418 闘技大会オープニング
さて、いよいよ書籍版15巻の発売日が近づいてきました。
そしてコミック版8巻の発売日も間近です。
どちらも特装版もあったりします!
更に、スピンオフ1巻も出ます。巻末に書下ろしSSとかあります。
どれもこれも、よろしくお願いします!
四百十八
「まさかミラ様がいらっしゃるとは。言ってくだされば迎えに出ましたのに」
「いやなに、ちょいと思い付いての勢いで来ただけじゃからな」
無事にブルースを見つける事が出来たミラは、そんな言葉を交わしながらブルースの滞在場所へと向かっていた。
聞けば彼は昼食用の勝負飯を買って戻る途中だったそうだ。
見ると、その右手には手提げ袋がある。しかも、見覚えのある袋だ。
「ところで、どんな勝負飯を買ったのじゃ?」
まさかといった面持ちで訊いたところ、その予感は的中した。
そう、ブルースの答えは『フェリブランシュ』の特製弁当であったのだ。
何でも、あの入手困難な希少弁当が選手村用として幾つか卸されているというではないか。
ここでの競争率も相当だが、本戦出場者ならば優先的に購入する権利があるそうだ。
(この件については、秘密にしておくとしよう……)
その弁当を手に入れるため、東奔西走していたメイリン。
もしも彼女の滞在場所がアダムス家でなく選手村であったなら、そんな苦労をするような事にはならなかっただろう。
この事を知る事が出来たのなら、それこそ毎日でも食べられたはずだ。
きっとこの真実は、多くの不幸を生む事になる。そう直感したミラは、今後ともメイリンが選手村に近づかないようにするための対策を立てておこうと考えた。
そうこうして到着した宿泊施設は、かなり立派なものだった。
決勝リーグ出場者という事もあるのだろう。なんと小屋一つがまるごとブルースの滞在場所となっていた。
「これまた好待遇じゃのぅ」
小屋に入るなり、まるで上京した我が子の部屋をチェックする親の如く見て回るミラは、その待遇の良さに舌を巻く。
「はい、私も驚きました」
簡易なロッジ風ながらも造りはしっかりしており、水回りなどの生活に必要な設備も全て揃っていた。
この環境ならば、ブルースも万全な体調で試合に挑める事だろう。
「さて、会いに来たのは他でもない。お主の健闘を讃えようと思っての事でな」
一通り見終わったところで、ミラは改めるようにしてそう告げた。
召喚術を広めるため。その威光を知らしめるために、闘技大会での活躍は間違いなく世間に大きな影響を与えるはずだ。
だが、ミラは出られない。その分、頑張ってくれているのが、このブルースだ。
そして彼は、闘技大会の決勝トーナメントにまで残ってみせた。それは、実に素晴らしい成果といえる。
「よくぞここまで勝ち抜いたのぅ! じゃがしかし、この先の戦いは更に厳しいものとなるじゃろう──」
ミラは褒めると共に、ここから先の戦いの厳しさについても口にする。
多くの猛者が、決勝トーナメントに残った。中でも特に初戦の相手となるプリピュアは、あんな格好をしているものの、とんでもない実力者であると。それはもう、よもや偶然にもそんな相手と初戦で当たるなんてと悔やんでみせるミラ。
「確かに……予選を見る限りでも、あの方の実力は底が知れないですね」
ブルースも対戦相手については、それ相応に把握しているようだ。
正体までもとはいかずとも、初戦の相手となるプリピュアは、これまでで一番の難敵になりそうだと唸った。
「うむ……じゃからこそ、一つ助言をしようと思うてな──」
次の相手の正体は、九賢者のメイリンである。
ここまで実力で勝ち抜いてきた凄腕の召喚術士であるブルースとて、彼女相手では万が一にも勝ち目はないというのが現実だ。
だからこそ──初戦敗退が確定してしまったからこそ、ミラはしかと闘技大会に爪痕を残せるようにと、助言の形でブルースに心構えを説いた。
「よいか、ブルース。いや、ジュード・シュタイナーよ。一試合目だからと出し惜しみなどせず、最初から全力で挑んでゆけ。手の内を知られると次の戦いが、などという事は考えんでもよい。その一戦に全てを出しきるつもりで戦ってこい。こちらの手札を知られているから負けたなど、素人も同然の言い訳じゃからな。常に全てを覆す覚悟を持つのが大事じゃぞ」
先の試合を見据えるならば、出来るだけ手の内は温存しておいた方がいい。トーナメント形式ならばこそ、対戦相手にこちらの情報を与えない事も重要な戦術である。
だが、今回は例外だ。ブルースにとっては、その一試合目が決勝のようなものなのだから。
それゆえのミラの言葉であったのだが、当然その事情を知らぬブルースには、もっと単純に響く言葉となった。
「なるほど……確かにその通りです。手の内が知られていようと勝利する。トップに立つならば、それが出来て当たり前というわけですね!」
たとえ誰がなんと言おうとも、手札が知られるほど対処されやすくなるため勝率は下がる。トーナメント戦において、それは絶対ともいえる条件だ。
だからこそ他の誰かが言ったところで、それは正解かどうかといった疑問が浮かんだ事だろう。
しかし、『軍勢』という大陸規模で知れ渡っている手札を持つダンブルフの言葉だったからこそ、それほどまでに知られている手札でありながらも、なお多くを蹂躙してきたからこそ、その言葉はブルースの心に強く響いた。
「ダンブルフ様──いえ、ミラ様ほどの圧倒的な力は、まだ私にありません。けれど、それでも今の私の全てでどこまで出来るのか。挑戦してみたいと思います!」
形はどうであれ、ブルースの腹は据わったようだ。試合に臨む選手だった彼は今、試練に立ち向かう勇者の如き気迫をまとい、不敵に笑う。
始めから全力で。その言葉を胸に、ブルースは高みに挑む。
いまだ到達には至らぬ遥かな高み。けれども、だからこそ挑む事に価値はある。
「うむ、出し切ってこい!」
これで準備は万端に整った。メイリンとブルースの一戦は、召喚術の可能性を世に示すための一助となるだろう。
そう確信したミラは、大いにブルースを激励してからその場を後にする。
(どうなるかと思うたが、これでもう安心じゃな!)
帰り道。ミラは晴れやかな気持ちで屋台を覗き込み、買い食いを楽しんだ。
ブルースが初戦でメイリンとぶつかるなどという事態に陥ってしまったものの、手を回した事で召喚術の宣伝は予定通りに進みそうだ。
あとはブルースの頑張り次第である。
ミラは棒ケーキなるスイーツなどを軽く堪能しつつ、アルマとの打ち合わせのある昼食の時間までの間を過ごした。
「本日は闘技場までお越しいただき、ありがとうございます。決勝トーナメントでの司会を務めさせていただきます、ピナシュです。試合観戦時のルールなどについて──」
決勝トーナメント開始まで、あと一時間。イリス達との昼食を済ませ、ついでに解説の事での打ち合わせも終えたミラは今、いよいよかと観客達が注目する闘技場の舞台脇にいた。
現在、舞台上では司会者──ピナシュによって大会観戦における注意事項や各物販に施設などの案内、そして試合ルールの確認が行われていた。
(いよいよ、メインの一つとなる無差別級決勝トーナメントじゃが……さて、どうなるかのぅ)
予選の時も、毎日こういった案内や注意事項などの確認がされていた。
しかし、今日は違う。それに加えて各賞品の紹介などもあった。特にレジェンド級武具が出てきた際の観客席の盛り上がりようといったら相当なものだ。
なお、舞台脇のミラもまたレジェンド級武具を前に大興奮だ。あれがあったなら、あんな実験が出来るだろう。それがあったなら、こんな事が試せそうだ。と、レジェンド級が秘めた強力な力に、興味津々だった。
そして、ふとっぱらな賞品が一通り提示されたところで、いよいよ決勝トーナメントの主役となる出場者達の発表が始まった。
試合順にブルース、プリピュアに続き、名だたる猛者達が舞台にあがっていく。
それら全員を、逸話やら功績やらも添えて紹介していくピナシュ。
(ほほぅ……こうして揃ってみれば、なかなかに油断ならぬ者がちらほらとおるではないか)
流石は大陸全土から集まってきたというだけあって、ミラも知る強者などもそこに残っていた。
とある大国にて副将軍の座にあった引退軍人、レヴォルド・ガイザー。
地下闘技場にて絶対覇者として君臨していたブラッディクリムゾン・キングスブレイド唯一のライバルであった、エルヒース・ゲイン。
そして何よりも、そこには元プレイヤーと思われる者達の姿も複数存在していたのだ。
(これはちと、ブルースが決勝まで残るのは難しかったかもしれぬな……)
ブルースとて、ここまで勝ち残るほどの実力を持っているのは確かだ。しかしながら改めて他の選手を確認すると、力不足感が否めないというのが現実でもあった。
むしろ融通の利くメイリンと初戦で当たったのが正解だったのではないかとすら思えるほどのそうそうたる顔ぶれだ。
「そして最後に試合の解説者として、特別なゲストをお迎えいたしました。今世間を賑わせている新進気鋭の冒険者、精霊女王のミラさんです!」
一通りの紹介が終わったところで打ち合わせ通りに名を呼ばれたミラは、いざとばかりに舞台へ上がった。
「今回、これほどまでに大きな舞台の解説をさせていただく事になったミラという。まだまだ新参ゆえ、このような立場を頂き恐縮じゃが、引き受けた以上は選手の方々の気迫に負けぬよう、そして皆にこの闘技大会を楽しんでもらえるよう努めさせていただく所存じゃ!」
どこか控えめな態度と献身的な笑顔で、そのような挨拶を口にしたミラ。
するとどうだ。見た目だけならば完璧なミラだからこそか、その殊勝な振る舞いが観客達の心を瞬時に射止めたようだ。それはもう、一気に客席が沸き立った。
そして、観客達の心を掴んだその瞬間をミラは狙っていた。
「しかし、これだけの大舞台。冒険者としての先輩方も出場するこの場にて、わしの力がどこまで通用するのか、その胸を借りてみたかったというのも素直な気持ちじゃ」
そのようにミラは、ここぞとばかりにアピールを始めたのだ。
「巷では、精霊女王などという名で呼ばれるゆえに名前負けしている、などと囁かれたりしておるようじゃが──」
「──機会さえいただければ、きっと納得してもらえるはずじゃ」
「──大会の最後に優勝者と十二使徒による特別試合があるという。折角なのじゃから、それに倣いわしとも一戦交えるというのも面白そうではないじゃろうか」
挨拶した勢いのまま。まるで挨拶の続きとばかりな顔をして、ミラはどうにかこの大舞台に集まった観客達に召喚術の素晴らしさを伝えようと画策する。
言っている内容は随分と無茶な事ばかりであり、実現など難しいとすぐにわかりそうな内容である。
しかしながら、ここは今、近年においても最高の試合が目前に迫った闘技場という場所だ。
更に、それを楽しみにしている観客達の興奮度は上がる一方となっている。だからこそ、その場の勢いがミラの後押しをしていく。
「それは面白そうだ」「いいぞいいぞ!」「精霊女王様のいいところが見てみたい!」
そんな期待の声が次々と上がっていくではないか。
今話題の精霊女王という事も相まって、現状を利用したミラが思い描いた通りに観客達は大賑わいだ。
だが、そうそう上手くいくはずもない。
「それはきっと素晴らしい一戦になるでしょう。しかし、決勝トーナメントの次には、更にそれに並ぶほどの熱い戦いが待ち受けています。我らが女王アルマ様の名の下に集った、有名Aランク冒険者揃い踏みの特別試合です! あのセロ様にジャックグレイブ様、エレオノーラ様など、誰もが知る英雄が激突する究極の戦いを私達は目撃出来るのです!」
それは見事な誘導であった。ピナシュはミラが煽った興奮と熱狂を、そのまま特別試合の方へとシフトさせてしまったのだ。
そして、これから始まる無差別級にも、そんな英雄達に勝るとも劣らない猛者達が集ったと話を戻すなり、「間もなく第一試合の開始です!」と前説を締め括った。
「ぐぬぬ……」
今話題となっている精霊女王ではあるが、これまでに長くトップを張り続け印象も定着してしまっている今の英雄達が相手では、まだまだその影響は及ばないというのが現実であった。
九賢者のダンブルフだと言えれば結果はまた違ったであろうが、今のミラではこのくらいが限界というわけだ。
見事に観客達の意識を逸らされてしまったミラは、共に退場しながらも恨みがましくピナシュを睨む。
なおピナシュは、その場が精霊女王の試合を求める空気に染まりきる前にどうにかしろという上からの指示を全うしただけだ。
上司の命令と横から感じる無言の圧力の板挟みとなった彼女は、それでも明るい表情を保ちつつ役割に徹するのだった。
さて……今日のこの瞬間、とても気が重いです。
なぜならこの後、抜歯するからです!!
虫歯な親知らずです。
嚙み合わせ相手もなく、更には隣り合う歯にも影響を与え、もはや何の役にも立っていないので抜いた方が一番いいとの事でした。
今から六時間もしたら、抜歯した後になっている事でしょう。
流石に抜歯した日ともなれば、まともにご飯は食べられないと思います。
これはもう、経験上そうでしたからわかります!
そして次の日も怪しいところです……。
次の日……そう火曜日のチートデイですが、今週は難しいでしょう。
そこで考えました!
明日は、チートデイお休みします。
その代わりに!!! 来週のチートデイは!!!
スーパーチートデイとして実施します!!!
いつもよりも、更にずっと豪華にするんです。
抜歯を頑張った自分へのご褒美です。
今から来週が楽しみです!!!




