486 海賊のアジト
四百八十六
至高のお宝というのも気になるが、まず第一に幽霊船に繋がる謎が残されているかもしれないという事で、幽霊船調査船は『ヴェイパーホロウ』のアジトに向かう事となった。
そこには特にこれといった根拠など一切存在していないが、ロマンばかりを心に抱く者達の思い込みと行動力は、すこぶる絶好調だった。
加えて、意外とアジトの場所が現在地点より遠過ぎないという点も、迅速な選択の理由だ。とりあえず調べてみようと満場一致で決まった次第である。
とはいえ、謎の多い幽霊船が生前利用していたと思われるアジトだ。闇雲に幽霊船を探し回るよりは、何か得られる可能性は高そうだ。
そしてミラに反応して現れる光る目や、海底に散らばっていた赤い骨が誰のものかについても、アジトにならば情報が残っているかもしれない。
よって調査船は現在、最大船速を大きく超える速度で航海中だ。
魔導エンジンに加え、ミラが召喚したシルフィードによる猛烈な追い風とアンルティーネの海流操作でブーストにブーストを重ねている。
「ああー……」
ただ問題が一つ。ひたすらに速度を重視しているため、代償として乗り心地は海の彼方に放り捨てられていた。
猛烈な揺れに加えて、時折感じる浮遊感。調子にのったミラは、あっという間に船酔いでくたばっていた。船のへりにへばりつき、げーげーした後、今はガルーダワゴンで空の上だ。
なお、それでもかなりの速度を出している調査船と並走している事もあってか、ガルーダワゴンといえど安定とまではいかなかった。
とはいえ船上に比べれば天国だ。多少の揺れは、揺りかごのそれのようである。
「すっごい、これは快適!」
ちなみに避難してきた者がもう一人いた。
マイカだ。普段の最大船速だったならば問題なかったそうだが、今は完全に規格外とあってギブアップした次第だ。ミラほどではないが、絶叫マシンの如く海を突っ走って行く調査船には耐えられないと救助要請してきた結果、こうして一緒に空の上と相成った。
ただ、途中までは青い顔だった彼女だが、もともとが相当にタフなようだ。少しワゴン内で休んだ今は、もうすっかりと回復している。今はワゴンからの眺めを一望し、その快適性を存分に堪能していた。
「そうじゃろう。召喚術というのは、こんな事も出来るのじゃよ」
相手は特に召喚術に対して偏見を持っていない元プレイヤーだが、もう癖になっているのか、ミラはドヤ顔でその強みを語り始めた。
きっと相手が相手なら、うんざりされていた事だろう。けれどマイカは、そんなミラに優しく付き合ってくれた。
それどころか、「確かに、どこでも水が使えるのって凄い事だね!」だとか「家まで出せちゃうの!?」だとかいったように、ミラが望む通りのリアクションを返してくれる。
「──というわけでのぅ、召喚術には無限の可能性があるのじゃよ」
だからこそミラは色々と話した末に、それらの技術と知識を広めるため奔走していると続け、いずれはそれが召喚術の常識になるだろうと締めくくった。
「へぇ、そうなっていったら確かに凄いね。色々な環境が変わりそう。とすると、それらを活かせる道具なんかも、その内需要が出てくるかもだ」
気づけばマイカの顔には、ただ話に付き合っているだけでなく、どこか研究者のそれに似た雰囲気が浮かんでいた。
何だかんだで彼女もまた、日之本委員会の研究所に所属する技術者の一人だ。研究や開発といった分野において、そこらの元プレイヤーよりも造詣が深いのだろう。新しい何かの着想を得たとでもいった笑みを浮かべていた。
そのようにして怒涛のスピードで海上を突き進む事、一時間半と少々。幽霊船調査隊一行は、いよいよ次の目的地となる場所の目前にまで到着した。
そこは、幽霊船が目撃された海域よりも南西に二百キロメートルほど進んだ地点。見上げるほどの岸壁が立ち並ぶ群島地帯だった。
「これまた、怪しさ抜群じゃのぅ!」
いったい何がどうなって、このような地形が出来たというのか。大小百以上の岩が密集してそそり立つそこは、正に海の迷路とでもいうような光景だった。
石板を解読して得られた情報によると、アジトを示す座標は、この群島地帯の奥へと入り込んだ先にあるようだ。
ただ、だからといって闇雲には進めない。そこへ辿り着くためには、正解のルートを辿っていく必要があるらしい。
複雑に入り組んだ海峡は幅も狭く、袋小路になっている場所も多い。加えて海底部の状態も様々だった。場所によっては、そのまま座礁してしまう事もあるという。
だからこそ正解のルートを辿る必要があるわけだが、一行は早速、問題に直面していた。
「後は、ここから入っていくわけだが……どうしたものか」
正面の岸壁を見据えながら、困ったようにぼやくのはアストロだ。なぜならば正解のルートの入り口とされている部分が、見事に崖崩れで塞がっていたからだ。
とはいえ当時から三百年という月日が経過しているのだ。状況が変化していてもおかしくはない。またそれは、今も正解のルートが正解のままなのかという部分に気づく丁度いい見本となった。
「一先ず、書かれていた分を参考にしつつ、目的地までの安全なルートを確保する。探査班は探査艇で向かってくれ」
状況を把握するなりアストロが指示を出せば、皆が機敏に動き出した。
ルートは、正確に調査し直した方がいいという判断だ。そして今ここにいるのは、その当時とは比べ物にならないくらいの技術を持つ日之本委員会の面々である。
小型の探査艇に乗り込むなり、我先にと飛び出していった。
なお、そんな幽霊船調査船をさしおいて、空からアジトに一番乗りしてしまおうとしていたミラだったが、今は甲板の上で待機中である。
それはずるい。こういう時は皆で一緒に行って感動を分かち合うものだと総ブーイングにあったからだ。
(まあ、仕方がない。それもそうといえば、そうじゃろうしな)
チームで動いている以上、足並みを揃えるというのも時には大切だ。少なくとも最低限の事は弁えているミラは、大人しくガルーダを送還しワゴンも収納して調査完了を待った。
探査チームは、とても優秀だった。一時間ほどで安全なルートを割り出し、邪魔になりそうな魔物の排除も完了させていた。
これでもう、後はアジトに到達するだけだ。
幽霊船調査隊の船は複雑に広がる群島の入り江を、正確な操舵によって進む。
ただ安全なルートとはいえ、それは他に比べればという前置きが付く場所もちらほらと存在した。座礁を回避するために右寄りで進んだり左寄りで進んだりと、細かい制御が求められる。
とはいえ幽霊船調査船は最新鋭であり、操舵手の腕も素晴らしかった。複雑さを求められるような場所でも、正確に潜り抜けていく。
「しかしまた……心躍る光景じゃな」
「うん、なんだか冒険してるって感じがするよね」
甲板から見える景色を前にミラが呟けば、アノーテもまた心から同意するように答えた。
周りを見回せば、目に入るのは数百メートルはあろうかという断崖絶壁。海峡の幅は、最大でも百メートルあるかどうかといった程度。無数の巨岩が並び立つその様は、まるで何者も近づけさせまいと立ち塞がっているかのようだ。
たとえば、この巨岩の一つでも地上に聳えていたならば、きっと観光スポットになっていたであろう。それほどに力強く聳える巨岩が、それこそ群島として辺り一帯に広がっている。
そんな巨岩と巨岩の隙間を縫うように進む最新鋭の船。躍る波をかき分けて勇猛果敢に挑んでいくが、大自然の雄大さを前にしたら霞んでしまいそうになるくらいちっぽけな存在に見えた。
ここに広がるのは、さながら大自然が造り出した迷路だ。そこには計算も思惑も悪意も何もない。ただひたすらに偶然が積み重なっただけのものであり、だからこそ圧倒される迫力があった。
そして中でも特に擽られるのが、冒険心だ。
「──あのあたりも怪しそうじゃな」
「あ、あの部分、洞窟っぽくなってない?」
操船は言わずもがな、万が一な魔物の襲撃も船に組み込まれた装置が警戒してくれているので問題ない。
そのためもあって周りを眺めるくらいしかする事はなかったが、ミラ達はそれを存分に楽しんでいた。
広く、そして複雑に入り組んだ群島地帯だ。そこは、もしかしたら『ヴェイパーホロウ』のアジト以外にも何かがあるのではないかと思えてくるような景色がひたすらに続く場所であった。
だからこそミラ達は、そんな不確かな幻を探して周囲を観察する。まだ見ぬロマンを追い求めて。
苔むした岩礁と岸壁の空洞。暗く開いたそこに、奥へと続く秘密の道があるかもしれない。
奥の岸壁を隠すように聳える小さな岸壁。もしかしたらその向こう側に、隠された入り口があるかもしれない。
あちこちを見回しては、そんな妄想と夢を繰り広げていくミラ達。
ただ、そこまで『もしかしたら』という可能性を広げていくと、やはり次第にもしかしたらと気になってきてしまうものだ。
「残念、ただの鳥の巣じゃったな!」
結果、怪しい場所を見つけたらミラがペガサスに乗って実際に調べてくるなどという状況が出来上がっていた。
誰かがお宝を隠しているかもしれない。歴史にも残っていないような、貴重な遺産が見つかるかもしれないと。
今回はマイカが怪しいと睨んだ高いところの窪みだったが、そこには鳥の巣と卵があるだけだった。なお親鳥が驚いていたものの、流石は聖獣の成せる業か。ペガサスが一声かけるだけで問題は解決だ。
空は狭く、日の光は遮られ、入り込んだ風が唸りを上げる群島地帯。
入り組んだ海峡に入り込み算出したルートを辿る事、二時間ほどが経過したところだ。
ミラ達一行は、いよいよ石板に記されていた地点に到達した。
「これは何とも……ここまでで目にしてきたどこよりも、らしく見えるのぅ!」
目の前にそそり立つのは、巨大な岸壁。けれどそれは、この場所にくるまでの間で何度も見てきた光景だ。
ただ一つだけ特徴があった。切れ込みのような裂け目だ。つまり岸壁の間に入り江となっている場所があったのだ。
とはいえ、それも途中で数度ほど目撃したものである。ではミラが何をもってして、どこよりもらしいと言ったのか。
それは、偽装術式の痕跡がそこに残っていたからだ。
きっと侵入者や追跡者などを惑わすためだろう、途中にも幾つかこういった痕跡は残っていた。
ただ術式という点において、その道の達人である九賢者には違いが一目瞭然だ。道中の痕跡と石板に記されたこの場所の痕跡とでは、もはや構成のレベルが大違いだったのだ。
もしも道中の偽装術式を見破った程度でここを見つけられる気にでもなっていたら、決してこれには気づけなかったであろう。それほど高度に構築されていた跡が残っていた。
「あ、奥に洞窟が見えたわ!」
当時から相当な年月が経過している事もあってか、今はもう術式の効果も相当に弱まっていた。さほど術については心得のなさそうなアントワネットでも簡単に見つけられるほどだ。
入り江に入り込んでいったところ、表側からは隠れるような形でその洞窟は口を開けていた。海賊船もそのまま通れてしまいそうなほど大きな洞窟である。
表からは死角となり、更には高度な術式で偽装されていたとなれば、当時にこの洞窟を見つける事はかなり困難であっただろう。
「ここで間違いなさそうだな」
念入りに石板を確認していたアストロが、そのように断言する。この洞窟の先こそが、海賊『ヴェイパーホロウ』のアジトであると。
さあ、いよいよ世紀の瞬間だ。幽霊船がどうこうという事もあるが、三百年前にその名を轟かせていた海賊のアジトというのもまた歴史的な大発見だ。
幽霊船を追いかけていただけあって、調査員達もこういったロマンには目がない様子であり、それはもう興奮冷めやらぬといった熱意をもって探索準備を進めていく。
「ほぅ……これは」
ただアストロ達は冷静さも持ち合わせていた。アジトだ突っ込めなんて事にはならず、まず先に先行調査用の魔導人形、ストルワートドールを出していた。
これから乗り込む場所は、海賊のアジト。どのような罠が仕掛けられているかわからないため、まずはその下調べが先というわけだ。
「さあ、特別魔導調査隊、発進だ!」
そんな掛け声とともに複数体のストルワートドールが一斉に動き始める。アストロいわく、様々な探知機を搭載した自信作だそうで、たちまちのうちに調査を完了してくれるだろうとの事だった。
「ふむ、そういう事ならば団員一号の出番じゃな!」
そう言ってミラは、さあ出番だぞとマストの上に向かって声をかけた。
「お任せくださいですにゃー!」
天高くよりその声を響かせて颯爽と舞い降りた──舞い落ちたのは団員一号だ。[私は鳥]と書かれたプラカードを手に見事な墜落を決めた後、不死鳥の如く蘇った彼は、ニヒルにほほ笑んでストルワートドール達に続いた。
海賊のアジトという何とも燃えるシチュエーションという事もあってか、団員一号はいつも以上にご機嫌そうだ。
そんな姿を見送りながら、大丈夫なのかといった顔をするアストロ。
ミラは偵察だけに限れば問題ないと、目を逸らしながら答えた。
オートミールの食べ方って色々ありますよね。
スタンダードの他、フリーズドライのスープを使ってみたり、お茶漬けの素を使ってみたり、色々な調味料を試してみたり。
お好み焼きにした事もありました。
いったいどれだけ試してきたのかわかりませんが……
先日遂に、このオートミール試作テストが決着しました!!!
それは、とあるテレビ番組で見たレシピです。
オートミル、納豆、卵。
これです。
正に、納豆卵ご飯のオートミール版!
なんかもう色々と考え過ぎていて、この可能性に気づいていませんでしたね。
自分は更に、
オートミール、納豆、卵、ネギ、海苔、割り下
と、ご飯で食べていた時のあれこれを追加して食べてみました。
その結果、遂に到達したというわけです。
もうオートミールのレシピは、これだけでいいやん、と。
正に健康ヘルシーなレシピ!
アレンジとして、今度はここに鰹節とか加えてみようと思います!
やっぱり納豆なんだ。




