492 祈り
さあ、いよいよ今月末
10月31日に、コミック版の10巻が発売となります!
是非とも、よろしくお願いします!
四百九十二
幽霊船の謎を追っていたら、海賊『ヴェイパーホロウ』のアジトを見つけるに至った。
そして歴史の裏に葬られた、かの海賊の真実がこの場にて明らかとなる。家族、そして仲間達は、このアジトにて一生を終えていたと。
「よし、こんな感じか」
「うん、むしろやり過ぎたかも?」
アストロとアノーテが、一つの棺の前で満足そうに頷く。
その棺は、この場でアストロ達が手早く作ったものだった。そして今、その中にオルニスの遺骨が皆の手で丁寧に納められていく。
最後の一人であったため、誰にも弔われる事のなかったオルニス。そんな彼の棺を、仲間達のところに並べる。
新品という事もあるだろう。ただアストロ達が持ち寄った棺の素材は上等なものばかり。結果オルニスの棺だけ、とても立派に見えてしまっていた。
「うん、こんな感じかしらねぇ」
またアントワネットが、石碑に彼の名を刻む。この場にて没した最後の一人として。
そうして色々と準備が整ったら、ここからが本番だ。
アストロの提案で、調査員達を全員集め葬儀を執り行う事となった。
「宗派の違いとか、大丈夫じゃろうか……」
三神教会の試験を突破し資格を持っているという者が司祭役を務める中、そんな基本的な部分を気にしながら手を合わせるミラ。
「その辺りは何ともいえないが、こういうのは気持ちが一番大切なんだ。とにかく、かの海賊達のために祈ろうじゃないか」
遠く海を渡ってきた者達である。ゆえに、どのように弔うのが正解なのかは、まったくわからなかった。
よってアストロは、この大陸において最もポピュラーな三神教に則り、葬儀を進めていった。随分な暴論と強引さではあるものの、現時点で出来る事といえば、確かにこのくらいしかない。
また何だかんだで、三神は精霊王の友人とでもいった存在だ。少なくとも、悪いようにはならないだろう。
「……せめて、わしからも手向けるとしようか」
他に何か出来そうな事はないか。そう考えたミラは、これだと閃いて召喚術を行使した。
司祭役の彼の邪魔にならぬよう、そっと詠唱して召喚したのは、音の精霊レティシャだ。
「奏主様の歌、第二章……! ──ではなさそうな雰囲気ですよぅ」
やってくるなり、新曲を披露出来る日が来たのかと張り切った表情のレティシャ。けれど直ぐに周囲の様子に気付き、しょんぼりと肩を落とす。
「音の精霊さん? うわぁ、凄い美人……」
「急に召喚してどうしたのかと思ったけど、なるほど。いいと思う!」
葬式中に突然のド派手な召喚だ。なんだなんだと視線が集まる中、ユズハは驚いたようにレティシャを見つめる。そしてマイカは何をするのか予想出来たと自信満々だ。
「いやはや、すまぬのぅ。そちらはまた今度にじゃな。──して今回は、また《遥かな君へのレクイエム》を頼めるか」
「リクエスト、承りましたよぅ」
レティシャの歌は、魂にまで響く力がある。だからこそ、死者の慰めにもなるだろう。
そんなミラの想いを受け取ったレティシャは、静かに歌い始める。それは穏やかでいて荘厳な鎮魂歌。死者を慈しみ、また歌を聴いた者達の胸に自然とその心を芽生えさせる、慈愛に満ちた歌だった。
葬儀を終えたミラ達一行は、そのまま調査機材などをまとめて帰り支度を始めていた。
アジトについては、大方調べ終えたからだ。そしてここまで来た理由の一つ、石板に書かれていたヴェイグ達の懸念──アジトに置いてきた仲間達の安否については、こうして確認が完了した形になる。
「これでなんか変わったのかな」
「どうだろうな。ほとんど自己満足だからなぁ」
確認、そして鎮魂。やれそうな事はやったものの、果たしてこれらは本当に幽霊船が出現する謎と繋がりがあったのだろうか。
ふとアノーテがそんな一番初めの疑問に立ち戻ると、アストロは全くの無意味だったかもしれないと答える。
そもそも石板から勝手に解釈して、何もかも予想と勘だけで動いてここまできたのだ。一切無関係という場合だって十分にあり得た。
(まあ、そうじゃな……)
岸壁の内側に広がる秘密のアジト。日が暮れ始めると影に覆われて一気に暗くなっていく。それでもアストロ達には些細な問題だ。即座に照明が点され、撤収作業は進む。
ミラは、そんな彼らの作業を眺めながら、はたして意味はあったのだろうかと考える。
「見方によっては、荒らしにきただけじゃからのぅ……」
海賊のアジトという事でテンションが上がっていたが、蓋を開ければ、そこは海に散ったヴェイグ達の帰りをそれでも待ち続けた者達が過ごした終の棲家。ロマンよりも悲しみが多く詰まった廃墟だった。
結果として何かを解決したという実感が湧かず、ミラはどうしたものかと首を傾げる。
『ミラ殿達のした事は、なかなか有意義であったと思うぞ──』
と、ミラが焦燥感のようなものを抱いていたところで、精霊王がそんな言葉をかけてくれた。今回の件は、大いに意味があったと。
精霊王が言うに、ミラ達が供養した事で、ここに留まっていた幾つもの魂が天ツ彼岸の社に向けて飛び立っていったそうなのだ。
魂の還る場所、天ツ彼岸の社。そこへ飛び立ったというのは、つまり成仏したという意味でもある。
『なんと、そうじゃったか! それは、吉報じゃな!』
目的の達成だとかいった事はどうであれ、少なくとも今回の件で彷徨う魂を救済出来た事は確かというわけだ。
「おーい、今しがた精霊王殿から教えてもらったのじゃがな──」
これは実に嬉しいニュースである。そう感じたミラは、早速とばかりに駆け出してアストロ達にそれらの情報を伝えた。
「なんと! いやはや、そんな事までわかるんだな」
「そっかそっか。成仏出来たのかぁ」
それを聞いてアストロとアノーテは、精霊王の言葉というところに驚きつつも喜びを露わにする。
また他の面々も「意味があって良かった」や「だったら来た甲斐があったな」と、嬉しそうに笑っていた。
もうこのアジトでやれる事はないだろう。
撤収作業を終えた調査員達は、今一度振り返り墓所となったアジトに手を合わせてから船に乗り込んだ。
「後は、幽霊船の方じゃのぅ」
魔導エンジンの駆動音が響く中、ゆっくり旋回していく船のへりに寄りかかりながら、ミラはそんな事を呟いた。
アジトに残っていた仲間達は成仏したが、幽霊船側──つまりヴェイグ達がどうなったのかまでは把握出来ていないからだ。
ただ、彼らもまた彷徨っているのだとしたら同じように成仏させてやりたいと思うのが人の情というもの。
とはいえ今のところ、それを確認する術はない。出来る事といったら、今後、同じ幽霊船の目撃情報が出てくるかどうかを見張るくらいだ。
今日を境にして、ぱたりと目撃されなくなったとしたら、今回の一件で未練が解消され成仏したと思ってもいいだろう。
もしも彷徨ったままだったなら、思いつくのは海底で見つけた骨だ。その時は赤く染まって不気味に見えたため、そのまま置いてきた。だが彼らのものだとしたら、この場所にまで持ち帰り一緒に供養してあげるべきだろうか。
と、ミラがそんな事を考えていた時だ──。
「おい、どうしたんだこりゃ……」
「なんも見えないぞ」
幽霊船調査船がアジト入り口の洞窟から出たところで、それは急に現れた。
白い霧だ。薄暗い夕暮れ空の下、瞬く間に広がっていく霧が周辺の風景全てを覆い尽くしていった。
「なんじゃ、これは……」
周囲を包み込む白い霧。それが自然現象でない事は直ぐにわかった。
甲板は晴れたままだったからだ。そう、白い霧は幽霊船調査船を囲うように発生しているのである。
「おい、なんかいるぞ!」
「嘘だろ……!?」
甲板の調査員が慌てたように声を上げる。するとそれは直ぐ全体に伝播し、同じものを目にした皆が同じような言葉を発した。
「なん、じゃと……」
ミラもまた、それを目にした瞬間に目を見開いた。なぜならば、白い霧の奥から船影が現れたからだ。
しかもそれだけではない。それは徐々に明確な姿となって近づいてくる。
幽霊船調査船と同じくらいの大きさなガレオン船。だが船体の方は、その状態で航海出来るのかと思うほどに朽ちかけている。
それでいて不思議な迫力を秘めているのは、堂々と掲げられたジョリーロジャーによるものだろう。
そして誰もが、そのジョリーロジャーに見覚えがあった。
「まさか、向こうから来てくれるとは」
驚きつつもどこか嬉しそうに笑うアストロ。
そう、そこに現れたのは噂になっていた幽霊船そのもの。ヴェイグ率いるヴェイパーホロウの海賊船であったのだ。
そんなまさかと息を呑むミラ達。
相手が幽霊船だからか、または海賊船だからか。緊張感が走ると共にミラ達は圧倒されたように押し黙り、その幽霊船の動向をじっと見つめていた。
何だかんだで初めて目撃する事となった幽霊船だ。それを興味深そうに観察する者もいれば、本当に出たと慌てる者もいる。
(しかし、このようなタイミングで出てくるとはのぅ……。じゃが思ってみれば絶好のタイミングともいえそうじゃ)
驚きはしたが、このアジトに辿り着けたのは、それ相応の手掛かりがあったからだ。
幽霊船の目撃情報と、その海域に現れた光る目、そして海底に沈んでいた石板。これらの繋がりを偶然と片付けるのは難しく、だとしたら何かしらの意図があったとみて然るべきだろう。
そしてその意図とは、つまり仲間と家族を案じるヴェイグ達の想いに他ならない。
(さて、どうなるじゃろうか)
ただ、もう一つの展開も忘れてはいけない。
それらの理由など関係なく、ただアジトに賊が侵入したから出てきたというパターンだ。
いったい今回は、どちらになるのか。どういった理由をもって、この場面で登場したのか。
アストロ達もまた同じような考えに至ったようで、どちらの場合でも動けるようにと準備しつつ反応を窺っていた。
「む、あれは……!」
幽霊船側に動きがあった。それを目にした瞬間、ミラは少し嬉しそうに呟いていた。
また調査員連中も、もしやだとか、まさかだとかとざわめき出す。
なんと幽霊船の船首付近に、赤い服を着た人物が現れたのだ。
そう、幽霊船の船長と思しき人物。つまりその者こそが日誌に登場するヴェイグかもしれないわけだ。
加えて、もしかしたら本物の幽霊が出たという場面でもある。これまでの驚きと緊張を残しながらも、ミラ達の間に別の感情が広まり始める。
それは、有名人にでも会ったかのような、そんなドキドキ感だ。
『おお、我にも見えるな。魂だけ……とは違う。これは何と呼ぶものなのか。我が眷属にも近いが、けれど別の……。ふむ、何とも奇異な存在だ』
『人の想いの力って凄いのね。ほんと不思議な存在。それもこれも愛の成せる業ね』
しかもその様子に興奮していたのは、何もミラ達だけではなかった。精霊王とマーテルも、目の前の幽霊かもしれない謎の存在に興味津々といった様子だ。
分析を始める精霊王と、愛は命や存在すらも超えられると感動するマーテル。
両者がそのように言っている事からして、やはり目の前のそれは何かしら超常の存在であるのは間違いないようだ。
よって増々、そこに立つ者がヴェイグであるという可能性が高まった。
と、ミラがそんな分析をしていたところだ。その赤い服の船長がそっと空を見上げたではないか。
そこに何があるのか。誰もが彼の仕草に釣られるように同じ空へと視線を向けた。けれど空にも白い霧が広がるばかりで、何も見えやしなかった。
ただ、精霊王とマーテルの反応は違った。二人は言う。きっと彼は、天ツ彼岸ノ社に還っていく仲間と家族達を見送っているのだろうと。
どうやら丁度その方向に、還る魂達が存在しているようだ。
「ぬおう!?」
ならばきっと、そういう事なのだろう。この幽霊船は、それを見送るために出てきたのかもしれない。そのように納得したミラは、それでいて次の瞬間に声を上げて驚いた。
なぜなら視線を戻した幽霊船の甲板にいたのが、赤い服の船長だけではなくなっていたからだ。
ずらりと並んだ船員達の幽霊。ミラに続き気付いた者達が、同じように驚いたり飛び上がったりと反応する。
「おお、ぴったり二十七人だ」
そんな中、甲板に並ぶ者達を数えていたのか、アストロが予想通りといった様子で身を乗り出す。
幽霊船の甲板にいるのは、総勢二十七名。そう、かのヴェイパーホロウの海賊船の乗組員と同じ人数である。
つまりは、日誌に書かれていた海賊達が勢揃いという状態なわけだ。アストロは、そこに居並ぶ幽霊達の姿や特徴などの観察を始めると、あれが誰で、これが誰だと当てはめていく。
酒好きのロンギー。弓の達人ギリグッド。何でも捌く料理人ハローネス。交渉事ならなんでもござれなオランドリオ。
それこそ日誌にあった大冒険で活躍した者達が目の前にいる。何とも心躍る光景だ。
しかもアストロが見分けていく通り、幽霊と思われるがその姿は細かく判別出来るくらいにはっきりしていた。
だからこそというべきか。その表情もまたミラ達に伝わった。
「……」
ヴェイグ達はミラ達に向き直り、とても嬉しそうに笑ったのだ。そしてどこからともなく『ありがとう』という声が聞こえた。
はたしてその声は、音として響いたものなのか。それとも、心に直接届いたものなのか。判断のつけようがないくらいの実に不思議な声だった。
だが一つだけ、はっきりしている事がある。ミラのみならず、ここにいる全員がそれを聞いていた事と、明瞭に通ったその声は優しさと安らぎに満ちていた事だ。
今聞こえた声は、もしや。そういった気持ちが皆の心に生まれた時──。
急に強い風が吹き抜けて、周囲を覆っていた白い霧を攫っていった。更に、そこにあった幽霊船と船員達もまた、白い霧と共に空の彼方へと舞い上がり澄み切った空に溶けていく。
「消えちゃった……」
急な出来事を前に空を見つめたまま呟くアノーテ。マイカ達も突然過ぎて観測する間もなかったと、空を見上げたまま呆然とする。
束の間に垣間見られた、泡沫のように儚い幻影。きっと満足してくれたのだろう。これで未練が晴れたのだろう。調査員達は、そんな願いを込めて空を見上げる。
ミラもまた、きっとそうに違いないと信じて天を仰いだ。
と、そんな時だ。
「おおっと、おい、あれ!」
船員の一人が声を上げて騒ぐ。一体何事かと、彼が見る方に目を向けたところ、その理由が明らかとなった。
アジトの入り口となる船着き場に、朽ち果てた瓦礫の山が浮かんでいたのだ。先ほどまでは影も形もなかったはずが、今はそれこそ、大型のガレオン船一隻分にはなりそうな瓦礫がそこに浮かび、そしてゆっくりと沈んでいく。
しかもそれだけに止まらない。
「うわぁ、ミステリー……」
マイカが若干引きつった顔で、それを見つめていた。
何かと思えば、桟橋の方。船に乗って帰ってきたのか、それともミラ達にくっついて帰ってきていたのか。アノーテらが目撃したという大量の赤い骨がそこに打ち上がっていた。
「……なんか、薄くなってる?」
恐る恐るとそれを見据えたアノーテが、そんな言葉を口にした。いわく、海底で見た時よりも赤みが減っているというのだ。
はたしてそれが意味する事は、何なのか。判別のしようもないが、ミラ達は全員で顔を合わせるなり仕方がないといったように笑った。そして今一度アジトに戻り、また全員で人数分の棺を作り、丁寧に弔った。
ただの気休めだが、やらずにはいられなかったからだ。
白い霧は、もう見る影もない。代わりに頭上には満天の星が広がっている。もう見慣れた夜空だが、今晩は特に幻想的に映った。
あらためてヴェイパーホロウのアジトを後にしたミラ達は、煌めく星々に向かって手を合わせていた。ヴェイグ達が、安らかに眠れますようにと。
『おお、また還っていったな』
ミラも祈っていたところだ。幽霊船となって留まっていた魂達も、天ツ彼岸の社に向かい飛んでいく様子が確認出来たらしい。精霊王は嬉しそうにそんな言葉を口にした。
どうやらヴェイグ達の方も成仏してくれたようだ。そう知れたミラは、それならもう──と思いながらも両手を合わせて空に祈る。
祈る意味とは、何も相手を思うだけではない。それは自分の心に区切りをつけるという意味もあるものだ。
「これで、もう幽霊船は出ないじゃろうか」
「多分、きっとな」
未練によって彷徨っていたのだとしたら、きっと今日を機に幽霊船の目撃情報は消える事だろう。そうであるようにとミラが呟けば、アストロもまたそれを願うように頷いた。
実は冷蔵庫を買いに行った日にですね、
もう一つ、とびきりの贅沢をしていたんですよ!!!
まあ、冷蔵庫購入によってマヒ状態になった金銭感覚を武器に突入していったわけです。
どこに?
それは……
東京駅です!!!!
冷蔵庫用として用意して余った分を握りしめ、以前からずっと気になり憧れていた
東京駅土産祭りを突発的に開催したのです!!!!!!
東京駅……その構内には沢山のお土産店が立ち並んでいます。
そしてそれだけ、美味しいお土産もまた沢山あるという事。
というわけで美味しいものを求めて、東京駅をあっちこっちと歩き回ってきました!
結果として、7種のお菓子を買いました。
総額としては、いい感じのチートデイを7回行えるくらいです。
しかし、冷蔵庫のお値段からすると、その5%にも満たないくらい。
高い買い物をすると怖いですねぇ……。
ちなみに買った中で一番おいしいと思ったのは、
えーと……
プレスバターサンド? というやつでした!!!
初めてちゃんと歩く東京駅とあって、かなり迷いました……。
けれどそれを経験した今、次はもっといい感じに探せるとも思っています!
そう、次です。
またいずれ、東京駅土産祭りをしたいと考えております!
まとまった印税が入ってきた時……それは金銭感覚が狂う瞬間!!!
行くぞ!!!




