498 セーラーミラ
四百九十八
より詳しい話が出来るとあって、ミラはそのままミケ達と同じテーブルに着かされた。そしてミケの好奇心が赴くままの質問に答えては、現場にいたかったという愚痴を聞かされる。
ミラの活躍と次に進むためのきっかけについては評価されたが、それはそれ。やはり、これまで追ってきた幽霊船への未練は、まだ燻ったままのようだ。
「──という事で、ドルフィン達のところまでの輸送を任せ終えたところだ。随分と張り切った様子だったので、そうかからず結果がわかるだろう」
燻ってはいるが、ミケはこれ以上蒸し返すつもりはないらしい。そのため話は問題なく次へと移り、海底で発見した銃については時間の問題だとアストロは告げた。
状況証拠のみながら、ヴェイグ達の所持品であったと思われる銃。この可能性を確定し、銃は海を渡った外海の大陸に存在していたという予想を、より決定的にする。そのためには銃が何年前に作られたものなのかを明確にする必要があった。
そして、この年代特定などを含め、考古学関連について一番頼りになる者がいるとアストロは言う。
「ほぅ! もしやドルフィンも日之本委員会におるのか?」
アウトディ・ドルフィン。彼はゲーム時代から、この世界の歴史について調べ回っている奇特な人物であった。
詳しく開示されていないが、当時から極めて緻密に存在していた多くの歴史。元々の好きも高じて、そんな大陸史に魅せられた彼は、これを調査するために必要な技術を多く習得していた。
だからこそ考古学における造詣のみならず、それに関する技術も確かだ。アストロの言う通り、彼に任せれば年代特定も朝飯前だろう。
そしてそんな考古学者のドルフィンだが、数少ないダンブルフの親友でもあった。九賢者という立場から知り合いや友人は多いが、親友というほどに交友関係のあった者となると、その数は限られる。
だからこそ、その一人であるドルフィンの名が出た事で興味を顔に浮かべたミラ。もしかして彼もまたこの研究所に所属していたのかと。
しかしそれは、少しだけ早とちりであった。
「おや、ミラさんも彼をご存じだったかい? ただ、うちに所属はしていないんだ。わかると思うが彼は風来坊気質だからね。今どこにいるかなんて事は、彼の博物館員すら把握しきれていないだろう」
ドルフィンは、歴史の探求をしていなければ気が済まないというような根っからの考古学者だ。その事をよく知るミラは確かにその通りだと頷くなり、直後に「博物館、じゃと!?」と声を上げた。
アストロの言葉にあった『彼の博物館員』という部分が、ミラには特に際立って聞こえたからだ。
博物館員。それはつまりドルフィンの博物館があって、そこに勤めている者もいるという事になる。
そして以前、各地で見つけた歴史的なお宝を展示するための博物館を造るのが目標だとドルフィンは語っていた。
「おっと、その事はまだ知らなかったようだね。実は──」
彼はこの現実となった世界で、その目標を達成したというのか。そう驚くミラにアストロが教えてくれた。
何でも、かの大国アトランティスの片隅に立派なドルフィン博物館が存在していると。
「何ともまた、アトランティスに建てるとは……。そうかそうか。あやつめ、遂にやりおったか」
夢の博物館だと語っていた時の彼は、それこそ少年のようであった。また、そんなドルフィンに頼まれて、あちらこちらと手伝わされたりしたものだ。
ドルフィン所有の遺物には、ダンブルフの努力の結晶ともなるものもちらほらあったりする。博物館には、それらも展示されているのだろうか。あの苦労が日の目を見ているという事だろうか。
ミラは当時を思い出しながら、いずれはその博物館を見に行きたいと今後の計画リストに加えた。
なおアストロが言うに、そんな熱意溢れるドルフィンの博物館には優秀な人材が集まっているそうだ。ゆえに本人がいなくとも年代測定などについては、博物館員でも十分にこなせるだろうとの事だった。
「これでしっかりと裏付けが取れれば、海の向こう側を予想する貴重な証拠になる。白い霧の向こうには、外が存在すると。当たり前かもしれないが、我々からすれば、その先は未知の領域だ。まったく、実にワクワクさせてくれるな。この世界は」
きっと一週間後には、はっきりすると言うアストロは今から楽しみだと快活に笑う。
そしてミラとミケもまた同意するなり、三人で外の世界に思いを馳せるのだった。
昼食後、それぞれの仕事に戻っていったミケとアストロ。
幽霊船調査隊の船長であったアストロは、現在白衣を着ている事からわかるように普段は研究員をしているようだ。
ではどの部署なのかと聞いたところ、画像技術総合研究開発部というところらしい。その名の通り画像関係の技術を探究している部署だ。
動画ではなく一瞬を捉える事に拘っているそうで、以前に立ち寄った現代技術再現研究開発部が作ったカメラとは、また違ったアプローチでカメラの開発を行っているらしい。
そのアプローチとは、二次元ではなく三次元の写真を撮るだとか、大気やマナなどといった目には見えないものを捉えるだとかいった内容だった。
現代技術のみでは不可能だが、そこにファンタジーな要素を組み込めば出来るかもしれないそうだ。
ちなみにアストロが幽霊船などに興味を持ったのは、その実験機で撮られたものが心霊写真だったからだという。
ファンタジーの世界でも撮れてしまった心霊写真。だがその正体を解明し、写真に写るという原理を解き明かせば、とんでもないカメラが作れるのではないか。そう思った事が全ての始まりだったという。
だが今では、その理由は半分。もう半分は、ただの好奇心になっているとアストロは笑っていた。
(心霊写真が撮り放題のカメラか……。そうと教えずカグラにあげたら面白い事になりそうじゃのぅ!)
他にも有効的に利用する方法はありそうだが、すぐに悪戯を思い付いたミラは、その研究の進展をそっと応援した。
ミケは、引き続きミラの新装備開発の続きだ。なお、その帰り際に「ああ、その服は明日の朝に持ってきてくれ」と視線を逸らしながら告げていった。
丸一日着ていれば、データは十分に取れるそうだ。だがそれはつまり、今日一日はずっとこのままという意味でもあった。
だからこそミケは、その言葉を残すと共に素早く走り去っていったのだろう。一日中セーラー服を着ていなければいけないという特殊な状況を未然に防げなかった事を責められる前に。
「まあ、落ち着かぬのは確かじゃな……」
最初は少し抵抗もあったが、一度着てしまえばむしろ学生時代に戻ったような、それこそ若返ったかのような不思議な気分になり存外悪くない。
そんな得も言われぬ感情を抱きながらも周囲をそっと眺めながら、落ち着きはしないと感じるミラ。
何だかんだで白衣の多い研究所だ。セーラー服だと目立つのである。しかも全員オペミトランの事は周知しているため、『わざわざあいつのために?』という疑問顔や『騙されているのでは?』という不安顔など、実に反応に困る顔をされるのだ。
それでいて全てが同情的とは限らない。中にはオペミトランに近しい嗜好の者も存在していた。セーラー服なミラを目にするなり何事かと驚くも、次にはその顔に歓心を浮かべる男共だ。
ミラの幼い見た目も相まって、その印象はまるで社会科見学で研究所にやってきた女生徒とでもいった印象である。だからこそコスプレ感が薄まってリアル気味になっているのも彼らが興奮する一助となっていた。
(今日は、どこかに閉じこもっておった方が良いかもしれぬな……)
このままでは変態どもを喜ばせるだけではないかと気づいたミラは、何とも言えない寒気に身を震わせつつ、今日一日を平穏にやり過ごそうと考えた。
既に装備開発に必要なデータは取り終えたため、開発現場にいる必要はない。だからこそ研究所見学の続きを予定していたが今日は中止だ。
けれど、まだ昼になったばかり。セーラー服を脱げるのは、まだまだ先だ。このまま部屋に閉じこもるとなると、随分と暇を持て余す事になってしまうだろう。
とはいえ、やりたい事ならば幾らでもあった。その筆頭といえば、召喚術の研究と実験だ。
何といっても今回依頼したマナ貯蔵用の術具が完成すれば、今後とてつもなく可能性が広がっていく事となるのは間違いない。
余剰分のマナを大量にストックしておけるというのは、術士にとって、とてつもないアドバンテージなのだ。それを存分に活かさないなどあり得なかった。
ゆえに、それらを踏まえた上での研究や実験をしたいと思ったミラ。
だが以前ミケに頼んだ時は、軽く却下されたものだ。しかしその程度で諦めるミラではなかった。
となれば次は、ここの最高責任者である所長に直談判するしかない。そう思い立ち、ミラはいざ所長室へと歩き出した。
「ダメです」
所長室にて、実験が出来そうな場所を借りたいと口にした直後に返ってきた言葉がそれであった。
「そこを──」
「──ダメです」
もはや、何を言うまでもなくミラの願いは却下された。所長オリヒメの答えは、ダメの一点張りだ。この所長室に来た直後は、ミラのセーラー服姿を目にして同情的な目をしていた彼女だが、ミラの要望を聞くなり態度が一変。むしろ加害者でも見るような目で首を横に振る。
「なぜじゃ!? お主も技術者というのなら、ちょいと実験したいだけという、この気持ちもわかるじゃろうに!」
そう必死に抗議するミラであったが、オリヒメは一切の迷いなく首を横に振って答える。「そもそも、そのちょいとという部分に、私と君とでは大きな認識の違いがあるからだよ」と。
しかもそれだけで終わらない。更にオリヒメは続けて言う。何といっても、この場所はカディアスマイト連合国より信頼されて預かっている土地なのだと。
いわく、そんな大切な土地で当たり前のように地形を変える九賢者の実験をさせられるはずがない。それがオリヒメの主張だった。
「いやいや、それはもうあれじゃな。少しばかし大げさに伝わり過ぎているだけでのぅ。流石のわしらとて、そうおいそれと地形まで変えてはおらぬ。ほんの数回程度のものじゃから大丈夫じゃよ!」
「そこだからね? 数回程度じゃないの。数回も変えちゃっているのが問題なの。もうその認識から違っているんだよ──」
オリヒメは諭すようにして、一般と九賢者が持つ認識の違いを丁寧に説明した。
九賢者達が行ってきた、数百を超える実験。地形を変えてしまうような大きな影響が出たのは、その内の数回だけ。
割合からすれば一パーセントにも満たない程度だが、そもそも地形に影響が出るという事自体が有り得ないとオリヒメは力説する。
「むぅ……。しかし実験なのじゃから、時に思いがけぬ事が起きるのも仕方がないじゃろうに……」
言われてみれば、地形が変わるなんて相当なものだ。そんな気もしたミラであったが、どんな影響が出るかわからないからこそ先に実験するのではないかと反論する。
それに対してオリヒメは、「そういうやばい実験を、夏休みの自由研究くらいなノリでやるのがおかしいんだからね?」と冷たい笑顔で返した。
オリヒメから見た九賢者達の実験は、本来ならば準備段階から正確に段取りを立て、人里から遠く離れた孤島などに専用の実験場を造り、周囲への影響を考えいざという時の人員を配置して、環境を万全に整えてから行うようなものばかりだった。
けれどかつての九賢者達は、そのような実験を洗濯のりとホウ砂でスライムを作ろうというようなノリで、思いつくままに行っていた。
ミラ──もといダンブルフもまた、そんな前科を無数に重ねたうちの一人だ。オリヒメが食い気味に却下するのも当然であろう。
「じゃがほれ、ここでも相当に危険な実験を行う事もあるじゃろう? ちょいとそこを貸してもらうだけでよいのじゃがな……」
ただの港で軽く爆発事故が起きるような研究所だ。ならばこそ、それ以上に危険な実験をする場所もあるだろうし、それは相当に頑丈でもあるだろう。
そう期待するミラであったが、オリヒメの答えは変わらなかった。むしろ「あるけど、そういうところを悉くぶっ壊してきたのが九賢者だからねぇ」と呆れた様子だ。
「ただ、どうしても実験したいなら、まず実験の計画書を提出して、ここにいる全員の許可を取ってからね。それから実験場の準備と、それに伴う安全装置の調整と設置をしてもらって──」
「──ぬぐぅ……。わかった。もうよい!」
あれこれと手続きが必要だと優しく語るオリヒメ。だがそれらを全て完了させて実験が可能になるまでには、余裕で一ヶ月以上かかるだろう。
実質、ここで大きな実験は出来ないと言われたようなものだ。
またオリヒメの言う事に色々と心当たりがあり過ぎたミラは、それ以上何も言えなくなり、逃げるようにして所長室を後にするのだった。
恐ろしい……
青い画面が恐ろしい……
もう1ヶ月くらいになるでしょうか。
ブルースクリーンエラー? というのですかね。あれが頻発しているのです。
ネットで色々と対策を調べて実行して、ちょっと落ち着いたかな? と思った所で再発!
デバイスがどうのドライバーがどうのとありますが、結局のところ原因はさっぱりわからず。
ただただ、突如エラーを吐き出して強制再起動がかかります。
そうなるたびに毎回毎回、このまま完全に壊れたらどうしようと心配になるので、ガリガリと精神が削られていきます……。
せめて、「これが原因で止まったよ」くらいは自己判断してほしい!!!!!
本格的に、仕事専用のPCを用意しようかと考える、そんな今日この頃です。




