459 九賢者の研究
さて、先週に外伝版3巻が発売となりました。
是非ともよろしくお願いします!
四百五十九
本人の意に反して広がっていく、ソウルハウルの武勇伝。
何度か否定しても温かい目を向けられるソウルハウルは、結果「もういい、この話は終わりだ」とそっぽを向いて無理矢理に話題を終わらせた。
そのように色々とありつつも質問コーナーは続いていく。
九賢者として復帰した後、現在院長を務めている孤児院の運営はどうするのかといったものや、今後は他にも色々なイベントに登場してくれるのかといった当たり障りのない質問。
九賢者帰還という事は銀の連塔の経費が増えたりするのか。九賢者もまた毎月の恒例行事である塔の研究発表会に登場したりしてくれるのか。ルミナリアが直属の部隊を編成しているように、他の九賢者もまた直属の部隊を持つのか。そうならば、その選出方法はどうなるのか。そのように術士や軍事関係の質問なども多く上がった。
それは国の未来や有り様など、今後についてを見据えた有意義な時間といえた。
ただ不意に、そんな流れにそぐわぬ質問がぽんと浮かんだ。
「あの、カグラ様はお付き合いしている方とかいらっしゃるのですか!?」
真面目な質疑応答が繰り広げられていた真っ只中でありながら、男が口にした質問。そしてそれは、誰もが聞きたそうにしながらも今の流れに挟む事が出来ないものであった。
内容は言葉の通りであり、本来はこのような場で聞く事ではないものであっただろう。
けれどここにいる全ての男は、そんな場違いな彼の発言を咎めるような事はしなかった。むしろ、この空気でそれを言えた勇気を心の中で絶賛していた。
一目見ただけならば、どこか儚げで清楚な美少女に見えるカグラ。そんな彼女を目にしたならば、男達がざわめき立つのも当然といえよう。だからこそ誰もが気になったそれが、こうして質問となったわけだ。
「お付き合いっていうと、彼氏って事? いないけど、悪い?」
質問者の意図と受け取り手の認識というのは、時折かみ合わず少々のすれ違いを生んでしまう事がある。
そして今回もまた、その形が出来上がってしまったようだ。
自分では、色々と気の利くいい女だと思っているカグラ。しかし実際のところ、いまだそういった縁に恵まれた事はなく、だからこそあまり触れてはいけない部分だった。
また、その事をよく知るからこそミラ達はカグラの前でそういった話題を出さないようにしていた。
(あー、やりおったな……)
体面上は微笑んだままでありながら、もの凄い勢いで剣呑な雰囲気を漂わせていくカグラ。
その様子を感じ取ったミラは、これまた面倒な事になりそうだなとソロモンを見やる。彼には数々の功績があるからだ。いざという時、色々と被害を受けながらも仲裁してきたという功績が。
ただソロモンには今の立場上という問題もあるのだろう、何やらルミナリアと言い合っていた。その様子からして、どちらがカグラを宥めるかで揉めているのだろうと予想出来る。
ミラは、あちらと関係のない席にいてよかったと、心の底から安堵した。
と、そのようにしてちょっとした波乱の種が生じたのも束の間。
「悪いだなんて滅相もない! むしろありがとうございます! カグラ様、万歳!」
どうしようかと右往左往するソロモン達であったが、そんな内情を知らぬ質問者がカグラの様子などまったく察する事なく、満面の笑みを浮かべてそう叫んだのだ。
またそれだけでは終わらない。彼の言葉に続くようにして、方々から万歳の声が上がる。
その声は全て、カグラを一目見て心を射抜かれた男達の声であった。そして今の彼らの心には、共通の感情が浮かんでいた。『それなら安心して、推せる!』と。
(おお……まさか意図せずして褒め殺しの策と同じ流れになりおったぞ!)
不機嫌になったカグラを宥める方法は幾つかある。今回は偶然にもその中の一つである、ひたすら褒めて誤魔化すというやり方と同じような状況が生まれたではないか。
見れば、『カグラ様、万歳』の他、『一目惚れでした』だの『一生ついていきます』だの『その目、最高です』だのといった声まで聞こえてくる状態だ。
しかもそこには、かつてミラ達が実行していたものとは比べ物にならないほどの本気度が含まれていた。カグラに惚れ込んだ男達の迸る熱きパッションだ。
「そ……そう。まあ、好きにすればいいんじゃない」
真っ直ぐな愛が伝わったからか。それとも、意図がすれ違っていた事に気づいたのか。カグラから剣呑さが掻き消えた。ただ、その代わりに戸惑いと若干の引いた感情が浮かんでいた。
何やらアイドルかのように祀り上げられ始めた状況に、ついていけていない様子だ。
とはいえ、それらが好意である点は理解したようで、カグラの機嫌は直ったようだ。ただ今度はキラキラした男達の視線に耐え切れなくなったのか、「はい、次!」と司会者に別の質問をするよう促した。
(あんなにアイドル扱いされるのは初めてじゃろうからのぅ。いい感じに落ち着いたようじゃな。うむ、よかったよかった)
うまく収まってくれたようだとミラが安心する中、見ればソロモン達もまた安堵したのか、ぐったりと突っ伏していた。
それからも幾度か質疑応答は続いたが、ソロモンが仕掛けたコントロールがうまく働いた。騒動の種になるような事や触れられると困るような内容の質問は出ず、観衆達も十分に満足してくれたようだ。
中にはいくつかメイリンに対しての質問もあったが、ソロモンが用意した対応表のおかげもあって、どうにか乗り越えていた。
そうして質問コーナーが終わったら、次はこれまた目玉の一つとなる九賢者の研究コーナーだ。
ここでは九賢者による未発表の研究成果の一部が公開され、更には今後の銀の連塔で進められる研究内容なども発表された。
「──というような感じで、式神による結界の構築を進めていく予定になっているわね」
カグラが発表したのは、汎用性を向上させた自動制御型式神。そして今後の研究テーマは、それを応用したものであった。
なお会議の時は、マンチカンのみならず、シャムにラグドール、ミヌエット、ロシアンブルーやペルシャ、ラガマフィンに三毛など。様々な種類の猫式神を創り出す研究に没頭したいとのたまっていたカグラ。
当然ながら却下。趣味で研究するのは構わないが、塔での正式な研究は術士全体のためになるものにという指導が入った。その結果が、カグラの発表した新たな自動制御型式神の応用方法だ。
と、そうしてカグラの発表が終わったところで感心したような拍手が響く中、ファンによるカグラコールもまた響いていた。
「──まあ、このぐらいか。まずはゴーレムの調整についてまとめる。以上だ」
ソウルハウルは、これでもかというくらい簡潔に話して説明を終わらせた。
未発表の研究成果についてはゴーレム同士の合体に触れて、今後の研究としてその組み合わせと適性の調整を挙げるなり、これで終わりだと司会者を見やった。
なお会議の時は、今後の研究内容として、白骨の状態からでも肉体を再構築する方法を挙げていたソウルハウル。
しかしそれは活用出来る範囲が極めて限定的過ぎるとして却下。今では死霊術のメインとすら見られているゴーレムの運用強化を進めるようにというソロモンの指摘によって、このような発表となったわけだ。
ソウルハウルにしてみれば、実に面白味のない内容である。だが、あちらこちらでゴーレムが活躍している事を知る観衆達にしてみれば朗報だ。更に便利になるのかと盛り上がりを見せていた。
「──そうすれば直接的に効果はなくても、治癒する事が可能なのよ。だから今後は塔の方で医療との併用について、もっと深めていきたいと思います」
アルテシアの発表は、誰よりも関心を集めた。
聖術では回復出来ない中毒や病でも、いくつかの道具を併用する事で可能とする方法の発表。加えて現在でも医療の現場にて活躍している聖術を、更に追究していくというのがアルテシアの出した指針だ。
また彼女だけは、会議の時に提案した内容そのままであった。
これまでに数多くの子供達の面倒を見てきたアルテシア。ともなれば、やはり怪我のみならず病気などにも見舞われるものだ。
聖術によってどうにか出来る範囲ならば、まったく問題はない。
風邪のような症状ならば、体力回復や代謝の促進、痛みの緩和、解熱など、幾つかの聖術を重ねる事で対処が可能だった。
だが世の中には、聖術ではどうにもならない病気などが多く存在する。
現時点においては、外科手術の際に聖術を利用する事で、これまで不可能とされていた治療が行えるようにもなっている。また縫合ではなく聖術による再生で傷を塞ぐため、術後から退院までが劇的に早くなった。
しかし、それでもまだすべての病気に対応出来るというわけではない。そして過去においてアルテシアは、そのどうにもならない状況に直面した事があった。
ゆえに、以前より独学でその方面の研究を進めていた。そして今回、それらの研究成果を携え、塔にて本格的な研究と実験に着手していく事となったわけだ。
今よりも対応する範囲を大きく広げ、救える患者を増やす。それを可能とする医術と聖術の融合を研究のメインに据える。病で苦しむ人々のため。ひいては、何よりも愛する子供達のために。
(これまでにも研究はされていたが、あくまで医療にも併用出来る術という類じゃったからのぅ。それが、医療との併用を前提としての研究か。ふむ、悔しいが将来性でいえば抜群の期待度じゃな……)
術士別の人気度において、聖術士は魔術士と並び常にトップクラスだ。それにもかかわらず、ここで更にその人気を伸ばすであろう要素が加わった。
アルテシアの宣言は、それほどまでの影響を大陸中に及ぼす事となる。そして同時に今日のこの時は、いずれ誕生する聖術医の始まりとなる瞬間でもあった。
「──とまあ、ここまでが俺の調べた結果になる。で、今後は、この仕組みや条件について追究していくつもりだ!」
続くラストラーダの発表は、降魔術同士の融合による進化だった。けれど、相性だったり様々な条件が複雑に絡んでいたりするため簡単には成功しない。
よって今後の研究テーマとして、それらの解明を進めると告げた。
極めて粘度の高い蜘蛛糸や、強靭な蜘蛛糸など、蜘蛛糸一つだけでも相当なバリエーションが考えられるそうだ。
それらは、より戦闘に特化させたり災害救助といった現場で役に立ったりと、様々な場面での活躍が期待出来る。
降魔術もまた、十分な将来性を見せつけていた。
「──えーっと、環境が大切ヨ。同じ修行でも、特性に合ったマナが強いところだと効果的ネ。それと、んー……身体強化と属性強化を合わせられる事がわかったから、それをいっぱい試してみるつもりヨ!」
問題のメイリンだが、ところどころで原稿を確認しつつ無事に発表を終えた。
仙術には、属性を操る種類も多くある。そしてそれらを体得するための修行は、その属性に近い場所で行う事で最大限の効率を得られる。数多くの土地を巡り、行く先々で修行してきたメイリンだからこそ辿り着いた結論だ。
また、そういった修行の末に見出した次の領域。自然のエネルギーを身体に宿すという仙術士の新たな力。今後メイリンは、そのあたりを追求していくと続けた。
(どうなるかと思うたが、無事に終わったようじゃな)
途中、どこそこが環境景色共に最高だったなど、実際に現地に赴いていたような発言をしそうになっていたが、その都度どうにか踏み止まったメイリン。その点についてソロモンが繰り返し言い聞かせていた成果である。九賢者という軍の最高戦力が誰にも知られず諸国を漫遊していた事は、出来る限り知られたくない秘密なのだ。
さて、先週のチートデイは
豚カルビの旨塩ポン鉄板焼きでした!!
たっぷりキャベツと塩ダレが美味しくご飯が進みます!
ついでにから揚げも2個付きです!
存分に満喫させていただきました!
ところで最近……美味しいお菓子を見つけました。
それは、セブンイレブンのチョコラスクです!!
6枚入りで200円くらいするので少しお高めですが、これがまた美味しい!
全体がチョコでコーティングされているため、チョコ感も抜群なんです!
いやはや、そんなものをさらっと買う事が出来るなんて、自分もまあ随分と遠くまできてしまったものです。
ありがとうございます!!!




