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488 ヴェイパーホロウ

四百八十八



 途中で話が脱線したものの、作業自体はマーテルの力のお陰であっという間に完了した。

 見回す限り、小屋の中にまで入り込んでいた蔓草は全て退室してくれた。もうこの場に残るのは、古びた棚や箱くらいのものである。


「さて、ここからが本番じゃな」


「そうだね。どんなものがあるのか」


 経年劣化もあってか、見ただけで状態が良いとは言えないものがほとんどだとわかる。

 これらから幽霊船についての情報は得られるのだろうか。不安の方が先に浮かぶ状況だが、何かあるはずだと信じてミラ達は調査を開始した。


「このあたりが怪しいですにゃ……!」


 団員一号も、いざお宝と張り切っている。良さそうな箱を見つけるなり、これだと飛びついては中を見て肩を落とす。それでもめげずに次の箱、次の箱と挑戦していくその姿は、正しくトレジャーハンター……というよりは墓荒らしのそれに近くもあった。


「ふーむ……やはり状態が悪いのぅ」


 調べれば調べるほどに、歴史的な価値がありそうなものが続々と見つかっていく。

 古い時代の航海道具であったり、それこそ武具などであったりと、大切そうなものが幾つも置かれていた。

 けれどそのどれもが、もう使い物にならないだろうと一目でわかるような状態にある。三百年という歳月は、それほどまでに長かったようだ。

 とはいえ、それでも変わらぬものも存在した。


「すっごい! 見てこれ見てこれ!」


 マイカのはしゃぐ声に釣られてみたところ、その箱には金銀財宝が入っていた。沢山という量ではないものの、それは間違いなくお宝に分類出来るものだ。

 幽霊船とはあまり関係がなさそうだが、それでも皆のモチベーションを上げる一助にはなったようである。海賊の宝はきっとあると、捜索効率がぐんと上がった。

 そうして小屋の中を調べ回る事、二十分と少々。乳母車や不格好な彫刻といったものの他、また少量の貴金属類を見つけたりしつつ一通りの調査を終えようかといった時──。


「これは、お宝の予感ですにゃ!」


 何か他にめぼしいものはないかと両目を光らせていた団員一号が、ほんの僅かな不自然さに気付いたのである。

 それは皆が何度も上を通過した床にあった。

 石畳状になっている床の一ヶ所。他と変わらないように見える敷石を見てみると、その縁に添うような形で一ヶ所だけ窪みがついていたのだ。


「この感じ……! きっと何かある!」


 一番に駆け付けたアノーテは、その窪みを凝視するなり間違いなく隠し戸であると喜んだ。続き駆け付けたミラ達もまた、その床を目にして、これはもしやと期待を露わにする。

 何といっても巧妙に隠されたところには、特に貴重なものが保管されているというのが相場だからだ。

 実際にどうなのかは怪しいところだが、やはり期待が高まってしまうのは仕方がないというもの。

 そこには何が隠されているのか。確認しないという選択肢は存在せず、早速アノーテが動く。

 アイテムボックスから適当な棒状のもの──剣を取り出すなり、その切っ先を窪みに差し込む。

 見た目からして、とんでもない名剣なのは明らかだが、そんな使い方をするなんてと突っ込む者は誰もいなかった。むしろ、さあもう少しだと開きかけた床に皆夢中だ。


「よし、持ちあげて」


梃子の原理で床の敷石が上がったら、次はミラ達の出番だ。全員で開いた隙間に手を入れるなり、よいしょと一気にひっくり返す。


「おお、これはお宝っぽいのぅ!」


「海賊のお宝ですにゃー!」


 床下に隠されていたのは、小屋にあったどれよりもずっと立派な箱であった。金属製で、ところどころに錆が浮かんでいるものの朽ちた様子は微塵もない。中身の保存状態もそこそこ期待が出来そうだ。

 見ただけで、そう思えるくらいの箱である。これはいよいよ、とんでもないお宝が出てきたのではないかと皆の期待が最大限にまで高まっていく。

 と、そうした熱い視線を一身に受けながら、団員一号は堂々のピッキングを見せつけた。

 熟練の勘と、積み重ねた技術、[鍵の声を聞け]という格言、そして僅かな閃きをもって箱に掛けられた錠を見事に解いてみせる。

 それから団員一号は振り返り頷くと、箱を開くという最大の見せ場を譲るようにしてその場を立ち去った。その姿は、まさにプロの鍵師そのものだ。

 なお、去った直後にはミラの肩に上り「罠みたいなのはなさそうでしたにゃ」と、ついでのように告げた。

 ともあれ鍵が開いたなら、いよいよ中身とご対面だ。


「これは……本?」


 さあ、いったいどれほどのお宝が。箱を開けてみたところ、そこにあったのは数冊の本だけであった。

 けれどアノーテは、それを確認するなり興味深そうに目を細める。

 お宝じゃないのかと肩を落とすミラ達だが、本というのは当時の歴史を知る事が出来るかもしれない代物だ。幽霊船の謎の追求を忘れていなかったアノーテは、これもまた貴重なものだと、興味津々な顔でそれを手にする。


「あ、読めそう」


 慎重に状態を確かめたアノーテは、大丈夫そうだと判断するなり早速、『冒険の始まり』と題された本のページを開いた。

 そこには一体何が書かれているというのか。ミラ達も幽霊船の謎について……またお宝などについて書かれてはいないかと盛り上がりつつ、アノーテの後ろから手元をのぞき込んだ。




 丈夫でしっかりとした箱に入っていた本。それは、日誌であった。

 他にも色々と入れておきたいものはありそうだが、わざわざ入れてあったのはこれだけ。

 それほど大切な記録なのだろうか。重要な何かが、そこには記されているのだろうか。

 これは、ただの日誌ではないのかもしれない。そんな思いと共にミラ達は、その始まりから読み解いていった。

 最初に記されていたのは、日付。今よりも三百年以上は前だ。正に『ヴェイパーホロウ』が活躍していた頃の時代である。

 ただ、そこから少し読み進めていったところで、一つどころか二つ三つと疑問が浮かぶ内容が飛び出してきた。


「んー? これってなんか違う?」


「海賊……って感じじゃないよね」


 アノーテがその疑問を口にすると、マノンもまた同意するように答えた。そしてミラ達もまた、どうにも様子がおかしいぞと首を傾げる。

 最初の数ページから把握出来た事。それは、この日誌を書いた人物が『ヴェイパーホロウ』の船長ではなく、ましてや関係者ですらなさそうだというものだった。


「はて、『グースバルト』……か。何やらどこかで聞いた気がするのじゃが、どこじゃったかのぅ」


 そこに書かれていた一節に、この日誌の著者がわかる部分があった。どうやらこれを書き認めた者は、『グースバルト』という国の貴族だったようである。

 そしてその国名について、ミラは何となく覚えがあった。しかし、どのあたりのどんな国かについては、とんと見当がつかないときたものだ。

 しっかり記憶しているのは、主要国や色々と繋がりのあった国くらいのもの。つまり、『グースバルト』とは、さほど関わる事がなかったのだろう。

 しかしアノーテ達ならばどうか。ミラは「お主達は、わかるか?」と問いかける。


「うーん……聞いた事ないかなぁ」


「ちょっと、わからないです……」


「そうねぇ。今ある国はだいたいわかるんだけど、ちょっとこれは記憶にないわねぇ」


 そこまで詳しくはないようで、すっぱり考えるのを諦めた様子のアノーテとユズハ。対してアントワネットは、国際関連に詳しいようだ。けれどそれでいて、記憶にはないという答えだった。


「詳しく調べてみない事には何とも言えませんが、私が知っている歴史の中には無い国ですね」


 アース大陸とアーク大陸の歴史について深く研究しているというマノン。そんな彼女が言うに、これまでの時代で消えていった国なども多々あるが、それらの中にも『グースバルト』という国はなかったはずとの事だ。


「ふーむ、気のせいじゃったのかもしれんな」


 専門家のような知識を持つ者が二人もいる中で、わからないというのだ。これはただの思い違いだったのだろう。そう考えたミラは、とりあえず余計な事は忘れて日誌の続きに目を落とした。

 そうして読み進めるほどに状況がわかってくる。

 書かれていた内容は、実に壮絶といえるものだった。

 まずは、この著者についてだ。正確には『グースバルト』という国の公爵家の次男、『ヴェイグ・ランドルシア』という人物であると判明した。

 そしてヴェイグは、どうにも兄弟間で家督を巡り壮絶な権力争いを繰り広げていたようだ。

 だがそんな中で、ありもしない濡れ衣を着せられて窮地に追い込まれる事となる。

 その濡れ衣とは、事故死であったはずの父を、何とヴェイグが殺害したというものだった。しかもその罪によって、死刑宣告まで下されていた。

 日誌には、長男に謀られただの、上層部がグルになってでっち上げただのと、恨みがましく書き綴られている。

 真実はどうなのか判断出来るものではないが、日誌を見る限りヴェイグは潔白だ。それどころか、むしろ長男が犯行に及んだのではないかと疑う形跡もあった。

 けれど、用意周到に仕組まれていた証拠が決定打となる。

 それは、ランドルシア家に伝わる家宝だ。長男が剣、次男のヴェイグが短剣を与えられ、これを大切に保管していたわけだが、罪を追及され保管した箱の封を開いてみると、短剣が血で染まっていたのだ。


「──なんていうか、何でこう貴族って面倒そうなのかなぁ」


「だよねー」


 同じ家族でありながら、家督を巡り殺すだ殺されるだという暗殺話に発展していく貴族のお家騒動。一般家庭においていえば縁遠いものであり、アノーテとマイカは、その内容を前に呆れ顔だ。


(家族が相手でも気が抜けないなど、考えられぬ世界じゃのぅ)


 日誌に書かれた、貴族社会の深い闇。その中でも特にドロドロとしたものを垣間見たミラは、現代の家族をふと思い出した。

 家族を相手に警戒する必要などなかった時代。だが妹は、その限りではなかったとミラは苦笑する。

 妹は、何かと真似したがった。少し部屋を空けると勝手に入っては、各種端末で好き放題に漫画などを読み漁ったり、VR装置で遊んでいたりする。そして疲れたらそのまま寝るという妹だ。

 思えば、色々な意味で油断の出来ない相手だった。


(向こうは、どうなっておるのじゃろうな……)


 現代の自分はどんな状態なのか。家族はどうしているのか。ふと思い返せば、ただただ漠然とした不安と疑問ばかりが広がっていく。

 けれど、ここで幾らその事を考えたところで、何も出来ずどうにもならないのが現状だ。


「して、続きはどうなった?」


 だからこそミラは、深く考えないようにしていた。何といっても、今はこちらもまた現実であるのだから。今を見つめ、精一杯に楽しむ。それが今のミラが決めた生き方だ。

 早く次のページにと促せば、「じゃあ、いくよ」と勿体ぶるようにしながら捲るアノーテ。

 そのようにして、ミラ達は日誌に書かれた出来事を少しずつ解読していった。




 日誌によると、濡れ衣を着せられたヴェイグは、その後に信頼出来る仲間達の手引きで妻や子供達と共に国外へ脱出したようだ。


「オランドリオ、いい奴じゃん!」


「いなくなったのは船を用意するためじゃったとはのぅ!」


 どうにも殺伐とした状況ながら、ヴェイグに味方してくれる者達もいた。日誌の内容に引き込まれ始めていたマイカとミラは、これを我が事のように喜ぶ。またアノーテ達も、ヴェイグの家族が無事でほっとした様子だ。

 だがうまく国外に出られたヴェイグだったが、長男が差し向けた暗殺者及び罪人を追うという名目の国軍に狙われる日々が始まった。

 そんな日々が続いていたところで、オランドリオという人物に注目が集まる。

 暗殺者との戦いの最中に忽然と姿を消したオランドリオ。もしや暗殺者を手引きしたのは彼だったのかと、ミラ達が疑念を抱いていたところでの再登場だ。

 このままでは時間の問題だと察したオランドリオは、知り合いの伝手で船を手に入れ戻って来たのである。更にずっと遠くへ、国も長男の力も及ばぬ地まで逃げられるように。


「あー、グッジョブ過ぎるよオランドリオー」


 裏切りではなく、全ては長男派閥に気づかれず事を成すための作戦だった。そんな熱くなる展開を特に喜ぶのはアノーテだ。彼女の中で、オランドリオの株がグングン上昇している。

 ともあれ、そうして船を手に入れたヴェイグ達は、いよいよ大海原へと漕ぎ出していった。


「しかしまあ、どういう船なのか気になるところじゃな」


「うん、気になる。どんな実験をしていたんだろう」


 何となくミラが感想を述べたところ、マノンもまた同意するように頷いた。

 二人が口にしたもの。それは、オランドリオが調達してきた船についてだ。

 その船は、何やらとある技術者が新技術を実験するために造ったものだったという。けれど、さっぱり機能せず失敗作として放置されていた代物でもあった。

 実験していた新技術がどういったものなのかについては触れられていないため、知りようがない。また筆者のヴェイグもあまり理解出来ていないようだ。

 けれど、そんな失敗作の船だが、新技術のそれを稼働せずとも帆船としての航行は可能だったという。

 そして主要な造船所などは国軍に見張られていたが、この失敗作の実験船までは目が届いていなかった。ゆえにオランドリオが買い上げ、海からの脱出に利用出来たというわけだ。





 失敗作の実験船で海に漕ぎ出したヴェイグ一行。

 とはいえ相手も相当に狡猾だ。加えてヴェイグ達は長男らにとって極めて不利益になる情報を沢山抱えているため、その手が緩む事はなかった。

 そうかからず海に出た事も知られ、追っ手を差し向けられる。しかもどさくさ紛れに家宝を──神の力を宿すと謂われる宝剣を持って逃げた事を理由にして、その首に懸賞金までかけられていた。

 結果ヴェイグらは、国軍と暗殺者、そして賞金稼ぎに追われる状況になってしまったのだ。


「しかしまあ、本人も相当なようじゃが仲間が半端ないのぅ」


「うんうん、凄いカッコいい」


 船での逃亡生活もかなり大変そうではあったが、ヴェイグは仲間達と協力して様々な困難を乗り越えていった。その爽快な活躍ぶりに感心するミラとユズハ。

 物資の補充で悪徳詐欺師に騙された後、その拠点を壊滅し、近海を荒らす海賊と敵対関係になったところでこれも壊滅。しかも国軍や暗殺者、賞金稼ぎまでも相手取っての大暴れだ。

 もしかしたら筆者の主観による誇張などが含まれているのかもしれないが、日誌に書かれているのは、それこそ物語にでも出来そうな海洋冒険活劇ばかりだった。


「降りかかる火の粉を払っていただけなのに、酷いなぁ……」


「世間からしたら元々賞金首だったし、仕方がないんじゃないかなぁ」


 ただ、それほどまで大暴れしていた事が災いしたのか。それともこれ幸いとして長男が手を回したのか。あろう事かヴェイグ達は、いつしか海賊と呼ばれるようになってしまっていた。

 その事に同情気味な意見を述べるアノーテと、客観的に返すマノン。

 濡れ衣とはいえ、何も事情を知らない者達からすれば、ヴェイグ達はただの犯罪者であり逃亡中の賞金首だ。それが海で暴れているとなれば、海賊などと呼ばれるのも仕方がないだろう。

 公子という立場から、気付けば海賊にまで身を落としてしまったヴェイグ達。

 けれど日誌から読み取れる感情からすると、彼らはこれにショックを受けた様子はまったくなかった。むしろ、ならばいっそと開き直り、その時から海賊を名乗るようになったくらいだ。


「まさか、ここで繋がるとは……」


「そういう事だったんだね……」


 ミラとアノーテは、そこに記された波乱万丈な歴史と真実に、ただただ息を呑んだ。

 海賊『ヴェイパーホロウ』のアジトで見つけた、公爵家の日誌。関係なさそうなそれがなぜこんなところにあったのかという謎は、こうして解けた。

 ヴェイグ達が掲げた海賊としての名こそが、『ヴェイパーホロウ』であったのだ。











早いもので、コーヒーを常飲するようになってから半年弱が経ちましたね。


当分はインスタントで十分と言いつつもドリップパックに手を出した最近。


そして先日の事です。

なかなかなものを買ってしまいました。


それは……


ドリップパック200個セットです!!!!

ブレンドの違う10種が20個ずつ入っているという、超大型セットに手を出してしまいました!


なんと9000円するところが、その時は半額だったのです!

更に貯まっていたポイントなどを使い、なんと2400円ほどで買えちゃいました!


10種とも美味しく、毎日優雅なコーヒータイムを満喫しております。


ちょっと前に、

そういえばスタバにもドリップパックとかあるのかなと調べ、あるんだと知り、

今度買ってみようなんて考えたのですが


それは来年になりそうな予感!

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと待て! 調査なのか、宝探しなのか? 否、もしかして宝の調査なのか?
[良い点] 貴族が海賊に。今の日本の平民で良かったなぁと思う反面、異世界転生も楽しいかも?と想像したり ミラ達と一緒に謎解きしてる気分ですよーs そして団員一号の出しゃばらない謙虚な姿♪ カワイイや…
[良い点] ミラちゃん、妹いるのか! 久々にリアルの話でしたね〜
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