457 九賢者物語、新章
四百五十七
久しぶりに出会ったディノワール商会の御曹司、セドリック。その口利きもあってか、今日の買い物は更に割引してもらえたミラ達は、ここぞとばかりに買い込んだ。
しかも今回、ミラがマリアナを大事な人と紹介した事もあってか、セドリックはマリアナにも優待券をくれたではないか。普段からよく使うと言っていた事もあって、これにはマリアナも大喜びであった。
そうしてセドリックと別れた後も、建国祭で賑わう街を練り歩き存分に楽しむミラ達。
「おっと、そろそろじゃな!」
「はい、参りましょう!」
「きゅい!」
更に時間は過ぎ、夕暮れ時に差し掛かったところだ。
今日もまたお楽しみのショータイムが始まるより少し早い時間だが、ミラ達は少しでもいい場所を取るため早めにメインステージに向かった。
「おお……よもやこれほどとは」
メインステージに到着したミラは、そこに広がる光景を前にして驚愕した。
まだ早い時間でありながら昨日とは比べ物にならないほどの観衆によって、メインステージ前は埋め尽くされていたのだ。
とはいえ、本来ならばそれも予想出来た事であった。
なんといっても三十年ぶりに帰還した九賢者の五人が参加するイベントがこの後に始まるのだ。我先にと待つ者だっているだろう。
中には朝から陣取っていた者までもいたようだ。それほどまでに大盛況のメインステージ。担当の係員達といったら、もう上を下への大忙しといった様子である。
(んーむ、これは困ったのぅ……)
メインステージ前は既に満員以上となっているため、このままここにいても満足にイベントを楽しむ事は出来そうにない。
まさかこんなところにも九賢者の影響が出るとはと、読みの甘さを思い知ったミラは、ならばどうしようかと考える。
九賢者Q&Aだったり、本人が語る九賢者ヒストリーだったりと、愉快そうな内容が盛りだくさんのイベントだ。
また何より、マリアナが昨日から楽しみにしていたイベントでもある。よく見える場所で見せたかったという気持ちもあった。
(ダークナイトで場所取りでもしておけばよかったのぅ)
こうなる事がわかっていれば、朝からダークナイトを配置しておいたのに。と、後々に間違いなく怒られるだろう策を思い浮かべつつ、さてこれからどうしようかと考えるミラ。
ワーズランベールの手を借りて、そっと空いている関係者席に紛れ込む事も出来る。ペガサスに乗って、観衆達の上から観覧するなんて事も可能だ。
召喚術を駆使すれば、やりようは幾らでもあるというもの。
と、ミラが様々な手段を頭に描いていたところだ──。
「今日は、こちらで見るのは難しそうですね」
溢れ返る観衆を前に、マリアナが諦めの声を漏らした。とはいえそれも仕方がない。もはや入り込む余地などまったくないとわかるほどに、広場は人でごった返しているのだから。
けれど一緒にイベントを楽しむには、それをどうにかしなければと知恵を絞るミラ。
ただ、そんな往生際の悪いミラとは反面に、マリアナの切り替えは早かった。
「では、ミラ様。あちらに向かいましょう」
そう言うなりメインステージから離れて行ってしまったのだ。
「う……うむ」
まだ手はあるはずだ。そう粘ろうとするミラであったが、マリアナが行ってしまってはどうしようもない。
ところで、あちらとはどちらだろう。そう思いながらも自身の計画性の無さを悔やみつつ、とぼとぼとマリアナの後についていく。
「こ……ここは!」
そうして到着したのは、メインステージの裏手側であった。
しかもマリアナがそこにいた係員と何かしらの言葉を交わしたら、その係員が「どうぞ、マリアナ様」と裏手通路の出入りを許可したではないか。
「参りましょう、ミラ様」
「お、おお、そうじゃな」
促されるままに付いていったミラは、そのまま気づけばメインステージ脇にある立派な櫓の席に落ち着いていた。
特等席だ。もしやこうなる事を予想して、事前にマリアナが予約などをしていてくれたのだろうか。
などと思い、それとなく訊いてみたミラ。
すると、その答えはもっと単純なものであった。
マリアナが言うに、ここは関係者専用の席だそうだ。つまりは、お偉いさんだとかステージに出演する演者の親族だとかいった者達の席というわけだ。
見回せば、現在ステージ上で演奏している音楽家の家族と思しき者達の姿が見受けられた。他にも建国祭の出資者だったり、休暇中の官僚だったりといった人物などもいるようだ。
そんな席に座れた理由。それは、ミラが精霊女王と呼ばれる有名な冒険者だから──ではない。関係者専用の席であるため、どれだけ有名だからといって入れる場所ではないのだ。
ではなぜかというと、やはりマリアナが召喚術の塔の補佐官という立場であったからだ。
アルカイト王国でも重要な銀の連塔を支える補佐官は、国にとっても大切な関係者というわけである。
だからこそ特等席を利用出来た次第だ。
早く始まらないかなと楽しみな様子のマリアナ。ルナもまた騒がしい人々の群れの中でなくなったからか、マリアナの膝の上ですっかりとリラックスモードだ。
そんな中でミラは、出しゃばらずに最初からマリアナに任せておけばよかったのではと悟り天を仰いでいた。
特等席にてのんびり待つ事暫く。いよいよその時がやってきた。
観衆達と共にミラも待っていた、九賢者帰還を記念するイベントの始まりだ。
「お待たせしました。これより、建国と九賢者様ご帰還記念特別ステージを開始いたします!」
いよいよと出てきた司会者の女性がそれを口にした瞬間だ。周囲から大歓声が沸き起こった。
誰もが半ば諦めつつも願っていた、九賢者の帰還。そんな希望が叶うばかりか一気に五人だ。
その喜びようといったら、もはや本人達にもわけがわからなくなっているようで、ステージ前は若干カルト的な熱気に包まれ始めていく。
しかもカグラにソウルハウルなど、既に強力なファンも付き始めているようだ。あちらこちらからコールの声が響いてきた。
ステージ前の興奮具合といったら、もはや鬼気迫るほどである。
「さあ、もう待ちきれないですよね。実は私もです。ですので、早速登場していただきましょう!」
本来は、ここで幾らばかりか九賢者の歴史的な事を司会者が語る予定だった。けれど観衆達の盛り上がりと雰囲気を考慮して、すぐに進めた方がいいと判断したようだ。
歴史は端折って、そのまま九賢者帰還組の登場へと場面を進める司会者。
(うむうむ、いい判断と言えそうじゃな)
一通りの流れを聞いていたミラは、だからこそ司会者の英断を支持する。このような状況で、アルカイト王国民ならば子供の頃から誰もが知っているような九賢者の歴史を語られても今更というものであろう。勿体ぶらずに早く会わせてくれと、それはもう暴れだしていたかもしれない。
「では、アルカイト王国の歴史を作った偉人にして、術士達が活躍する基盤を作り出した英雄、九賢者様の登場です!」
司会者は、それを察したわけだ。加えて最低限の九賢者基礎知識も忘れずに付け足したあたり、かなりの対応力といえる。
そうして少しばかり早い出番となったが、壮大なオーケストラの演奏と共に今日もまた舞台奥の砦より、カグラ達がステージへと上がっていった。
するとどうだ。その瞬間に上がった歓声は大気を震わせるほどであり、爆発でもしたのかと思えるくらいの激しさで響き渡った。
(……いやはや今更ながら、思っていた以上に影響力を持っているのじゃなぁ)
早速とばかりに声援が上がり、ステージ前は異様な熱気に包まれていく。
対して、そんな注目されるステージに上がった帰還組はというと、その反応も様々だ。
実に無難に笑顔で対応しているカグラ。我関せずといった態度のソウルハウル。
ヒーローの如く全力で声援に応えるのはラストラーダ。ただ微笑むだけのアルテシアは、それでいて観衆の中に子供を見つけるなりとても嬉しそうに手を振っていた。
そしてメイリンはというと、どことなく緊張した面持ちであった。
(やはりメイリンには、少々大変じゃろうからのぅ……)
今回のイベントに含まれる九賢者Q&Aのコーナー。その中には、国の沽券のためにいくつか守らなければいけないラインというものがあった。何でもかんでも正直に答えては、いけないのだ。
特に様々な国を渡り歩いていたメイリンには、そのあたりの線引きがかなり複雑になっていた。
アルカイト王国の国家戦力が多くの他国で何をしていたのか。どのような質問が来ても、そんな疑惑を抱かれないように答えなければいけない。
そしてメイリンは、そういった戦闘以外での腹の探り合いだとか知謀策謀といった類が苦手であった。それでいて下手をするとソロモンに迷惑をかけてしまうと知っているため、その自信のなさと不安が顔に表れているのだ。
とはいえ、そのようなメイリンの弱点など仲間である者ならば誰もが知っている。
(まあ、これならばきっとどうにかなるじゃろう)
だからこそ対策もばっちりだ。メイリンは用意された席に座るなり、九賢者として一般に知られている狐の面を付けた。
これで彼女の視線が幾らか隠せるようになった。よって席の前にある机に貼られた対応表を確認しても気づかれ辛くなったわけだ。
更にはメイリンの隣にカグラとアルテシアが配置されている。いざという時は二人がフォローしていく形だ。
「では早速、こちらのコーナーから始めましょう!」
全員の準備が整ったところで、司会者が舞台後方の大きな看板を指し示す。
するとその看板がくるりと回り、『これまでの事』という文字が現れた。
まず一番最初に始まるのは、きっとここにいる誰もが気になっている事。そう、今回帰還した九賢者達が、これまでの間どこで何をしていたのかについての説明だった。
「覚えている方もいるでしょう。そして、聞いた方もいるでしょう。三十年前のあの日。突如として多くの偉人や英雄達が消えた、大喪失の日を!」
まず一番に司会者は語る。元プレイヤー達の間では『始まりの日』と呼ばれている日の事を。そしてそれは元プレイヤー達以外には『大喪失の日』と呼ばれていた。
理由は、その日に多くの国から国主を含む数多くの英傑や、市場などに多大な影響を与えていた職人などが一斉に消え去ったという現象に由来する。
人によっては、その後、何年、何十年という時を経て再びこの地に帰還した者もいた。けれど今でも大多数が所在不明のままというのが、一般に知られている大喪失の日の現状だ。
またもう一つ、この件については研究結果という形で公表されている事があった。
とある学者が提示した共通点に基づいた事実。それに対して下手な言い訳をするべきではないと、ソロモンらを含む元プレイヤーの国主達が公式に認めたもの。
その内容は、この大喪失の日に消えたのは、すべて天人族であるという事だ。
天人族というのは、不老という特異な身体の元プレイヤー達が奇異な目で見られないようにするためにでっちあげた新種族の呼称である。つまり天人族は、元プレイヤーというわけだ。
そんな天人族が一斉にいなくなったという事実。これについては国主を務める元プレイヤー達より、幾らか説明されていた。
理由はいまだ不明ながら、天へと強制帰還させられてしまったのだと。そして戻ってくるための条件が厳しいため、人によっては直ぐに帰れない。それが一般に広められている天人族の現状だ。
そして同日に全員が姿を消してしまった九賢者もまた天人族であると皆も知っているわけだ。
その事について振り返った司会者は、けれど消えるばかりではなかったと続けた。
「アルカイト王国すべての民が悲しみにくれた日から長い年月が経った今、遂にかつてのルミナリア様のように再び帰還してくださいました。いったいその間に何があったのか。その点について触れていきましょう」
大喪失の日を境にして一斉に姿を消した九賢者。それでいて、再びこの世界に戻ってきた時期にはばらつきがあった。
その原因については、まだはっきりと解明はされてはいない。けれど日之本委員会にて有力とされる説があるとソロモンは言っていた。
それは、始まりの日にログインしたタイミングだ。
(確かあの日は、キャラクリをしている間に日付が変わっておったのじゃったな……)
その結果、威厳たっぷりのダンブルフではなくミラになってしまった。我ながら馬鹿な事をしたものだと、思い出しては心の中で溜息を吐くミラ。
二一一六年、九月十四日。その始まりの日の前日にログインしていたミラは、そこから日をまたいで理想の少女像作成に勤しんでいた。そして作業はシステム内で行われるため、一時的にゲームより外れる事になる。
その間にミラを完成させてから寝落ち。その後、何かしらでキャラメイクが完了してしまい再度ログイン状態となったところで、この世界へと降り立つ事になった。
つまりミラは、日付が始まりの日に替わってから数時間後にログインしたという事になるわけである。
日之本委員会にて有力とされている説は、この部分だ。この数時間という差が、この世界において数十年の差を生み出しているというのだ。
とはいえログイン時間がどうのこうのだとかいった事情や、何十年も不在だった事など、そもそもこの世界にいなかったなどと話したところで、この世に生きる者達にとってみれば、ちんぷんかんぷんな話になるだろう。
だからこそ天人族という設定を流用し、ひとまずの理由としているわけだ。
ただ問題は、戻ってくる時期がばらばらであると認識されている点と、戻ってくるための条件が厳しいとしてしまっている点だ。
それがあるため、都合よく五人揃って戻ってきましたというと、どうにも違和感が出てしまう。ゆえにカグラ達は、この世界に帰還した後、何かしらの理由があって直ぐには国に戻れなかったという形にするのが無難だろうという話になったわけだ。
「──そうして約束通りに大切な人を救ったソウルハウル様は、こうして帰還を果たしたのです!」
大切な人の命を救うため、数多くの困難なダンジョンに挑み続けていたソウルハウル。
激しい戦いと危険な冒険の末、唯一の救いである希少なアイテムを手にいれる事に成功。大切な人の命を救った彼は、目的を達成して帰還した。
そのような物語を司会者が語ったところ、観衆達が一斉に静まり返った。
(な、なんじゃろうか、この静けさは……)
ソウルハウルのでっちあげ物語については、色々と脚色はされているものの一応は事実に基づいた内容となっている。
ただ、その事実自体がもう随分とヒーローじみたものだ。そこへ更に脚色を加えたとなれば流石にやりすぎだろうか。白けてしまったのではないか。
一瞬の静寂にそんな予感を覚えたミラだったが、その直後に気づく。同じ特等席の少し離れた場所に座る女性が、ほろりと涙している事に。
直後だ。静かに、だが温かく優しい拍手が鳴り響いた。
大切な人を救うために己の命も顧みず困難に挑み続け、それを成し遂げて戻ってきたソウルハウル。
その偉業はまさに英雄そのものであり、胸を張って誇れる我が国の九賢者だという歓声が広がっていった。
と、そういった調子で残る四人のこれまでも語られていく。
この世界に帰ってきたのはいいものの、気づけば遠い森の中であったとするカグラ。そこで助けてくれた精霊と仲良くなったが、そこには精霊達を狙う悪の手が伸びていた。
そんな悪から精霊達を守るために奮闘していたところ、かの元凶であったキメラクローゼンが壊滅。精霊達の安寧が戻った事でその役目を終え帰還した。
これが、カグラのストーリーだ。
続き、アルテシアの背景も語られる。
時は、三神国防衛戦の後。多くの戦災孤児が明日を生きるのも困難となっていた時期の事。
この多くの哀れな戦災孤児を見捨てず保護するための孤児院を設立したアルテシア。そして同時期に偶然再会したラストラーダが、彼女の孤児院を手伝い始める。
ただこの時は、あまりにも子供達の数が多かった。そのため同じく三神国防衛戦で疲弊しきっているアルカイト王国への負担を考慮し、連絡していなかったという理由も明らかとした。ソロモン王ならば、理由を聞けば受け入れようとしてしまうだろうからと。
それから時は流れ、当時は子供だった多くの孤児が無事に巣立った。残る孤児もまだいるが、全盛期に比べればずっと少なくなっていた。
そして何よりもアルカイト王国も安定した時期に入った。そこで連絡し、国内にて受け入れ態勢が整ったため、二人はこれを機に帰還する事が出来た。
なお子供達の安全のため、運送にはニルヴァーナ皇国による助力があったとも付け加えられる。実際にはカグラの精霊飛行船だが、その辺りは面倒が多い部分なため、ニルヴァーナの女王アルマと裏で口裏をあわせた形だ。
次は、メイリンだ。
天より帰ってきた時は、遠く離れた無人島だったメイリン。そこは凶悪な魔物や魔獣が跋扈し、海もまた怪物で溢れている絶海の孤島だった。
安全に脱出するため己を鍛え、長い年月をかけてすべての魔物に魔獣、そして怪物を制し、遂に脱出。多少迷いつつも先日無事に帰国を果たした。
このようにして、真実と脚色が混ぜこぜとなった物語が発表されていった。
結果、時期はバラバラながらも九賢者が帰還。その発表は建国祭こそが最適であるとして、この祭りの日に発表されたのだと司会者もまた興奮気味に語る。
なお、九賢者についての事実を知っているのはミラを含めた極一部の関係者のみだ。舞台で熱狂する司会者は、そのでっちあげられた物語が真実と伝えられた罪無き人物の一人であった。
実は先日、こういう宅配ご飯祭りだからという事もあって、とある専門アプリというものを入れてみたんです。
そしたらなんと、初回注文限定の割引みたいなものがあるではないですか!
しかも3000円引きという!!
これは素晴らしいと思い、早速注文しようとしたんです。
なんか凄いお肉のやつを。
割引を適応したら3200円が、何と200円くらいに!
これは素晴らしい! と、注文確定したところです。
何やら確定出来ないではないですか。
よくよく調べてみると、どうやら現金払いだと割引対象外という事実が……。
安心と信頼の現金払いしか選択肢にない自分に、この割引は使えないようです……。
だからといって何かを注文してしまうと今後初回利用ではなくなってしまう形に。
また割引が来た時に……もしかしたら次は現金でも……! なんて考えると、もう……!!!
結果、もう使う機会なさそうだなぁ、なんて思いながら肉メシのサイトを見ています。
そうして先週頼んだのは、デミたま牛焼肉どんぶり です!!!
しかもお肉とご飯増量のスペシャルなやつです!!
大満足の夕食でしたねぇ。
もう肉メシしか勝たん!




