494 ハルミレイアの歴史
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四百九十四
流石は国の英雄だろうか。カディーラに入室を許可してもらった資料庫には、ハルミレイアがどれほどまでの英雄なのかを見せつけられるほどの情報が揃っていた。
「これまた、見事なくらいに英雄じゃな」
それらを確認していくミラ達は、その都度ハルミレイアの成した偉業に驚嘆する。国の資料庫という事もあって、多少の誇張などされているかもしれないが、そこから垣間見えるやんちゃぶりは、まさしくヴェイグの娘の『ハル』そのものだった。
「──国賊として追われていたそうだからな、気付くタイミングは幾らでもありそうだ」
歴史的な視点で読み解いていくのは、アストロだ。
表に出すつもりなどないが、謎があれば解き明かしたいと思うのもまた人の性。
アストロはハルミレイアの辿った足取りから、その心を推測していた。
きっと彼女は、どこかしらで父ヴェイグ達の船がヴァーリ軍港国によって沈められたと知ったのだろう。ハルミレイアが英雄として歩み始めた第一歩は、この頃まだ個別だった連合国の一つ『シルヴァント公国』に新参の傭兵団として参戦した事だ。
このシルヴァント公国は、ヴァーリ軍港国と一触即発の間柄であった。だからこそハルミレイアは、父の──ヴェイパーホロウの仇をとるために、この国を選んだのだろうとアストロは言う。
そう、周辺諸国をカディアスマイト連合国としてまとめ上げた英雄の戦いは、復讐者として始まったのだと。
しかもこの新参の傭兵団は、資料からしてハルミレイアとアジトにいた孫達が集まって結成されたものだと推察出来た。一部メンバーとして記載されている家名と、アジトの石碑に刻まれていた家名が全て一致していたからだ。
図らずもヴェイパーホロウに繋がる共通点の発見だ。そしてだからこそ、全員の心も復讐という方向で一致していたのであろう。
とはいえミラ達の目的は、そんな歴史を明らかにしてヴァーリ軍港国の弱みを握る事ではない。単純にこんなところで繋がったかと、その真実に驚き、孫達がハルミレイアと共にいた事を心から喜んだ。
と、そうして傭兵団が加わってから暫くの後。決定的な事件が起きた。ヴァーリ軍港国が亡命者を追って領海を侵犯するのみならず、シルヴァント公国内で亡命者を斬り捨ててしまったのだ。
この事件により、双方の関係は激化。一触即発だったこともあり、それから転がるように戦争へと発展していった。
「──凄いなぁ、カッコいいなぁ」
ハルミレイアの活躍を知れば知るほど、そのような言葉を口にするアノーテ。それこそ姐御と呼ぶに相応しい、女性が憧れる女性像そのものといった歴史がこれでもかと綴られていた。
相手が誰であろうと、腕っぷしの強さでは負け知らず。それでいて思慮深さも併せ持ち、見事に傭兵団を率い獅子奮迅の活躍を見せつける。そして権力を相手に一歩も引かず、むしろそれを越えるほどに自分の地位を高めていく。
まさに成り上がり系の物語そのものだ。
「でも、ここで何かが変わった──」
復讐から始まったハルミレイア達の戦い。幾度の戦場を駆け抜けては確かな功績を重ねていった結果、傭兵団は途中から新参などではなくエースとして羨望を集めるようになっていた。
仇をとれるのも時間の問題だと思えるくらいの勢いだ。
けれど資料を読み進めていくと、途中で皆の心境に変化があったように感じられる部分が出てきた。
それは、ヴァーリ軍港国軍の将校『オルターバ・マキレムクス』と戦場にて一戦交えてからだ。
「ふむ。これが今の始まりとなるわけじゃな」
物語を読み解いていくように進む手記とは違い、資料にはその時の状況や結果が詳細に記されていた。
早い話が、この将校オルターバはクーデターを狙っていたのだ。国の非情なやり方や強引さに、日々不満を募らせていたという。
そして将校という立場であるオルターバは、国がヴェイパーホロウと交わした約束や、それを裏切った一連の出来事についても把握していた。
資料には書かれていないが、かなり早い段階からハルミレイアに協力的だった点からして、オルターバは傭兵団について詳しく調べていたのかもしれない。
そして戦いの中で、その辺りのやり取りが行われたのだろう。その時を機に、ハルミレイア率いる傭兵団に復讐以外の目的が加わったわけだ。二度と悲劇が繰り返されないよう、国そのものを変えてしまおうという目的が。
シルヴァント公国に加え、内部でのクーデターだ。ヴァーリ軍港国にとって、もはやそのような状況に陥ってしまってはどうにもならなかっただろう。
「──そうして頭が挿げ替わり、最強の海軍まで手に入れたわけか。こうなったら、もう止まらないな」
「うん、これでもう、どこも手出しできなくなった」
資料から情報を抜き出しては、それらを物語として繋げていくアストロとマノン。そんな二人のわかりやすい説明もあって、複雑な歴史がミラでも理解出来るくらいに簡略化されていった。
結果として、戦いはシルヴァント公国の勝利で終わった。
その後、初めに実行されたのは、勝利に貢献したクーデター軍の希望を叶える事だ。
まず、非道な行いを推し進めていたヴァーリ軍港国の首脳陣は処刑された。決して表に出る事はなく資料にもそれらの記述は存在しないが、ヴェイグ達との約束を反故にして裏切った者達は、この時に断罪されたのだ。
こうしてハルミレイア達の念願が叶った。けれど彼女の活躍は、むしろここからであった。
最も勝利に貢献した傭兵団の長ハルミレイアと、クーデターのリーダーであるオルターバ。この二人が両国の懸け橋となり、まずシルヴァント公国とヴァーリ軍港国の和平と相互の協力関係が結ばれた。
そしてこれを皮切りに周辺諸国との交渉へと発展。長い年月をかけてカディアスマイト島に存在する各国が合意に至り、今のカディアスマイト連合国が誕生したわけだ。
「名前が受け継がれているのも納得だな」
一通りの資料を確認し終えたところで、アストロが感慨深そうに頷く。
ハルミレイア・オルターバ。この名の二人がいなければ、今の平和で屈強なカディアスマイト連合国は存在していなかっただろう。ここに揃えられた資料には、心底そう思えるだけの情報が詰まっていた。
「英雄ハルミレイアの剣か……気になる……」
ハルミレイアが使っていた剣は、国宝として宝物庫に保管されている。資料にあったその記述を目にして、とても興味深そうに呟くのはアノーテだ。
同じく剣を使うからだろうか、やはり特別そうな印象のある剣には惹かれるようだ。
「気になるのぅ」
とはいえ今回は、ミラもまたアノーテの言葉に賛同した。
それというのも、資料の要所要所で登場した記述が原因だ。
いったい何をどうすればそうなるのか。時折ハルミレイアは、ただ強いだけでは説明しきれないような奇跡の勝利を重ねているのだ。
ハルミレイアが使っていた剣。これに対するミラ達の予想は、ランドルシア家に伝わる宝剣であった。
ヴェイグが逃亡のどさくさ紛れに実家から持ち出したという家宝。日誌に書かれている通り、本当に神の力が宿っているとしたら奇跡の勝利を呼び寄せるのも納得だ。
けれどこれの所在などについては手記のどこにも記載はなく、隈なく調査したアジトにもそれらしいものは存在していなかった。
どこか途中で紛失したり売り払っていたとしたらそれまでだが、そうでないとしたら三つの可能性が残る。
一つは、船と一緒に沈んだというもの。
一つは、どこかに隠したというもの。
更にもう一つは、誰かが持ち出したというものだ。
ミラ達は、ハルミレイアが持ち出した……というよりは、きっと皆から託されたのではないかと予想していた。
とはいえ、それを確かめる術はない。流石に、それだけのために宝物庫を見せてくれとは頼めないからだ。しかも対象が神の力を宿している……つまり神器ならば尚更である。
何かとふてぶてしくも、ギリギリの良識は守り切るミラ達だった。
なお余談ではあるが、オルターバの使っていた武器も宝物庫に保管されているようだ。けれど文献からして、こちらは軍人として支給されていた普通の剣であると思われた。
とはいえ、将校の剣であるため一級品の名剣だ。ただハルミレイアの剣が予想通りだとするならば、数段どころか相当劣る事になる。
しかしそれでいてハルミレイアと同等に活躍したのがオルターバだ。個人の実力のみで計れば、ハルミレイアよりも上だっただろうと予想出来た。
「お、しかと墓のある場所も書かれておるぞ」
加えてもう一つ知りたかった情報も、そこにあった。ヴェイグの娘、ハルミレイアの眠る場所についてだ。
ミラは考えていた。ヴェイグが残した最後の手記を娘の許に届けてやれないかと。
それは、ここに来る前に精霊王が漏らした二十六という言葉が気になっていたからだ。
その前後の話を思い出せば、その数字が何を示していたかを察するのは、そう難しくはない。
ヴェイパーホロウの船の乗組員は、船長ヴェイグを含めて二十七人。二十六は、それより一少ない数だ。しかもその言葉が呟かれた際、ミラは空を見上げていた。つまり精霊王も同じ光景を見ていた事になる。
精霊王は空高くに存在する天ツ彼岸の社を明確に認識しており、人の魂までも見る事が出来た。
ヴェイグの最後の手記を見つけたのは、直前に幽霊船が霧と共に消え去った時。となればもう、そこから導かれる答えは一つであろう。
ミラは思った。この手記にはヴェイグの魂が宿っているのではないかと。
そして、だからこそこの手記を娘の傍にと考えたわけだ。
「なんだか意外と質素な感じ?」
ひょいと覗き込んできたマノンが、そんな率直な感想を口にする。
事実、資料には見晴らしの良い丘の上に墓標が立てられていると書いてあるだけで、さほど特別感のようなものは見受けられなかった。
これほど活躍した英雄の墓といえば、もっと仰々しいものを想像してしまうが、資料に描かれたイメージ画を見る限りそういった要素はなさそうだ。
とはいえ、そこは国の英雄の墓である。しかと国で管理されており、気楽に墓参り出来るような場所ではない。
「よし、聞いてみるか」
さてどうしたものかと考えるより早く、アストロが事も無げに言った。墓参りできないかどうか交渉してみようと。
国にとって重要ではあるものの、そこは宝物庫などと違い、貴重なものや危険なものなどは存在していない場所だ。しかも頼む内容は、この国の英雄に敬意をはらい、その墓に参りたいというもの。
断られる理由などどこにもないというのがアストロの考えだった。
「ふむ、それが出来るのなら、そうしたいところじゃが……」
簡単に言うアストロだが、国のトップとの交渉だ。親や友人に何かを頼みに行くのとはわけが違う。
けれどアストロは資料を片付け終えるなり、それこそ友人に会いに行くような態度で「さあ、行こうか」と告げた。
フットワークどころか言葉も軽い。けれど彼の全身には自信が溢れていた。カディアスマイト連合国の代表にお願いをしに行く事について、もはや何の心配も抱いてはいない様子である。
(日之本委員会の研究所はカディアスマイト島にあるが……はてさて、どのように裏で繋がっておるのじゃろうな)
場所と状況。そしてアストロの言動。これらから双方にとって随分と益のある関係なのだろうと察しがつく。だがミラにしてみれば、あまり関係のない話だ。むしろ話が早く済みそうでよかったと、軽快な足取でアストロの後に続いた。
アストロの自信は、そのまま結果として表れた。是非ともこの国の英雄の墓を参りたいと願い出たら、あっさり了承されたのだ。それどころかカディーラは、アストロ達に参ってもらえるなんてと喜んですらいた。
「──時に、随分と好待遇じゃが……何か裏取引でもしておるのか?」
あまりのあっさりぶりに、いよいよ好奇心が抑えきれなくなったミラは、そう単刀直入な質問を口にした。日之本委員会とカディアスマイト連合国は、どのような関係なのかと。
「いやいや、裏取引なんてしていないさ。人って言うのは損得関係なしでも、わかりあえるものなんだよ」
アストロは、そのように前置きするなり、まず簡潔に双方の関係を教えてくれた。
とはいえ、そこまで複雑で難しいような事はない。
まずカディアスマイト連合国側は、開拓に向かない北側の地を日之本委員会に貸与した形だ。しかもその地でならば、どのような実験をしても構わないという特例付きである。
対して日之本委員会側というと、便利な道具を開発した際は優先的に流通させる事と、近海でのトラブルにおいて救援要請に応える事。この二つだった。
ちなみに便利な道具とは日用品に限ったものであり、兵器といった類や、それに流用出来そうな技術は対象外らしい。
「──で、まあ道中に魔獣やら賊やらをついでに片付けたりしていたら、会う機会も増えてね。自然とこうなっていたわけだ」
更にアストロは、彼自身の事情についても教えてくれた。
条件の一つである救援要請だが、過去にあったのは二回だけ。何だかんだで最強の海軍を有するカディアスマイト連合国だ。だいたいのトラブルは国内で対処出来る。
けれど二十年ほど前に出現したレイド級魔獣と、十年前の三神国防衛戦の際の戦いには、日之本委員会も要請に応え最大戦力を投入したという。
ただ、そこまでは結んだ条約内での事。特にカディーラとアストロがフレンドリーなのは、その条約外での行動が原因との事だ。
今回に限らず幽霊船の調査だなんだで、アストロ達はとても頻繁に周辺海域をあっちこっち行き交っている。そして数が増えれば、自然と問題に遭遇する確率も上がるものだ。
アストロ達は調査の時に魔獣やら賊やらに、何十回と遭遇していた。そして出遭ったならば、そのままにはしておけないと、その場で処理するわけだ。
つまり要請の有無など関係なく、周辺海域の治安維持を率先して行っていた形になる。そしてその後、ここに立ち寄って報告していたら自然と顔見知りになり、幾度と繰り返すうちに友人となった。
それがアストロの談である。
「なるほどのぅ……」
国の代表と友人関係など、相当なものだ。そのような事もあるのだなと納得するミラだったが、途中でこっそりマノンに教えてもらった。
友人という以前に、正義で動くアストロを気に入っているからこその優遇だと。そしてだからこそ孫の婿になどと狙われてもいるそうだ。
しかしこの事に関しては、本人だけが気付いていない様子だとマノンは苦笑していた。
コミックって、毎月色々といっぱい発売されますよね。
自分はいつもネットでチェックして買いたいリストを作って近くのアニメイトさんへと赴いております。
そしてついでに自分の本のチェック──しちゃいますよねぇ。
お、揃ってる! とか、
あ、飛んでる…… とか。
面で並んでいたら、心の中で喜んでいます。
平積みされていたら、大歓喜しております。
やっぱり表紙が見えるのって、大事ですよね。
表紙買いというのがあるくらいですし、自分もかなり表紙買いするタイプだったりします。
ここ数ヶ月の間にも、結構色々と買っております。
そんな中でも特にこれは……!!!! と思ったのは
あおのたつき という漫画です!
こういう出会いがあるから、表紙買いはやめられねぇ!!!




