451 文化の侵略
いよいよアニメの放送が明日にまで迫ってきました!
是非とも、よろしくお願いします!
四百五十一
(……約束。はて、何じゃったろうか!?)
あの時の約束。何かアセリアと約束などしていただろうか。
当時の記憶を思い出そうとするミラ。そして何か些細な事でもいいからヒントは無いだろうかとアセリアを見つめ、僅かばかりに二つの山へと視線が引かれていったところ。
「ミラさまー?」
微かに、けれど背筋も凍るような囁き声が響いてきたではないか。
そう、マリアナだ。
「ひぃっ!?」
口から零れ落ちるくらいの小さな声で叫んだミラは、視線は全て読まれてしまうと気づき慌てて目を閉じた。
するとアセリアにしてみれば、それは深く考え込んでいるような表情に見えたのだろう。
「えっ、もしかして覚えてない!? ほら、これ。これだよ、ミラちゃん!」
そう、更に必死になって迫ってくる。それどころか、顔に何か固いものがグイグイと押し付けられてすらいるではないか。
「いったい何じゃ!?」
思わず目を見開いたミラは、そこでアセリアが必死にアピールしているそれに気が付いた。
「む……? お? これは、操者の腕輪じゃな」
さあ見ろ今見ろ直ぐに見ろとばかりにアピールしてくるアセリアの腕には、見覚えのある腕輪が嵌まっている。
それは、元プレイヤー達が持つ端末と同じデザインの代物。冒険者総合組合にて、Cランク以上の上級に認定された者達のみに貸し出される特別な道具。アイテムボックスの機能を持つ、操者の腕輪であった。
それを目にしたミラは、アセリアに昔のソロモンがどうこうというアドバイスをした切っ掛けが、Dランク後半からCランクに上がれないと悩んでいた事だったと思い出す。
「あ、ああー。そういえば確か、何か言うておったな。何か……──はて、何じゃったか」
当時、別れる前の事だ。もしもCランクに上がる事が出来たら、という約束をしたような気がする。
そこまでは記憶を辿れたミラであったが、はてさてどのような約束をしたのだったかと首を傾げた。
その直後、約束という言葉が引っかかったのか。隣からの重圧がより増した事に気付き背筋を震わせたミラは、「で、何じゃったかのぅ!?」と、もう考える事はやめて直接尋ねるという荒業に出た。
相手の気持ちを考えれば、好ましい選択肢ではない。しかしミラには、それ以上に憂慮すべき事態であった。
この空気を長引かせるのは危険だと判断した事に加え、不純な感じの約束でないのは確かだという確信がある。不純ならば忘れるはずがないという自信も相まっての確信だ。
「もー、ほらー! もしもCランクになれたらソロモン様がしていた訓練方法を教えてくれるって話したよね!?」
こんな大切な約束をどうして忘れているのかとばかりにむくれながらも、さあどうだといわんばかりに操者の腕輪を見せつけてくるアセリア。そして何よりもそれを成し遂げた今、約束を果たしてもらおうと、ギラギラした目でミラを見据えていた。
その目に秘められているのは、猛烈過ぎるほどの期待だった。
何よりも敬愛するソロモンと同じ訓練をしたいというアセリアの熱意が、嵐となってミラを捕らえる。
話してくれるまで放さない。そんな意思がひしひしと伝わってくるほどの熱量だ。
「そういう事でしたら、約束は守らないといけませんね。お話ししてあげてください、ミラ様」
燃え上がり懇願するアセリアと、若干引き気味なミラ。そんな両者の隣から、にこやかに告げたのはマリアナであった。
ルナの頭を撫でる姿は、まるで聖母の如き穏やかさすらも内包している。
しかもそれは、表面だけを取り繕ったものではない。心地よさそうなルナの様子からして、その感情と言葉は心の底から出てきているものだとわかる。
「う……うむ。まあ、そう、じゃな……」
先程までと違って、マリアナが優しい。その感情の変化をどうとらえればいいのかと狼狽えるミラ。
対してマリアナは、にこやかに微笑んだままだ。それというのも、アセリアの態度と言葉で彼女がソロモン一筋である事がわかったからだ。
敵ではないと判明したからこその変化である。
とはいえ、そんな理由など知る由もないミラは、どんな裏があるのかと怯え始めてすらいた。
「あ、ごめんなさい。もしかして一緒だったところを邪魔しちゃったかな」
ミラがあわあわしていたところで先にアセリアが反応した。というよりは、むしろ今声を掛けられた事で、ようやくマリアナに気付いたとばかりな顔だ。
よほどソロモンで頭の中がいっぱいだったのだろう。ミラ以外にもいたという事実に驚くなり、謝罪を口にする。
「いえいえ、お気になさらず。それよりも、そのご様子からしてソロモン様がお好きなのですね」
まったく気にしてなどいないと優しく返すマリアナは、慈愛に満ちていた。だからだろう、アセリアも素直に「それはもう、大好きです!」と真っすぐに答える。
「では、ここで立ち話もなんですから、どこか落ち着いてお話が出来る場所をご用意致しましょう」
アセリアから溢れ出るソロモン愛。それをしかと確認したマリアナは、約束通りにソロモンの話をしてあげるべきだと笑顔で告げる。
そしてそのための場所を確保しておくと続けたところだ──。
「いえ、今すぐに聞きたいのは確かだけど、お二人は一緒に遊んでいる途中よね。だからまた今度で大丈夫!」
熱烈なソロモンフリークであるアセリアだが、それでも一定の良識は心得ているようだ。一緒に遊んでいた二人の間に割って入って邪魔をするのは悪いからと、そのように申し出る。
なお、その際の顔には、それこそ身を引き裂いているのではという程の苦悶が浮かんでいたが、アセリアは堪えに堪えてその言葉を言い切った。
「ふむ、そうか。まあ、そうじゃな。ならば、また今度に話すとしよう。今の期間は何かと騒がしいので、建国祭が終わってからがよいじゃろうかのぅ」
そこでようやく立ち戻ったミラは、確かにそれが一番安寧を保てそうだと瞬間的に考えて承諾した。
マリアナの許しも出た。とはいえ、今はマリアナとデート中だ。色々とあるものの、その点についてはミラにとっても大切にしたい時間であった。だからこそ、今度でいいというアセリアの提案が素直に入って来た次第である。
「絶対だよ、約束だからね!」
「わかっておる、わかっておる!」
その約束については特に重要であるためか、これでもかと念を押すように迫るアセリア。対するミラはというと、再び迫る大きな二つ山を前にしながら、まったく気にしていませんよといった態度でマリアナにアピールする。
だが、そのアピール自体が、もう気にしてしまっているという証拠だ。先程まで穏やかだったマリアナの笑顔に黒い影が差し込み始める。
「では、あれじゃ。建国祭が終わった次の日……はちょいと忙しそうか。ならばその更に次の日、建国祭最終日の二日後と決めておこう。時間は正午、場所は術士組合前。これでよいな!?」
これ以上ボロを出してしまう前に終わらせよう。そのためにはアセリアを落ち着かせるのが一番早い。そう判断したミラは、すぐさまそのように約束を詳細に決めた。
するとどうだ。ミラの目論見通り、少しはアセリアも落ち着いたようである。
「うん、わかった!」
縋りつくようだったアセリアは、そこでようやく離れ元気いっぱいに返事をした。
約束するばかりだけではなく、予定をしっかりと決めるというのは、やはり大切な事のようだ。アセリアの顔には希望が浮かんでいた。
「あ、そういえば今年の建国祭で、もしかしたら凄い何かがあるかもしれないよ。なんだかね、いつもと違って少しソロモン様がそわそわしていたの。私にはわかる! きっと、何かあるはず!」
約束を交わし終えた後、別れ際にそう予言したアセリアは「じゃあ、またね!」と明るい笑顔で手を振るなり、カゴを抱えて精算カウンターに突撃していった。
アセリアと別れた後、ミラ達は再びデートを再開した。
他にミラが気を取られるようなものもないためか、マリアナの機嫌は元通りだ。
「あ、ミラ様、あれは何でしょう。見覚えのない本がいっぱいあります。でも、なんだかどれも薄いような」
学園を一通り巡り終えて、そのまま学園前の大通りを進んでいたところだ。ミラと一緒に、それはもう興味深くあちらこちらを見回していたマリアナが、そんな事を口にしたではないか。
「薄い本……じゃと?」
何とも覚えのある単語だ。だがしかし、このような建国祭にはさほど関係のないものに思える。
ともなれば、いったいマリアナは何を見てそう口にしたというのか。気になったミラは、マリアナが向ける視線の先を凝視した。
大通りより脇道に入った少し先に、ちらりと見えたもの。それは一見したところ他の店舗に比べるとお祭り感は控えめであり、通常営業していますとばかりな佇まいをした書店だった。
けれど、そこに集まる客の数は、特別営業として限定品を扱っている店に負けず劣らずである。
(──これは!? まさかとは思うたが、本当にそのまさかとはのぅ……)
マリアナもよく見えたものだ。少し遠いため詳細を確認出来なかったミラは、望遠の無形術を使ってその店を注視した。
するとどうだ。まさかその店で扱われていたのは、正真正銘の同人誌ではないか。
しかも建国祭という事もあってか、アルカイト王国関連で揃えられていた。
九賢者物語を筆頭に様々な創作物を題材としたものだったり、アルカイト王国を拠点とするギルドだったりといったものまでもネタになっているようだ。
(……どうやら、ここから見えるだけではなさそうじゃな)
書店の表側。そして窓から見える店内には、至って健全な同人誌が揃えられているようだ。
けれどミラは、見逃さなかった。締め切られたままになった二階の窓を。その隙間から僅かに見えた男性が持っていた、肌色多めな表紙を。
「そういえば今、冒険ものの物語をよく読んでいるんです。あの中に、何か見た事のない本があったりしないでしょうか」
毎回帰ってくるたびにミラが土産話をする事もあってか、それに感化されたマリアナは、暫く前から冒険を題材とした作品に嵌まっていた。小説だったり漫画だったりと、色々読み漁っている次第だ。
そのため見覚えのない本を目にすると、そこに冒険ものはないかと、つい探してしまうのが最近の癖だったりする。
その癖が、ここで表れた。マリアナは興味深そうな目をして、その書店に向けて歩き出したのだ。
とはいえ、それだけならばまだいい。問題は書店の二階にあると思われる、ソレに気付いてしまうかどうかだ。
「いやー、見たところそういった本はなさそうじゃぞ。うむ。『黒い世界』や『笑う髑髏』、『猫憑き人形』といったタイトルが見える。表紙も何やらおどろおどろしいのぅ。どうにもホラー系が多く揃っているようじゃな」
漫画という文化に触れて間もないマリアナに、二階の世界はまだ早い。そう独断したミラは、まず何よりも気づく可能性から潰してしまおうと考えた。
その結果出てきたのが、ホラー系があるという言い回しだ。怖い本が揃っていたら、躊躇してしまうのではないかという何とも単純な考えだ。
「そ、そうなのですか……?」
ただ、そのまさかであった。そんなミラの脅しを受けて、マリアナの足が止まったではないか。
ミラの目は、その反応を見逃さなかった。すぐさま望遠の術を使っているとアピールしながら「うむ、ここから見た限りじゃが、恐ろしそうな表紙が多く見えるぞ」と続けた。
事実、ミラが口にしたタイトルは書店に並んでいるものだった。
けれども近くで見れば、きっとホラーではないとわかるものばかりだ。
最初に口にした『黒い世界』は、ヴァレンティンを題材とした同人誌だ。続く『笑う髑髏』はソウルハウル、『猫憑き人形』はカグラ。
どれもこれも、ファンメイドの情熱溢れる同人誌である。
「それよりも、あれを見てみぬか? 九賢者の舞台なぞやっておるようじゃぞ。真実とどの程度違っておるか見てみようではないか!」
大通りに立てられた大きな看板。様々なイベントや見世物などの情報が記載されているそれを指さしながら、マリアナの手を引くミラ。
するとマリアナは、繋いだ手をそっと見つめてはしっかりと握り返しながら、「楽しみ方が少し違う気がします」と笑うのだった。
というわけでして、明日ですね。
遂に記念すべき、アニメ版の放送目前となりました!
そしてそのために、今まで色々な計画を立ててきておりました。
まず放送日は、とびきりのご馳走にするという事。
これは、以前に計画しながら未だに成しえていなかったあれを、ここで実現させてしまおうかと思います。
それは……宅配ご飯祭りです!
デリバリー出来るご飯って色々ありますよね。
前にアニメ化記念として計画していたそれを、いよいよ放送日に決行します!
1クール分、毎週デリバリー……。まったく、とんでもない事を考えてしまったものです……。
しかもそれだけで終わりません!
まだあります! 素晴らしいスイーツを食べながら放送を見るという事を!
そう、デリバリーだけではないのです。
毎週、良い感じのスイーツを用意して、頂いた工芸茶と一緒に堪能するのです。
更に今回、もう一つ加える覚悟を決めました。
お高いクッキーを買おうと。
これまで何度か駅にあるお土産コーナーを彷徨っていたのですが……
その値段に怯んで、何もせず敗走するを繰り返してきました。
しかし今回は、アニメ放送記念という免罪符があります!
1万円です。予算を1万円と決めて、高級なクッキーを買ってきます!!!
先日いただいた帝国ホテルのクッキーの感動が忘れられない……というのもあります。
なお、もう一つ計画していた懐中時計は……近くに望むものを売っている店がなくて頓挫気味です……。
動きが悪いのか、豊富に取り扱っている店が見つからないのです……。
というわけで明日の24時半から放送予定ですので、よろしくお願いします!




