420 解説者ミラ
四百二十
メイリンとブルースの試合が終わった。決勝トーナメント第一試合は、その始まりにふさわしい大激戦であり、大盛り上がりとなった。
そして熱狂する観客達の歓声は、ミラがいる解説席にまでも届いていた。
(よし、この反応からして大成功といっても過言ではないじゃろうな!)
歓声の中には、プリピュアだけでなく奮闘したブルースを称賛する声も多い。
また、イリスと共に会場にて観戦していた団員一号やヴァルキリー姉妹達より観客の様子について報告を受けたミラは、作戦の成功ぶりに喜びにんまり顔だ。
まず間違いなく、今回の試合によって召喚術への認識に変化を与えられた事だろう。それは今後の召喚術士の地位向上の一助となってくれるはずだ。
「いやぁ、初戦から実に素晴らしい試合となりましたね。プリピュア選手の力と速さは圧巻でした」
「ブルース選手の召喚術もまた素晴らしいものじゃった。常に頼れる仲間がいるというのもまた、召喚術の魅力と言ってもよいじゃろうな」
召喚術士の明るい未来を確信しながらも、ミラはピナシュと解説している風を装い、召喚術の利点をちょくちょく挟み込んでいた。この大会で完全に決めるつもりだ。
と、そのようにして激戦が終わったが、試合はまだまだ一戦目。闘技大会の本番はこれからだというほどに、好カードが残っている。
一試合、また一試合と闘技大会は進む。
そしてミラとピナシュもまた、白熱の実況を繰り広げていった。
激戦に次ぐ激戦。手に汗握る接戦に、息を呑む静寂からの決着と、初戦のみならず、続く試合もまた決勝トーナメントにふさわしい戦いばかりであった。
「──優勢と思いきや距離をとったグランディール選手。いったいどうしたというのか!」
「きっと《千変砕花》を警戒したのじゃろう。予兆にも近い僅かなマナの流れがあったからのぅ。あれは、指定した領域に踏み込んだところで発動する罠タイプの術じゃ。何もしていないように見せて他の術を使った時に仕掛けておくなどすれば、なかなか気づかれないものじゃが、よく見ておるわい」
「なんといつの間に! あのタイミングで決まっていれば確かに形勢は完全に逆転していました。それを素早く見抜くとは、流石はグランディール選手。そして不利な状況にありながらも、静かに逆転を狙うシャリオン選手。一瞬たりとも目が離せません!」
今日の日程は、決勝トーナメント一回戦の全てとなっている。
そして幾らか試合が進んでいく中、ミラは真っ当に解説者としての役割を存分にこなしていた。
特に九賢者ゆえ、召喚術のみならず他系統の術の造詣もそれなりに深いため、舞台上にて繰り広げられている様々な知略戦術のやりとりを的確に捉えて、わかりやすく解説していた。
魔物や魔獣ばかりでなく対人戦も積極的だったかつての経験が、ここにきてふんだんに活きているわけだ。
「なるほどなぁ。だから二人とも動かない……いや動けないのか」
「さっき……いや、あの時に仕掛けたのか? わからんが、あいつ顔だけじゃないんだな」
一見すると不自然な動きであり、消極的にすら見えてしまうものだったが、ミラの解説によってその理由がわかる。それによって闘技大会の楽しさもまた飛躍的に向上する。
だからこそ観客にとってミラの解説は好評であり、この猛者同士がぶつかり合い交差する闘技大会において必須と言えるものになってきていた。
(後はもう、このままメイリンが優勝すれば完了じゃな。優勝者とあれだけの戦いを繰り広げたとして、召喚術士のブルースの名は大陸中に轟くじゃろう!)
初戦にて召喚術の株を落とさず、それでいて観客達に好印象を与える事が出来た。その成功を喜ぶミラの機嫌は良く、その解説にも自然と力が入る。けれども、更に召喚術の宣伝を挟み込む事も忘れない。
「ふむ、よい判断じゃな。どこに設置されておるか不確定な今は、その感知に集中するべきじゃろう。──だがしかし、召喚術があれば別じゃ。武具精霊を囮に使う事で、大半の罠を無効化出来るからのぅ!」
そのようにミラは、ちょくちょくと召喚術士がいれば楽勝だなどと語りだす。だからこそピナシュは、油断が出来ないと素早く対応して話を試合に戻す。
そうして舞台上のみならず、解説室においても見えない戦いが繰り広げられていた。
「本日は、ありがとうございました。明日の予定は、二回戦、そして三回戦目となっております。また、この会場でお会いしましょう!」
夕方を過ぎて、夜となった時間。十六試合と続いた闘技大会決勝トーナメント一回戦の全行程が終了した。
ミラは、ピナシュが閉会のアナウンスを終わらせたところで席を立つ。
「お疲れ様じゃな。また明日もよろしくのぅ」
手早く帰り支度を済ませるなり、そう笑顔で告げるミラ。
成し遂げたとばかりにマイクのスイッチを切るピナシュは、そんなミラの言葉に「はい、お疲れさまでした。明日もよろしくお願いします!」と答える。
そうしてミラが足取りも軽く帰っていったところで、ピナシュはぽつりと呟いた。「あと、何日もつんだろう……」と。
そんな彼女の姿を前に、機材担当は「共に頑張ろう」とエールを送った。
「ようやったぞ、ブルースよ。素晴らしい健闘であった!」
王城に帰る前の事。ミラは選手村にあるブルースの宿舎を、そっと訪れていた。
理由は一つ。召喚術の未来のために困難へと挑んだブルースを労うためだ。
「ありがとうございます。負けてはしまいましたが、ご助言の通りに全てを出し尽くしての敗北だった事もあってか、清々しい気分です」
そう答えたブルースの表情は、その言葉通りにどこか晴れ晴れとしていた。
ただ、そういった反応も束の間。不意にブルースは、真剣な色をその顔に浮かべるなり、「ところで、ミラ様にお聞きしたい事が……」などと口にした。
「聞きたい事とな? ふむ、何でもよいぞ!」
ブルースが聞きたい事。きっとあのような激戦の後で、熱も冷めやらぬ今だからこそ、もっと強くなるにはどうしたらいいのか、とでもいった事だろう。そう思ったミラは、次は武装召喚でも教えようか、それとも召喚精霊術でも伝授しようかと考える。
だが、次にブルースが口にした事は、そんなミラの予想とは大きくかけ離れたものであった。
「今だからこそ、お聞きしたいのです。やはりあのプリピュア選手こそが、メイリン様だったのでしょうか?」
そう核心をついてきたのだ。しかも、その言葉からして、以前から予感があった様子である。
ミラは、よもやまさかな言葉に動揺する。だが表面上は取り繕ったまま、ゆっくりと頷いた。
「……うむ、その通り。世間にはメイリンの顔を知る者もおるのでな。そうとわからぬように変装させた結果が、あのプリピュアというわけじゃ」
勝てぬとわかっていたからこそ、その一戦で全てを出し尽くせという助言になった。その事をブルースは、その顔と態度からして既に見抜いているともわかる。
真剣なブルースの目。それを前に嘘など言えるはずもない。
嘆くだろうか、憎まれるだろうか。そんな反応も覚悟しながら、ミラは素直に肯定した。
「やはり、そうでしたか──」
ブルースは、そう静かに笑った。そして「黙って送り出してくださり、ありがとうございました」と続けて口にする。
闘技大会にメイリンが現れる。そんな彼女を捕まえるためにミラはやってきた。その事を知るブルースだからこそ、その真実に辿り着くのは必至というものだ。
それでいて、戦いが終わった後にそれを確認してきたのは、きっと彼なりの覚悟だったのだろう。戦う前にはっきりと正体を知ってしまえば、もはや万が一にも勝ち目がないとわかってしまう。
そのような状態で、本気で勝とうと戦えるのか。本当の全力を出せるのか。そう考えたからこそ、ブルースは全てが終わったこのタイミングで真相を問い、それを知り、感謝したのだ。
「礼を言われるような事ではない。わしには応援するくらいしか出来んかっただけじゃよ」
何と清々しいくらいに真っすぐなのだろうか。もしかしたら何も言わずとも、彼は一戦目に全てを注ぎ込んでいたかもしれない。
余計なお世話だったか。そう思いながら、ミラは健やかに成長したブルースをじっと見つめて笑った。
「そういえばもう一つ、是非とも伺いたい事がございまして──」
ブルースの質問は、それだけで終わらなかった。むしろ、どちらかというとこちらの方が大切な事だとばかりに一層身を乗り出す。
プリピュアの正体。それ以上に重要な何かがあっただろうか。実はメイリンを買収していた事までバレてしまっていたのか。
ミラは、いったい何の事だろうかと狼狽えながらも、表面上は整えたまま「ふむ、何じゃ?」と返した。
「負けた時なのですが、プリピュアさんが言っておりまして。何やら、『爺様が弟子というだけはある』などと」
そう口にするなり、じっと何かを窺うようにミラを真っすぐと見据えるブルース。
対してミラはというと、まさかの恐れていた事が的中してしまったかと、更に心の中で慌てふためく。
(あんの食いしん坊娘が……! そんな事を言ったら裏に誰かがいたとバレてしまうではないか!)
ブルースが全力を出せるように対戦相手とも密約を結んでいた。裏を返せば、そうしなければ全力を出す前に終わってしまうと確信しているようなものであり、ブルースに対する侮辱にもとれる約束だ。
「あー、うむ。そ、そうか。そのような事を……」
それが本人にバレたりでもしたら、きっと不快に感じるかもしれない。
さて、どのように言い訳しようか。ここは一つ、九賢者として面倒を見てやってくれと言った事にして、その裁量はメイリン任せだったという事にでもしてしまおうか。
そう、あれやこれやと考えていたところである。
「そうなのです! メイリン様が私に向かって、爺様の弟子と仰ったのです! メイリン様が爺様と呼ぶお方といったら、当然ダンブルフ様の事。つまり……つまりですよ。メイリン様が、私の事をダンブルフ様の弟子であると公認なさっているというわけですよね! 私はダンブルフ様の弟子を名乗ってもよろしいと、そういう事ですよね!?」
何やらミラが危惧していた、メイリンとの裏取引がどうという話から唐突に話が逸れていった。
それどころかブルースが最も気にしていたのは、その点であったのだ。
九賢者ダンブルフの弟子。その肩書、また何よりも弟子として認められたという事実に、ブルースは歓喜していたのである。
(なんじゃ、そっちの事じゃったかぁ……)
これでもかと構えていたミラは、そんなブルースの言葉を聞いて胸を撫で下ろした。
「まあ、そうじゃな。ヴァルハラで色々と教えたのじゃから、弟子と言っても過言ではないじゃろう」
どうやら裏取引については関係ないようだ。場合によっては取引材料まで探られて、『フェリブランシュ』の特製弁当について知られ、メイリンに明かされ、散々な目に遭う展開まで考えていたミラは、そう安堵すると共にブルースが弟子である事を認定した。
「……ああ──ありがとうございます!」
それはもう感極まった顔をしたブルースは、感無量とばかりに叫んだ。
ブルースの正式な弟子認定。後々に、どのような影響を及ぼすのか。それは、もう暫く先の話である。
「じぃじ、明日は事あるごとに召喚術どうこうって挟み込むの止めてね」
ブルースの心象を悪くする事無く、無事に帰宅したミラ。その後、アルマの豪華な方の私室にて皆で夕食会を開いていた際の事。誰もが思っていたであろう一言を、アルマがぴしゃりと告げた。
するとどうだ。それと共にエスメラルダやカグラ、ソウルハウルらも「あれは酷い」と口を揃え、それはもう冷めた目でミラを見やっていた。
「なん……じゃと……!?」
素晴らしい解説だったと称賛される気でいたミラは、まさかの評価に愕然とする。そして、ちょこっとだけ召喚術の良さを伝えただけだと言い訳するも、どこがちょっとだけなのかと、なおさらに叱られた。
けれど、叱られるばかりではない。まだ味方がいた。それは、イリスだ。
「ミラさんの解説、凄くわかりやすかったですー!」
そのようにイリスが屈託のない笑顔で喜んでいるものだから、他には何も言えなくなったアルマ。
加えて実際のところでも召喚術云々を抜かせば、ミラの解説は完璧に近いものであった。
だからこそ、ミラを降板させるという選択肢はない。
(むむむ……多少強引過ぎたのかもしれぬな。明日はもっと上手くやらねばのぅ……)
叱られたものの止める気のないミラは、もっと自然な流れで召喚術の話に持っていくため、解説の展開を工夫しようと考える。
と、ミラがそんなしょうもない努力をしている間に、イリスもまた頑張っていた。
それは、男性恐怖症の克服だ。
今、この食事の席にはソウルハウルとラストラーダ、更にはノインも同席しているのだ。
配置は一番離れた対角線ではあるものの、今のところ症状は出ていない。何よりも隣にミラがいるという心強さが、彼女に勇気を与えているようだ。
ただ、ちょくちょくノインと視線が交差するため少しばかり大変そうでもあった。
というわけでして、堪能しました。
スーパーチートデイを!!
折角という事もあり、何にしようか色々と悩みました。
こういう時にこそと思い、宅配系のチラシなんかを確認したりもしました。
トンカツ、釜めし、ピザ、ファミレスと、色々ありました。
数あるそれらの中で目を付けたのが……
寿司です!
贅沢といえば寿司!
最後に食べたのは、いつ頃だったか……。という事もあり、寿司に決めました!
ただチラシにあったそれは、クレジットカードの登録が必須だったりなんだりしたので見送りに。
その代わりに思いついたのが、近所の寿司屋さんです。
調べてみると、お持ち帰りも可能との事。
行ってきました。買ってきました。堪能しました!
やっぱり寿司はいいですね!
最高に美味しかったです!
またいずれ、何かしらのタイミングで寿司を食べたいなと思いました。




