478 秘密結社
四百七十八
(……よし、うまくいったようじゃな!)
ゲーム時代はヒールプレイをしていたため、化粧箱を使い正反対な見た目になった。
どうやらアノーテ達は、そのように勘違いしてくれたようだと心の中でほくそ笑むミラ。
ただそれは実際のところ、少し調べれば色々とボロが出てくるような内容の言い訳だった。ミラの事を知る一部の誰かが、ぽろっとその事に触れただけで隠蔽失敗となるだろう。
加えて元プレイヤー同士という事で不思議な連帯感が生まれるため、そのあたりの秘密保持は意外と緩めだ。ソロモンが口止めを頼んではいるものの絶対とは言い切れないのが、この日之本委員会の欠点と言えるだろう。
「ゲームでは色々出来ても、現実になっちゃったら、やっぱり意味が違ってきちゃうからねぇ」
「そうだよね。遊びじゃなくなっちゃうわけだし」
マイカの言葉にアノーテが頷く。ともあれ今はまだミラの言い訳が有効だ。ゆえにアノーテ達は、その話で盛り上がり始めた。
そして今、話題に挙がっているのは、悪人プレイをしていた元プレイヤー達についてである。
実力に加えて余程の事をしでかしたのなら、その界隈でも有名だったのではないかという考えの元、ミラはその中の誰だったのかと追及し始めたのだ。
「いや、まあ、ほれ、あれじゃ。そのような事はどうでもよいではないか」
詳細に掘り返されたらまずいため話を逸らせようとするミラであったが、好奇心で幽霊船の調査に乗り出す様な者達だ。それはもう容赦なく、過去の記憶を総動員して探ろうとしてくる。
と、そんな時だ。
「あ、ところでさ。ヒールプレイっていえば、あの人ってどうなんだろうね。ほら、トップばかりを襲うトップのプレイヤーキラーだった人」
トッププレイヤー陣の中の召喚術士。更には、ヒールプレイをしていた人物。アノーテは、そう範囲を絞っていったところでふと思い出したのだろう。ヒールプレイをしていた人物の筆頭であるプレイヤーキラーの存在を。
「ああ、レヴィアードさんだっけ? そういえばどうなんだろ。この世界に来てるのかな? だとしたら、かなり大変そうだけど……」
流石は最強のプレイヤーキラーとの呼び声高い人物だ。マイカの口から、直ぐにその名が出てきた。
マノンやユズハも聞いた事があると答える。また強い相手と戦うのが好きであり、だからこそプレイヤーキラーという道を選んだという事情についても把握しているようだ。
「あ、レヴィアードっていうと前にね、一つ気づいた事があるんだけどさ──」
その流れからアントワネットが一つ興味深い話があるのだと続けた。
いわく、強者ばかりを狙う凶悪無慈悲な殺人鬼として悪名を馳せたレヴィアードだが、どうにも女性で被害に遭ったという人物を見た事がないというのだ。
特に彼女が仲良くしていた男性陣は、その大半が襲われていたらしい。一人の時も複数の時も変わらずにだ。けれど同じくらいの実力者である女性陣は、どれだけ絶好のチャンスでも誰一人として襲われた事がなかったそうだ。
「……ふむ、言われてみればそうじゃな」
それを聞いたミラには心当たりがあった。むしろ何故かと不思議にすら思っていた点だったが、他でもそうだったのかと彼の行動に得心する。
それは、九賢者側の被害状況だ。レヴィアードに襲撃された経験のある者は、ダンブルフとソウルハウル、ラストラーダにヴァレンティンのみであり、ルミナリアは含まれない。
つまり、外見が男であるプレイヤーだけが標的にされていたというわけだ。
(前にレヴィアードを迎え撃つためルミナリアに手伝ってもらった事があったが、不発に終わったのはそのせいじゃったか)
世間を騒がしていた殺人鬼レヴィアード。さぞかし良いものを持っているに違いない。ならば是非とも実験の資金──被害者達の救済のためにと動いた事があった。けれど出会えずに終わった次第だ。
「あ、もしかしてミラちゃんも知ってる? というか、前に戦った事があったりした?」
心当たりがあるというミラの反応に気付いたようだ。アノーテが興味深そうに見つめてくる。また同時に他の面々も、それとなくミラに注目して虎視眈々とヒントを得ようと狙っていた。
「まあ、そうじゃな。聞いた事があるくらいかのぅ」
実際には何度も戦った事があるばかりか、一緒に秘密結社ごっこをするような友人ほどの仲で、しかも闘技大会の時に直接会ってすらいる。言い逃れなど出来ようはずもないくらいの知見ぶりだ。
だがこれ以上、正体に迫られるのは危険だ。そう咄嗟に判断したミラは誤魔化した。
けれど、それが失敗であった。彼女達の観察眼は、既に相当鍛えられていたからだ。
「あー、誤魔化してるー」
マノンが不敵な笑みを浮かべながら言うと、マイカとアノーテもまた、わかりやすい反応だったと続けて同意する。
「戦った事、あるっぽいねぇ?」
にまにまと怪しい笑みを浮かべるアントワネット。ユズハもまた完全に見抜いているようで、「勝ったんですか?」と好奇心旺盛な目を輝かせていた。
「いや、まあ、そのじゃな……」
一瞬で看破されるとはと焦るミラ。対して五人娘は、その情報から更に絞り込めそうだと調子を上げていく。
レヴィアードと戦うほどの強者。そして男の召喚術士。更には今でもマキナガーディアンを打ち倒せてしまえるほどの実力者。
これだけで人数はかなり限定される。加えて別の情報として、アルカイト王国を本拠地にしている事が加わり、先日の九賢者帰還発表において、その名が出てこなかった事について気づかれてしまったら大変だ。
これだけの条件が揃えば、ミラの正体に辿り着くのも時間の問題といえよう。
「あ、わかっちゃったかも!」
どうにか別の方向に誘導する方法はないか。ミラがそのように考え始めた直後だ。アノーテが、閃いたとばかりに手を挙げたのだ。
「おー、誰、誰?」
ミラが止める間もなくマノンが問えば、アノーテが、その正体に迫る前提となる噂があったと言い出した。
そしてその噂とは、ミラにとっても大いに心当たりがあるものであった。
「レヴィアードさんといえば、私聞いた事があるんだよね。なんか、闇の秘密結社に在籍していたって──」
迫真の顔でアノーテが語ったのは、まさかの噂話だった。
とある闇の秘密結社から足抜けした暗殺者アルタイル。だがプレイヤーの間では、その人物はレヴィアードだったのではないかと、まことしやかに囁かれていたそうだ。
そして裏切り者のアルタイルを追い、これを粛清しようとしていた人物がいたとアノーテが続ける。
「その人物っていうのが、とんでもない召喚術の使い手でね、アルタイルと互角の戦いを繰り広げていたのを見たって人もいたの。で、その使い手は──」
アノーテは少しもったいつけるように間を置いてから、その名を口にした。
「──ベガって呼ばれていたそうよ」
そこまで語り切ったアノーテは、ちょっと勝ち誇ったような顔でミラを見やり言った。「ずばりミラさんの正体は、闇の秘密結社のベガ、でしょ!?」と。
(……そっちかい!)
遂にダンブルフだとバレてしまったか。さて、それではいつもの九賢者捜しの言い訳をそれとなく並べていこうか。そうダメージが軽微になる方法で進めようとしていたところだ。
よもやアノーテの推理は、急に明後日の方向へと飛んで行ってしまったではないか。
とはいえハズレでもない。レヴィアード扮する伝説の暗殺者アルタイルを粛清するために追っていたのが、闇の秘密結社のボスであるベガ。そしてベガの正体はダンブルフだ。
つまりは、その答えもまた当たりというわけだ。
「……ふむ、バレてしまっては仕方がないのぅ。その通り。わしこそが、ベガじゃよ」
むしろ都合のいい勘違いであり正解だ。そう考えたミラは、これは言い逃れ出来ないなといった笑みを見せながら、その推理を称賛し、実にそれっぽい態度で我こそが闇の秘密結社のベガであると名乗ってみせた。
「今度は、本当っぽい」
じっくりとミラを観察していたマイカが、そのように認定する。実際のところ大げさな態度をとっているが、紛れもない真実だ。誤魔化すのが苦手なミラにしてみても、ただ本当の事を肯定しているだけなのだから、ここでボロは出さなかった。
よってアノーテ達は、推理大成功だと大喜びだ。
(うまく……いったようじゃな……!)
アノーテ達からは、すっかりと疑いの色が消えていた。
けれど何かと周到な彼女達である。本当に大丈夫かと少し様子を見たが、何やら闇の秘密結社の事で盛り上がり始めていた。
その理由の一つは、何といっても謎であるからだ。
ゲーム当時より、ちらほらと噂に上る事があった闇の秘密結社。けれどその全容は、今になってもまったく明らかになっていない。
いったいどんな悪事を働いていたのか。他に、どのような構成員がいたのか。その目的は何だったのか。
ユズハが言うに、以前日之本委員会でチームを結成し、この組織の全容解明に乗り出した事があったそうだ。
けれども、真相はほとんど解き明かされず。幾らかの噂と目撃証言が残るだけで詳細は不明。どうにか突き止められたのは、組織を抜けた伝説の暗殺者の名がアルタイルである事と、その正体がレヴィアードらしいという事、そしてボスの名がベガという事だけだ。
とはいえ、それも仕方がない。闇の秘密結社は設定だけの存在であり、活動などは何もしていないのだから。
それでも真実を知らぬ五人の調子は上がっていく。わからな過ぎるからこそ、まさに闇の秘密結社だと興奮した様子だ。
(……何やら、思った以上の大事になっておらぬか……?)
ミラの正体がベガだと知った五人の喰いつきぶりといったらなく、もしかして早まっただろうかという懸念をミラに抱かせた。
実際のところ。真実が真実であるがゆえ、彼女達が求めるような秘密などまったくない。始まりは、ちょっとしたごっこ遊びなのだから。
けれど五人が話す内容を聞いていると、徐々に不穏な方向に進み始めているとわかる。何やらこの三十年の間に、かなりの尾びれ背びれが追加されていたようなのだ。
その全てが噂や、かもしれない、もしかしたら、といった曖昧な前置きから始まるが、ゲーム当時に起きた様々な出来事が闇の秘密結社に関連付けられているではないか。
(いやいや、アトランティスの将軍暗殺などしておらんぞ──。いやいや、古代地下都市のそれは、有名なPKチームの仕業じゃったろうに──)
狩場からの帰り道にて、かの『名も無き四十八将軍』の一人がキルされたと話題になった事があった。
なお、その犯人はレヴィアードであったため、アルタイルでもある彼の仕事と言えばそう見えなくもないのだが、当然ながらそれは彼個人の犯行だ。
またある時は、古代地下都市にて狩りの最中に襲われるプレイヤーが多発した事もあった。
これは正体も何も、ただのよくいるPK連中の仕業だ。特に効率重視で広範囲に広がっていた者達が狙われた。そのため気づけば仲間がいなくなっているという状況となり、それが不気味に映って話題になったという程度の話だ。
これについては、その後に結成された自警団を厄介と判断したのか霧のように消えていった。ただのPKだとわかったのは、欲を出してこっそり続行していた者がいたためだ。
なお、その自警団にベガであるダンブルフも参加していたため、ミラは詳細についても幾らか詳しかったりする。
「──でも、それだけじゃないって。最近、なんか悪の組織が国を裏から牛耳ってたらしいって風の便りで聞いたんだけど、それにも関わっていたとか?」
まだまだ止まらないようだ。アノーテがそんな言葉を口にすると、残りの四人もまた聞いた事があると頷く。
そしてこれには、ミラもまた心当たりがあった。
それはベガとしてではなく、それこそ実際に関わっていた一件だ。
アース大陸最西端に位置するセントポリーは、キメラクローゼンが作り上げた国だったというものである。
ただその辺りについては、かなり徹底した情報規制がされていた。それでもアノーテが挙げていく幾つかの噂の一部からして、やはりセントポリーの事で間違いはなさそうだ。
噂程度だろうと耳に出来る日之本委員会の情報収集能力は相当なようである。
「国一つとか、スケールが違うよね。で、ミラさん。真相のほどは……?」
いったい闇の秘密結社は、どれほど強大な力を持っていたのか。そんな期待がありありと浮かぶ顔で振り向くマイカ。続き四人も一様にミラを見つめては、その目を輝かせた。
「……いや、どれもまったく知らぬ話じゃのぅ」
とはいえ何もしていないのだから期待に応えられるはずもない。それらは全て噂が独り歩きしただけのものだからだ。
よってミラは無関係だと返したが、少しばかり事情を把握しているためか、それが顔に出てしまったようだ。
「……あー、なんか知ってそう」
そのように微細な変化をマイカは見逃さなかった。更には他の四人も、「やっぱり」だとか「闇のボスだ」などと口にしては、キラキラとした目をミラに向けていた。
「いやいや、何も知らぬぞ。わしには、まったくかかわりのない事じゃからな」
そもそも、その黒幕はキメラクローゼンだ。しかしながら当然、その辺りの詳細についてはミラも口止めされていた。そのため真実を語り、まったくの無関係であると証明する事は出来ない。
そんなもどかしさもあってか、態度に出ていたようだ。マイカは「なるほどねー、あくまでも秘密ってわけか」と不敵に微笑む。
「そこまでとぼけるのなら、まあそうしておきましょうか」
アノーテもまた、皆まで言わずともわかったといった顔で頷く。そして、態度からして限りなく黒だが今回は見逃してあげようと、そんな空気を漂わせ始める五人。
(これはもう、真相を話す以外に疑いを晴らす術はなさそうじゃな……)
都市伝説だなんだといった類の話がよほど好きなようだ。これまでまったくの謎だった闇の秘密結社のボスと出会えたとあって、アノーテ達の舞い上がりぶりは暫く収まりそうもない。
もはやどれだけ否定しようと、そこに決定的な真実を含めなければ信じてもらえそうになかった。
それは、ただのごっこ遊びだった事。悪人プレイをしていたため化粧箱を使ったのではない事。そもそもよく考えればわかるが、ベガという存在の正体がそこまで知られていないのなら、わざわざ化粧箱を使う必要などないのではないかという事。セントポリーの一件は、キメラクローゼンの仕業だった事。
そして何より、ミラの正体はダンブルフである事。
「──今はただの冒険者のミラじゃからな。それでよろしくのぅ」
幾らか方法はあるが未だに保身を図るミラ。ダンブルフに戻れる可能性などないのに、いつかその時が来た時のため、全ての疑いを受け入れるという選択肢を選ぶのだった。
ミラへの追及が落ち着いた、というよりは闇の秘密結社のボスであるベガだと確定した後。その流れでというべきか、この世界にきていたら色々と苦労していそうなプレイヤーという話題で盛り上がっていた。
「──男を騙し過ぎて指名手配されてたあの子は、どうなっているのかなぁ」
「いたねぇ、そんな子。被害者の会とかも出来てたよねぇ」
「ほんと、男って馬鹿すぎ。しかも幾らでも見た目を変えられるゲームで騙されるんだから」
ゲーム当時は、様々なプレイヤーがいた。悪人をターゲットにしていた詐欺師だったり、悪徳貴族を粛清していた暗殺者だったり、それこそ海を荒らし回っていた海賊もいたものだ。
アノーテがそんな数あるプレイヤーの一人を挙げたところ、マノンとマイカが呆れたように笑う。
対してユズハは、そういう事もあるんだといった顔だ。
なおアントワネットはというと、それなりに騙した方であるためか、実に渋い顔をしている。
そしてミラは、美人になって女性の尻を追いかけているルミナリアは、果たしてどういった立場になるのだろうかなんて考えていた。
その出逢いは突然でした。
あれは、駅ビルのとある一角。
行く度に、何かしらの出張店的なものが出ているところでした。
いつもならば、「へえー」くらいな気持ちで眺めながら通り過ぎるのですが……
その日の私は、そこで立ち止まっていました。
塩豆大福
それがとても気になったからです。
何に影響されたのか、いつ影響されたのか。以前より何となく食べてみたいと思っていた、塩豆大福。
それが、ほんのり本格派な雰囲気を纏わせて目の前に現れたのです!
しかも塩豆大福のみならず、色々な種類の大福があるではないですか。
いつもならば通り過ぎていたはずが……
その日、私は大福を買ってしまいました。
塩豆大福2個。よもぎ大福2個。スイートポテト大福2個。
計6個です!
なぜこんなに買ったのか!?
それは、2個入り1パックが400円だったところ……
2個入り3パックで1000円とお得になるからです!
カロリーを考えると買い過ぎ感もありますが、これはもう仕方がない事なんです!
大福、美味しかったです!!!
特にお目当てだった塩豆大福は最高でした!




