428 エキシビション メイリン対──
四百二十八
「さあ、特別トーナメントの決着をもって、闘技大会の試合の全日程が終了しました。素晴らしい選手達による熱い戦いは、幕を閉じたのです。この闘技大会に出場した全ての選手に感謝を捧げたいと思います! 素晴らしい試合をありがとうございました!」
闘技大会にて開催されていた各トーナメントの勝者が決まった。
無差別級覇者のプリピュア。特別トーナメント覇者のセロ。そして他にも様々な部門別による勝者が出揃い、舞台上に並ぶ。
これより、始まるのはトロフィーの授与などだ。
大陸最大の闘技大会である事に加え、相当にアルマ達が奮発した事もあり、その賞品は豪華なものばかり。
「──そして、優勝賞金五十億リフの贈呈で──────っす!!」と、ピナシュの声にも力が入っていた。
無差別級の賞品は、その中でも特に破格的といってもいいほどの豪華さだった。
賞金五十億リフに加え、ニルヴァーナ皇国が秘蔵する伝説級の武具までもが贈呈されるという大盤振る舞いである。
(五十億……ああ、それだけあれば家具精霊捜しも捗るじゃろうなぁ。わしも出場出来ておれば……。加えて伝説級までも! 確かニルヴァーナには、暁の神冠があったはずじゃな。それと天帝の朱鎖と偽王の血扇、仙柱の指杖もここにあったのぅ。これらはメイリンとの相性も抜群じゃからな。はてさてどれを選ぶのじゃろうか。どちらにせよ今度、貸してくれるように頼むとしよう。美味しい弁当でもどこかで調達すれば、今度もいけるじゃろう!)
賞品の贈呈にあたり、ミラもまた力が入っていた。
メイリンが手に入れたのなら、それはもうアルカイトのもの。そして九賢者のもの。存分に研究実験に活用出来ると、ミラはご機嫌だ。
後は数ある伝説級の中から、メイリンがどれを選ぶかだ。
思えばメイリンが優勝するのは、ほぼ確定であった。その事から、どれを選ぶのか話し合っておくのもありだった、などと考えるミラ。
だが幾ら仲間だからといっても、戦いを勝ち抜いたのはメイリンだ。ミラは自分勝手な考えを振り払い、彼女の自主性に委ねる事にした。
どれを選ぶにしても所有者がニルヴァーナ側から、こちら側に移るのは変わらない。ともなれば、どれだろうとアルカイトのためになるのは間違いないからだ。
帰国後、伝説級を弄り倒すのが楽しみだとほくそ笑みながら、ミラはメイリンの選択を見守る。
すると、まさか──
「んー……別にどっちも要らないネ。それよりも早く、強い者と戦いたいヨ。エキシビションマッチを始めてほしいネ!」
と、優勝目録を突き返すなり、そんな事を言い出したではないか。
そう、メイリンにとってみれば賞金や賞品などは試合のオマケ程度の認識なのだ。それよりも今は優勝者だけが得られる十二使徒との試合の権利の方が大事であり、それ以外はどうでもいい様子だった。
(あのバカ娘は、何を言っておる! くれるというのじゃから貰っておけばいいじゃろうが!)
よもや、賞金と賞品のどちらも要らないというメイリンの宣言。まさかの言葉に静まり返る闘技場に反して、ミラは頭を抱えて心で叫ぶ。
五十億リフと伝説級武具。これは、このような闘技大会だったからこそ手に入る権利が得られたものだ。
本来ならば、それらは今のご時世、ただ強いだけで易々と手に入れる事の出来ないものでもある。
その権利を放棄するなどメイリンらしいともいえるが、どうやらミラは黙っていられないようだった。
『流石はプリピュア選手。もう次の戦いで頭がいっぱいのようじゃ。このような大会で優勝するには、強さに対してこのくらいの貪欲さが必要なのかもしれぬ。しかし、それを追い求めるのも、色々と大変じゃろう。特に人は、食べなければ動けなくなってしまう。しかしそんな時、五十億リフがあったらどうか。美味しい料理が食べ放題じゃぞ──』
放送が届く範囲を客席のみから舞台上に変更したミラは、メイリンに考えを改めさせるべく甘言を並べていった。
お金がどれだけ重要かをメイリンに教えるため、特に大切なのは食を絡める事だ。
自給自足で十分に足りている彼女だが、やはりプロが作る料理に比べれば単調になりがちだ。
けれどお金があれば、美味しいものを沢山買って食べられる。アイテムボックスを活用すれば、保存に持ち運びも楽々ときたものだ。
ミラは、どこか言い聞かせるようにして、しっかりと優勝賞金を受け取るように促す。
またミラの意図に気付いたのか、舞台上のプレゼンターも受け取ってくださいと説得を始めた。
賞金も賞品も要らない。それは展開としてならば劇的であるものの、それらを堂々と看板に掲げていた主催者側にとっては複雑なところになるわけだ。
更に、奮発した賞品を拒否されたとなったら国の矜持に関わってくるかもしれない。
すると、そんな二人の言葉が効いたのか、「そうヨ、凄いネ。美味しいものいっぱい食べられるヨ!」と、聞き届けてくれたようだ。メイリンが受け取りを承諾したではないか。
これにはミラ達だけでなく、観客達もまた安堵した様子である。プレゼンターよりプリピュアに目録が受け渡されると、優勝が決まった時よりも盛大な拍手喝采が鳴り響いた。
なお伝説級の武具については、ミラの説得……という名の誘導によって、この場で決定はせず後日に一覧から一つ選ぶという形に決まった。
アルカイト王国のため、ひいては自分のために勝ち取った勝利である。
闘技大会全てのトーナメント賞品の授与が完了した。
だが闘技場の熱は、まだまだ消えない。誰一人として立ち上がらない観客席。残る者達は皆、一同にその舞台上を見つめていた。
そう、この闘技大会の最終日を彩る最後の戦い──エキシビションマッチが残っているからだ。
『さあさあ、闘技大会の全日程は終わりましたが、戦いはまだ続きます! ここから先は特別枠、希望によって実現する夢の対決の時間です!』
優勝者が望むか望まないかで有無の決まるエキシビションマッチ。その開始を告げるピナシュの声に、観客席が盛大に沸き立った。
一度静まり返った闘技場に再び火が灯っていく。
『無差別級と特別トーナメントの勝者は二人とも希望したそうじゃ。いったい誰が相手になるのか、楽しみじゃのぅ!』
『はい、本当に楽しみです!』
無差別級と特別トーナメントの勝者には、ニルヴァーナが誇る十二使徒と試合する権利が与えられる。
メイリンは当然だろうが、セロもまたこれを希望したようだ。
大陸最大級のギルドの団長という矜持か、それともメイリンと似た動機か。
(ふむふむ。セロの奴も、ああ見えてなかなか好戦的なところがあったからのぅ)
ともあれ決して見逃せない二戦になるのは間違いないだろう。
そして何よりも、観察のし甲斐がある二戦となるのも間違いないと睨むミラは、アルフィナ達にもしっかりと見届けるようにと伝えてエキシビションマッチに集中した。
エキシビションマッチ一戦目。
無差別級王者のメイリン……もといプリピュアが指名したのは、聖騎士ノインだった。
『プリピュア選手の相手は、十二使徒のノイン様だぁぁぁぁ! 素敵です、ノイン様ぁぁぁ!』
ニルヴァーナの英雄だけあって実況にも力が入るのか、それとも個人的な理由でもあるのか。ピナシュは声が割れんばかりに叫んでいた。
『ふむ。トーナメントにて圧倒的な攻撃力を見せつけてきたプリピュア選手と、防御では絶対的な信頼感を持つ十二使徒のノイン……様。どのような試合になるのか楽しみじゃな』
どことなくこれまでと様子が違うピナシュを鑑みてか、しっかりとノインに敬称をつけたミラは、面白い試合になりそうだと舞台上に注目した。
(うむ、やはりノインが鉄板じゃろうな。なんといっても、一番わかりやすいからのぅ!)
強者達が十二人も揃う十二使徒の中からメイリンが選択したのは、ノインだった。
十二使徒の中にはメイリンとも互角以上に渡り合える武道の達人である鳳翁や、同じ仙術士のルヴォラがいる。
純粋に戦いを求めるのなら、そういった選択もあった。
だが今回選んだのは、ノインだ。そしてミラはその理由について我が事のように納得していた。
ミラとメイリンのみならず、他の九賢者達もまた思っている事。
それは、新しい術などの実験相手としてノイン以上に最適なものはいない、という認識だった。
公爵級悪魔との闘いと今回の闘技大会の決勝までを経て、彼女なりに新しい何かが見えてきたようだ。ここぞとばかりに試すつもりなのだろう。
(ああ、わしもあれやこれを試したいのぅ!)
ノインに通じれば、ほぼ何にでも通じる。ノインの防御段階をどこまで上げさせられるかで、新技、新術の程度を計る事が出来るわけだ。
はたしてメイリンは、どのような技や術を試そうとしているのか。そこに自分でも扱えそうな要素はないかと、ミラもまた試合をじっくりと観察するつもりのようだ。
観客のみならず、そういった視線も集まる舞台上にて、ノインはぶるりと背筋を震わせる。
「あれ……? 公爵級とやり合っていた時よりもプレッシャーを感じるんだけど」
それは、歴戦の騎士の勘とでもいうのか。やる気満々なメイリンを前にしたノインは、そこに渦巻く異様な圧力を感じて苦笑する。
「よろしくお願いするネ!」
ともあれ合図の声が響くと同時に、メイリン対ノインの試合が始まった。
メイリンは開始直後から全力であった。強烈な一撃を放ったかと思えば、速度を上げて多角的に攻めていき、また再び鋭い一撃を繰り出す。
威力と速度。これらを一手ごとに大きく調整しながらの乱撃だ。
そこらの戦士どころか相当な使い手であろうとも、これを凌ぐのは困難であっただろう。
だがノインは違う。その守るための技術と力は、他を圧倒する域にある。メイリンの猛攻を前にしながらも、少しばかり強い風に吹かれただけといった様子で盾を巧みに操り、その全てを防ぎきっていた。
けれども当然、メイリンもまたそのままで終わるはずもない。次から次へと技や術を繰り出していく。
しかもそればかりか、そういった合間合間に、見た事もないような技と術を織り込んでいるではないか。
どのように派生するのか、どういった効果を持つのかわからないそれらを、その場の判断のみで対処するノイン。
その反応に合わせて、次の手を打っていくメイリン。
試合開始から僅か数秒にして、もはや常人の誰もが追い付けない戦いに突入していった。
そして、そのような展開を前にしてもっとも忙しくなったのは何と言ってもミラであった。
『──今のは、あえて途中まで術を完成させる事で守備方向を誘導しようとしたわけじゃ。──ほんの些細な隙じゃな。一瞬で踏み込めるような者でなければ付け込めぬ。じゃが相手がそれを出来るからこそ、あえて見せたのじゃろう。──今のは初めから当てる気はなかったようじゃ。しかし、あれほどの術があると知れば警戒しないわけにもいかぬというものよ』
観客のみならず、ピナシュもまた完全に置いてけぼり状態になってしまったため、解説実況説明が、ほとんどミラ任せになってしまっていたのだ。
なまじそれなりに二人について知っており、動きや考え、そして手札がわかるからこそ解説もまた的確に可能であり、だからこそ求められるままに戦況を語っていった。
そのようにして続くメイリンとノインの特別試合。
激しい攻防と目まぐるしく変わっていく状況、そして徐々に興がのっていくミラの実況。
それは、十数分と続いた。そして十五分が過ぎたところで、会場全体に笛の音が響き渡った。
試合終了である。結果は両者引き分け。今回は制限時間が設けられており、その時間が過ぎた時に決着がついていなければ全て引き分けというのがエキシビションマッチのルールなのだ。
「むぅ……仕方がないネ。また今度、勝負ヨ!」
「ああ、機会があったらね」
勝敗は決しなかったもののメイリンは色々と試せて、それなりに満足はしたようだ。
そしてノインもまた、何かしら得られたものがあったのだろう。疲れた様子ではあるが機嫌が良さそうだった。
フフフフフフフフフ。
ついに買ってしまいました。
いったい何を買ったのか……
それは……
缶入りクッキーです!!!!!!
そう、あのお土産だったり贈り物だったりでよくある、あの缶入りクッキーです!
賢者の弟子のアニメを見ながら特別なスイーツを食べるという日のため、ちょくちょくスイーツをネットで見ているのですが、その際にちらほらと目に入ってきたのが缶入りクッキーです。
そして思いました。
そういえば缶入りクッキーって、最後に食べたのはいつ頃だっただろうかと。
思い返せば……もう余裕で二十年以上は遡りました。
という事で!!!
ここは一つと奮発してみちゃったわけです!
後々のスイーツタイムのための前哨戦として、久しぶりに食べてみようと!
お土産や贈り物の定番を、自分用に買う。
フフフフフ。こんな事が出来ちゃうなんて、自分もまた随分と出世したものです。
そして買った缶入りクッキーは、
赤い帽子 というやつのレッドです!!!
沢山入っています! どれもおいしかったです!!
また今度、贅沢しちゃおうかな……。
フフフフフ。




