470 ロマンの筆頭
もうじきマリアナスピンオフの最終巻が発売になるようです!
巻末にはエピローグも……!
こちらもよろしくお願いします!
四百七十
宇宙開発の未来。現代では、民間の宇宙旅行会社などがあって幾らか身近なものだったが、一から宇宙を目指すというのは相当に困難のようだ。
「お、何やらあそこにあるのは、どうにも毛色が違うように見えるが、あれはどういったものじゃろうか?」
それでも宇宙を目指す意志に溢れた開発室を見回していたミラは、ふとそれを目にするなり興味深げに問うた。
ロケットに人工衛星、作業用ドローン、宇宙ステーションの骨組みなど。モニターには研究のために制作された様々なものが映し出されていた。
それら全ては、だいたい宇宙に関係する機材諸々だとわかる。けれど、どうにも一つだけ用途不明の機材が存在していた。
「ん? どれの事だ?」
「ほれ、あの魔界にでも繋がってそうなゲートに見えるアレじゃよ」
ミラがそれだと指し示すモニターに映っていたもの。それは、機械と術式に塗れてごてごてとした輪であった。
人よりも一回りほど大きい程度だろうか。謎の輪が、何とも不気味な存在感を放ちながら鎮座していた。それこそ生贄でも捧げれば魔界の扉が開きそうな、おどろおどろしい代物だ。
「ん? ああ、あれか」
それを見やったアラトは、少しばかり苦笑交じりに納得を示した。そして「まあ、確かに魔界っぽいな」と続けながら、あれも研究の一環で作ったものだと簡潔に説明してくれた。
いわく、魔界には繋がらないものの、ゲートというのは近いとの事だ。
「近い……というともしや!」
宇宙、そしてゲート。この二つから連想出来るものに、ミラは心当たりがあった。それはもう、ロマン溢れる心当たりが。
宇宙を題材としたSFものには、もはや欠かせない存在といっても過言ではないだろう。
そう、広大な宇宙を一瞬で移動するための装置。宇宙の大航海時代を現実のものとするために必須の装置。星間ワープゲートだ。
「もうわかっているようだね。その通り! それはタイムマシンさ!」
アラトは、まるで同じロマンを追い求める同志を歓迎するかのように両手を広げて叫んだ。
「……ん?」
「……え?」
瞬間ミラの顔からきょとんと間が抜けると、それを前にしたアラトの表情に困惑が浮かぶ。
よもや、ここにきてのすれ違いだった。
「いやいや、宇宙なのじゃろう!? それでゲートとくれば星間ワープじゃろうが!」
「待て待て待て。星間ゲートといえば、宇宙船で通るものだ。なら、あんなに小さいはずがないだろう。大きさからして、他のものだってわからないか? わかったらタイムマシンの可能性だって十分に思い付いたはずだ!」
宇宙へのロマンもあってか、意見をぶつけ合う二人。
ミラは、宇宙開発なのだから星間ワープゲートだと思うに決まっていると主張する。
対するアラトは、ブラックホールを使ったタイムワープの理論があったりする通り、タイムマシンもまた宇宙の分野であると反論した。
それから十数分後。共に折れぬままだった中で、ミラが口にした一言で状況に変化が訪れる事になる。
「──して、その進捗はどういった感じになっておるんじゃ?」
言い合いながらも、ふと芽生えたタイムマシンへの興味。期待した星間ワープゲートではなかったものの、タイムマシンもまたロマンの塊であるのは間違いない。
すると今度は、本当にタイムスリップなどという事が可能なのかどうかという疑問が浮かぶ。
次に、過去に行くのか未来に行くのか。そしてどれだけの時を跳躍出来るのかが気になるところだ。
「進捗かぁ……うーん、まあ何と言うか──」
どこか歯切れの悪い反応から始まったアラトが言うに、それはやはり現代においてもまったく形になっていない技術という事もあって成果はさっぱりだそうだ。
「未来への一方通行なら、極限まで時間を引き延ばしたり一時的に停滞させたりして十年後とかに起こすなんてやり方でいけそうだけど」
「それじゃとタイムスリップではなく、コールドスリープの類じゃろう。どちらもSFでよく見るパターンじゃな。目が覚めたら予定よりずっと長い年月が経っていて文明が滅んでいた、みたいな物語を見た気がするのぅ」
「まあ、体感的にはタイムスリップみたいなものさ。それならタイムマシンと呼んでもいいんじゃないかと……思いたいんだけどやっぱりそうだよなぁ」
目が覚めたら未来の世界。過程はどうであれ結果だけみれば、未来へのタイムスリップにみえる。とはいえその方法を口にしたアラト自身、それは邪道だと考えているようだ。
そのためもあってか現時点においての進捗は、ほぼゼロというのが現状だという事だった。
「なんじゃそうなのか。あんな意味ありげなものを作っているのじゃから何かしらあると思うたが。これだけ技術者が集まってもわからんものは、わからんのじゃな。……まあ、タイムマシンなぞファンタジーの中でも更にファンタジーじゃからのぅ。仕方のないところか」
ゲームが現実になるなどという、とんでもファンタジーを絶賛体験中ではあるが、タイムマシンという存在はそれ以上のようだ。
ならば、これだけの頭脳や技術者が集まりながら進捗無しでも無理はない。と、納得したような反応をしたミラであったが、それをアラトは不甲斐ないと思われたように感じたようだ。
「マシンについては真っ白だが、理論は更に前進しているのは確かでね──!」
このまま帰すわけにはいかないといった気迫を漲らせたアラトは、面目躍如といった調子で語り始めた。タイムスリップについてと、その際に障害となる問題についてを。
アラトが言うに、タイムマシンの開発は進んでいないが、それに関係する技術の研究は幾つも実施されているとの事だ。
題材が題材だけに、その研究の分野は多方面にわたっており、それこそ無数の理論や推論、仮説などが乱立しているという。
「その中の一つとして僕が提唱しているのが、全宇宙共通座標論というものなんだけどね。これはまあ言ってみれば理想と違って、どれだけタイムスリップを成功させるのが困難なのかを示すものだったりするんだ──」
そんな前置きから始まったアラトの解説。それは、ただでさえややこしいタイムマシンの論争を更に加速させるようなものだった。
いわく、誰かがタイムマシンの開発は不可能だと言う。そしてその理由は、誰も未来からタイムマシンで来ていないからであると定義するからだ。
今よりも遥かに技術が進歩すれば、ずっと遠い未来にタイムマシンが作られてもおかしくはない。だとしたら、それを使って現代に誰かしらが来る事だって出来るだろうに、そのような存在の証明は一切されていない。
ゆえに、タイムマシンなど出来るはずがないというのが仮説の一つである。
対して、完成してもわざわざ辺境の地球に来るはずがないなど色々と反論などもあるが、そのあたりはさして重要ではないらしい。
アラトが打ち立てた説というのは、その点について、もう一つの可能性を示唆したものだそうだ。
「──思ったわけさ。タイムスリップなんてほどの超常現象にもなれば、どれほどの技術があっても限界があるんじゃないかってね。つまりは、出来ても規模が限られるって思ったんだよ。それこそ一定の質量しか送れないとかさ。でだ、そうすると今度はタイムスリップが成功した後に多くの制限がついてしまう事になる──」
アラトが考えた理論は、まずタイムスリップが可能だったとした場合から始まっていた。
そしてタイムスリップは出来たが、なぜ地球に未来人は来ていないのか、またはそういった痕跡がないのかという部分の考察を進めていったとの事だ。
その中の一つの推論として組み立てたのが、全宇宙共通座標論だそうだ。
「まず初めに考えたのは、ここが未来の地球だったとして、じゃあ五十年前の同じ場所にタイムスリップしたらどうなるかって事だ。よくあるタイムスリップものだと、周囲の風景が変わったりしたり、急に人が現れたって周りが驚いていたり、服装の違いで目立ってみたり、新聞とかで五十年前と確認して成功だって喜んだり──……まあ、色々あると思うんだけど、そういうパターンが多いよね。ただ、そもそもそれって世界の全てが地球しかないみたいな状況じゃなきゃ成り立たないんじゃないかな。考えてごらんよ、地球は広大な宇宙を漂う惑星の一つでしかないって事を。もしも五十年前の今の場所にタイムスリップしたとしたら、そこはほぼ確実に宇宙空間だ。目的地の地球だって、五十年前の場所に戻っている事になる。つまりタイムスリップが成功した暁には、突然何もない宇宙空間に放り出されるわけだ。そこから過去の地球に行くなんて、どうしたって不可能だろう?」
よほど誰かに聞いてほしかったのか、それはもう饒舌に語ったアラト。
それでいてまだまだ足りないようだ。少しばかりの間を置いて、ミラが「ふむ、そう言われるとそんな気もするのぅ」と答えるなり、「そうだよね! でだ──」と続きを話し始めた。
タイムスリップについてアラトが特に気にしているのは、送れる最大質量だそうだ。
もしも質量や大きさなどに制限がなかった場合、アラトの理論は崩壊するという。なぜならば、五十年前の地球にまで航行できる宇宙船ごとタイムスリップしてしまえばいいからだ。
しかしそこに制限があれば、理論は幾らかの現実味を帯びてくる。数百キログラム程度だとしたら、過酷な宇宙空間で生存出来る状態を保ちつつ、更には地球にまで辿り着ける手段を確保するというのは相当に困難といえるだろう。
「制限があったとしたら次に思いつくのは、五十年前の地球の座標を計算して、そこにタイムマシンごと持って行ってしまうという方法だ──」
アラトの話は止まらない。むしろますます調子が上がり始めていた。
それというのも、ここに集まっているのは彼と似たり寄ったりな人物が多いからだろう。討論や論争などは出来ても、ただ純粋に話を聞いてくれるという人物がほとんどいないのだ。
ゆえに、なるほどと話を聞いてくれるミラのような一般人はアラトにとって貴重な存在であった。
そんな水を得た魚のようなアラトが展開する、独自のタイムマシン理論。五十年前に地球があった傍でタイムマシンを使用した場合はどうなるかというものだが、これもまた相当に困難であるとの事だ。
なんといっても限られた装備だけで大気圏突入を単独で成功させなければいけないのだから。
「ふーむ、いっそ初めから地球の上に出られればよいと思うが、そういうわけにはいかんのかのぅ?」
もう地球の近くにまで来たのならば、タイムスリップ先を宇宙空間ではなく地表にする事は出来ないのだろうかとミラは考える。
未来の発達した科学力ならば地球が宇宙空間をどれだけの速度で移動していようとも、その軌道をピタリと予測出来るのではないかと思い、そんな発想に至ったわけだ。
最初から地上ならば、むしろ裸でしかタイムスリップ出来ないとしても倫理以外に問題はないのだから。
「いい考えだ! そう言ってくれるのを待っていたよ!」
そんなミラの言葉に対するアラトの反応は、歓喜であった。それこそ理想的なタイミングで理想的な事を言ってくれたと称賛するくらいの喜びようだ。
「僕はね、そうするには重大な問題があると予想しているんだ──」
その原因として存在するのは、とても大事な物理法則であると告げるアラトは、更にややこしい話を始めた。まず何よりも重要なのは、慣性の法則だと。
それらの内容を要約すると、こうだ。
タイムスリップ中は、宇宙の物理法則の外側に出てしまう可能性が高い。そうなればタイムスリップ後は慣性もゼロの状態で現宇宙に戻ってくる事になる。
そんな状態で、宇宙空間を物凄い速度で移動する地球の地表に出たらどうなってしまうのかという問題だ。
「あー……なるほどのぅ」
嬉しそうに話すアラトに少しばかり悔しさを感じつつも、ミラは言われてみればその危険性も十分にありそうだと納得を示した。
あまりにも当然過ぎて忘れてしまいそうになるが、今は何も動いているように感じないのは慣性によって惑星と共に動いているからこそだ。
それがゼロの状態で突然地表に出現したらどうなるのか。想像もつかないが、悲惨な事になるのはまず間違いないだろう。
その可能性にミラが気付けば、アラトは大変満足そうに笑った。
「──とまあ色々と言ったけど、結局は妄想でしかないんだよね。もしかしたら単独で大気圏に突入出来るスーツがあるかもしれないし。一度の質量が制限されているとしたら、何度もタイムマシンを起動して現地に必要物資を送り込むなんて事も出来る。たとえタイムマシンのクールダウンがあったとしても、時間を越えて送るのならまったく関係ないからね。何年経とうが、同じ時間の同じ場所に送り込めば受け取り手に時差なんてない。でもタイムスリップなんて未知の現象だ。時空への干渉で歪みが発生し、同じ時間と場所の指定は出来ないなんて場合もある。だから、答えなんて一生出ないのかもしれない。それこそタイムマシンが完成しないとね」
それはもう思う存分に語ったアラトだが、それら全てをただの妄想であると言いまとめて解説を終えた。
結論としては、まったくわからないというもの。だがそれでいて──むしろだからこそ面白いのだと満足そうであった。
先日、鍋以外に野菜をしっかり食べる方法はないかと考えていたところ
ふと思い付いたものがありました。
それを実際に試してみたら……
おお、結構おいしい!!! となりました!
それは……
麻婆キャベツです!!!
週に一度は食べている麻婆豆腐。そのために買っているのは、新宿中村屋の麻婆豆腐の素!
これを、たっぷりのキャベツを炒めたそこにぶち込むのです!
そこへ更に鶏むね肉などを入れれば、ヘルシーでタンパク質もばっちり!
我ながら、良い感じのレパートリーが増えました。
最近は、ちょっとキャベツの様子が春気味でボリューム不足なので、オートミールがメインになっていますが……
またいい感じのキャベツが並ぶようになったら、ちょくちょく作って行こうと思います!
麻婆豆腐の素……なんだか他にも色々と使えそうな感じがしますね……。




