493 最後の日誌
いよいよコミック版10巻が発売となりました!
10……二桁目に突入です!
こちらも是非、よろしくお願いします!
四百九十三
「成仏、出来たのかな?」
「ああ、きっとそうだ」
「私達、やり遂げたんだね」
消えていった幽霊船。アジトへの帰還を果たした船員達の遺骨。状況が全てを物語っている事もあってか、暫くして調査員達がにわかに盛り上がり始めた。
幽霊船から始まった一連の調査は、その原因と思しきアジトの発見、そして鎮魂をもって決着した。
思った以上に深いところまで関わったが、結果としては悪くなかったのではないか。むしろ良い事が出来た気がすると皆が喜ぶ。
ミラもまた精霊王からの確かな情報もあってか、これでもう大丈夫だろうと空を見上げながら安堵していた。
だがそこで、ふと精霊王が不穏な言葉を発する。『ん? 二十六だな』と。
二十六。その数字が何を意味しているのか。あまりいい予感はしないが、それについて問うてみようとしたところだ──。
「あれ? ミラちゃん、それは?」
不意にアノーテがそんな言葉を口にしたのだ。
それはとは、どれの事だろうか。ミラは「ん、なんの事じゃ?」と返しながらアノーテの視線を追ってみる。
するとどうだ。足元付近に、見覚えのある本が転がっていたではないか。
「おお、これは……いつの間に」
アジトにて何冊か見つけた日誌である。
けれど、なぜそれがこんなところに転がっているというのか。見つけた日誌については、全て資料としてアストロが回収し保管しているはずだ。
ゆえに、このように無造作な形で残っているわけがない。
「どれどれ……」
幽霊船が出現したという先ほどの状況。そしていつの間にか帰ってきていた船員の遺骨。更に今しがた聞いた、精霊王の二十六という言葉。
もしやまさかと、ミラはその日誌を拾い上げるなりそのまま開いて内容を確認した。そして最初のページを目にすると、「やはりそうか」とどこか緊張気味に苦笑する。
その日誌は、完全に初見となるものだった。記入された日付からして、アジトで見つけた一冊──交渉に行くというような事が書かれていた後に繋がる分だとわかる。
「それで、ミラちゃん……」
いったい何が書かれているのかと全身で興味を示すアノーテ。更にはアストロ達も、どうした何があったと集まってくる。
ミラは皆に向かって、見たままを答えた。「これも日誌じゃな」と。
そう、それはアジトを離れ最期を迎えるまでの間を記した、ヴェイグの日誌であった。
本来ならば、船と一緒に海の底へと沈んでおり、もはや現物など存在してすらいないはずだ。
しかし実際に今、ミラの手にそれはある。はたしてそれは奇跡か、それとも幽霊船という点からして怪奇的な現象の成せる業か。
どちらにせよ、これはきっと幽霊の仕業に違いない。それを実感したミラは、気持ちを改めるようにして、その日誌に目を通していった。
日誌に書かれていたのは、思ったよりも少なかった。交渉に行くと出航してから、数日分だけだ。
ただ、それも仕方がない。それから間もなくして、ヴェイグ達は海の底に沈められる事となるのだから。
そしてある程度は予想出来ていたが、日誌にはヴェイグ達の非業な運命が明確に記されていた。
ヴェイグ達が交渉しにいった相手は、ヴァーリ軍港国。活躍次第で、安住するための土地などを用意するという約束であった。
けれどその交渉は、決裂したどころか初めからヴァーリ軍港国側に約束を守るつもりなどなかった事が書かれている。
土地のみならず一切の報酬もなく、その場で国賊と決めつけて処刑を言い渡してきたそうだ。
とはいえヴェイグ達も、多くの困難を潜り抜けてきた強者だ。初めからその可能性自体は察していたようで、うまい事その場の包囲を突破し脱出に成功。隠しておいた船に乗り込み、急いで大海原へと逃げ出した。
けれど相手は、皮肉な事にヴェイグ達の活躍もあって近海を統べる事となったヴァーリ軍港国だ。その支配する海域において、ヴェイグ達は徐々に追い詰められていった。
そしてその後は、石板の通りだ。
「む……これは……」
一通り読み終わったミラは、最後のページに残された、その言葉を見つけた。
石板には書かれていなかった言葉。それは、ヴェイグから娘に宛てた遺言であった。
いつまでも、愛している。日誌には、ただそのような言葉が書き記されていた。
遺言としては、ありきたりな内容だ。けれども、だからこそ純粋で真っすぐな心だけしか、そこには存在していない。
子を愛する、父の想い。こればかりは、いついかなる時だって変わらないものであり、だからこそ余計にせつなく感じられた。
「何というか、救われないな……」
ミラが遺言を読み上げたところで、アストロは大きく肩を落としため息を零す。ヴェイグが最期まで身を案じた娘のハル。けれどこうしてアジトを調査した結果、その娘は行方不明になってしまっていた。
せめて娘の墓に日誌を届けたいと思っても、行方がわからなければどうにも出来ないのだ。
「ん……? おお!?」
実にやるせないヴェイグ達の生涯。沈痛な雰囲気が広がる中、その波乱万丈な人生に目を伏せたのも束の間。ミラは気になる文字を、遺言の文末に見つけた。
「アミニカ・ランドルシア、ハルミレイア・ランドルシアへ。せめてもの幸福を祈る──と、書いてあるのじゃが、この名前どこかで……」
そう、名前だ。アミニカとは、ヴェイグの妻の名前である。となればもう一つあるそれこそがヴェイグの娘のフルネームなのだろう。多くの日誌を読み終えた最後の最後、ようやくここで本名の登場である。
と、その名を知って、だから愛称が『ハル』だったのかと納得したところだ。ふとミラの脳裏に、何かが引っ掛かった。
「ハルミレイア……。確かに……」
そして、他にも同じように感じた者がいたのだろう。はて、どこでその名を耳にしたのかと、首を傾げていく。
何となく覚えのある者、さっぱり見当がつかない者。そして気付いた者。それぞれがそれぞれの反応を見せる中──
「あのさ、この名前って、カディアスマイト連合国の代表だよね?」
違和感の正体に辿り着いた……というよりは、何を考え込んでいるのかといった疑問を浮かべながら、マノンがそれを告げた。
カディアスマイト連合国。言わずと知れたヴァーリ軍港国を筆頭とする、カディアスマイト島の統治国家だ。
そしてこの国を治める代表の名が、カディーラ・ハルミレイア・オルターバ。むしろ世話になっている代表の名を、なぜ直ぐに思い出さないのかとアストロ達を睨むマノン。
「ああ、そう、それだ! いやぁ……何というか、もうずっとカディーラさんとしか呼んでないから、な」
慌てたように言い訳を口にするのは、アストロだった。いわく、ハルミレイア・オルターバという部分は、代表が継承する称号のような名であるため、基本的にはファーストネームしか使っていないとの事だ。
だからこそ名前としてのハルミレイアに、ちょっとばかり気付くのが遅れたのだとアストロは必死に誤魔化す。
「おお、そうじゃったそうじゃった!」
カディアスマイト島の北に間借りしている日之本委員会にとっては、何かと友好関係にある代表の名だ。そこに所属しているとなれば、マノンに白い目で見られるのも仕方がないだろう。
だがミラは、そこまで深い関係にはない。以前、代表の継承式典が行われていた時期に立ち寄った程度のものだ。
だからこそ、直ぐに思い出せなかった。ミラは心の中でそんな言い訳を並べながら、アストロ達の言い訳する様を眺めていた。
ヴェイグが最後に残した日誌。そこに見つけた彼の娘の名前が、カディアスマイト連合国にて代々継承されてきた名に含まれていた。
はたしてこれは偶然か、それとも必然か。
「よし、行くか」
その疑問に対するアストロの判断は迅速だった。
繋がりがあるのか、それとも関係ないのか。その点について、もう直接聞いてしまおうというのだ。
「流石にじゃな──」
「うん、それが早そうだね」
「そうだな、そうするか」
「オッケー、行こうぜ」
「昔の資料とか残っているかもしれないもんね」
そんな簡単にと考えるミラであったが、反応はまさかの結果だった。比較的常識のあるアノーテも含め、全員がアストロの判断を支持したではないか。
ミラにしてみれば、よその国のお偉いさんである。だからこそ色々と配慮しなければいけないと感じる相手だ。
けれどアストロ達の様子を見るに、日之本委員会とカディアスマイト連合国には、そこまで堅苦しくせずともよさそうな関係が結ばれているようだと感じられる。
ならば、継承されてきたハルミレイアという人物がどういう者だったのか、明らかになるかもしれない。
そう察したミラは、それ以上口出しはせずアストロの案に同意した。
ヴェイパーホロウについての情報が色々と明らかになった次の日の朝。ミラ達を乗せた幽霊船調査船の姿は、カディアスマイト連合国の港にあった。
ヴェイパーホロウのアジトから夜通し海を渡り、今朝方に到着したのだ。
そしてミラはというと、現在カディアスマイト連合国の代表、カディーラの執務室にいた。他にもアストロとアノーテ、マノンが一緒だ。大所帯で会いに行くのも迷惑だろうという事で、こちらも代表を決めての訪問である。
なお人選は、アストロの独断だ。
「──なるほど。幽霊船と過去の海賊、そして私が受け継いだ名に、そんな関連性が。とっても興味深いね」
今回の幽霊船調査についての情報を一通り開示したところ、カディーラはとても興味深そうに目を細めて笑った。
歳は初老を越えたあたりだが、その眼光はなおも鋭いまま。加え現役で荒くれ者達を束ねているだけあって、その迫力も未だ健在。カディーラは、まさに女傑と呼ぶに相応しい人物だった。
「そこで、是非ともこのハルミレイアという人物について調べたいのだが、協力してはもらえないだろうか!?」
そんなカディーラを相手に一切の遠慮や躊躇いもなく要請するアストロ。事はカディアスマイト連合国の始まりにも関係する重要な用件であるため慎重に進めるべきだろうが、彼はその辺りについてはあまり考えていないようだ。
「ああ、そうだねぇ。あんたの頼みだ。協力してやりたいのは山々だが、聞いた限り過去のヴァーリ軍港国がやらかした歴史なんかに関わってきそうじゃないか。そうなると色々面倒な奴らがうるさく喚きたてそうだ」
面白そうだとは思ったのだろう、カディーラの表情自体は乗り気であった。けれど連合国というのは色々と複雑だ。日誌に書かれていたヴァーリ軍港国の非道な所業が正史だと証明されては、精強で実直な今の軍のイメージに悪影響を及ぼしかねない。
だからこそ、そうなる事態を気にして反対する者達も出てくるだろうというのが彼女の懸念するところだ。
椅子に深々と座り直したカディーラは、「だが、この国に残されている伝承までなら問題はないだろう」と続けた。海賊ヴェイパーホロウについてと、その船長ヴェイグの娘であったという点さえ持ちださなければ、差支えはないと。
つまり、ヴァーリ軍港国が行った過去の悪行に触れず、ただ単純にカディアスマイト連合国に伝わる英雄について調べるという形ならば、誰も文句は言わないはずだという事だ。
「よし、それで構わない。むしろ我々に、過去の事でどうこう言うつもりはまったくないからな。気になるなら、見つけた手記はカディーラさんに預けよう」
その辺りについては、一切口外しないと約束するアストロ。するとカディーラは、「まあ、あんたがそこまで言うのならいいだろう。特別に資料庫を開こうじゃないか」と笑って答えた。
今回、幽霊船調査で手に入れた手記や情報は、ちょっとした爆弾にもなり得るものだった。それらを基に証拠を集める事が出来れば、ヴァーリ軍港国を相手に色々と政治利用が出来る材料になっただろう。
しかし今回、アストロは、そのようなものなど必要ないと言い切った形になるわけだ。ヴァーリ軍港国のみならず、カディアスマイト連合国に対して交渉を有利に進められるようになる材料を簡単に手放すと。
「まったく。あんた達は、いつも楽しそうだねぇ」
カディーラは笑うと同時に心の中で苦笑していた。いつも趣味を最優先にするアストロ達の真っすぐさを。政治については無頓着そうな気楽さを。だがそれでいて、いざという時はどうとでもなるという自信を見抜き、だからこそ彼女は余計にアストロ達を羨ましそうに見つめていた。
多くの野菜を食べる事。
鍋にしたりお好み焼きにしたり野菜炒めにしたり、今まであれやこれやと色々試してきたものです。
しかしそれも、いよいよ終着点。
結果……
カレーに行き着きました。
やっぱりカレーでしたね。
結局はカレーが最強だったのです。
白菜、ほうれんそう、ネギ、タマネギ、ゴボウ、豚肉。加えて野菜ジュース。
野菜を山盛りフライパンに入れて煮込めば、あら簡単。
美味しい上に野菜たっぷりで健康的。しかもスパイス効果まで!
カレーこそが完全食だったのですね。
ただ、
唯一の欠点は、ルー。
あのとろみだ何だを出すためなのでしょう、ルーには小麦や油が含まれているのです。
ゆえに、カロリーがその分だけ加算されてしまうという。
しかし、それにより美味しさが保たれているのも事実……!
美味しさをそのまま、これを抜く事が出来れば究極完全食になるはずです!!!!
以前、見つけたものに、大豆で作ったカレールーなるものがありました。
これなのか……。とりあえず、今の分量の半分をこれにして試してみるという手も……。




