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439 ミラカスタム・冬

四百三十九



「──というわけでのぅ。途中で寄ってきたのじゃが、なかなかに評判は良さそうじゃったぞ」


「いいね、いいね。そのくらいの伝達速度なら建国祭当日には、もっと浸透しているかもね。君にしては、いい判断だったよ。ありがとう」


 任務についての話が終わった後、ミラはヘムドールに話を付けてきた事や、帰国する途中で立ち寄ったオズシュタインの様子について語った。

 建国祭に招待する特別なゲスト達の中でも、話題性と影響力が抜群なのは、やはり三神将の孫ヘムドールだ。

 過去に色々と問題のあった彼だが、闘技大会の活躍もあり、その印象は好意的な方へと変わり始めている。ある意味、オズシュタインにて今一番熱い話題といっても過言ではない状況であった。

 そんな時の人ともいえる彼が出席する建国祭だ。相当に注目を集めるのは間違いないというものである。

 なれば当然、その場で発表される九賢者の帰還もまたセンセーショナルに大陸全土へ伝わる事だろう。


「何か引っかかる言い方じゃが、まあよい。わしの慧眼もなかなかじゃろう!」


 オズシュタインにおけるヘムドールの反応は想像以上ではあったが、好い方向に転がっているのならば問題はない。よってミラは、実に誇らしげにふんぞり返っていた。





 そうこうして次に行く場所は、日之本委員会の研究所に決まった。

 とはいえ、それは今すぐというわけでもない。向こう側からしてみたら一秒でも早くといったところであろうが、これからアルカイト王国では大きな行事がある。

 そう、建国祭だ。いよいよ一ヶ月後に迫った今、首都ルナティックレイクをはじめ、アルカイト王国では準備やら何やらで大忙しだ。

 加えてカグラ達帰国組もまた、そのサプライズ発表だなんだという一大イベントの仕込みのために色々とやる事があるという。

 なおミラもまた、賢者としてではないが色々と手伝いがあるため建国祭が終わるまでは自国での生活となる予定だ。

 そういった理由のため、もう幾らか日之本委員会の技術者連中を待たせる事になる。だがこれで建国祭が終わったら行くと約束出来るため、当分は静かになってくれるだろうとソロモンは安堵した様子だった。


「ああ、そういえば最後に一つ。ちょいと訳あって詳しくは話せぬが、フローネの件は半分片付いておってな。後は時間の問題だけと言うておこう」


 これで一通り話も落ち着いたといったところで、ミラは思わせぶりにそんな事を口にした。

 フローネとは、皆に内緒だと約束した。だが約束したのはフローネと出会った事ではなく、彼女が皆を驚かせるために天空の城をせっせとこしらえていた事についてだ。

 フローネを見つけて話もつけておいたという事についてまで秘密にしておく必要はないのである。


「……え、見つけたの!?」


 そして、そんなミラのサプライズ発表は相当に予想外だったのだろう。ソロモンはというと、それはもう心底驚いたといった顔で身を乗り出した。

 ソロモンにしてもまた、最も予想がつかず捜索も難航するだろうと考えていたのがフローネだ。彼女はそれほどまでに読めない動きをする事に定評がある。

 そんなフローネの捜索について、ミラはさもオマケみたいに半分完了と報告したのだ。驚くなという方が無理というものだ。


「うむ、魔女っ娘衣装のファッションショーで、ばったりとな」


「なるほどねぇ……。で、詳細は帰ってきてから、ってわけだ」


 驚きはしたものの、ミラの言葉にあった節々から色々と察したようだ。何かしら大それた企み事をしており、ミラはそれを口止めされているのだと。


「うむ、その通り」


 流石のソロモンである。話が早いと頷いたミラは、「という事で、心配はいらぬよ」とだけ告げて立ち上がった。


「では、またのぅ」


「うん、またね」


 最後にそう簡潔に挨拶を交わして、ミラはソロモンの執務室を後にした。





 一通りの報告を終えたミラは、ここから先は自由時間だと意気揚々に歩き出す。

 さて、どこに行こうか。まずはここの教会で『拝謁』をしてもらい、それから商店街にでも繰り出そうか。などと考えていたところだ。

 直後の事。執務室のある廊下に面した左右の部屋の扉がバンと開いたかと思えば、待っていましたとばかりに、それが──アルカイト城の侍女達が姿を現した。

 さも今しがた掃除が終わりましたといった様子で掃除道具を手にした彼女達だが、その目は既に次へと向けられている。そう、ミラ一点に。


「まあ、ミラ様! お戻りになられていたのですね。たまたまばったり偶然にお会い出来てしまうなんて、なんて素晴らしい偶然なのでしょう!」


 それはもうにこやかな笑顔で偶然だと強調するのは、アルカイト城の侍女達を統べる侍女長リリィだ。

 その肩書通り、彼女の能力は侍女達の中でもトップクラス。しかも、大陸全土でみても間違いなく上位に入るほどのレベルである。

 そんなエリート中のエリートであるリリィだが、彼女には極めて重大な欠点があった。


「おっと、そういえば偶然にもミラ様用に誂えていた新しい服が完成しておりましたね。きっとここで出逢えたのも神のお導きでございましょう。ささ、ミラ様。折角ですから、お着替えしちゃいましょう」


 可愛い女の子が好きであり、そんな可愛い子を可愛らしく着飾らせる事を信条とするリリィは今、とってもミラに夢中だった。

 また、類は友を呼ぶとでもいうべきか。彼女が率いる侍女軍団は、志を共にする者ばかりで編成されている。

 ゆえに侍女達は、多でありながら個のように動く。息をもつかせぬ阿吽の呼吸で瞬く間にミラを包囲して、さりげなく逃げ道を完全に塞いでいたのだ。

 もはや、遭遇即ち捕獲状態である。

 そしてミラは、そんな彼女達の事を嫌という程に知っていた。思い知っていた。

 だからこそというべきか、今回もまたミラは一切抵抗する事無く、彼女達に従い侍女区画へと連れ込まれていく。

 なお、当然ながら彼女達がここにいたのは偶然でもなんでもない。

 ミラが来たら自動的に彼女達へ伝わるように、城内は専用の情報網が構築されているからだ。足を踏み入れた時点で、逃げ場などないのである。





(無駄に出来が良いのが、また何とも言えぬ……!)


 侍女区画に存在する、ミラ専用の着せ替え部屋。ミラ用に彼女達が誂えた様々な創作物と、参考資料として撮影されたミラの写真で溢れかえる部屋だ。

 男子禁制であるため、王であるソロモンですら立ち入れない場所。そのためソロモンは、ミラがいったいどれだけの目に遭っているのか詳細には把握していない。

 唯一、興味本位でちらりと覗いた事のあるルミナリアだけが、その真実を知っていた。

 ちなみに、この部屋に溢れ返る愛を垣間見たルミナリアの反応は、忘却(見なかった事にしよう)であった。


「ああ! 今回もまた私達は奇跡を生み出してしまったようですね」


 リリィ達渾身の新作、ミラカスタム・ウィンターバージョン。これまでの魔法少女風のデザインを継承しつつも、そこには少しばかり黒いイメージが混ざっていた。

 ミラの可愛らしさはそのままに妖しさが加わったそれは、黒の女王とでもいった印象だ。

 リリィは艶っぽくなりながらモフモフ感まで加わったミラを前にして昇天しかけるも寸前で踏みとどまり、その姿を目に焼き付けるかのように凝視する。


「自分達で作った壁を、自分達で乗り越えていく……今から次もいけそうな気がします!」


 可愛いミラを更新し続ける。そんな目標でもあるのだろうか。リリィの右腕として暗躍……活躍するタバサは、完成した今回のミラをうっとりと見つめつつ情熱をその目に宿していた。


(……次は、春じゃろうか)


 彼女達を止めるのは降り注ぐ隕石を止める事くらいに不可能であると確信するミラは、今度はどんな服が仕上がってしまうのだろうかと天を仰いだ。

 そして着替えが済んだ後、ミラは特別室なる場所へと連れていかれる。


「あー……そこじゃそこ。ぉぉー……効くのーぅ」


 そこで行われたのは、新衣装での撮影会。そしてミラを労うための様々なサービスだった。

 全身のマッサージから始まり、好物のスイーツなど。それはもう、盛大に甘やかされるミラ。

 それから一時間後。心はともかく、身体だけは最高潮にまでリフレッシュしたミラは、お菓子の手土産を受け取って侍女区画から解放されたのだった。




(食事はもう十分じゃな。となれば次はディノワール商会あたりでも見てみようかのぅ。教会にも立ち寄らねばな。おお、そうじゃ。そういえば、わしのカード化の件はどこまで進んでおるじゃろうか。もしや、もうわしのカードが含まれたブースターパックが発売されてたりしておるのではないか!?)


 気楽そうでありながらも、色々と大変だったニルヴァーナでの護衛生活。着の身着のまま買い回る事が出来るのは久しぶりだと、そろそろ城下町にでも繰り出そうかとしていたところだ。


「これはミラ様! お久しぶりです」


 王城の門の前にて、いつかミラの送迎などをしてくれていた御者役のガレットとばったり出くわした。

 随分と久方ぶりであり服装も相当に変わっているが、一目で気づいたようだ。ガレットは、どことなく忠犬の如く嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。


「おお、ガレットか。久しぶりじゃな」


 この現実となった世界に来たばかりの頃、御者役として色々と足になってくれた男だ。

 ただ、今回は彼だけではなさそうだ。若者が六人ほど、ガレットの後に続いてやってきた。


「もしかしてこのお方が、かの精霊女王様ですか!?」


「ガレット副団長がいつも仰っていたお方ですね!」


「リリィお姉様達がいつも仰っていたお方ですね!」


 少しばかり不穏な陰が見え隠れしたりもしているが、そう口々に言葉にするその者達はガレットと揃いの腕章をしていた。その態度などからして、どうやらガレットの部下のようだ。


「その通り。あの指南役のアーロン様が自身よりも強いと仰っていた、あのミラ様だ」


 知り合いが凄いと、なんだか自分も凄くなった気がする。それを地でいくガレットだが、その真面目さゆえに何とも憎めないのが彼の人柄というものであろう。


「と……何やら皆、随分と分厚い本を持っておるのぅ。これから勉強でもするのか?」


 やんややんやと盛り上がる中、ミラはふと目に入ったそれについて口にした。

 見るとガレットは、そこらの辞書も真っ青とばかりに分厚い本を抱えていた。加えて若者六人もまた、同じ本を抱えている。

 何かの教本などだろうか。と、ただの興味本位で訊いたミラだったが、ガレットの答えは、まさかと驚くものだった。


「はい、これから教習訓練でして──」


 そう答えたガレットが続けた言葉。

 なんと彼が先生となり、魔導工学にて開発された秘密の新型輸送車なるものの操縦訓練を行うというではないか。

 そっと内緒で教本を見せてもらったところ、色々と仕様は違えど、そこに書かれていたのは、まさに自動車の運転マニュアルであった。

 よもやまさか、ソロモンは自動車のようなものまでも開発してしまったらしい。しかも、軍用だ。

 実はミリタリーマニアのソロモン。ここぞとばかりに、その方面の開発も進めているとは聞いていたが、もうここまで開発が進んでいたようだ。


「話には聞いておったが、教習の段階まで来ておるとはのぅ。ふむ、事故のないように気を付けるのじゃぞ」


 ここまでくるとあっぱれだと笑うミラは、最後にそうガレット達に声を掛けてから別れ、そのまま王城を後にするのだった。











最近、里芋の魅力に気づきました。


トースターパン料理用として買ってきたのですが、鍋とかにもばっちり合いますね!

しかも冷凍の里芋は、皮も剥いてあるため使いやすいです!


更に、冷凍カボチャも買いました。

これもまた便利で美味しいです!


そして鶏もも肉と唐揚げ粉も買ってきました。

漬け込みは完了です。

あとは焼くだけ……。

いったいどんな仕上がりになるのか。そしてどんな味になるのか。


次週、美味しく出来たら美味しかったって言います!!!!

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― 新着の感想 ―
レヴィちゃん(笑)を生け贄にしたら少しだけミラが楽になるのかな?
[良い点] ミラカスタム・冬がめちゃくちゃ気になります…
[良い点] ルミナリアですら忘却を選ぶという、メイドによるミラの歓待 何気にミラの衣装は書籍表紙を彩る絵師様の挑戦でもあるのですよね [一言] 里芋、皮を剥くのって存外に面倒です 冷凍を常用すると戻れ…
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