448 なかよしセット
四百四十八
「して、メイリンや。なぜここにおる?」
マリアナの助力もあって、ミラはメイリンを人目に付かぬよう連れ出す事に成功した。
今は召喚術科の準備室を借りて、メイリンの事情聴取中だ。
「建国祭の時だけしか開かない幻のお店が、この学園にあるって兵士さん達がお話していたヨ。『なかよしセット』っていうお弁当で、すっごくすっごく美味しいって言ってたネ。だから探しに来たヨ!」
その兵士達の話を聞いて、居ても立ってもいられなくなったのだろう。そう答えるメイリンの笑顔ときたら、宝探しをする子供の如く眩しいほどの夢と希望で満ち溢れたものだった。
「確かソロモンから、お主達は皆、城で待機中と聞いていたのじゃがな」
そもそも待機しているはずが、どうして外に出られたのか。もしかしたらソロモンが許可でも出したというのか。そんな疑問と共にメイリンを見やったミラ。
するとどうだ。メイリンは少しばかり首を傾げて「んー……」と唸り考え込んだかと思えば、はっと何かを思い出したように目を見開き、そのままそっと視線を彷徨わせ始めた。
「……なんだかそう言われていた気もするヨ」
幾らか迷った末にメイリンが口にした言葉が、それであった。
やはりとでもいうべきか。美味しいものという言葉に目が眩んだ結果、完全に忘れていたようだ。
「まったく、今の状況はわかっておるじゃろう。一般にはあまり顔が知られておらぬとはいえ、この学園にはお主の顔を知る者もおる。歩き回って気付かれでもしたら、どうするつもりじゃ。折角ソロモンが用意した舞台が台無しになってしまうやもしれぬのだぞ」
「うう……私のせいで台無しには出来ないヨ。でも、『なかよしセット』気になるネ……話していた兵士さん達、すっごくニコニコだったから食べてみたいヨ」
珍しく正論を振りかざすミラと、しょんぼりと反省し項垂れるメイリン。彼女にしてみても、ソロモンに迷惑をかけたくはないようだ。
だが、約束を忘れてしまうほどに惹かれた『なかよしセット』が心残り過ぎるのか、その顔には葛藤が見て取れる。
「あの、『なかよしセット』には心当たりがありますので、後でお届けするというのはいかがでしょうか」
そんなメイリンを見かねてか、マリアナがそんな事を口にした。
するとどうだ。「本当ネ!?」と、メイリンが今日一番の笑顔を輝かせた。彼女がマリアナに向ける目には、めいっぱいの喜びが込められている。
「なんと、知っておるのか!? それは素晴らしいのぅ! 流石はマリアナじゃな!」
毎年建国祭に参加していたというだけあって、そんな幻級の店まで知っているようだ。これはお手柄だとミラが称賛すると、マリアナはどこか照れつつも嬉しそうにはにかんだ。
「して、どうじゃメイリン。後でしかと持ってゆくのでな。大人しく城に戻ってくれるか?」
交渉の仕上げだ。最高の援軍を得たミラは、もはやここからひっくり返る事など無いという自信を持って、そうメイリンに告げた。
その答えは「戻るヨ! 約束ネ!」と、それはもうはきはきと明快なものだった。
「さて、ここからでよいかのぅ」
大人しく王城に戻ると約束したメイリン。
ただ、問題はその帰り道だ。現時点ではバレていないものの、最後の帰り道で気づかれてしまう事だって十分にあり得た。
よってメイリンは、準備室の窓から空を駆けての帰還となる。
「『なかよしセット』よろしくヨー。絶対絶対約束ネー!」
余程なのだろう。そう何度も念押しするように繰り返しながら、メイリンは王城へと帰っていった。
それをしっかりと真っすぐ王城に向かっている事を確認してから、ミラはマリアナに振り返る。
「さて、ああ約束した手前、しっかりと買っておかねばならぬな。して、マリアナや。その幻の店とはどこにあるのじゃろうか?」
食べ物の恨みは恐ろしい。メイリンの場合は特にそれが顕著だ。
食べ物一つで好きなように転がせる事の多いメイリンだが、それを裏切ってしまった場合のリスクといったら実に恐ろしい──というより面倒で厄介だ。
口をきいてくれなくなるのはもちろん、何を言っても信じてもらえなくなり、近づこうとすれば全力で逃げていく始末だ。
(あの時は、周りの視線が実に痛かったのぅ……)
どんな事でも怒らず、大抵の事は許してくれる、優しく大らかな心を持つメイリン。誰にでも屈託なく接し、彼女を嫌う者など皆無。そんなメイリンが目に見えて『嫌い』という感情を浮かべてくるのだ。もはやその外聞は、奈落の底に真っ逆さまである。
だからこそ、今回の約束は必ずやり遂げねばならない。そして今回は、マリアナ頼りだ。
幻の店とはどこにあるのか。それを聞いたら、まずは全力で買いに行こう。そう考えるミラ。
だが、よもやまさか、その店は思わぬところに存在していた。
「えっと、ですね。幻だなんて言われているのは初めて知りましたが、きっと私が出していたお店の事です」
そうマリアナは答えたのだ。
なんとメイリンが探していたという幻の店は、建国祭の時にマリアナが特別に開いていたものだというのだ。
マリアナはその店で、手作り弁当を販売していた。そしてその弁当のコンセプトは、ずばり九賢者。
それぞれのイメージを基にした料理を一品ずつ詰め込んだ弁当。騒がしく色々と面倒を起こし言い合いをしている事もあるが、その団結力は強く、互いに支え合う姿は羨ましくなるほどに仲睦まじい。
そんな、本当に仲良しな九賢者が、いつかまた皆揃いますように。そういった願いを込めて作った弁当こそが、『なかよしセット』だったわけだ。
「そうじゃったか。改めて、待たせてしまったのぅ」
ひょんなところに散りばめられた、マリアナの想い。その一つをまた見つけたミラは、そっとマリアナを抱き寄せた。
そして、誓う。
「けれど、もう大丈夫じゃ。わしが来たからには、その願い、このわしが叶えてみせようぞ!」
ミラはマリアナの目を真っすぐと見つめて、力強く告げた。九賢者が全員揃った未来は、あと少しで実現出来る。マリアナの想いは必ず遂げてみせると。
「ミラ様……」
そんなミラの男気を前にして、仄かにはにかむマリアナ。
対してミラはというと、少しばかり勢いで格好つけ過ぎたかと頬を染めて視線を彷徨わせた。
何とも締まらないその姿だが、心は伝わったようだ。マリアナは少しばかり微笑んで、「ありがとうございます」と答えたのだった。
そうして『なかよしセット』については解決した。
もう幻の店を探す必要などない。どこか丁度いいタイミングで、マリアナに作ってもらえばいいだけだ。
よって、時間にも幾らか余裕が出来た。そのため再び学園内を巡り始めたミラ達は、気になる模擬店をあっちこっちと見て回っていた。
「……わしが、おらぬな」
その途中の事だ。いよいよ限界だとばかりな憎しみを込めて、そう呟いたミラ。
改めて建国祭を楽しんではいるが、やはり気になるものは気になるというもの。
ミラは事あるごとに、ダンブルフの扮装をしている者はいないかと目を光らせていた。
その結果は、皆無である。よもやまさか、誰一人としてダンブルフの扮装をしている者がいないのだ。
術士達の聖地とまで呼ばれているアルカイト学園においてさえ、この仕打ちだ。
特に多いルミナリアの扮装をする女性が通り過ぎていくのを睨みながら、その不条理を呪うミラ。
と、そんな時、周囲の模擬店から漂ってくる甘い香りのせいもあってか、ミラのお腹がきゅるりと鳴った。
「む、少し小腹が減ったのぅ」
セロに貰った鈴カステラだけでは、まったく足りなかったようだ。ミラのお腹は、甘味を求めていた。
「ではミラ様、召喚術科に行くのはどうでしょうか。何でも今回は、有名なお菓子店と提携したのだとクレオス様が仰っていました。特製のカスタードクリームで有名なお店だとか。私も少し気になっておりまして」
小腹が空いたというミラに、そう進言するマリアナ。
その意には、二つの思惑が込められていた。一つは、言葉通りの意だ。小腹を満たすためと、お菓子が気になるという事。
「ほぅ、カスタードクリームか! うむ、よいのぅよいのぅ。では行くとしよう!」
その言葉に惹かれたミラは、実に美味しそうだと微笑みながら、その足を召喚術科へと向けた。
「はい、ミラ様!」
そしてもう一つの意は、ダンブルフの扮装についてだった。やはりマリアナも、気にしているようだ。それでも見当たらない。だからこそ最後の手段である。
去年に比べて、一気に生徒数が増えた召喚術科。その道を進むのならば、頂点であるダンブルフに憧れる者も多い。ともなれば、扮装している者だっているはずだ。
決して、あり得ない事ではない。それを確かめるために、それを目にして喜んでもらうために、マリアナもまた気合を入れてミラの後に続いた。
「これまた、大盛況じゃのぅ……」
召喚術科に到着したところで、ミラはその光景を前に感嘆する。
普段から他の科に比べて、賑わいの薄かった召喚術科。だが今この時は違う。これまで見て回って来た他科に負けず劣らずの大賑わいであったのだ。
香ばしくて甘い香りが漂う廊下。そこを行き来する来場者達と、列を捌く生徒達。
「うむうむ、皆頑張っておるようじゃな」
見た限り、まだダンブルフの扮装をしている者は見当たらないが、覚えのある召喚術科の生徒が多数とあってか、ミラの表情は優しげだ。その態度といったら、完全に保護者気取りである。 と、そのように召喚術科の盛況ぶりを感慨深く見回りながらマリアナと存分に語らっていたところだ。
「ん? この声……もしかしてミラさん!?」
「あ、お久しぶりです!」
「その節は、ありがとうございました!」
そんな言葉と共に、三人の女性が振り向き駆け寄ってきた。どうやらミラの声だけで変装を見抜いたようだ。
そしてミラはというと、そんな三人の事をしっかりと覚えていた。男の顔は忘れやすいが女性の顔なら自信のあるミラは、「おお、久しぶりじゃのぅ!」と快活に返した。
その三人とは、ニナ、ミナ、ナナ。そう、召喚術科の新入生であるリナの姉達だ。冒険者だけあってか、かなりの洞察力といえるだろう。
「これから、リナがいる模擬店に行くところなんだけど、一緒にどうかな?」
「前にミラさんから貰った精霊結晶のお礼もまだだったし、それも兼ねてどうですか!?」
「実は昨日、精霊結晶からウンディーネが生まれまして、リナがそれはもう喜んで喜んで。是非ともお礼をさせてください!」
ここで会ったが絶好のチャンス。何が何でもとばかりに迫るニナ達。ミラはといえば、美人姉妹に迫られて少しばかり嬉しそうな笑みを浮かべていた。
ただ、当然それを見逃すはずもない者が、ここにいる。
「ミラさまー、其方の方々とはどういったご関係なのでしょうかー?」
音もなく、そっと真横に立ったマリアナが笑顔で問う。その表情は明るくにこやかであり、どきりとしてしまうほどの華やかさすら秘められたものだった。
「あ、ミラさんのお友達ですか? 私、ニナっていいます。前に妹がお世話になりまして」
「私、ミナです。ミラさんには、ハクストハウゼンで色々と助けていただきました」
「ナナっていいます。ミラさんには、うちのギルド全員が感謝しています」
実際のところニナ達は、同性でも惚れてしまいそうになるほどのマリアナの可愛らしさに沸き立ち、笑顔で自己紹介を返す。
「そうだったのですか。あ、私はマリアナと申します。ミラ様のお世話をさせていただいている者でございます」
マリアナもまた、そう丁寧に返す。
一見するとそれらのやり取りは、なんて事のない挨拶であった。けれどミラは、そこはかとない重圧をすぐ隣から感じていた。
表面には決して表れない。だがしかし、確実に存在するプレッシャー。
それを野生の勘で感じ取ったのか、マリアナのエコバッグでのんびりしていたルナは、ぴくりと耳を立てるなり、ぴょんとミラに跳び移った。
「そ、そうなのじゃよ。ハクストハウゼンでのぅ、この者達の妹が召喚術で悩んでおると聞いたのでな。ならばわしの出番かと、少しばかり面倒を見た事があったのじゃよ」
とにかく何か早く言わなければまずい。そのように本能で感じとったミラは、そう簡単にニナ達についてマリアナに紹介した。
そして、そこからニナ達に向けて矢継ぎ早に口を開く。
どのように紹介しようか。ダンブルフという正体を隠している以上、補佐官と紹介するのは問題がないだろうか。そのように細かい事を気にしたミラは、マリアナの事を説明するための無難な言葉を考えた。
「して、こちらのマリアナはじゃな。わしの……その、なんじゃ……とっても大切な者じゃよ」
思い浮かんだどれもが、しっくりとくるものではなかった。かと言って黙っているままにもいかず、勢いのまま口にしたのが、そんな言葉だ。
その直後──何がどうなったのか。まるで突然嵐が過ぎ去ったかのように、周囲を包んでいたプレッシャーが晴れた。
「もう、ミラ様ったら……」
そう照れたようにはにかむマリアナ。そして自らの発言を振り返り、その言葉に気付いたミラは流石に恥ずかしくなったのか、しどろもどろに視線を泳がせる。
ニナ達は、そんな二人の姿を前にして、なるほどそうかそうかと温かく微笑むのだった。
今月の頭になりますが、なんと嬉し事にお友達から誕生日プレゼントをもらいました!
ラインギフトとかいうやつです。
いやはや、こんな機能があったのですね。
それで何ともらったのは、ケンタッキーのバーレルでした!!!
ひゃっほうケンタッキーだぁぁぁぁぁぁ!!!
ただ、クーポンという形でもらったのですが、そこにはとある注意書きが……。
なんと、クリスマス近くの日になると使えないそうなのです!
そう、クリスマスです。すぐに思い付いたのが今年のクリスマスで使おう、だったのですが無理でした……。
という事で今年は少し早く、ケンタッキーを堪能しました。
ただ、やっぱりバーレルですからね。10ピースと沢山入っております。
ともなれば、当然一度に食べきれるはずもなく……。
ここで閃きました!!!!
別に、クリスマス当日に買う必要はないのでは? と。
という事でしてその残りのケンタッキー、今も冷凍庫で保存してあります。
当日はこれを温め直して、更にケーキを買えば……今年は完璧なクリスマスの出来上がりというわけですよ!
去年、一昨年とケンタッキーを買えませんでしたが……今年は勝てそうです!!!




