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471 聖域作りのコツ

四百七十一



「……ん? 結局ほとんどタイムマシンの話しかしておらんかった気もするが……──まあよいか!」


 宇宙科学技術研究開発部を後にしたミラは、ふとそんな事を思い返しながら廊下を進んでいく。


「薬学というくらいじゃから試験管やら注射器やらが並んでいると思うたが……農業のところに負けず劣らずな茂りっぷりじゃのぅ」


 次にミラが訪れたのは、『医療薬学技術研究開発部』という場所だった。その名の通り、医療用としての薬を研究している場所だ。

 なお、この隣には『魔法薬学技術研究開発部』なるところもあった。そちらはポーションなどといった、いわゆるファンタジー定番の薬品を現代科学力の応用でどうこうしてみようと研究しているところのようだ。

 ちなみに、「あちらの室長は医療用の繊細さがまったくわかっていない」とは、こちらの室長であるレイシアの言葉である。


「薬の基本は、やっぱり生薬ですからね。ここでは、現在確認出来ている限りの薬草を揃えているんです。ここから更に抽出や分解、合成と過程を経れば、無限大の可能性を生み出す事が出来るわけですよ。ああ、植物が持つ力とは、なんて偉大なのでしょう!」


 薬草と一言でいっても、その効果は千差万別だ。それこそ幾らかの殺菌作用を利用した傷薬だったり、凝固作用を利用した止血剤だったりと、状態によって必要になる薬草は大きく変わる。

 特にこれといった薬効がなかったものから、一部の病気のみに対する特効薬が出来たりもする。

 中には、そのままだと毒にしかならないものだってあった。しかし、それらの効果をしっかりと把握し適切に処方すれば薬になる場面だってあるのだ。

 レイシアは、この世界には現代以上に有用な薬草が沢山あると、実に興奮した様子で語っていた。

 そんな中、やはりというべきか。ここにとても嬉しそうな反応をみせる者がいる。


『あらあら、そこまでわかっているなんて、とってもいい子ね! そうなのよ、私の子たちには無限大の可能性が秘められているんだから!』


 マーテルだ。植物の始祖精霊であるマーテルこそが、この大地に芽吹く全ての植物の祖である。

 ただそれでいて、今現在における植物を全て把握しているわけではないという事だった。それというのも、全ての植物に持たせた適応性によって、元よりも大きく変化した植物というのが無数にあるからだ。

 マーテルは、そういった変化や進化などを、我が子の成長と呼んでいた。そして、ここにある薬草の大半は、そんな成長した子達であるそうだ。

 大切に育てられている子達の成長を確かめるようにしながら、マーテルはとても嬉しそうであった。

 と、そのようにしてマーテルにも愛される事となったレイシアに案内されて巡る薬草畑には、偶然なのか必然なのか。どくだみやアロエといったものからカモミールやシナモンなど、現代でも見覚えのある種類が幾つも存在していた。

 また用途なども、おおむね一緒だそうだ。


「ここはまた、危険な香りがするところじゃな……」


「ええ、だからこそ、ここに入れるのは私を含めて三人しかいないの」


 医療薬用として最後にやってきた畑には、ケシやアサなどといった植物がまとまって植えられていた。しかも現代のものと同じく、その麻薬効果も健在であるそうだ。

 そんな植物各種が、広さにして百メートル四方はある大きな畑いっぱいに広がっているときたものだ。

 これが現代であったならば、沢山の麻薬捜査官が勢いよく踏み込んでくるほどの栽培ぶりである。

 それほどの畑という事もあってか、ここの畑はこの研究所においても特にセキュリティが厳しい場所だという。レイシアのほか、畑の管理人と研究所所長だけしか扉を開けられないとの事だった。


「おおー、流石にこちらは本格的じゃのぅ!」


 畑に続いて案内されたのは、メインとなる調薬室だ。とはいえ色々と規定があるため、今回は内部を覗ける窓の外側からの見学となる。

 そこには畑と違い、きっちりと白衣を着こんだ研究員達の姿があった。


「何と言うか、結構スッキリしておるのじゃな……」


 調薬だったりなんだったりと聞くと、試験管やらビーカーやら蒸留装置のようなものでごちゃごちゃしている様子が思い浮かぶものだ。

 だが窓から見えるのは、幾つも並ぶ銀色の箱と小さい黒の箱ばかりだった。箱から箱へ入れたり出したりしているだけで、調薬感がまったくといっていいほどに見られない。


「昔は、やっぱりごちゃごちゃしていたんですけどね。真空調整器が出来てからは、随分とやりやすくなったんですよ」


 そのように答えたレイシアは、現代技術再現研究開発部──略して現技研には感謝しかないと嬉しそうに続けた。

 どうやら現技研では、人々に役立つ技術のほかにも、この研究所で必要とされる機材や装置といったものの開発も行っているようだ。

 それらによってテーブルの上は片付き、複雑な作業もコンパクトに行えるようになったとレイシアはご機嫌だ。

 ただ便利ではあるものの、特に研究所止まりで外に出す予定のないものについては、兵器にも転用出来てしまう危険なものまで作られているそうである。

 時折、引くほどのものを渡されて扱いに困るというのがレイシアの数少ない愚痴であった。






「しかしまた、こちらの方がずっとメカメカしいとはのぅ。不思議なものじゃな」


 医療薬学技術研究開発部の見学を終えたミラは、そのまま続き隣の魔法薬学の方にやってきていた。

 そこで目にしたものに対する第一の感想というのが、まさかのメカメカしいだ。

 それというのも、やはり現代におけるイメージによるものか。医療といえば、常に科学の最前線にあったものだ。そしてそれは、この世界においてもそこまで大きな違いはない。

 だからこそ医薬研では、様々な設備や機材などが利用されていた。しかもスマートさも兼ね備えたデザインと、シンプルな操作性を実現した完成形だ。

 だが、ファンタジーひしめくこの世界においては、やはり魔法の技術こそが最先端となりうるようだ。

 ここにあるのは、デザインだ操作性だというよりも、まずはひたすらに必要な性能のみに特化させた設備と機材。

 つまりは、まだ一般化する前の状態。だからこそ仕組みなどがむき出しになっている事が多く、だからこそ眺めているだけでも中々に面白かったりした。

 配管だなんだといったものが複雑に絡み合い伸びていく様は、もう完全にスチームパンクの世界だ。


「それはもう、魔導工学で一気に発展したんだもの。そしてこの研究所は魔導工学発祥の地であり、ここは常に需要トップにある魔法薬の研究開発室。設備は常に最新ですわよ!」


 そんなスチームパンクな研究室を案内してくれるのは、この場の雰囲気とはまったく合っていない縦ロールの金髪美人ときたものだ。

 しかも高慢そうな口調で如何にも悪役令嬢然としながらも白衣を纏うその女性は、ここの室長であるアデットだった。

 彼女は「さあ、自慢の設備をみせてあげるわ。ついてきなさい!」と、有無を言わさぬ態度で先導し始める。これでもかというくらいに自信家な悪役令嬢ぶりだ。

 と、そのようにして始まった魔法薬学技術研究開発部の見学会。常に強気で振る舞うアデットによる案内は、それでいて懇切丁寧だった。ここの開発部のあり様と数々の輝かしい成果が見て取れる見事なまでの解説ぶりだ。


「どうかしら、素晴らしいでしょう!?」


 それはもう自信満々に語ったアデット。その中でも今の時点でメインに研究している緊急ポーションなるものについては、特に力が入っていた。

 それというのも回復用のポーションが必要になる状態というのは、得てして命に直結する場面が多い。だが今あるポーションの類は全て、使えばたちまちのうちに回復するというものではなく、じっくり効いていくものだ。

 ゆえに緊急の場面においていえば従来通りのポーションでは回復するまでの間、仲間の負担も増えたままになってしまう。

 回復しきった頃には戦線が瓦解しているなんて事になりかねず、そういった状況の被害報告というのもあったりするそうだ。

 だからこそ、即座に復帰出来るようにするための即効性を考慮したポーションの開発に、今は全力を注いでいるという。

 ちなみに試作品は完成しており、その効果自体も確認済みらしい。けれど現時点では、かなりの高額になってしまうため、効果をそのままで安価に抑える方法を模索している最中との事だ。

 まずは傷の回復用。次に毒などの状態異常用。そしてマナの回復用と続けるつもりであるとアデットは語る。


「いやはや、立派なものじゃのぅ」


 見た目と雰囲気から受ける印象とは裏腹に、アデットは多くの人々のために日夜頑張っているようだ。

 緊急用ポーション。冒険者のみならず工事現場であったりだとか、あらゆる場所における救命処置としての需要もあるだろう。実に有意義な研究題材である。

 見た目は一番問題のありそうなアデットだが、室長としては、どの開発部よりも真面目そうだった。






「しかしまぁ、あの素材倉庫は壮観じゃったのぅ……」


 次の見学先へ向かう道すがら、ミラは魔薬研の倉庫で見た素材の数々を思い出しては、その顔に羨望を浮かべていた。

 魔法薬というだけあって、研究材料として用意されていた素材もかなり多様だ。植物のみならず魔物や魔獣の素材はもちろんの事、封霊結晶や神域の燐水、果てはユニコーンの角に世界樹の琥珀など、超一級素材までもが目白押しだった。

 どれほどかというと、最上級装備一式が複数仕立てられるであろうほどの在庫ぶりである。

 今回、特級であるアポロンの瞳を持ち込んだゆえ、まだ僅かに気持ちを保てたミラだが、手ぶらで来ていたならその圧倒的な充実ぶりとの差で打ちひしがれていたであろう。

 それほどまでに、ただの倉庫が宝物庫であった。


「お、ようやっと見えてきおったぞ。しかしまた、ここだけ随分と離れた場所にあるのぅ」


 長い廊下を進み続けたところで、いよいよ本日最後の予定の見学先である研究室の扉が目に入った。

 これまで巡ったところに比べて三倍以上の距離が離れていたそこは、近づくほどその理由に納得出来るような場所であった。


「……なるほど納得じゃな。ここからでも少しばかり臭うのぅ。しかも……」


 正面先にある扉は閉め切られているが、そこはかとなく臭ってくる獣臭。加えてちょくちょく聞こえてくるのは、様々な動物の鳴き声。

 そう、最後にミラが訪れたのは『生物牧畜技術研究開発部』なる場所であった。

 中に入り室長と挨拶を交わし案内してもらえば、どうしてここだけこれほど離れた位置にあるのかが直ぐに窺い知れた。

 まず一つは、農技研よりも広い面積が必要であった事。一面に広がるのは実に長閑な牧場であり、ところどころのため池では水鳥の姿までもが見て取れる。

 そしてもう一つは、何よりもわかりやすい臭いだ。ここは、それこそ生き物が生き物であるがゆえの独特な臭いで満ちていた。廊下の時点でも幾らか感じられるくらいだ。

 加えて音もまた、なかなかのものだ。

 動物の鳴き声というのは、不思議とよく響く。目の前には牧歌的な風景を楽しめる草原が広がっており、ところどころに牛や馬なども見えた。だが目に見えている以外の鳴き声が、あちらこちらから聞こえてくるではないか。

 いったい、どんな動物がどこで鳴いているのだろうか。見回しても、とんと見当がつかないときたものだ。

 そんな様々な鳴き声が外にまで響く。

 ここの近くにほかの開発部があったとしたら、ずっとその臭いと音に悩まされ続ける事になったかもしれない。いや、むしろそういった事があったからこそ今の形になっているのだろうか。


「数分もすれば鼻も慣れるから問題ない。さあ、次はこっちだ」


 そのあたりについては不明だが、この生牧技研では、この世界の生物について幅広く研究しているとの事だ。

 室長のノリマサは、たいそう活発で勢いばかりな印象のある大男だが、研究者として相当に優秀だった。各施設の説明はわかりやすく、ここで行われている全ての研究と動物達を詳細に把握していた。

 いわく、ここの主な研究内容は、大陸各地にいる動物達の生態調査だそうだ。

 どこにどのような動物がいて、その大地でどのように暮らしてきたのか。そしてどのように適合してきたのか。

 動物達の足跡を辿れば思いがけない歴史を発見出来る事もあると、ノリマサは少し興奮気味だ。

 何でも、数種の動物がどういった過程を経て大陸を移動したのかを調査したところ、まさか種類も生態もまったく違うはずが同じ場所に到達したというではないか。

 そしてそこには、大昔に滅んだと思われる聖域の痕跡があったという。


「あれには驚いた。何もない荒野だと思ったら、昔は楽園だったわけだからな。しかもだ。今でも健在だったならば、大陸最大の聖域であっただろうほどに広大だった。それがどうしてあのようになってしまったのか。謎だ……」


 そこまでを饒舌に語ったノリマサは、言うだけ言った後に腕を組んで考え込み出した。

 彼は相当な研究者気質のようで、ちょくちょくミラの事を忘れては、こうして考察を始める。そして、そろそろとミラが声をかけたら思い出したように案内を再開するというのが、何度かあった。

 ただ今回は、これまでと少し違う。


『滅びた聖域か。ともなると、その場の核となる存在の消失などが主な原因だな。我が眷属の他、聖獣や霊獣の類であったり、特別な力を秘めた何かであったりと原因には色々あるが、そこまで大きな聖域ともなると、どれほどの核が存在したのか』


『……あらあら、大きな聖域……ねぇ。えーっと、もしかしてですけどシン様だったりしません?』


『……あ』


 そのように繰り広げられる精霊王とマーテルの会話。そうしたやり取りの末に辿り着いたのは、まさかの推測だった。

 聖域に必要な要素は複数あるが、その一つとして統治者の存在が挙げられた。精霊王が言うに、精霊達──主に上位精霊などがその任に就いている事が多いという。または知恵と力を兼ね備えた獣といった存在も核になりえるそうだ。

 そして核となる存在の力によって聖域の規模というのもまた変化するのだが、過去にあった大陸一の聖域とはなんだろうかという問題に対して実にわかりやすい答えが導かれた。


(ほぅ、核の存在か。そのようなものも必要だったのじゃな! 聖域復元に成功したり失敗したりしたのは、その要素によるものじゃったか)


 ミラはかつてダンブルフ時代に、大陸各地に存在する聖域跡を再び聖域として復活させるという実験を行っていた。

 その成果は、失敗だったり成功だったりとまちまちだ。だが今回、ぽろりと精霊王が告げた言葉で、その要因の一つを知る事となる。

 思えば確かに復活に成功した聖域は、ペガサスやロッツエレファス、ウムガルナなどが住処としても利用している場所になっていると。


「それはもしかしたら、精霊王殿と関係するやもしれぬぞ。聖域には統治者が必要となるのじゃが、過去の出来事が原因で精霊宮殿から出られなくなったからのぅ。当時に統治していた聖域があったならば、そこはきっと」

 長い間、統治者である精霊王が不在となった聖域。しかも精霊王を超える者などいないため、誰かが代理として統治する事も出来ない規模だ。ともなれば今その聖域はどうなっているのか、想像しやすいだろう。

 そう思ったミラは、それとなくノリマサに伝えた。

 するとどうだ。


「統治者、か。聖域にはそのような秘密が! しかも精霊王となれば、あの広さも頷ける!」


 ミラの言葉には、納得のいく説得力があったのだろう。ノリマサはきっと間違いないと、ますます興奮した様子でノートを取り出し何かを書き込んでいく。

 色々と着想を得る事が出来たようだ。だとしたらと、失われた聖域について様々な考察を立てては夢中で筆を走らせる。

 更に、ミラの事を忘れた様子である。


「……まあ、よいか」


 術の事になれば、ミラもまた同じだ。だからこそシンパシーを感じたのか、落ち着くまでそっとしておいて一人でのんびり見て回ろうと歩き出すミラだった。











好きだけど、あまり見つからない味みたいなものってありませんか?


一番好きだったお好み焼きフレーバーのポテトチップスは、いつの間にか見なくなりました。


アイスというジャンルにおいて一番好きなタイプがフローズンヨーグルトなのですが、これもまた近くのスーパーでは、どこも取り扱ってはいません。


そして数ヶ月ほど前から昔ながらのミルク味のアイスキャンディが取り扱われるようになり、喜んで買っていたのですが、スーパーから消えました……。センタンというところの、アイスキャンディです。


しかし! なんと代わりに並び始めたのが、プリン味のアイスではありませんか!

プリン味。これもまた、好きな味の一つです!

プリンよりもプリン味のアイスの方が好きなくらいです!


そしてアイスといえば、スイカバー!

もうそんな季節が近づいてきました。

ただ箱で買うと、もれなく半分がメロンバー……。

中にはメロンバーがメインだろうという方もいるでしょう。

しかしスイカバー好きな自分にとっては、どうにも買い辛いんですよねぇ。

近くにメロンバー好きがいたなら、一緒に買ってトレード出来るのに……。

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― 新着の感想 ―
タイムマシンの話… DTガールでは、タイムマシンがあったし(笑) 薬学研究室… マーテルが出てきて、加護とかアドバイスを与えたら急成長しそうな気がする。 芥子、大麻、鳥兜、コカ… 毒草畑なのですね…
[良い点] 聖域開発の第一人者(大浪費)の長年の謎も解決してよかったよかった(シン様、自分の聖域を忘れていた件についてはそっと目を反らす)
[一言] プリン味のアイスが好きなのわかりますw でも私は普通のプリンの方が好きです。 おすすめは岐阜高山にある酒造店が作ってる地酒プリンです。 か ちょっと酔っちゃうぐらいお酒が入ってますが、アレは…
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