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506 ゲートの先

いよいよ書籍版18巻の発売日となりました!

お店によっては、既に並んでいるところもあるみたいですね。

是非とも、よろしくお願いします!

五百六



 実験室の中央。そこには確かに、見覚えのあるタイムゲートが置かれていた。だが以前に見た時とは、だいぶ様子が違っている。形だけであったはずのゲート部分が、明らかに開いて(・・・)いるではないか。

 何でもなければ、ただ実験室の向こう側が見えるだけだ。しかしそのゲートを通して見える向こう側は、何をどうみても実験室ではなかった。

 そこにあるのは、白い部屋。そう、白くて何かよくわからないなどという状態ではなく、確かに白い部屋だとわかるような空間がゲートの先に存在していたのだ。


「これまた、本当にSFなどで見るゲートそのものじゃな」


 それが一目見たミラの感想だった。黒い金属片に記された設計図を組み込んだら、偶然に起動したというタイムゲート。

 何とも不安要素満載な話であるが、こうしてみたところ驚くほどに安定しているのだから余計に不思議だ。むしろこれで正解かと思えるくらいの落ち着きぶりである。

 それはアラトの技術によるものか、それとも設計図にあった何かの性能によるものか。なにはともあれ、突然爆発するような兆候はなさそうだ。


「ところで、こいつはタイムゲートの実験で作っていたやつなんだろ? じゃあ、この先は過去か未来って事か?」


 集まった室長達もまた、その状態に驚きつつも興味が勝ったのだろう。じっくり観察する中で、一人がそんな質問を口にした。元になったそのタイムゲートが形だけのオブジェであったと知らなければ、そう思ってしまうのも仕方がない。


「まあ、絶対とは言い切れないけど、ほぼ確実に今現在のどこかだろうね」


 対してアラトは、若干の期待を浮かべつつも現実的な可能性を口にした。タイムマシンについてあれこれ考えているからこそ、設計図にあったそれが幾ら謎の技術であっても不可能だと確信しているわけだ。

 そして、それは確かに事実であった。


「その点については、転移の際に生じる空間の揺らぎを感じると精霊王殿が言うておったぞ。じゃからきっと、これは転移ゲートという事になるのじゃろう」


 そのようにミラが精霊王の言葉を伝えたところ、室長達の興味の目が今度はミラに移る事となった。


「そんな事までわかるのか?」


「そういえば精霊王と話せるとか言っていたな?」


「じゃあさ、この先がどこに通じているのかもわかったりする?」


 謎の技術に対しての興味も合わさっているためか、ミラへの質問も怒涛のように押し寄せてきた。

 ただ、精霊王が感じているのは揺らぎだけ。繋がっている先については、実際に行ってみなければわからないとの事だ。

 その事をミラが伝えたところ、室長達の注目は再びゲートの方に戻った。そして、じゃあもう行ってみるしかないなと、ゲートをどうするかという話し合いを始める前に答えが出た。満場一致で『ゲートを通る』に決定したわけだ。





「よし、それじゃあ進めるぞ」


 黒い金属片にあった設計図。その技術を組み込んでみたら、どこかに繋がるゲートが開いた。

 ミラと室長達は今、その向こう側に何があるのか、どこに繋がっているのかを確かめるための実験を始めた。


「起動確認。信号の受信状態も正常。座標位置も問題なし。いつでも大丈夫だ」


 ゲートの向こう側をどのように確認するか。その一番最初に選ばれたのは、誰でもない。急遽どこぞより徴発してきたラジコンだった。


「発進!」


 センサーや送信機、カメラなどを搭載した急造調査用有線ラジコンが、いよいよゲートに向かって動き出す。

 機械弄りやらおかしな発明やらを日夜繰り返している室長達が揃っている事もあってか、なんやかんやでラジコンの完成度は高い。安定した動作で走行し、そのままの勢いでゲートに突っ込んでいった。

 ラジコンはどこに転移するのか。高性能な送信機を搭載しているため、その信号を受信出来れば転移先の座標を割り出す事が出来る。

 そして各種センサーによって、環境を分析。人が生存出来る状態かどうかを確認し、カメラによって周辺に危険はないかを探る。

 と、これが第一陣となる有線ラジコンの調査目標……だったのだが──。


「なに……!?」


「おい、どういう事だ!?」


 いざ転移と思った瞬間、いったい何が起きたというのか。ラジコンがゲートに触れた直後、大きく弾き飛ばされてしまったではないか。

 急造だった事もあってか、がしゃりと地面を転がった拍子に、ラジコンに搭載していたあれこれが外れて転がっていく。室長達は、何という事だと慌てながら拾い集めてラジコンを組み立て直す。

 だが、今度こそはと挑んだ二回目もまた、同じように弾き飛ばされて終わってしまった。


「見えるだけで、通れないって事なのか?」


「繋がっているようで、どこかしらに歪みがあるのかなぁ」


「そんなバカな。これだけ鮮明に向こうが見えるってのにか?」


「何か理由が……」


 ラジコンがゲートを通る事は出来なかった。色々な可能性を考慮しながら意見を交わし合う室長達は、更にセンサーだけ、送信機だけを放り込んでみるなどの方法も試した。

 しかしどれも失敗。ゲートは全てを拒むかのように弾き返してくる。


「そういえばさ、さっきなんか意味深な事言ってたよね?」


 なぜなのか、どうしてなのか。皆がそう考え込む中で、ふと室長の一人がそんな言葉を口にした。

 しかも同時にミラを見やるものだから、自然と室長達全員の視線がミラに集まっていった。


「意味深、じゃと? んーむ……──ああ、あれじゃろうか。黒き月がうんたらかんたらとかいう」


 それはいったい何の事を言っているのか。少し考えたミラは、直ぐそれに思い至った。黒い金属片を受け取った時に告げられた言葉の事かと。


「そう、それ。その言葉と一緒に渡された設計図なんだよね? だとしたら何かありそうじゃん?」


 彼女の言う通りだ。

 アラトが技術の方に傾倒し過ぎていたものだから、一度は忘れ去られた言葉。だがこうして問題に直面した今、その文言に注目が集まっていく。

 そして室長達は、それを思い出すと共に考察を始めて瞬く間に一つの可能性を導き出した。


「──試練を乗り越えた者達。──受け継ぐに値する。この部分が問題な気がするな」


「我らが力、というのが何かはわからないけど、転移した先にそれがあるとしたら、受け継ぐに値するって認められた者だけしか通れない、なんて事だったりしないか?」


「とすると、ミラちゃんなら……?」


 意味深な言葉を紐解いた結果、今一度ミラに注目が集まった。そして注目と共に期待と好奇心もそこに積み重なっていく。


「出来れば、もっと別の方法を試してみたいのじゃが──」


 状況からしたら、その可能性はもっともだ。けれど、よくわからない発明によくわからない技術を加えて繋がったよくわからないゲートを通りよくわからない場所に行くなど、不安しかないというものだ。

 ゆえにそれ以外を提案するミラだが期待値の高さはミラが一番とあって、方針は既に決定してしまったらしい。室長達は、はつらつとした笑顔で準備を始めていた。




「よし、状態チェック完了」


「──で、この針が緑の部分を指していたら脱いでも大丈夫だ」


「──このレバーを左に回すと送信、右で受信になる。こっちが受け取れたら、この部分が点滅する。そしたら受信に変えてくれ。方角がわかるはずだ」


 最初のゲート通過実験から、約一時間後。潜水服のようなものを着せられたミラは、ゲート前にて色々な説明を受けていた。

 精霊王が言っていた事もあり、それは転移ゲートで間違いない。だが転移先の環境が不明のため、かなり入念な準備が整えられていた。

 たとえ向こう側が真空だろうと、有害物質に汚染されていようと大丈夫なように防護服を着せられた。

 転移が一方通行という場合を考慮して、現在座標の特定に加え、研究所側と信号のやり取りが出来るセンサーも持たされる。

 加えて、何らかの原因で直ぐに戻ってこれなくなってしまった時のための食糧などもアイテムボックスに満載させられた。

 そのように、なんだかんだありながら安全面の確保については念入りに行われている。だが、それが室長達がみせる最大の優しさであり、だからこそミラが行く以外の選択肢はなさそうであった。


(さて……どこに飛ばされるのやら)


 室長達に導かれるようにしてゲートの前に立つミラは、その背に多大なプレッシャーがのしかかるのを感じつつ正面を見やる。

 ここまでの準備と期待からして、もはや退路は無いに等しい。ならばもう進むしか道はない。

 少なくとも転移ゲートは安定していると精霊王が保証してくれているため、その点については心配しなくていいのが幸いであろう。


「では、行ってくる!」


 完全に頭部全体を覆うヘルメットであるため、くぐもってしまうミラの声。だがしっかりと伝わってはいるようで、後を押す室長達の声が響いた。


「気を付けてね!」


「感想よろしくな!」


「君なら大丈夫さ!」


 そんな言葉が次々と掛けられる中で、いざ歩を進めていくミラは、しかとその耳でとある言葉を拾っていた。


「無事に帰ってきたら、好きなもの作ってやるよ!」


「絶対じゃからな! 約束じゃぞ!」


 もはや反射とでもいうべき速度で反応したミラは、その言葉を発した室長を目敏く見据えながらゲートに踏み込んでいった。





「……本当に入れたのぅ」


 実験は、成功した。ラジコンだなんだは全て弾かれた転移ゲート。けれど意味深な言葉を参考にして予想し実行された今回の作戦は、見事に的中。ミラは今、転移ゲートの先に見えていた白い空間の中に立っていた。


「おお、これならば戻りも大丈夫じゃろうか?」


 更にふと振り返ったところに開いた扉があるのだが、見ればその先には随分とはしゃいだ様子の室長達の姿が映っていた。

 どうやら転移ゲートは開いたままのようだ。これならば直ぐにでも戻れそうだが、何度も往復出来るかどうかは現状不明である。あまりにも特殊で不可解な転移ゲートだ。一往復しか出来ないなんて事になったら、室長達に何て言われるかわかったものではない。

 と、そういった理由に加えて何よりも好奇心をくすぐられたミラは、この場の探索を最優先に考えた。

 何といっても現状は入れる者が限られている可能性が高い場所だ。だからこそ余計に惹かれるというもの。


「ほれほれ、わしだけ来れたぞ。いいじゃろー」


 手を振ると向こう側も手を振り返してくれた。ただ次には身振り手振りで、早くセンサーを起動しろだとか発信機を作動させろだとか催促してくる。


「わかったわかった」


 そう急かすなと宥めるように手で示したミラは、教わった通りに各種センサーを操作した。

 そこまで複雑な操作を必要としないため、起動はミラでも十分に完了出来た。

 まずセンサーが示す待機状況は、オールグリーン。つまり、今いる空間は人間の生存に適した環境であり、有害物質や病原体なども検知されなかったという事だ。

 ミラがそのセンサーの結果が見えるように転移ゲートに向けたところ、向こうの室長達は安堵の表情を浮かべた。安全面についての問題が一つ解消された事で安心したようだ。


「次は、こっちじゃな」


 続いてミラは、発信機を起動する。ここから送信される信号を向こう側が受け取る事が出来れば、今いるここが大陸のどのあたりになるのか特定する事が出来る。どこまで転移したのかがわかるわけだ。


「む……?」


 だがここで問題が発生した。教わった通りに操作しても、向こう側に信号が届かないのだ。

 転移ゲートの前で、しっかりと室長達に見えるように操作し、それで間違いないと確認がとれても向こう側の装置は受信していないようだった。

 それから暫く室長達があれこれと駆け回り調整したが、結果としてこちらの場所を特定する事は出来なかった。


『信号が伝わらないほど遠くか、深いか、それとも構造物によって遮断されている可能性が高い。特定は諦めよう。そのまま調査を進めてくれ』


 かなり強力な発信機だという事だったが、それでも受信出来ないのにはそういった理由が考えられるとの事だ。そう書かれたホワイトボードを提示してきたアラトは、くるりとそれをひっくり返し『健闘を祈る』と書いて頷いた。

 残る室長達も、後は頼んだといった顔で手を振っている。


「まあ、仕方がないのぅ」


 わかったと返したミラは振り返り、白い部屋の両側に目を向けた。そのどちらにも、どこかに繋がっていそうな扉がある。

 そうして気も新たにしたところで、ミラは思った以上に静かだと気づいた。

 それは、今いる場所の事ではない。頭の中での事だ。

 精霊王の加護の馴染み加減が上がった事もあり、精霊王やマーテルがミラを通して観覧している際は気配がわかるのだが、今はそれがさっぱり感じられないのだ。

 転移する前までは、わくわくするような好奇心まで伝わってきたが、ぷつりと途切れているのである。


『精霊王殿、聞こえるじゃろうか? マーテル殿はどうじゃろう?』


 呼びかけてみるも返事はない。しかもそれどころか、繋がっている(・・・・・・・)という感覚すらも消えていた。


「いったい、どこに飛ばされたというのじゃろうか」


 精霊王の加護自体は健在だ。ゆえに今は精霊ネットワークが途切れた状態、つまり何らかの要因で交信が遮断されていると思われる。

 何とも不安な状況だが、ミラの顔に浮かんでいたのは笑顔だった。これほど厳重な場所だ。しかもここに来るための条件は、かなり特殊だった。

 そういった要素も相まって高まるのは、いったいどんな力を受け継げるのかという期待。


「何じゃろうなぁ、楽しみじゃなぁ」


 そう歩き出したミラは数歩進んだところで、ふと立ち止まった。それから少し鬱陶しそうに身体を動かしてから、その場で防護服を脱ぎ始める。

 現地の環境に問題はないという事に加え、やはり動き辛く息苦しく更には暑苦しいという三重苦であったからだ。急遽準備された事もあって、そのあたりについては調整しきれなかったのである。


「ふぅ、ようやくスッキリしたのぅ!」


 脱いだ防護服をアイテムボックスに突っ込んだミラは、大きく息を吸い込んで清々しいと吐き出す。そして同時に「何の匂いもせんのぅ」と呟いた。

 外であろうと建物内であろうと、特に初めて訪れるようなところの場合は何かしらの匂いを感じるものだ。しかし防護服を脱いでから初めて感じた空気には、これといって実感出来るような匂いはなかった。

 見た目に反して、換気がしっかりしているのだろうか。そんな感想を抱きながら、左右の扉を交互に見やったミラは、まあどちらでもいいかなどと思いつつ右へと向かった。











去年は年末ギリギリにちょっとだけ踏み出す事が出来たふるさと納税。

そして、そのちょっとだけでもふるさと納税の美味しさを味わった今、今年はもうちょっとしっかりやってお得に美味しいものを食べようと思います!!!


そして早速、今月分を申し込んだところ、もう発送しましたとの連絡が!!!


記念すべき今年のふるさと納税第一弾。

それは、からあげ2㎏!!!

たっぷりのからあげ! 今から到着が楽しみでなりません!

数時間おきに荷物の追跡をしております。

しかし昨日から九州の中継センターのまま動きがない……。


いつ……いつ届くのか!!!

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― 新着の感想 ―
「圏外になりました。」 スター・ゲイトならなんとか電波が届くのですけど、どうも違うようです。 とはいえ、可視光が届くのなら光通信は可能かもしれないね。 試練を乗り越えたもの… スター・ゲイトならア…
[良い点] 実験成功!(あれ、精霊王の範囲外ってつまり・・・) [一言] 新章スタート!?
[一言] からあげ2㎏は届きましたか? 寒波とかコロナとかで通常より時間かかったりしますよね(゜Д゜;) ミラのためらいの無さに感動 不安より期待や興味の方が強いんだろうね ミラにつられてこちらもド…
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