518 調査開始
五百十八
日之本委員会の研究所から出発したミラは今、そこから一番近い聖域に向かっていた。
ただ、聖域と言っても今は違う。正確には跡地──そう、最初に調査するのは『彩霊の黄金樹海』があったという場所だ。
正確な位置は、既に精霊王から教えてもらっている。カディアスマイト島から南南東方面に進んだ先、アース大陸の西に広がる荒野の北側だ。
「相変わらず、この辺りは殺風景じゃのぅ」
ガルーダワゴンの窓から眺める景色は、荒野一色。地上はひたすらに荒れ果てており、緑は一つも見当たらない。
そしてそれは、『彩霊の黄金樹海』の跡地上空に到達した時も、なんら変わらなかった。
『こうして改めて今の状態を知ると、ため息ばかりが出るな……』
ここにあったかつての聖域の姿を知る精霊王。特に統治者でもあったからこそ、荒れ果てた今をはっきりと見せつけられて意気消沈気味だ。
『あら……私が知っている頃よりも、更に枯れてしまっているのね……』
当時を知るのみならず、草一本すら見当たらないその大地に思うところがあるのだろう。マーテルの声も随分と物悲しそうだ。
仕方がない。そう感傷に浸る精霊王とマーテルの思い出話が行き交う中、ミラを乗せたガルーダワゴンは、いよいよその中心地に降り立った。
「しかしまた、でっかい穴じゃのぅ」
見渡す限りに赤茶けた景色が広がる、荒れ果てた大地。遥か昔には、ここに楽園のような聖域があったなどとは想像も出来ない光景だ。
そんな荒野の只中、聖域の中心だったという場所には大きな窪地があった。
『ここには大きな大きな、それはもう大きな湖があった。我が眷属達のみならず、多くの動物達が集まる憩いの場となっていたものだ。そして共に遊び回るその姿を、よく眺めていたりしてな。今でも目を瞑れば思い出せる。あの安らかな時代を』
現状を目の当たりにした事もあってか、懐かしさに加えて若干逃避気味な様子の精霊王は、その言葉と共に静かになった。
対してマーテルはというと、『土壌から改善していく必要がありそうね』などと呟いている。いつか十全に力をふるえる時が来たら、この場所に緑を取り戻そうなどと考えているようだ。
実に前向きであるが、最近の彼女には幾つか心配な点があった。
それは、日之本委員会の研究所で見聞した事に、かなり影響を受けているという点だ。
あーしたらどうだろう、こうしたらどうだろう。可愛い子供達は、どのように育っていくだろう。そんな呟きが所々で飛び出してくるのだ。
「さーて、霊脈の状態はどうじゃろなぁ」
その時が来たとして、きっと彼女を止める事は不可能だ。そう自分の限界を知るミラは、知らぬ存ぜぬを貫くと決めながら作業を開始する。
取り出したのは、タブレット型の測定器。アンドロメダの言う通り、起動したら霊脈の測定方法がその画面に映し出された。後はもう、その説明通りに各種数値を設定していくだけでいい。
どの数値が、どのような意味を持つのか。どこをどう設定したら、聖域化計画の候補地探しにも流用出来そうか。
ミラは、その使い方を一つ一つ確認しながら調整を進め、周辺一帯の状態を測定していった。
そうしてタブレットの指示に従い幾つかの地点を回ったところで、作業は完了。
そこから更に『計算中』という文字が浮かんだままで待つ事数分、遂にその画面が表示された。
「ほぅ……ふむふむ、なるほどのぅ」
測定結果は、残存。かつて『彩霊の黄金樹海』という大陸最大の聖域を支えていた霊脈は、今もまだ大地に通っていると判明した。
「一先ず、最悪の事態は免れたというわけじゃな」
場合によっては、この霊脈の代わりを新たに探し直すという最高に面倒な事態となっていた。『彩霊の黄金樹海』を支えていた霊脈と同じだけのエネルギーを抽出出来る地点を新規に特定するという、とんでもない作業が始まる可能性があったわけだ。
もしも再調査になってしまった場合は、特定までにかなりの月日を要するとアンドロメダが言っていた。
けれど今回の測定結果によって、その未来だけは回避出来た。これをミラは僥倖だと喜び、余計な時間をとられなくなった分、この測定器で色々出来そうだと企み不敵に笑う。
「しかし、予想通りにエネルギーの流れは弱まっておるようじゃな」
とはいえ今はまだ最悪の事態を回避出来ただけであり、他にも問題は幾つか残っていた。
この測定で判明したのは、霊脈自体の有無についてのみ。よって次に問題となるのは、その霊脈を流れるエネルギー量だ。
そしてこのエネルギー量だが、測定結果でいうならば『彩霊の黄金樹海』が存在していた最盛期の当時に比べ、それこそ一%にも満たないというのが現状であった。
つまり、大容量を誇る巨大なパイプはあるが、そこを流れる水がちょろちょろであるというような状態だ。
その程度のエネルギー量では、ここに安全装置を設置したところで意味がないのである。
「さて、この場合は確か……」
今回の結果については、アンドロメダが予測した範囲内だった。ゆえに、その場合に必要な情報の集め方などもタブレットに登録されていたため、ミラはその通りに周辺の測定を進めていく。
なお、裏では精霊王とマーテルが当時の思い出話を始めており、そこにはミラも憧れる神獣や聖獣の名がちょくちょく登場する。
そして可能性がどうの再生がどうのと盛り上がっていく中、作業中のミラもまた「フェニックス……よいのぅ」などと様々な願望を思い描いたりしていた。
「よし、こんなものじゃろう。後はもうお任せじゃな」
必要なデータを集め終わったミラは調査漏れがないかどうかを確認しながら、今一度、周囲の荒野を見渡した。
目に映るのは、完全に荒廃しきった大地。ミラが抱く正直な気持ちとしては、霊脈が残っているからといって、こんな場所で何が出来るのかというものだった。
これらのデータで、どんな対策を立てるのか。霊脈を流れるエネルギーを、どのようにして十分な量にまで戻すというのか。
今はまだ、その方法はさっぱり思い浮かばない。とはいえそれを考えるのは、この任務を依頼してきたアンドロメダの役目である。
よってこの場所での作業は、もう完了だ。ミラは各種データが完璧に揃っている事を確認し終えたところで、そのタブレット画面にある『データ送信』をタッチした。
この測定器は便利なもので、複数あるそれらとデータの共有が出来るようになっている。そのため、ここでミラが測定した結果は、同じ測定器を持つアンドロメダにも伝わるというわけだ。
そしてこれらのデータを受け取った彼女が、これらのデータを基にして何かしらの打開策を考えてくれるであろう。
「では、次に向かうとしようかのぅ」
タブレット画面には、『送信完了』の文字。それを確認したミラは、もうここで出来る事は何もないとガルーダワゴンに乗り込んだ。
ゆっくりと地上を離れ空へと上がっていくガルーダワゴン。その窓から何気なく荒野を見渡していたミラは、ふと目に入った大きな窪地に目を向ける。
かつてそこにあったという大きな湖。精霊王が統治していたという聖域とは、いったいどれほどだったのだろうか。
今は荒野となったその場所を見つめながら、ミラはかつてそこにあったという楽園に思いを馳せるのだった。
ガルーダワゴンで空を行く事、丸一日。ミラは『彩霊の黄金樹海』跡地に続き、アース大陸の北側に位置する聖域へと降り立った。
位置的にはグリムダートの北東あたりに広がる森の中であり、比較的魔物の多い危険地帯となっている。
そんな場所に存在する聖域は、だからこそ力強く強固な力で守護されていた。特別な力を持つ霊獣のみならず、多くの獣達もそこらの魔物に引けを取らぬほどの強者揃いだ。
ゆえに本来ならば、おいそれとは立ち入る事の出来ない場所なのだが、ミラはまったく何事もなくその中心地に入り込んでいく。
なぜならばこの聖域は、以前にミラが復興に成功した数少ない場所であるからだ。
そして何よりも顔パスで堂々と入って行けたのは、ミラに寄り添うようにして聖域を案内する大蛇ウムガルナがいるからである。
今やウムガルナは、この聖域を支える統治者として存在していた。つまりは、この聖域のボスというわけだ。
そんなボスが喜んで迎え入れた相手を、どうして拒めようか。そして何よりも厳格なボスが敬う相手とはいったい何者なのかと、その場を見守る霊獣達。
「──そういった理由で、ちょいと測定したいのじゃが構わぬじゃろうか──」
「──というわけですにゃ」
注目を集める中、ミラはこの聖域を訪ねた理由について説明する。そしてそれを、団員一号が翻訳して皆に伝えていた。
今後に訪れる世界の危機と、対抗するための手段、それに必要な準備。そういった情報を全て開示し、ここに設置するかもしれない安全装置の機能についても詳細に話す。
霊脈の莫大なエネルギーをくみ取る装置である事。起動後、暫くの間霊脈の力が弱まってしまう事。ゆえにこれを東西南北に設置して、その影響を最小限に抑える事。
そういった想定される問題についても触れたところで、ミラはウムガルナに問うた。そんな安全装置の設置に適した場所かどうか、この聖域を測定してもいいかと。
何といっても、皆が平和に暮らしている聖域に機械仕掛けの柱をぶっ立てるという内容だ。だからこそ、この場で暮らす者達の理解は必須である。
「──……」
統治者という立場であるためか、ウムガルナの反応は慎重に見える。ミラの言葉を受け取ると、じっくり吟味するように頷きながら周囲へと目を配っていた。
そこには、神妙な面持ちで控える霊獣や獣達の姿があった。
(問題が問題じゃからな。こういうのは遺恨なく進めていかねばのぅ)
それぞれに意見もあるはずだ。だからこそ、多くの声を考慮しているのだろう。やはり住民の言い分は大切である。
とはいえ、安全装置を設置する事も大切だ。ゆえにミラは、いざという時の手段も幾らか考えていた。
例えば、安全装置の設置許可が頂けたら、マーテル特製の果実を提供する。または、色々と幅の広がったマーテルパワーで果実の成る木をパワーアップさせる、といった感じのものだ。
ちなみに、マーテルの承諾は既に得られている。
「……──」
と、そうして見守っていたところ、じっくりと周囲を見回していたウムガルナが何かを告げると、霊獣と獣達が同意を示すようにして地に伏せた。
どうやらウムガルナの説得が功を奏したようだ。次には団員一号が「にゃー……、幾らでもどうぞ、と言っておりますにゃ」と、全員の意見が一致した事を告げる。
ただ、団員一号の表情は若干引き気味だった。
なぜなら、ウムガルナが説得しているように見えたというのは、ただのミラの主観でしかなかったからだ。
実際に団員一号が目の当たりにしていた光景は、『この聖域の真の支配者がそう言うのだから文句はないな?』という、承諾のみしか許さないウムガルナの圧だった。
そして、これに逆らえるような者は、この聖域に存在しない。ウムガルナがそう言えば、従う以外に選択肢はないのである。
「うむ、そうか! これも未来のため。皆、感謝するぞ!」
とはいえ、そういったやりとりであったと知らぬミラは、ただウムガルナ達の心の広さに礼を言う。
それに対してウムガルナが誇らしげに頷けば、霊獣と獣達もまた、それに倣うようにしてミラに──というよりはウムガルナに平伏してから、各々に解散していった。
「にゃんともかんともにゃ感じですにゃぁ……」
団員一号は、その後ろ姿を苦笑気味に見送る。中には、あまり納得のいっていない霊獣や獣がいたからだ。
とはいえ、それも仕方がない。面倒な事が起きないよう見張っておこうと、団員一号は誰に知られる事なく、その有能さを発揮した。
最近、あらためて思ったんです。
やっぱ麦チョコだな!!! って。
いいですよね、麦チョコ。美味しいですよね、麦チョコ。
しっかりとチョコを味わえるのでチョコ食べた感もあり、
それでいて麦なので、なんだかヘルシー感まであるという!!!
そして先日、ロカボなもち麦チョコなるものを見つけまして。
ただでさえヘルシー感がありながらロカボまで付いてしまうスペシャルコンボですよ!!
味はもう、普通の麦チョコと比べても同じくらいに美味しかったです!
口寂しい時や、どうしても小腹が空いた時などにベストマッチです!




