来であると言い切ってみせた。
「ふむ、そうじゃな。事は世界の危機じゃからな。ここで手をこまねいているわけにもいかぬか。とはいえ全ては、アンドロメダ殿の意見を聞いてからじゃがのぅ」
ヒーローと呼ばれたいわけではない。あくまでも世界を救うため、大切なものを守るためだと主張するミラ。
ただ、実行するかしないかはアンドロメダの判断次第だ。封印している骸には、下手に手を出さない方がいいと彼女が判断したならば、この話はこれでお終いである。
「とりあえず、このタブレットからメッセージを送っておこう。どうするかは返事次第じゃ」
魔物を統べる神の骸の一部についてどのように対応するかは、アンドロメダに委ねる。そう告げたミラは面倒な事にならなければいいなと祈りながら、ソロモンと一緒に文面を決めてメッセージを送信するのだった。
最近、食生活でちょっとした事に気づきました。
それは、
夕食でしっかりご飯も食べると、寝るまで間食せずに済むというものです!
いつも、米は週に1回か、多くて2回程度しか食べておりませんでしたが、ある日ふと気づいたのです。
満足感もあってか、しっかり米を食べた日は小腹も空かないので間食していないな、と。
という事で最近、毎日米を食べるという実験をしております。
ちなみに食べているのは、白米と発芽玄米を1:1で混ぜて更に雑穀もプラスした、なんだか体によさそうなご飯です。
そしてご飯のお供は、納豆と肉野菜炒めとなっております。
しっかり食べて間食なしがいいのか、それとも米を控えてほどほどに間食で補うのがいいのか。
始めてから一週間。体重に大きな変化は見られません……。
このまま変化なしなのか、後々変化していくのか。
とりあえずは、もう暫く続けて様子を見ていこうと思います!




