436 ギルドハウス
四百三十六
「ありがとうございました、ミラ様。お陰で精霊様を救い出す事が出来ました」
「礼を言うのはこちらの方じゃよ。わしとしても心配事の一つじゃったからのぅ。司祭長殿のように理解ある者がいてくれて助かったわい」
教会に預けられている精霊家具は全て司祭長が責任を持って鑑定し、『聖秘牢の間』から運び出すと約束してくれた。
また彼は、幾つもの街の教会へと出張して鑑定するつもりだそうだ。
これでニルヴァーナの骨董界は、今よりも更に盛り上がっていく事だろう。
『しかしまた、上手くいったのぅ』
『それだけ、彼の信仰は深かったという事だ』
教会を後にしたところで、ミラは精霊王と話しをしていた。
そう、今回の件が進展したのは、精霊王の力によるものだ。
それというのも、全ては精霊王が思い出した昔々の話による賜物だった。
以前、今回の件について話していた時、教会の者の中には家具精霊なども感じられる者がいたはずだ、というような事を言っていた精霊王。
そのあたりについて色々と思い返してみたところで、一つ要因になりそうな要素があった。
それは、『拝謁』だ。かつて、まだ精霊王が人の世界にいた頃。三神と縁深いという事で、特に信仰心の厚い信者とは時折会ったり言葉を交わしたりしていたそうだ。
精霊王が言うに、精霊王の力をその身で体感した者というのは、僅かながら精霊の世界に近づくという。
そこに精霊を想う心が加われば、より感覚は鋭くなる。
僅かな差ではあるものの、その差によって家具精霊などの微弱な人工精霊の気配を捉えられるようになるのではないか。
それが精霊王の思いついた要素であり、今回の実験によって、その効果が実証されたというわけだ。
『あとは、協力者を増やしていくだけじゃな』
『ああ、そうすれば我が眷属達も解放されていく事だろう』
街を訪れるたびにこれを繰り返していけば、いずれ『聖秘牢の間』に封じられる精霊家具はなくなるだろう。
とりあえず、アルカイトへの帰り道にある大きな街の教会を片っ端から訪ねてみようかなどとミラは考えていた。
なお、この実験による効果は、かの司祭長の口より大陸中へと伝播していく事となる。
いずれは国を超えて多くの骨董家達の耳に届く事になるのだが、果たしてどのような事になるのか。それはもう少し先の話だ。
次にミラは、セロを捜した。
ひょんな事からフローネが見つかった事で、彼らに頼んでいた調査は、もう必要なくなったと伝えるためだ。
頼んでいたのは、カグラ、アルテシア、フローネがこの世界へと降り立った際の痕跡。
そのうちのカグラについては、セントポリーで再会した時、それとなく伝えていた。
アルテシアについても、時間がある時に冒険者総合組合を訪ねてメッセージを送っておいた。
そして最後のフローネも組合経由で報告するつもりだったが、特別トーナメントに出ていた事もあって、セロがこの街にいるとわかった。ならば直接話した方がいいと考えた次第である。
そして、流石は大陸随一というべきエカルラートカリヨンの団長か。少し捜せば直ぐに情報が集まった。
何でも冒険者総合組合が運営する施設の一つに、ギルドハウスなる場所があるそうだ。
マンションのようなところで、組合所属のギルドならば相応のレンタル料を支払えば、自由に利用出来るという。
セキュリティもばっちりであるため、ギルド専用の拠点にしたり作戦室にしたりと重宝されているとの事だ。
話によるとその一フロアが、ほぼエカルラートカリヨン専用となっているらしい。
(フロアごと貸し切りとは、流石はエカルラートカリヨンじゃのぅ)
その活躍ぶりに感心しつつ、ミラは教えてもらったギルドハウスへと赴いた。
(ここの一フロアとは……随分と景気がよさそうじゃな……)
目の前に聳えるのは、多くの企業のテナントが入っていそうな立派なビルだった。そんな建物の一フロアを占有するとなったら、いったいどれほどの費用がかかるのか。
大陸全土にメンバーを抱える巨大ギルドだけはあると、ミラはその羽振りの良さに引きつった笑いを浮かべた。
セキュリティが万全なギルドハウス。ゆえに本来ならばギルドメンバー以外がふらりと訪ねたところで追い返されるのが当然なのだが、ミラの場合は少しばかり顔が利いた。
精霊女王という冒険者としての二つ名は、時に役立つ事もあるようだ。ギルドハウスの受付にて、特別にエカルラートカリヨンのメンバーと連絡を取ってもらう事が出来た。
そして待つ事、十秒ちょっと。何やらドタドタと騒がしい音が近づいてきたかと思えば、ギルドハウス上階へと通じる階段から見覚えのある者が飛び出してきた。
「ミラちゅわーん! 今日もすっごく可愛いぃぃよぉぉぉぉ!」
エカルラートカリヨンのメンバーといえば、この人物がいるという事も危惧しておくべきだった。
そう、愛情表現が過剰で熱烈なフリッカである。
いったい、彼女はどのような技能を会得しているのだろうか。気づいた時にはもう遅く、ミラはあっという間に捕獲されるなり全身余すとこなく愛でられる。
「久しぶりで、このパターンを失念しておったー!」
振り解こうにも、タコの触腕の如く絡みついてくる腕からは逃れられず、服の中に入ってこようとする手を防ぐので精一杯だ。
と、そうした攻防が始まったのも束の間。これまた見覚えのある人物が怒涛の如く階段を駆け下りてくる。
そう、今度はエメラだ。フリッカの抑制装置としての役割もある彼女が駆け付けた。
その技は、もはや達人の域と言っても過言ではない。風の如く舞い降りれば、ミラに絡みつくそれを紫電一閃とばかりの手刀で退治せしめたのだ。
「久しぶりなのに、ごめんねミラちゃん。ミラちゃんが来たっていう連絡が入って直ぐにフリッカの姿が消えてて、もしかしてと思ったら、こんなに早く来ていたなんて」
エメラはさらりとフリッカを拘束するなり、そのまま荷物と同じようにして肩に担いだ。
「団長に話があるのよね。もう少ししたら帰ってくるはずだから、とりあえずうちのところに行きましょ」
そう言って手早くミラの入室手続きを終えたエメラは、ギルドハウスの階段側へと歩き始める。ミラは相変わらずだなと笑いながら、その後に続いた。
「これまた、とんでもない設備じゃのぅ……」
そうして到着したエカルラートカリヨンの占有フロアは、ギルドの規模の壮大な一端を窺わせるほどのものであった。
通信室や救護室に武具の保管庫、書庫の他、教室なる部屋までも存在しているではないか。
エメラが言うに、様々な状況に対処するために整えていたら、こうなったらしい。また教室では冒険者としての活動に役立つノウハウを新人などに教えているそうだ。しかも、エカルラートカリヨンでなくとも、その授業を受けられるというではないか。
(どのような内容か、ちょいと気になるところじゃな……)
本格的な冒険者としての知識。色々と困難な部分を召喚術でねじ伏せてきたミラは、だからこそ一般的な冒険者としての知識に欠けたところがあった。
水は精霊に頼めば幾らでも使い放題だが、そうでない場合はどのように確保するものなのか。屋敷精霊がいるため寝床には困らないが、一般的にはどのように用意するものなのか。
いってみれば、専門的なサバイバル知識の授業が行われているわけだ。
サバイバルといえば、男ならば誰もが憧れるロマンの一つである。ゆえに興味津々なミラは、どんな授業をしているのだろうかと、そっと教室を覗き込む。
「──と、このように鍋といっても、多くの使い方がある」
見るとそこには、鍋を頭に被ったいかつい教師役の男の姿があった。
兜代わりに被っているのだろうか。どこかふざけているようにすら見えるが、生徒の新人達の眼差しは真剣そのものである。実にシュールな絵面だった。
と、そのように幾つかの施設を覗きながら進んでいったところで、ミラは一つの部屋に通された。
客室だろうか。エメラに案内されたそこは、賑やかな他のところと違い随分と落ち着いた様子だ。
「それじゃあ、ここで少し待っててね。これ、置いてくるから」
そう告げるなりエメラは肩に担いだそれを示してから、どこかへと去っていった。
はたして、どこへ連れて行ったのだろうか。ミラにそれを知るすべはなく、知るつもりもなかった。
暫く待ったところで、エメラだけが戻ってきた。曰く、これでもう心配はいらないとの事だ。
「聞いたよー、あの怪盗ファジーダイスからお宝を守ったって!」
「ふむ、まあわしに掛かれば容易い事じゃよ!」
セロが帰ってくるまでの間、ミラはエメラと雑談した。久しぶりに会えたという事もあって話のネタも尽きず、色々な話題で盛り上がる。
そんな中で一番話が弾んだのは、やはりここ最近の出来事。そう、闘技大会についてだ。
特別トーナメントにて優勝を果たしたのは、何といってもこのエカルラートカリヨンを統べる団長だ。流石は団長だと、ギルドメンバー達はいつにも増して気合が入っているという。
「──それにしてもびっくりしちゃったよー。ミラちゃんが大会の実況をしているんだもん」
「この国のお偉いさん方に頼まれてのぅ。まあ良いかと、引き受けたのじゃよ」
闘技大会の話題となれば、ミラの実況は外せないとばかりのエメラ。
彼女が言うに、どうやらそれはかなり好評だったようだ。その分析力と場の把握力、更には選手達がどのような戦略でもって動いているのかがよくわかり、試合の展開をじっくり楽しめたとの事だった。
またエメラが言うに、アスバルが是非とも教室にて特別授業をしてほしいものだと呟いていたそうだ。
何でもアスバルは、教室にて見習い相手に戦闘技術関係の授業を頻繁に行っているという。とはいえ術士としてのそれは専門外であるため、詳しくは教えられない。
フリッカも時折手伝ってはいるそうだが、あれでいて何かと多忙らしい。
そこでミラである。実況の中に盛り込まれていたふんだんな知識からして、術士のみならず戦闘関係全般に通じているとわかる。加えて、これまでに打ち立ててきた実績は、もはやそこらの上級冒険者をも超えるものだ。
きっと間違いなく、術士視点のみならず、今よりもずっと先にまで見識を広げられるだろうとアスバルは考えているらしい。
「ふむ、まあ時間が合えばのぅ」
新人や見習い達の将来のため。教育は大切だと知るミラは、それでいてそこまで頼りにされているのかと満更でもなさそうに笑う。
結果、その機会があれば引き受けようではないかと約束した。
「おお、久しぶりじゃな!」
「お久しぶりです、ミラさん。いやはや、お待たせしてしまったようで、申し訳ありません」
エメラと色々な話で盛り上がっていたところで、いよいよ今回の目的であるセロが到着した。
闘技大会での賞品やら何やらについての手続きをしていたそうだ。
エカルラートカリヨンの活動資金に加え、賞品として特別製の馬車を二台確保出来たと嬉しそうである。
大陸中の人々のために依頼をこなすエカルラートカリヨン。だがそれを為すためには、設備などの充実もまた大変なのだそうだ。
「それで、わざわざ如何しましたか?」
ソファーに腰を下ろしながら、直ぐにでも用件を窺う姿勢のセロ。既に何でもこいとばかりな様子だ。
とはいえ今回は、何かを頼みに来たわけではない。
「実は、前に頼んだ事についてなのじゃがな……」
任務についての詳細は、国家機密であるため話せない。よってミラは、そう前置きしてからどの程度が話せる範囲だろうかと考えた。
ただ、そんな一言から、セロはミラがどういった話題について話そうとしているのかを察したようだ。
「ああ、それでしたら先日に一つ有力そうな情報が入りましたよ。今はそれについて更に関連する情報を集めているところです」
ようやく情報を掴めたので心配ないとばかりに話し出すセロ。
とはいえ、それがどのような情報だったにせよ、頼んだ分はもう発見済みだ。
「そうじゃったか。しかし、すまぬな。もう少し早く連絡するべきじゃったか。こちらもつい先日にのぅ、最後の一つが突如自己解決したのじゃよ」
ミラがそのように告げたところ、セロは「そうでしたか、それは良かった」と嬉しそうに答えた。だが、そうすると恩を返せる機会がなくなってしまったと、少し残念そうでもある。
「……ところで参考までにじゃな。その掴んだ情報とはどのようなものだったのじゃろう?」
もう発見済みであるため、情報は必要ない。だが、エカルラートカリヨンという大ギルドは、どういった情報を掴んだのか。それがただ気になったミラは、興味本位でそう尋ねた。
「それはですね──」
折角得た情報だから、というよりはどこか答え合わせでもするかのように、セロはその情報について口にした。
曰く、一番古い日付、2117、9、20。これより少し後から始まった、不可解な現象についての情報を得たと。
この数か月後、人の踏み入れないような山奥に建っていた廃城が忽然と消え去るという謎の現象が発生していた。
場所が場所だけに、一時期は話題になったものの、時間と共に忘れられていったという。
ただ詳しく調べていけばいくほど、それをきっかけにしてとばかりに、小規模な消失現象が大陸各地で起きている事に気付いた。
そして、その規模は徐々に拡大していく。
そう、セロが得た情報は、アースイーターの始まりと初動、その過程を経てアースイーターに至るまでであった。
加えてギルベルトという専門家の協力の下で、詳しくそれらについて調査して得た結果だそうだ。
(何とまた、流石の情報網じゃのぅ。しかしギルベルトとは……また懐かしい名が出てきたものじゃ……)
実に精度の高い情報収集力だ。それらはまさしく、フローネの仕業である。これを辿っていけば、きっとフローネにまでたどり着けたであろう。
ただ、だからこそ同時に、それは決して明るみに出してはいけない情報でもあった。
「ふむ……見事なものじゃな。まあ、ゆえにもう一つ頼めるじゃろうか──」
保身のため国のため。それらの情報からフローネの所業が明るみに出ると、色々と面倒になる。よってミラは、その件については内密にと口止めを頼んだ。
対してセロは、何となくではあるがミラの様子から状況を察したようだ。「わかりました」と、朗らかに笑って答えてくれた。
なんというか、あれですよね。
こう、駅弁の釜めしのようなものみたいに、ちゃんとした容器で売られているものとかあるじゃないですか。
そういうのって全部食べ終わった後でも何となく捨てにくいですよね。
で、以前にも書いた缶入りのクッキーですが、当然のように捨てられずに残っています。
何かの入れ物に出来そうだなんて思い、ずっとそのままでした。
と、何かいい使い方はないかなと考えていた時です。
閃きました!
別に他の使い方をする必要はないのではないかと!
そう、缶入りクッキーだったのですから、またクッキーを入れればいいじゃないというわけです!
という事で行きつけのスーパーにて、色々な種類のクッキーを買ってきました。
そして全ての箱を開けて、缶に入れました。
結果、あの贅沢感が大復活しました!!!!
缶いっぱいに幾つものクッキーが並んでいるというこの迫力といったらもう!!
蓋を開いて、何を食べようかなと悩むあの瞬間。
おやつタイムの楽しさもまた復活しました!!




