表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
491/654

490 大切なもの

四百九十



「おお、遂に大陸発見じゃな!」


 少々話が逸れてしまったものの、ミラ達は再び日誌の内容を読み進めていった。

 航海に出てから、十ヶ月と少々。海の魔獣との激戦や、流れ着いた無人島の探索とそこに住む精霊達との交流。海の真っただ中を漂う融けない流氷と、そこで暮らすペンギン族と交わした友情。上陸したかと思えば数時間後には泡沫のように消え去った蜃気楼の都。

 道中の不思議で波瀾万丈な出来事が活き活きと書き連ねられていったところで、いよいよヴェイグ達は辿り着いた。そう、新大陸を見つけたのだ。


「ああ、そんな……!」


「でもまあ、そうだよね。そうなるよねぇ」


 長い航海の末、漂っていたり幻であったりしない確かな大地がそこにあった。

 ゴツゴツとした岸壁地帯に沿って進むと、やがて上陸出来そうな陸地が見えてくる。だが、そこからの展開に思わず息を呑むユズハ。対してマイカは、それも仕方がない、むしろその可能性は十分にあったと頷く。

 喜んだのも束の間。ヴェイグ達はその近海を警備していた海軍に見つかってしまったのだ。

 その海軍は強かった。加えて長い航海だけあってヴェイグ達は、もうボロボロ。これに大した抵抗も出来ず、捕縛される事となる。


「ほぅ、ヴァーリ軍港国か。とすると、この者達は丁度あの研究所の入り口があった辺りも通っておったのかもしれぬな」


「何だかちょっと感慨深いね」


 日誌には、この時に遭遇した海軍の名が追記されていた。

 その名は、ヴァーリ軍港国軍。アース大陸とアーク大陸の間に位置するカディアスマイト島の国家、ヴァーリ軍港国が誇る最強の海軍だ。

 古い時代からこの国の海軍は最強だとして今も有名である。流石のヴェイグ達でも勝てなかったのは、仕方がないといえそうだ。

 とはいえ、遠く離れた大陸の海軍である。そこには長男やグースバルトの影響は微塵もない。

 よってヴェイグ達は、即座に死刑だとかいう理不尽な目には遭わなかった。密航、領海侵犯、密輸などといった容疑で取り調べを受ける。

 安寧の地を求めてきたはずが、完全に犯罪者扱いだ。けれどだからこそヴェイグは、そこで全ての事情を語った。以前は公爵家の次男だった事。しかし長男に親殺しの濡れ衣を着せられてしまい、結果、国から追われる立場となり、命からがら海を渡って祖国の力が届かないこの地まで逃げてきたと。

 しっかり丁寧に事情を説明していくヴェイグ。だがその途中だ。ヴェイグは致命的な物証を残しており、海賊であった事がばれてしまった。

 その物証とは、海賊の証ともいえるジョリーロジャーと、捌ききれなかった戦利品だ。詳しい船内調査によって、それらが見つかったのだ。

 なおヴェイグが言い訳でもするかのように、その辺りについて追記していた。掲げていたジョリーロジャー自体は新大陸に向けて出発した時に処分していたと。

 では、何が見つかってしまったのかというと、それは下描きの方だ。海賊として活動するにあたりジョリーロジャーのデザイン案を皆で出し合った時の、いわばサンプル段階のものが残っていた。

 それに加え、賞金稼ぎ達から巻き上げたが値段の付かなかったガラクタが略奪品とみなされ、あっという間に海賊だと見破られてしまったわけだ。


「下描きとはまた……盲点というか何というかじゃのぅ……」


 それが子供の落書き程度であったなら、そこまで問題にはならなかっただろう。けれどヴェイグ達は、大人げなくも気合を入れてデザインしていたようだ。何十枚とある下描きには、相当な本気度が籠っていた。そこから、完璧に見抜かれたとの事だ。

 このままでは絞首刑まっしぐらだ。しかしそれに対してヴェイグは言い訳などをせず、次は海賊になるまでの経緯を語ったという。なろうとしてなったのではなく、気づいたらそのように仕立てられてしまっていたのだと。

 そして、だったらいっそと開き直りジョリーロジャーを掲げた。そう何一つ包み隠さずに白状する。

 結果、正直に全てを話したのが功を奏したのか、ヴェイグ達には温情がかけられる事となった。少なくとも領海内での海賊行為は行っていないため、その罪には問わないと判決されたのだ。

 しかし領海侵犯諸々については残ったまま。そこでヴェイグは、とある取引を持ち掛けられたという。


「よかったとも言い切れないわねぇ、とっても複雑なところ」


「これで繋がったってわけか……」


 その内容に複雑な感情を浮かべるアントワネットとアノーテ。

 海軍から持ち掛けられた取引。それは、海賊としての活動であった。多くの賞金稼ぎを返り討ちにし、更には海賊同士の争いをも突破してきた彼らの実力に海軍は目をつけたのだ。

 そしてその取引内容は、特定の海域内にて特定の船を狙うのならば仲間の全員を無事に釈放し、更には支援も行うというものだった。

 そう、ここで一番初めに見つけた石板に書かれた内容と繋がるのである。戦争が終わった後に裏切られ、ただの海賊として処理される事になるヴェイパーホロウの最期へと。


「ここで断っていれば……なんて思うけど、この状況じゃあまず無理だねぇ」


「そうじゃな。表に出せないような取引を持ち掛けられた時点で、もう選択肢はないのぅ」


 もしもそのまま、ただの領海侵犯諸々の罪で裁かれた場合、何年かの懲役か、はたまた国外追放か。少なくとも死罪までにはならなかったはずだ。

 けれど、その取引が出てきた事によって全てがひっくり返った。

 敵国に損害を与えるために、海賊行為を支援する。効果的ではあるものの、その海賊行為は大陸共通の法によって禁じられている。ゆえにそれを国が容認するなど、あり得ない事であった。

 もしもそのような取引を持ち掛けたなどと知られれば、三神国が黙っていない。たとえ最強の海軍を持っていようとも、三神国が相手では分が悪いだろう。

 ならば取引内容が流出するのを防ぐ術は、口を封じるだけ。よってその取引を持ち掛けられた時点で、ヴェイグ達にこれを断るという選択肢は存在しなかったのだ。


(苦渋の決断じゃったろうなぁ)


 日誌には、この時のヴェイグの複雑に絡み合う気持ちが綴られていた。

 いわく、二度と海賊稼業に手を染める気はなかった事。けれど家族や仲間達の命を守るためにも、仕方がないという決意。また引き受けたふりをして逃げるという手もあるが、また逃亡生活になったら、どれだけ耐えられるだろうかという不安。

 彼の願いは、ただ仲間や家族と共に安寧とした時を過ごしたかったというものだった。

 しかしその末に待ち受けるのは、残酷な最期だ。ミラ達はそんな彼らの運命に絶句し、沈痛な面持ちで目を伏せた。





 ヴァーリ軍港国の海賊となったヴェイグ達のその後については、海底で見つけた石板に書いてあった通りだ。

 ただ日誌の方には、そこから最期に至る少し前までの歴史が、より細かく綴られていた。


「しかしまた、今では随分厳格な国というイメージじゃが、こんな昔には色々とあくどい事をしておったのじゃな」


 ヴァーリ軍港国。今では近海の治安を守る最強の海軍として有名な軍事国家だ。この海軍のおかげで、近海では安定した交易が行なわれているといっても過言ではない。

 しかしその過去には、闇に葬られた非道な歴史が存在していた。ここにある日誌が表に出たら、かなりのニュースになりそうだと苦笑するミラ。過去の事とはいえ、海の安全を守る今のイメージとは大きく違う内容だ。一騒動は起きるだろう。


「せめて最初に流れ着いたのがアース大陸の方だったらなんて思っちゃうな」


 アノーテは、他にあったかもしれない可能性を思い浮かべていた。そうしたらきっと違った結末になっていたかもしれないと。

 ヴェイグ達が辿り着いたのが、ただの町や村だったとしたら。温かく迎えられて、平和に暮らせていたとしたら。

 結末を知っているからこそ余計にそう思ってしまうと、アノーテは目を伏せた。

 思わずそんな事を考えてしまうくらい、日誌の内容は重たい出来事ばかりが続いた。むしろ目指していた新大陸に到着する前の航海記の方が、ずっと明るさに満ちていたくらいの違いがある。

 ただ、中には楽しい話題もあった。子供が生まれただとか、誰それが結婚するだとかいう話題だ。


「よっぽど家族が大切だったんだねぇ」


 読み進めていく中でマノンがぽつりと、変わらずに存在している印象を述べた。

 一番初めからここまで、日誌から一貫して伝わってくるヴェイグの心。それは家族愛だ。ヴェイグが綴る言葉には、いつもその一点だけがぶれずに刻まれている。

 日誌によると、海賊として活動し始めた頃より家族達と離れて過ごす事が多くなっていた。

 なぜなら、海賊としての日々は荒く険しいものであるからだ。ゆえに非戦闘員である子供達や世話係などは船を降りて、この秘密のアジトで暮らすようになったという。

 ヴェイグ達が子供達に会えるのは数ヶ月に一度、仕事を終えて帰ってきた時だけ。

 なお、親の顔に戻れるのも、そんな僅かな時間だけだったという事もあり、ヴェイグ達は総じて過保護気味になっていたと、日誌の端に小さく添えられていた。

 見るたびに成長する子供達。環境が環境だからか腕白に育ち、目を離せば直ぐ海に落っこちてしまいそうになるとか、危なっかしくて目が離せないとかいった言葉が随所に散らばっている。

 その部分だけには、心配しながらも幸せそうな感情が溢れていた。ヴェイグ達にとっては、家族や子供達こそが何よりの宝であったのだろうと強く伝わってくる。


「ここに家族を残したまま……か。心配だっただろうなぁ」


 アジトに家族を残し、海の底へと沈んでいったヴェイグ達。だからこそ、それは相当な未練であっただろう。アノーテは小屋から外に顔を覗かせ、アジト内を一望する。残された家族は、そして子供達はどうなったのだろうと思いながら。




「あら、何かこの辺りって、あの時の状況に似てないかしら?」


 最期に向かい進んでいくヴェイグの日誌。海賊稼業の中にそっと挟み込まれる、何気ない日常の記述。アントワネットは、そんな中の一つに気になる部分があったと提示した。

 それは、とっても好奇心旺盛でやんちゃに育ったヴェイグの娘の成長などを綴った部分だ。

 船に乗せて遊ばせていたところ、その活発さを存分に発揮した娘が船のへりに立った。直後、波にあおられバランスを崩し落ちそうになる。

 その直後だ。ヴェイグのみならず船員全員が「危ない!」と殺到し、そのまま勢いよく海になだれ落ちて行ってしまったというではないか。

 しかも落ちたのは、助けに駆け出した船員だけ。娘は見事な運動神経でもって船のへりに掴まり無事だったという。

 娘は、きっと大物になる。そんな親馬鹿めいた言葉で、そのエピソードは締められていた。


「あー、ほんとだ。あの時の私に似てる」


 その一節を確認し終えたところで、アノーテが確かにと頷いた。

 それは、ミラがバランスを崩して落ちそうになった瞬間の事だ。反射的に飛び出していたアノーテ。けれどミラは問題なく船に戻り、今度は逆に助けられたという一連の出来事だ。

 そしてそこにはもう一つ。その出来事によって目撃に至った、大きな怪現象も存在していた。


「船のへりに……か。ふむ、光る目が出てきた時と同じじゃな」


 第一目撃者という事もあってか、ミラはその類似点に気付いた。そう、海面に現れた無数の光る目と、不気味に伸びる手だ。

 幾らか試してわかった事は、ミラが船のへりに立ったら現れるというものだった。まるでミラを狙い、海の底にでも引きずり込もうとしているかのように映った、あの現象である。


「それよ、それ! でね、あれってもしかしたら違う意味だったんじゃないかしら、なんて思ったの──」


 アントワネットは、そのように頷きつつ、今感じている事をそのまま全て言葉にしていった。

 アントワネットは、言う。今にして思えば、無数に光る目と海面から伸びる腕は、船のへりに立つミラを危ないと心配していたものだったのではないかと。

 日誌を読み進めてきた事で、ヴェイパーホロウ達の人となりを知ったからこそ、その見方も変わったようだ。今では、このヴェイグ達がそんな事をしようとするはずがないというのが率直なイメージであった。

 国に裏切られた事で、その恨みは強く残りそうなものだ。けれど日誌のみならず、石板にもそういった恨みつらみの類は、まったく出てこなかった。ただただ伝わってくるのは、家族や仲間への愛だけだ。

 だからこそミラ達もまた、アントワネットと同じ気持ちになっていた。


「うん、あり得そう」


 マイカも、その可能性は十分に考えられると同意する。

 日誌の記述から読み取れる中には、ヴェイグの娘についての情報も幾らかあった。それによると娘の年齢は、だいたい十か十二あたりとなる。

 つまり見た目は、ミラと同じくらいなのだ。そんな娘と同じくらいの女の子が船のへりに立ったとしたら、過保護になり過ぎていたヴェイグ達はどのように反応するだろうか。

 それは、日誌をみれば想像に難くないと言えた。

 また何よりも、あの光る目と腕は、ただ不気味に見えていただけで実際のところ何か悪さをされたという事実は皆無だ。

 アントワネットの推察は、もしかしたら真実に近いのかもしれない。この日誌にあったように、ミラが海に落ちてしまわないかと心配し、あのように海面に現れたのかもしれないと。

 そうかもしれない。いや、きっとそうだ。ミラ達は、そう納得しながら日誌の続きに目を向けた。

 三冊あった日誌の三冊目。その最後のページには、『もうすぐ戦争が終わりそうだ』と書かれていた。

 仕方なく海賊に身をやつし、裏で敵国の妨害を行っていたヴェイグ達。これでようやく平和になる。仲間や家族と平穏な日常を過ごせると、日誌からは安堵した様子が伝わってきた。

 続きの日誌はもう無いが、この先は知っての通り。記された日付からして、ここから石板に刻まれていた事態へと繋がっていく事だけはわかる。


「何とも、やるせないのぅ」


「うん、ほんとに、ね……」


 ヴェイグ達は、ただ平穏な日常を望んでいただけだった。けれど時代と運命が、そんな彼らの儚い夢を打ち砕いた。ミラとアノーテは、悲劇で終わる波乱万丈なヴェイパーホロウの真実に目を伏せる。

 アントワネット達もまた一様に複雑そうな表情を浮かべ、そっと黙祷した。











さてさて……


なんと!!!

またもやクッキーを頂いちゃいました!!

しかも以前に帝国ホテルのクッキーを下さった方からです!


しかもしかも今回は、なんと別のホテルのクッキーではないですか!


パレスホテル……なんだかもう凄そうな名前です。


そして缶の中にぎゅぎゅっと詰め込まれたクッキーの数々!!

どれも美味しく、

何よりコーヒーとの相性も抜群ですね!


存分に堪能させていただきます。

ありがとうございました!!!!




帝国ホテルに続きパレスホテル……。

いったい何者なのだろうか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  やるせないな
[一言] ヴァーリ軍港国には少しOSHIOKIが必要じゃないかとも思うけど・・・。昔のこと過ぎてどうにもなんないよなあ。
[一言] ゲームでも国家のエゴという畜生行為は結構あるけど、過去の出来事は何もできないからモニョる・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ