456 建国祭二日目
四百五十六
建国祭二日目の朝。少し早めに起きたミラ達は朝食も済ませた後、早々に街へと繰り出していた。
なお今日は、そこまで念入りな変装をしなかった。建国祭に夢中だからか、それとも弁えているからか、無作法に寄ってたかるような事はなさそうだとわかったからだ。
ちなみに参考対象はセロである。
現状は、まったく問題なさそうだ。むしろマリアナの知名度によるものか、挨拶される事の方がずっと多かった。
そうした中、ソロモンより建国祭二日目始まりの放送が流れる。
『皆おはよう。さあ、堅苦しい挨拶は抜きだ。建国祭二日目を存分に楽しんでほしい──』
ソロモンの声と共に活気づく街。まだ朝だというのに、あっという間にお祭りムードだ。
(しかしまあ、主催側も大変じゃのぅ)
この建国祭の主役という事もあってか帰還組は段取りだ何だと、それはもう忙しそうであった。
国王であるソロモンは中でも多忙であり、加えてルミナリアもまた現役九賢者として色々と動き回っていた。
それらの事を考えれば、ミラという存在になった今は非常に気が楽だ。
そう思い微笑みながら、ミラは余裕をもって街を見渡す。
建国祭の準備など幾らか手伝ったが、それは友人としての範疇。今はただのダンブルフの弟子であり、冒険者の精霊女王だ。
よってミラはルミナリア達に、まあ頑張れよと声をかけるだけで出てきた次第である。なんといっても今はマリアナ、ルナと共に建国祭を楽しむという大切な用事があるのだから。
「おお、まさかこんなセールがあったとはのぅ……!」
一緒に建国祭で賑わう街を練り歩く事暫く。大通りを進んでいたミラは、そこでよく知る店の名を目にして立ち止まった。
その店の名は、『ディノワール商会ルナティックレイク支店』だ。
そう、便利でアイデア満載の冒険者用品を数多く取り揃える冒険者御用達の店であった。
定期的に新商品が販売されるばかりか、その便利さと、どことなくサバイバル用品的な一面を併せ持つ品が多いためか、無性に惹かれるディノワール商会製品。
ミラもまた、そんな製品に魅了されている一人だ。
ゆえに、建国祭記念の大特価と銘打ってセールを行っているディノワール商会に興味津々となっていた。
(いや……しかし今はデート中じゃからな。ここは我慢時じゃ……!)
とはいえ現在は、マリアナと一緒だ。流石にここで扱っているのは冒険者向けであるため、こんな時に行くのはどうかと踏み止まる。
だが、そのようにミラが堪えていたところで、マリアナがよもやの反応をみせた。
「凄いです、ミラ様。こんなにお買い得に!」
ディノワール商会の店舗前に並ぶオススメ特価商品。それらを目にするなりマリアナが即座に反応したではないか。「是非、見ていきましょう!」と、むしろミラ以上に惹かれている様子ですらあった。
なんでもディノワール商会の商品は冒険者用ではあるが、家庭で使っても便利なものが揃っているとの事だ。そのためマリアナも常日頃から利用しているという。
毎日マリアナが作っている食事の中には、このディノワール商会製の調理器具を使っているものもあるそうだ。特に燻製器は画期的な発明品だと饒舌に語る。
また、ルナティックレイクは首都だけあって店舗も大きい。そのため普段利用しているシルバーホーン支店よりも商品が充実しており、だからこそ欲しかったが買えなかったものがあるかもしれない。
そうマリアナは熱意を滾らせていた。
「ふむ……ならば是非とも確認しなければのぅ!」
思えば燻製の香り高い料理を結構食べていた気がする。そんな事を思い出しながら、ミラは更にめくるめく未来の食卓に思いを馳せた。
調理器具が充実すればするほどマリアナの料理が捗る。つまり、それだけ美味しい料理が食べられるようになるというわけだ。
そして何よりも我慢する理由もなくなったとあって、ミラはいざゆかんとばかりに歩き出す。マリアナも、ここになら欲しいものがあるはずと意気込んで、それに続いた。
建国祭という事もあってか、入り口近くには記念特価商品が勢揃いしていた。
定番から拘りの一品まで様々な種類が豊富に揃っているため、ただ見ているだけでも楽しめる内容だ。
「冒険七つ道具。すべて自前の術で賄えるはずが、なぜこうも惹かれてしまうのか……!」
着火用トーチに簡易照明、ヒートナイフや水の消毒棒など。必要ないはずが不思議と心躍る冒険者用品を、いちいちチェックしてしまうミラ。
更には改良型だったり、グレードアップといったりした言葉にも弱い。以前に購入した夏でも涼しく過ごせる服下用品、クルクールの姉妹品であるホットヒートを見つけるなり直ぐ手に取っていた。
季節は冬。場合によっては寒くて起きられない、眠れないといった日もあるだろう。けれど、これがあれば安心だ。
「あ、これは素敵です!」
目的であった調理用品を探していたマリアナは、それとはまた別の調理用品を目にするなり飛びついていた。
すでに発売中である冷凍袋の対をなす、温め箱だ。
あっという間に解凍出来るだけでなく、そのまま温め調理も出来てしまう優れものである。
と、そのようにしてあれもいい、これもいいと目移りしながらも目的の商品をカゴに放り込んでいくミラとマリアナ。
ルナはというと、少しばかり朝が早かったようだ。マリアナのカバンの中で、うとうとしている。
そんなルナがカバンの中で布団代わりにしているものというのもまた、ディノワール商会製の衝撃吸収クッションだった。
冒険者が扱う道具の他、採取する素材の中には壊れやすいものや衝撃に弱いものというのも沢山ある。それらを安全に運ぶための商品であるのだが、ペット用の簡易ベッドとしても人気だったりするのだ。
様々な場面で活躍するディノワール商会の商品。特価ばかりでなく他にも良さそうな新商品などはないかと、また別のコーナーに足を向けた二人。
その途中の事だ。
「おや、ミラさんではありませんか」
ふと、そんな声をかけられて振り返ってみたところ、そこには随分と久しぶりな顔があった。
「おお、お主は……セドリックじゃな! あの日以来じゃのぅ」
セドリックと初めて出会ったのは、大陸鉄道のファーストクラス用ホームであった。その際に貰った特製の寝袋とディノワール商会の優待券は、今でも大活躍している。
そんな彼のファミリーネームは、ディノワール。そう、このセドリックはディノワール商会の御曹司なのだ。
ディノワール商会は、今や冒険者用品を扱う店として大陸一ともされ、絶大な影響力を持った大商会だ。
そしてセドリックは、いずれそんなディノワール商会の家督を継ぐかもしれない大物でもある。
ただ、何かと王様だとか将軍といった地位の友人を多く持つミラである。そのあたりの価値観は随分とずれていた。
「あの時は詳しく知らんかったが、お主の店は、この店の系列だったのじゃな。いやはや、実に素晴らしい店じゃな」
それこそ旧知の仲のように、気さくに話しかけるミラ。
有名になってきたとはいえ、まだ新進気鋭の冒険者という立場であるミラと、大陸中に支店を持つ大商会の御曹司ともなれば、その影響力はまだセドリックの方が上と言える。
「なんと、よもや精霊女王様に気に入っていただけるとは、光栄の極みでございます。是非、今後とも当商会をご利用いただけますよう、よろしくお願いいたします」
当のセドリックはというと、そんな立場などまったく気にした様子はなく、それどころかとても嬉しそうに笑っていた。
彼は言う。出会ったあの日あの時の直感は、やはり間違いではなかったと。
きっと有名な冒険者になると思っていた。そのように当時声をかけた時の事について触れたセドリックは、とはいえ、よもやこれほど早くにその名を轟かせるとは驚いたと続けた。
ミラもまた、後にディノワール商会の事を知り驚いたものだと笑い返した。
と、そんな御曹司でもあり多忙でもある彼がなぜここにいるのか。大陸中に支店のある中で、今日ここにいるのは果たして偶然か。少しばかり気になったミラが、その事について触れたところ、セドリックは何も隠す素振りもなく答えてくれた。
その理由というのは、やはり必然。アルカイト王国の建国祭に合わせてやってきたという事だった。
「それというのもですね。何やら、とある情報筋から得たのですが、今年のアルカイト王国の建国祭は、いつもとは違い裏で大きな動きがあると聞きまして。少しばかり気になったので来てみたんです。するとまさか、かの英雄九賢者の帰還が発表されるとは! 流石の私も予想外でした!」
彼にとっても九賢者は、憧れの英雄という存在であるようだ。途中から、どこか興奮気味になっていく様は、少年時代を思い返しているかのように純粋な目をしていた。
それでいて、やはり商売人でもあるのだろう。これを機に、是非とも九賢者にちなんだ商品をコラボで出せたりしないかどうかという事を考えているのだと語る。
実に商魂たくましい男だ。
とはいえミラもまた、そこに可能性を見出す。かのディノワール商会ならば、その商品の品質は確かだ。
そして今回の九賢者帰国発表もあって、きっと九賢者が話題に上がる事も多くなるだろう。そこへコラボ商品がドンと登場したとしたら、それはもうきっと相当に売れるのは間違いない。
ならば九賢者ダンブルフとして、幾らかのマージンが懐に入ってくるのではないだろうか。
そんな事を瞬時に考えたミラは、ゆえに「それは名案じゃな!」と、彼の考えを支持した。
「ところで、前にもらった優待券じゃが、ありがたく使わせてもらっておるぞ。いやはや、便利でついつい買い過ぎてしまうのが困りものじゃ」
当時さりげなくもらった優待券だが、そのお得感からディノワール商会では、かなり色々なものを買っていると礼を言うミラ。
「いやはや、お役立てくださり嬉しい限りでございます。それと私どもとしましても、お陰様で新商品の寝袋の売れ行きが、もう絶好調でして」
対してセドリックもまた、ミラのお陰で最高のスタートを切れたと満足顔であった。
それについてもまた、どこぞで情報を仕入れたようだ。睡眠について、とても拘りが強いと有名なAランク冒険者のハインリヒ。そんな男が新商品の寝袋にいち早く注目してくれたのは、ミラが彼に宣伝してくれたからこそであるという話だ。
(あー、あの頃の事じゃな。よもや、そこまで上手くいっておったとはのぅ)
そういえば、そんな事もあった。そう当時の事をなんとなく思い出すミラ。
地質学者だといっていたギルベルトと、とっても純情な侍のハインリヒ。と、そこでふと彼らは今頃何をしているのだろうかと考えたミラ。
天上廃都に行く途中で出会った彼らは、アースイーターという怪現象の調査をしていた。
最近ではセロの口からアースイーターの専門家として、その名を聞いた覚えがある。となれば今でも彼らは、アースイーターの調査を続けているのだろうか。
だとしたら、その原因が原因である。それとなく接触して調査を終了するように促すべきではないだろうか。そう改めて思うミラだった。
さてさてさて。
いやはや、どうも。
バレンタインにチョコを貰える男、りゅうせんひろつぐです!!!
年に一度のこの日が来ましたね。ハッピーバレンタイン!!!
今年も、ありがとうございます!!
という事で遥かな高みより始まりましたが、さあいつも通りいこうじゃありませんか。
先週は、カツカレーにしました!!
というのも、最初はトンカツの予定だったりしたんですよ。
最初に食べたあの、かさねやのトンカツが美味しかったので、次はチーズのやつにしてみようかと。
そして改めてサイトを開いてみると……何やら『肉メシ』という系列の一つだと気づきまして。
どれどれと見てみたところ、お肉がいっぱい出てくるわ出てくるわ。
いったいどんなメニューがあるのだろうかと調べていたところでカツカレーに出会い腹が決まったという次第です。
そして明日も、肉メシの中から選んじゃう予定です!!




