474 研究所二日目の朝
四百七十四
次の日の朝。客室にて目を覚ましたミラは、朝の準備を済ませると食堂にてのんびり朝食を味わった。
日本人が多いという事もあってか、和食メニューの充実ぶりといったら調味料から何まで完璧だ。
出汁の香る味噌汁に魚の干物、そして何よりも納豆と白米。アルカイト王国でもそれなりに日本食は食べられたが、ここの食堂に用意されたそれらは、気合と魂が違うとすら思えるほど口に馴染む味であった。
「これじゃよ、これ。朝といったら納豆じゃろう!」
これぞ理想の朝食だと感動するミラは、特に納豆を存分に味わった。
納豆。日本食の中でも有名な食材だが、その好き嫌いが大きく分かれる事でもまた有名である。
そしてミラは好んでいるのだが、実はソロモンが納豆にさほど思い入れがなかったりした。そのためか流通が少なく、しかも原住民にとってもかなり意見が割れる事もあり、アルカイト王国では手に入りにくい食材だったりするのだ。
しかし、ここ日之本委員会の研究所は違う。納豆専用の大豆が潤沢に栽培されているだけでなく、納豆菌から研究している部署があるほどに力を入れている食材となっていた。
そのためか納豆と注文すれば、次にはどれにするかと数十種類が提示されるほどである。
なお、今回ミラが選んだのは、小粒で柔らかめの『ミケ納豆』だ。
ちなみにミケとは昨日会った細工職人ミケイシャマーレの事であり、彼女が開発に関わっていたからその名になっただけだという。かの有名な納豆とは、なんら関係ないとの事だ。
「いやはや、すまぬな。色々と目新しくてのぅ。すっかり忘れておった!」
食後にミラがやってきたのは、この日之本委員会が運営する研究施設の所長室だった。
昨日は、あまりにも見学が楽し過ぎて完全に忘れていたと苦笑するミラは、アイテムボックスから取り出した封筒を所長に手渡した。ソロモンから所長宛にと預かってきた封筒だ。
「楽しんでもらえたのなら何よりだよ。それよりもわざわざ、ありがとね」
封筒を受け取るなり何の問題もないと朗らかに笑う女性。一見した限りでは、きりりとしたキャリアウーマン系なのだが、中身は何とものんびり系でファッションセンスもよくわからない人物であった。
「しかしまさか、お主がここの所長じゃったとはのぅ。前にソウルハウルから、スミスミが所長だと聞いておったのじゃがな」
いったいいつの時代のセンスなのか、『私が所長です』と書かれたTシャツを着た女性。そんな独特な人物ではあるものの、ミラは彼女の事をよく知っていた。いや、むしろ九賢者全員が彼女とは面識があった。
なぜならば、その者こそが九賢者達が着ている賢者のローブを制作した裁縫職人『オリヒメ』であるからだ。
ただそこで一つ疑問が浮かぶ。以前ソウルハウルが、鍛冶職人のスミスミ──スミス・ミッドバルドが所長だったと言っていたからだ。
「あー、数ヶ月前まではそうだったね。でもあいつ、急に作りたいものが出来たって言って、そのまま私に所長を押し付けて工房に引きこもっちゃって。まあ所長なんて言っても、雑用を片付けるくらいしかしない形だけの所長だから、誰がやっても問題はないんだけどねぇ」
特級職人が集まる研究機関のトップともなれば、その権限だその威光だといったものは大陸規模で影響するのではないか。
と、そのように考えたミラであったが、それこそ面倒そうに苦笑する彼女の様子からして、そのような事はまったくないようであった。
オリヒメが言うに彼女がスミスミの後釜に収まった理由は、アトランティスやニルヴァーナのほか、ほとんどの元プレイヤー国家と繋がりがあったからだそうだ。
言ってみれば、学級委員長でも決めるようなノリで指名されてしまったという状況らしい。
「なんともまあ、思った以上に軽い感じなのじゃな。しかし、わしとしては、お主であってよかったとも思うぞ」
「そ……そうかい?」
「うむ、確かに場当たり的でもあるが、この研究所の中ならば、お主は十分に常識人じゃからな」
各国と繋がりがある。それはつまり各国のトップ達が着ているローブ類は、そのほとんどが彼女の作だという意味でもあった。それほどまでに、オリヒメの技術は大勢のプレイヤー達に認められていたという事。
そしてそれは、当然ながら同じく生産を生業とする者達にとってもだ。
トップクラス中のトップクラス──というよりは、もうその道のトップであるオリヒメ。そのためもあってか、彼女を尊敬するプレイヤーもまた多かった。
ゆえにオリヒメにならば従うというような職人も少なからずはいたはずだ。最高の鍛冶職人であるスミスミ所長の後継として十分といえよう。
加えて、一番重要ともいえるのが彼女の気質である。この奇人変人が揃う研究所において、オリヒメは真面目な部類に入る希少な存在なのだ。
そんなオリヒメが所長を務めるとなれば、誰も文句は言わなかっただろう。だからこそ研究所は、こうして一定以上の問題はなく平和であるわけだ。
オリヒメは形だけというが、所長としての役割は十分以上にこなせていると、昨日一日、各部を見学してきたミラは思った。
「──なんと……更に下があったとはのぅ……!」
届け物を済ませた後、久しぶりの再会ともあって幾らか雑談を交わしていたミラとオリヒメ。
あちらこちらの研究室を回った感想の他、日之本委員会の研究所を訪ねる事になった発端ともいえる、マキナガーディアン戦について自慢げに語っていたところだ。ミラはそこで見つけたボロボロの日記と、黒い金属片について思い出し、その辺りの進捗はどうかと尋ねた。
何かの実験でもしているような内容の日記には、非常に興味深い言葉が並んでいた。中でも特に気になるのは日本という単語が出てきた事だ。
もしかしたら、この世界の秘密にも繋がっているかもしれない。よってその調査は日之本委員会が適切だとして、ソロモンに預けたそれらは日之本委員会の専門部署に送られていた。
ただ、この世界の秘密を追求する部署というのは、こことはまた違う場所にあるらしい。けれどそこで判明した情報は、幾らか共有されていた。
よってミラは、オリヒメからその進捗状況について教えてもらう事が出来た。
「しかも、古代地下都市だけじゃない。他にも幾つかの場所で隠された施設が見つかったそうだよ」
オリヒメが言うに、マキナガーディアンと戦ったあの場所には、更に地下へと続く扉が隠されていたらしい。そこを守るマキナガーディアンがいなくなったお陰で安全に調査が進み、その扉を見つける事が出来たようだ。
そしてその奥にて、現代日本に繋がるような物証などが発見されたという。しかも現代日本に存在する製品が、そこにあったというのだ。
「──完全な廃墟になっていて、復元とかは難しそうだけどね。でも、この事実はとんでもない事だよ」
「確かに、とんでもないのぅ……」
古代地下都市最深部の更に地下にその施設は存在していたという。このファンタジーな世界とはまったく違う、現代日本を彷彿とさせるような場所だった。そう共有情報に記載されていたと、オリヒメは言う。
しかもそこに残された情報から似たような施設を他にも各地で発見したとあり、それら全てに現代日本の色が見受けられたとの事だった。
「なんと、そこまで話がでかくなっておったとはのぅ。しかし、新たに発見するほど謎も増えていっておる感じじゃのぅ」
「ああ、まったくだ。けれどこうして新たな情報が次々に出てくるようになったのは君のお陰さ。今回の件によって、これまでまったくの謎だった問題に一つの指標が示された。これは大事な一歩だと思う。あっちの者達に代わって礼を言うよ」
真相に至るには、まだまだ必要なピースがまったく足りていない状態だ。けれどミラが持ち帰った調査材料によって必要なピースと、それを当てはめる盤面が朧気に見えてきたと、オリヒメは感謝を口にする。
「よいよい、役に立ったようで何よりじゃ。わしも頑張ってマキナガーディアンを倒した甲斐があるというものよ!」
ゲームが現実になった。それは、この世界にいる全ての元プレイヤーにとって最大の謎ともいえる現象だ。
けれどそれを一人でどうこう出来るなどという思いはミラになかった。むしろ手に負えない問題ですらあった。だからこそ、それに迫れそうな情報を全て預けたわけである。
しかしそこは狡猾なミラだ。どこか恩着せがましくふんぞり返り、得意げに謙遜する。この件で日之本委員会側が恩義に感じてくれたら、更なる待遇が期待出来るかもしれないと狙っての行動だった。
「ああ、そういえば丁度この頃だったかな。私が所長になったのは──」
途中、ふと思い出したようにオリヒメが言う。
マキナガーディアンから見つかった色々。その一つである黒い金属片だが、それを詳細に解析してみたところ、どうやら工学技術に関係する情報が刻み込まれていたという。
はたしてそれが関係しているのかどうかは不明だが、それの解明を進め始めたところで、スミスミが全力で作りたいものが出来たと言い出したらしい。
「何をするのかって聞いても、成功したらとしか答えてくれないから何とも言えないけど。多分、何か試してみたくなるようなものがあったのかもしれないね」
「最高の鍛冶職人がそこまで言うものとは何じゃろうな。気になるのぅ。どういった事が解析出来たのかはわからぬのか?」
つまりは黒い金属片に刻まれた情報を参考に、何か作っているわけだ。いったい何を作っているのか、またどのような技術がそこにあったというのか。
存分に興味をそそられたミラであったが、スミスミは何も教えてくれなかったという。
だが、黒い金属片については今でも研究が進められているため、そちらで詳しく聞く事は出来たそうだ。
「まあ、工学とか専門外の私にとってはちんぷんかんぷんな話だったから、ここで君に伝えられるような事はないんだけどね。これについては、アラト君が研究主任をしているから興味があるなら行ってみるといい」
彼女が言うに、黒い金属片については、この研究所にて今も研究が続けられているようだ。
しかもその研究主任は、宇宙科学技術研究開発部の室長でもあるアラトだった。宇宙開発の研究と並行して、黒い金属片の解析も進めているようだ。
いわく、相当に進んだ技術らしい。今も解析を中心に研究中であり、技術の再現までには至れていないという事だった。
この世界の秘密解明のための進捗について幾らか聞いた後、少しばかりの雑談を交わしてから所長室を後にしたミラ。
「いやはや、まさかこんな要望が通ってしまうとはのぅ!」
さてさて新装備の開発具合はどんな感じだろうか。様子を見るために昨日の第一特専室へと向かうミラは、それ以上ににこやかな笑みを浮かべていた。
それほどまでにご機嫌な理由は、オリヒメと雑談していた際に交わした約束にあった。
オリヒメは、所長として実によくやっている。そのように何度となくおだてていた結果、気をよくしたオリヒメがローブを一着仕立ててくれると言ってくれたのだ。
とはいえ、賢者のローブを超えるほどのものは彼女とてそう簡単に作れるものではない。手間暇のみならず、超希少な素材がふんだんに必要となるからだ。
ただ、今回約束出来たのは、そんな最上級をも目指せるという一品であり、また彼女にとっても実験になる一着らしい。
いったい、どういったローブが出来上がるのだろうか。それはまだ秘密だそうだが、裁縫界の頂点に立つオリヒメが手掛けるオーダーメイドが、ちょっとした雑談の中で手に入る事になったとあっては、自然と足取りも軽くなるものだ。
なお雑談の最中に寸法も測り終えているため、後はもう待つだけである。
「む……誰もおらぬな?」
そうして機嫌よく第一特専室にやってきたミラは、そこを覗くなりはてと首を傾げる。
もう話し合いは終わったのだろうか。そこには一人もいなかった。
はて、どうやって進捗を確認しようか。とりあえずミケでも捜そうか。と、そうミラが考えていた時である。
「お、なんだ。状況を確認しにでも来たか?」
部屋の奥。何でもない壁だったところが開いたかと思えば、そこからミケが姿を現したのだ。
「うむ、その通りなのじゃが……これまたこんな仕掛けになっておったとはのぅ」
入った時には、ただの会議室のようにしか見えない。しかし会議室ではなく第一特専室などという名がついていたのは伊達ではなかった。その壁の奥には炉や細工台のほか、様々な機材がふんだんに用意されていたのだ。
「ああ、話し合うだけではわからないような事もあるからな。色々と作ったりしてみながら調整するんだ。それに私達みたいなのは、手を動かしていないと落ち着かない性分でね」
そうミケが言うように、奥の部屋を見てみると試作品と思しき何かがところどころに転がっていた。
彼女が言うに、まずはマナ貯蔵用の容器として何が最も適しているのかの実験から始める事にしたそうだ。転がっているそれらは様々な素材で作った容器であり、過負荷実験に耐えられなかった失敗作らしい。
「これまた随分な惨状に見えるのぅ……」
よく確認すれば、どれにも焦げたような穴が開いていた。そして部屋のところどころにも、焦げ跡が確認出来る。
いったい、どのような実験を行っていたのか。容器作りだけでも、かなり大変そうな様子だ。
「今回のは、かなり特殊……というよりは、もうこれまでで一番難しいかもしれないって代物だからねぇ。でもまあ、安心するといい。完成図は見えている。明日には専用の開発室も完成する予定だ」
簡単にいくようなものではない。そう告げるミケであるが、その表情は挑戦者のそれであり、奥にいる職人達も心なしか活き活きとしていた。
また彼女がいうに、今回はかなり特殊な製造工程になり、加えて研究と実験なども必要な場面が多々あるため、その全てを一ヶ所で済ませられる専用の部屋を並行して準備しているそうだ。
「ほぅ、それはなんとも頼もしいのぅ!」
見た限り、第一特専室の設備も相当なものだ。しかし、ここでもまだ足りないという。それほどまでに、今回注文したものは特殊だったわけだ。
「して、もしかすると結構時間がかかりそうじゃろうか?」
だからこそ、その点が気になったミラ。出来る事ならば早く欲しい、そして早く色々と実験がしたい。と、完成後の予定は既にいっぱいなのだ。
「まあ、そうだなぁ。それなりにはかかる」
「どの程度じゃろうか?」
「とりあえず、クリスマス前までには仕上げてみせよう」
ミケが予想した完成日は、約半月後であった。
それはなかなかの時間であり、ミラは「ふーむ」と眉根を寄せる。その間はずっとお預け状態が続く事になるためだ。
とはいえその不満は、ただ持て余す時間だけで考えた場合だ。前代未聞の特注品を完成させるためとみた場合は、むしろそんな短期間で出来てしまうのかと驚くところでもあった。
「よし、任せた。それではわしは──」
特殊なものを注文したのだから、後は全て任せて待つだけだ。そう頷いたミラは、ついでに、いっそもう出来上がってから取りに来ればいいかとも考えた。
一旦塔に戻って、完成したら受け取る。その方が効率的だろう。
と、ミラがそんな予定を立てようとした矢先だ。
「ああ、ちなみにこういった特殊なやつは、ちょくちょく細かい調整が必要になるからな。その都度使用者本人がいないと面倒だから、完成まで長い外出は控えておくれよ」
どうやらミラの様子から察したのだろう、ミケが釘を刺すようにそんな言葉を口にした。
今回依頼したスタミナ強化とマナの貯蔵器。そのどちらも汎用品からは逸脱した設計になるため、制作過程においても所々で親和性をチェックする必要があるという。
そのため完成するまでの間は、この研究所に滞在していなければいけないとの事だった。
「ああ、でも開発部屋が整って試作品が完成するまでは、多分三、四日ほどかかる。それまでは自由にしてもらって構わない」
「むぅ……。まあ、そうじゃな。うむ、わかった」
三、四日。それは、ただ待っているだけだと長く、かといってアルカイト王国まで往復するには短い時間だった。マリアナとゆっくり食事をするような時間はまずないだろう。
なんと微妙で中途半端な時間であろうか。とはいえ最高のオーダーメイド品のためだ。
そうミラが帰国を諦め、ならば研究所の見学の続きでもしようかと考えていたところ、「じゃあ、そういう事で。よろしく」という言葉と共にミケが忙しそうに部屋の奥へと消えていった。
見ると、次の器候補の実験準備が整ったようだ。少しの後、「いいぞ、いいぞ」という職人達の声が沸いたかと思えば、強烈な破裂音と共に光が噴き出して壁に焦げ跡を刻み込んだ。
「なかなか、豪快な実験じゃのぅ……」
下手をすれば怪我人でも出そうな失敗ぶりだ。それでいて職人達は、大盛り上がりで「次だ次だ」と動き始めた。
その方法では失敗するという事が判明したから、これもまた成功である。ミケ達は、そんな理念の下で日夜実験を繰り返しているようだ。
とりあえず今は、待つだけしか出来ない。ここにいる職人達に全て委ねたミラは、さて昨日はどこまで見て回ったかと思い出しながらその場を離れるのだった。
さて、色々と試しているコーヒーですが……
スタバのインスタントというのが気になり、以前に二度ほど見に行ったりしていました。
しかしその時は休日もあってか、とんでもない列が出来ていました。
インスタントはどれだろうと確認しようとするも、かなりの賑わいです。
結果それっぽいものを発見できぬまま、一度目二度目と同じように退散しました。
そして三度目……の前に、まずはスタバのインスタントがどのような外見なのかを確認してみようと思い調べてみました。
……
思っていたインスタントと全然ちがーーーーーーう!!!!!
モニターの前で天を仰ぎましたね。
スターバックスのインスタントコーヒー。
そう聞いて自分はスーパーなどで売っている、あのビンのような感じで置いてあると思っていました。
もうインスタントコーヒーといえば、あの形でイメージが決まっていたのです。
しかし実際のものはどうでしょう。何ともおしゃれなパックになった、スティックタイプのインスタントだったのです!
こりゃあ、あらかじめ知っていないと一目じゃ判断出来ないよねと納得もしたものです。
そして数日前の三度目。カウンター傍の棚を見てみると、ネットで調べたそれが並んでいるではないですか!
もう、どういうものかを知っている自分に見逃しはありませんでした。
その日は平日という事もあり、列もそんなに長くはありません。
という事で買ってきました、スタバのインスタント!!
まずは、オススメだと教えていただいた、イタリアンロースト。
そしてもう一つ、折角だからとお試しにコロンビアも一緒に買いました!
1つ、12杯分で1000円くらい。
とんでもない高級品でした……。
しかし、味は流石の一言。いつも飲んでいるインスタントとは、何かが違います!
イタリアンローストは、見事なまでの苦味! このくらいが好きですねぇ。
コロンビアもまた、ほどよいバランス!
もう一種類あるようなので、いずれはそちらも試してみたいなと思いました!




