449 未来の希望
さて、いよいよ書籍版16巻の発売日が迫ってまいりました。
店舗様によっては、既に並んでいるところもあるようですね!
ぜひ、よろしくお願いします!
四百四十九
「流石はレストランが提携しているだけはあるのぅ。まさしくプロの味じゃったな」
「甘さは控えめでありながら、あの存在感。とっても美味しかったです」
「きゅい!」
召喚術科が運営する模擬店と提携する店。それは以前に宿泊した事のある男爵ホテルにもあったレストランだった。
パンケーキが絶品であると、探偵のウォルフ所長が絶賛していたレストランだ。
圧倒的なインパクトを誇る目玉商品、『ディープシー・カスタード』を堪能したミラ達は、満足して模擬店を後にする。
見た目と味だけでなく、値段も学園の模擬店とは思えないレベルであったが、それだけの価値はある。客も集まるはずだと納得したミラは、次にどこへ行こうかと案内図に視線を落とす。
「ほぅ……何やら本格的な催しもあるのじゃな」
そうしてミラが見つけたのは、召喚術初級講座なる文字だった。
それはマリアナが言うに、学徒を集めるため、ひいては学園の環境を知ってもらうための催しだそうだ。どの術科でも建国祭の日には担当教師による初級術講座が開かれているという。
なお、召喚術科もまたその類に漏れず毎年初級術講座が開かれているが、その結果は概ね想像通りであるとの事だった。
だが、今年は違う。生徒数が増えただけに留まらず、召喚術科の模擬店は大盛況。更にはミラが地道な活動を続けていた事に加え、闘技大会では召喚術の未来を背負ったブルースの大活躍だ。
その甲斐もあって、今の召喚術は去年までと大きく印象を変えている。
ならばこそ、召喚術初級講座には、それなりの人が集まっているはずだ。
「ちょいと、未来の召喚術士達を見に行くとしようか!」
「はい、参りましょう!」
「きゅきゅい!」
希望はある。可能性は十分だ。そんな期待を胸いっぱいに膨らませたミラ。
きっとそこにある結果こそが、これまで色々やってきた宣伝の成果であろう。そう確信するミラはマリアナとルナを見やり、深く頷いた後に歩き出した。向かうは、召喚術初級講座教室だ。
「おお……わしの努力の結果がこんなに……。わし、頑張った!」
召喚術科の教室にて開催されている、召喚術初級講座。
なんと、その教室の前には人だかりが出来ていた。外からでもいいから初級講座を受けたいという情熱がそうさせるのだろうか、教室に入りきれないほどの人達がドアの前に集まっているではないか。
それはもう、大盛況と言っても過言ではないはずだ。
ミラは、そこに広がる光景を前にして、遂にこれまでの苦労が報われたのだと歓喜する。だがその直後、未来を担う若き召喚術士達はどんな者かなと目を凝らしたところで、その表情を顰めた。
「ん? んー……なんじゃ? どうにも年齢層がおかしい気がするのじゃが……」
ドアの前に集まっている者達を、よくよく見てみるとわかる。いったいどういう事なのか、そこには中年前後だけでなく男ばかりしかいなかったのだ。
これは何事かと駆け寄っていくミラ。そうして近づくほどに、彼らが話している声が聞こえてきた。
「可愛いな、ヒナタちゃん先生」「俺も教えてもらいたい」「だな、ヒナタちゃん先生が教えてくれるなら召喚術士になってもいい」「こんなイベントがあるならもっと早く知りたかったなぁ」
何やら、召喚術科の教師であるヒナタを中心とした会話が、そこでは繰り広げられていたのだ。
確かにヒナタは、可愛らしいタイプの教師だ。そこで人気が出るのもあり得る事ではある。
ただ他にも、「なんか、あの手作り感もいいよな」「ああ、にわかじゃない、好きって気持ちがこもっているよな」「それでいて不器用ながら頑張っている感じが」なんて話している者もいた。
それはどういう意味なのだろうか。そして何よりも、教室内で講座を受ける者達もまた外と同じ偏った状態だったりしてしまうのだろうか。
召喚術の魅力ではなく、ヒナタの魅力に集まってきた男達ばかりなんて事になっているとしたら。
そんな悲惨な状況が脳裏に過ったミラは、確かめなければと決意する。
「ちょいと、ここで待っておれ」
マリアナ達に待機してもらったミラは、真相を解明するためにドアの前に集まる男達の中へと突撃していった。
どうにかこうにか隙間に身体を押し込んでいくミラ。
そうしてようやくドアの向こう側が見えるようになったところだ。
「おお、若き芽がこんなにも……!」
ミラがいるのは教室後方のドアであり、男達の隙間から見えるのはそこに並ぶ受講生達の後ろ姿だけ。けれども、それで十分にわかる。その光景を前にミラは、そこにある理想を目の当たりにして感涙した。
ドアの外を見て感じた事は、全て杞憂であった。教室内に並ぶ受講者達は沢山の少年少女に加え、如何にも術士見習いといった者ばかりが揃っていたからだ。
それは、未来を担う召喚術士達の始まりの姿である。
「──と、召喚術には無限の可能性が秘められているんです」
きっと立派な召喚術士になってくれるはずだ。そう信じてやまないミラの耳に、これまた同じような感情のこもった声が響いてきた。
ヒナタの声だ。彼女もまたこの受講生達を見て、召喚術士の未来が明るく開けてきた事を感じているのだろう。召喚術の最初のハードルでもある武具精霊との契約も、安全で確実な方法が出来上がりつつあると、力強く説明している。
その点についても、ミラとクレオスとで色々と工夫しているところだ。きっと近い将来、子供でも安全に武具精霊との契約が可能になる事だろう。
それを目指してるミラは、同じくそれを願うヒナタと期待する受講生達の声を聞き、ますますやる気を漲らせていった。
「──このように、精霊さん達の力を借りる事が出来るのも召喚術士ならではといえるでしょう。最近は皆様も噂などで耳にした事があると思います。水の精霊さんの協力があれば、出来る事が山ほど増えると。それは本当です! かといって召喚契約までしてくれるほど仲良くなった水の精霊さんがいる方は、ほとんどいないと思います。でも大丈夫。愛さえあれば、育てられるのですから!」
流石は召喚術科の教師だけあって、昨今の事情にも詳しいようだ。ここに来た者達が、一番に何を望んでいるのかをずばりと把握し、その答えを見事に提示していく。
ふわりと広がるのは、召喚術発動の軌跡。その直後にあがったのは、受講生達の驚きと感動の声だ。
(ほぅ、ヒナタ先生も契約したのじゃな)
術の痕跡だけでも何を召喚したのかがわかる。それを確認したミラは実に素晴らしい事だと感心しながら、折角だからと彼女が契約した水の精霊を一目見るため、更に前進しようともがく。
そうこうして、遂にドアを突破して教室内まで入れたところだ。
(……なるほどのぅ、そういう事じゃったか)
ヒナタはかつてのミラ──ダンブルフと同じように精霊結晶を使い、新たに生まれた水の精霊を育て始めたようだ。まだまだ赤ん坊ながらも、そこには可愛らしいウンディーネの姿があった。
ただ、その愛らしさに感動したのも束の間。ミラは、同時に映るヒナタの姿を見て得心した。なぜ、ドアの前にあれだけの男達が集まっていたのかについてだ。
いったい何をどうしてそうなったのか。なんと教壇に立つヒナタは、ヴァルキリーの扮装をしていたではないか。しかも、よくよく見るとその衣装はアルフィナに極めて近いデザインであった。
いつもの教師スタイルに比べ、かなり冒険したようなその格好は、だからこそアイドルチックにも見える。そして細部の小物などに見える手作り感は、そこに愛嬌のようなものを添えていた。
ドアの前の男達は、このヒナタに熱狂していただけというわけだ。
ミラは冷ややかな目で振り返り、ドアに集まる男達を一瞥する。そして男達は、そんなミラの視線にぶるりと震えるばかりでどこか嬉しそうにするだけだった。
「──というわけじゃった。まあ、教室内はまともそうじゃったからな。それでよしとするか……」
そっと初級召喚術講座教室を後にしたミラは、マリアナと合流するなり、そう愚痴るように話した。
盛況である事には変わりないが、ドア前に集まっている者はヒナタの可愛さに寄って来ただけで完全に無関係であったと。
「あの偏りには、そのような理由があったのですね……」
ミラの愚痴を嫌な顔一つせずに聞いていたマリアナは、それでいてまさかの真実に苦笑する。
「しかしまた、教師も扮装しておるのじゃな。生徒だけじゃと思っておった」
何だかんだで悪くない扮装だったと続けるミラは、それでいて不満もぽろりと零した。教師であるならば、なおさらダンブルフの扮装をしているべきではなかったのかと。
「あ、それでしたら──」
そんなミラの我儘な文句を聞いてか、ふとマリアナが思い出したように口にした。
何でもヒナタの扮装には、色々と事情があるそうだ。
マリアナが言うに、召喚術科の初級術講座教室は、数年前までずっと受講者ゼロが続いていたという。
だがここ数年の間は、ゼロの状態を回避出来た年もあったらしい。
その理由が、ヒナタの扮装である。
始まりは、学園祭にて子供達の人気を集めていた着ぐるみの生徒だった。
模擬店の呼び込みとして出ていた着ぐるみが、子供達とその親を引き連れて行く。その様を目の当たりにして閃いたのだと、マリアナはヒナタから直接聞いたそうだ。
そして建国祭で生徒達が扮装する習慣に倣い、ヒナタもまたその派生という事で着ぐるみを拵えてきた。
それでいて、しっかりと召喚術科である事も忘れず、当時の着ぐるみのデザインは彼女のサラマンダー。ミラが召喚するそれとは違い、彼女のサラマンダーは少しずんぐりむっくりしており、何とも言えない愛嬌に溢れていたとの事だ。
「──その成果でしょうか。着ぐるみの可愛らしさもあってか、子供達が数人ほど受講してくれた事で、手応えを感じたようでして。それから毎年、ヒナタ先生は建国祭で何かしらの扮装をするようになりました。去年はカーバンクル、一昨年はシルフィード、そしてその前の年がダンブルフ様でした!」
ヒナタの扮装歴。マリアナがそれについて触れたのは、何よりもその点があったからこそのようだ。
そう、ヒナタは既にダンブルフの扮装もしていたのである。
「おお、そうじゃったのか! して、その年は何人……──」
ヒナタがダンブルフの扮装をした際の受講者の人数はどれほどだったのか。それを聞こうとしたミラであったが、その途中で口をつぐむ。なぜならマリアナが、非常に気まずそうな表情で視線を泳がせ始めたからだ。
先程マリアナが話していた内容によると、ゼロの状態を回避出来た年もあったという事だ。つまりは回避出来なかった年もあったという意味にもなる。
ミラは、それ以上は何も口にせず、ただ一言「次に向かうとしようか」とだけ告げて歩き出した。
クリスマスが過ぎ去っていきましたね。
さて、今年のクリスマスは、ばっちりケンタッキーでした! 冷凍の勝利です!
そしてケーキも、近所のケーキ屋さんでいちごのケーキとレアチーズケーキを買えました。
更に、バタークッキーも一緒です!
ケーキ屋さんのクッキー……6枚で380円と高級でしたが、これもまた美味しかったです!
さて、クッキーといえば先日の事……
なんと読者様より、高級な缶クッキーをいただきました!!!!!!
これはもう、とんでもないクッキーです。
缶には何やら、インペリアルホテルという文字が。
そう、帝国ホテルだったのです……!!!!
流石は帝国ですね……バラエティー豊かなクッキーは、そのどれもがこれまで食べてきたクッキーを越えていきました。
厚みがあって密度が高く、それでいてさくさくとした食べ応え……実に素晴らしい!!
こういうタイプのクッキーが好きなんですよねぇ。
という事で毎日ちまちまと堪能しています。
ありがとうございました!!!




