410 ワントソ、飛ぶ
さて、アニメ化についての続報が発表されましたね!
https://kendeshi-anime.com/
詳しくはこちらに方に!
公式のホームページですよ、公式!
是非とも、よろしくお願いします!
四百十
「何じゃ……これは……」
それはまるで、間違って繋げられたビデオフィルムのようだった。
華やかな宿場街からちょこっと脇道に足を踏み入れた瞬間、石壁に囲まれていたのだ。
ほんの僅かな瞬きと同時に世界が丸ごと入れ替わったかのような状況に、ミラは困惑する。
「これはもしや……牢の中じゃろうか」
正面左右は石の壁。それから振り返ってみると、そこには鉄格子が嵌められていた。
ミラは自身の立ち位置からして、ここは牢獄の中だと気付く。そして、いったい何がどうしてこうなったのかと考える。
すると、そんなミラの脳裏に声が響いた。精霊王の声だ。
『一瞬、時空への干渉が感じられたのだが、何かあったか?』
曰く、他の精霊達の世間話を聞いていたところで、その気配を感じ取ったそうだ。
時空への干渉。それは本来、神や始祖精霊クラスの力がなければ触れられもしない領域だ。
そして精霊王がそれを感知したという事実から、ミラは現状を理解する一つの答えを導き出した。
そう、空間転移だ。
あの瞬間、脇道へと踏み入った時に、この場所へと転移させられたわけだ。
だがいったい誰が、どうやって。人の業を超えた領域である空間転移を実行したというのか。
「──まあ考える限り、あ奴しかおらんじゃろうな……」
九賢者の中で最も型破りな存在。無形術を究めし者であるフローネならばこそ、空間転移にまで至っていてもおかしくはない。
そして、見事に飛ばされてしまったという事からして、どこかで尾行に気付かれていたわけだ。
「さて、どうしたものかのぅ」
泳がされた末、牢獄に閉じ込められてしまった。
しかもこの場所は、彼女が特別に誂えたものなのだろう。術を封じる効果があるのか召喚術をうまく構築する事が出来ず、また余程遠くまで飛ばされたのか、団員一号達とも連絡が出来なくなっていた。
状況は、かなり危機的である。だがしかし、ミラの顔には一切の焦りも浮かんではいなかった。
このような状況からの脱出方法は幾つか用意がある事に加え、そもそもこれを行ったのがフローネであると予想出来ていたからだ。
「まあ一先ずは待機じゃな。なるべくなら直ぐに来てほしいところじゃがのぅ」
わざわざこの牢獄に尾行犯を閉じ込めたのだ。当然そのまま放置するはずはないだろう。待っていれば様子を見に来るはずだ。
その時に事情を説明すれば何の問題もない。むしろあちら側から来てくれるわけだ。そうミラは高を括り、シーズンオレ・オータムを飲みながらのんびりと待つ事にした。
変化は数分後に起きた。どこか遠くで扉が開いた音が聞こえた後に、足音が近づいてくるのがわかったのだ。
そしていよいよ、その足音の主がミラのいる監獄の前にまでやってきた。
足音の主。それは予想通りにフローネであったのだが、彼女はミラの姿を目にするなり真っ先に驚きを顔に出した。
「あれ? どんな変質者が掛かったかと思えば、可愛らしい女の子? なんで?」
どうやらフローネは、尾行していたのが誰かまでは把握していなかったようだ。ただ何者かにストーキングされていると気付き、あの転移の罠を仕掛けたといったところなのだろう。
よってフローネは、むしろ変質者につけ回される側にしか見えないミラを前に疑問を浮かべる。それでいて観察するように、じろじろとミラの事を見つめた。
「……貴女、元プレイヤーなのね。で、私の事をつけ回していたのって貴女でいいのよね? それでどちら様? 私に何の用?」
元プレイヤー同士というのは、互いにそれを知る事が出来る。フローネはミラが元プレイヤーだと知るなり、ここで更に警戒度を上げたようだ。その目には、疑いが色濃く広がっていた。
(……こういうところも相変わらずのようじゃのぅ)
若干の人間不信を患っているフローネは、極力他者との交流を拒む傾向にあった。特に元プレイヤーともなれば、この世界において特殊な立場にある者が多い。警戒するのも仕方がないだろう。
と、そのように色々と繊細な彼女である。よってミラは回りくどい事などせず、単刀直入に理由を告げた。
「フローネや、お主を捜しておったからじゃよ。そして静かなところで声を掛けようと思い、様子を窺っていた次第じゃ」
そう口にしたミラは、「その前に気付かれて、こうなったわけじゃがな」と続け笑ってみせた。
するとどうだ。ミラの言葉を耳にした瞬間に見せたフローネの反応は、それこそ驚きを通り越した先にある焦燥だった。
「な、なにそれ誰の事? ちょっとわかんないんですけどー」
僅かに目を見開くも、すぐさまそのような誤魔化しを口にして白を切るフローネ。
だがしかし、その様子から把握出来る通り、フローネという人物は嘘を吐くのが下手であり、もはや本人である事は一目瞭然だった。
「ほれ、嘘を吐く時にはそうやって右下を見てから頬の辺りを触る癖、今もまだそのままではないか」
ミラは、よく知っているぞと不敵に笑いながら、びしりと指摘する。今もまだそのままだった彼女の癖を。
「なっ……!?」
フローネは、ミラの言葉通りな行動をとっていた自分自身に気付くなり、慌てたように左上に視線を移し、不自然に手櫛で髪を整える。
更に誤魔化そうとしているようだが、既に手遅れというものだ。そして本人も薄々それに気付いたのか、次にはむしろ怒気を含んだ目でミラを睨みつけた。
「貴女、誰? 何で私の事を知っているの?」
もう偽る事は止めたようだ。肯定したフローネは杖を取り出すなり、その目を鋭く細めて構えた。
これまでとは一転して、いざとなれば消し飛ばすという意思の篭った目であり、急激に空気が張り詰めていく。
だが、そんなフローネを前にしても、ミラは先程までと変わらぬ態度でフローネと向かい合う。
「なに、単純な話じゃよ。その杖、黒杖剣ナギキリじゃろ。今も愛用しておるようじゃな。まったく、素材を揃えるためにあちらこちらと駆け回り、鍛冶師のワビサビまで紹介してやった甲斐もあったというものじゃよ」
フローネが愛用している仕込み杖、黒杖剣ナギキリ。その制作において、ミラもといダンブルフは、素材集めから職人捜しまでと広く手伝っていた。
ゆえにミラがそれを口にしたところ、フローネの反応に再び変化が表れた。
仲間内だけしか知らない事に加え、それをさも自分の事だとばかりな態度で口にするミラ。
フローネは、堂々と佇むミラの事を見据えながら考え込んだ。するとその顔は警戒から疑惑へと変わり、更には確信を経て驚愕へと移った。
「この剣の事……それに、ワビサビ君の事までって……」
ミラの言葉を受けて、フローネは確かにダンブルフに手伝ってもらった時の事を思い出したようだ。
鉄格子の前にまで駆け寄ってくるなり、まじまじとミラの顔を覗き込んだ彼女は、「え……? じっじ?」と口にした。
けれどもダンブルフとミラでは、あまりにも印象が違い過ぎたからだろう。まるで狐狸にでも化かされているのではないかといった顔だ。
「気づいたようじゃな。その通り。わけあって今はこんな姿じゃがのぅ!」
ミラはというと、そんなフローネに対して不本意ながらこうなってしまったのだと念を押すように告げる。
「ふーん、そうなんだ」
フローネは、真に受けたとも疑うともわからぬ顔でそう答えた。
ただ警戒は解けたようだ。杖を下ろした彼女からは敵対心が抜けていた。
しかし、その代わりに浮かんできたものがある。それは、秘密主義な一面だ。
「じゃあ、また今度ね。じっじ!」
数歩下がったフローネは、そっと何かの術を行使するなり笑顔で手を振った。
するとどうだ。ミラがいた牢獄の至る所に魔法陣が仕込まれていたようで、それが輝き始めたではないか。
「これは……!?」
多くの術式を把握しているミラ。だが何と、そこに刻まれた魔法陣の術式は何一つ理解出来ないものだった。
けれど、だからこそフローネが何をしようとしているのかが予想出来る。
「そうはいかん!」
フローネは、この場所に飛ばした時と同じように、またどこかへと飛ばすつもりだ。
刻まれているのが転移の術式ならば、見覚えがないのも当然。
そして何よりも、「また今度」というフローネの言動からして、それは明白だろう。
ゆえにミラは、ここで見失ってなるものかと抵抗する。
「よいか、フローネ。しっかり防ぐのじゃぞ!」
そのように注意を促したミラは、破壊力重視の魔封爆石をそこら中にばらまいてみせた。
「え!? ちょっと待ってじっじ!」
その行動に面食らったのはフローネだ。当然ながら魔封爆石がどういったものかを理解している彼女は、大慌てでシールドを展開した。
そして数瞬の後、ミラが閉じ込められていた牢獄の中にて十数という魔封爆石が一斉に炸裂し、そこに仕込まれていた魔法陣を壁ごと破壊した。
「じっじ!? ねぇ、大丈夫なの!?」
あちらこちらの岩壁にヒビが入り、また崩れた牢獄には、もうもうとした砂煙が舞っている。
しかも術を封じる仕掛けも施された牢獄だ。術が使えない状態で、あれほどの破壊力を防げる手段などあるものか。
その只中にいたとなれば無事では済まないだろう。だがダンブルフならばもしかしたらと、フローネはその姿を捜す。
「いや、まったく。我ながら素晴らしい出来栄えじゃな」
砂煙の中、ミラは何事もなくそこに立っていた。
巻き込まれたのなら無事では済まない破壊力だったが、ミラはそれを以前にも使った方法でやり過ごした。
そう、イラ・ムエルテとの決戦地にて実績のある、空絶の指環を利用した方法だ。
ただ、一つだけ欠点がある。
「……──、──……!」
外側の音が聞こえなくなるという点だ。ゆえにフローネが何かを言っているが、ミラには聞こえなかった。
ともあれ牢獄に施されていた術式は、転移と術封じ諸共砕け散ったようだ。
「見たかフローネ! この脱出は完璧じゃったろう!」
指環の効果を切るなり五体満足で悠々と歩み出したミラは、思惑通りにはいかないぞとばかりに笑ってみせた。
「何それズルイ!」
ミラが何をしたのか。それを理解したフローネは、一番に文句を口にした。
「転移なんてものを使うお主に言われたくはないのぅ」
自爆技と見せかけて被害は一方的ともなれば、そんな感想が出てくるのも頷けるというものだ。しかもミラは、あのフローネを騙くらかせたぞとしたり顔である。
だからこそというべきか。フローネは、全力でミラを飛ばしにかかった。
「今度こそ、帰ってね!」
それは最早、一瞬の早業であった。なんとミラが砕いた岩壁を念動力の無形術で組み直すなり、再び転移の術式を起動させたのだ。
瞬く間に発動する転移。本気になったフローネの展開速度は尋常ではなく、もう魔封爆石で吹き飛ばすどころか、言葉を発する時間すらない速さだった。
強引に、だが精密に組み直された魔法陣が輝いて、その中にあったものを転移させる。
「……なんで!?」
転移の起動完了後、フローネは堪らずといった様子で声を上げた。
なぜならば、確実に飛ばせたはずのミラが、まだそこに残っていたからだ。
「残念じゃったな! この障壁は、ただのシールドとはわけが違うのじゃよ。時空の始祖精霊の力によって、ありとあらゆる干渉を断絶する代物じゃ!」
ミラは障壁を解除するなり、一つの魔封爆石を投じて壁の一部を破壊した。すると瞬く間に、術を封じる効果が消え去っていく。
ミラは、壁が修復されていく瞬間に、術封じの術式がどこに仕込まれているのかを見抜いていたのだ。
そこから更に灰騎士を召喚。周囲の壁を粉々に砕かせながら、それはもう自慢げに語った。
囲んだものを強制的に転移させるフローネの魔法陣だが、絶対防御を誇る空絶の指環の力は、そういった干渉すらも防いでしまう優れものだと。
「ズルイ、ズルイ!」
あんまりだとばかりに地団駄を踏むフローネ。あらゆる攻撃、あらゆる効果を防いでしまえるその力は、言う通りにとてもズルイ性能であろう。
とはいえ相応のマナを消費するため、そう何度も使えるわけではない。
「ほれ、どうした。転移はもう品切れか?」
だがミラは、何度やっても同じ事だとでもいった顔でフローネに迫る。
ミラの隠し玉を前にしてフローネは、どのように動くか。そうミラが隙なく身構えていたところ──
「じっじの意地悪! 馬鹿!」
何と彼女は、そんな捨て台詞を吐くなり踵を返し脱兎の如く逃走したではないか。
「な! これ、待たぬか!」
ただ逃走したといっても、フローネのそれは尋常なものではない。無形術により宙を舞う……というよりは完全に飛翔しているからだ。
その速度は、それこそ翼竜もかくやといったほどであり、これこそフローネの実力の一端でもあった。
とはいえ、ミラとて負けてはいない。仙術技能全開で廊下を駆け抜けて地下より脱出すると、飛行速度重視という事で素早くヒッポグリフを召喚。颯爽と跨るなり即座にフローネを追跡した。
「相変わらずの素早さじゃな!」
空を飛んで逃げるフローネを追いながら、同時にミラは見慣れぬ景色を一望した。
地下の牢獄があった場所には、他にも幾つかの建造物が並んでいる。
また周囲は森で覆われているのだが、どうにも普通の森とは違う。見える範囲の木々には、リンゴやブドウ、柿、栗など、様々なものが生っているのだ。
一見すると果樹園か農家かとでもいった印象を受ける場所だ。
しかも森は、見渡す限りに広がっている。これが全て果物の生る木だとしたら相当である。
だが、そんな森以上に気になる存在がミラの目には映っていた。
それは、城だ。森に囲まれたそこに、堂々とした姿で大きな城が佇んでいるではないか。
「しかしまた、ここはどこじゃ?」
実に特徴的な場所だ。けれど見た事も聞いた事もない。
改めて周囲を見渡したミラは、雲一つない空と森の境界線を見ながらふと違和感を覚えていた。
「はて、気のせいか地平線が近いような気が……」
いつも空から眺める景色と少し違う。そんな差異を感じていたミラだったが、次の瞬間にはそのような事を考えてもいられなくなった。
距離を縮めていくミラ達に気付いたフローネが、地上にある石やら岩やらを飛ばし始めたからだ。
「おっと、この程度、わしのヒッポグリフの機動力があれば問題ではないのぅ!」
進行を妨害するように飛来する石と岩だが、空の上ともなればヒッポグリフの庭も同然。右に左と巧みに避けていく。
とはいえ、流石のフローネか。飛んでくるのは一直線ばかりではない。ゆえにミラもまた、部分召喚などによる迎撃で忙しかった。
だがこのままでは埒が明かないというもの。よってミラは追加でペガサスやガルーダを召喚して、フローネを多角的に追い詰めていった。
「おのれ……今のも躱せるか」
風を操作するガルーダ。素早く先回りするペガサス。それでもフローネの飛行技術は昔より更に上がっているようで、それらを見事突破していく。
何度目かのコンビネーションアタックも見事に受け流された。その結果ミラは、これでは決着がつきそうもないと、最後の手段に出る事を決めた。
「いってくれるか、ワントソや」
もうこれしかない。そう考えたミラはワントソを召喚して、そう告げる。
するとワントソは、地上を見てごくりと息を呑みながらも、「お任せくださいですワン!」と力強く答えた。その目にしかと勇を宿しながら。
ミラは、ワントソの覚悟に感謝するとダークナイトフレームを身に纏う。
そしてじっくり構え──強化された膂力を込めて思いっきり放り投げた。
勢いよく発射されたワントソは、キリリと鋭い眼差しでフローネを捉える。けれども飛べないワントソは中空での軌道制御など出来るはずもなく、徐々に狙いからずれていく。
だがそこで──
「フローネやー、ワントソ君がそっちにいったぞー!」
ミラが大声で、そう呼びかけたのだ。
するとどうだ。どれだけ呼びかけても反応のなかったフローネが、ペガサスとガルーダ相手に空中戦で圧倒し始めていたフローネが、隙だなんだといった何もかもを忘れたようにぱっと振り向いたではないか。
「ワ……ワントソくーん!」
その反応は、まさに劇的だった。フローネの目にその姿が映るなり、フローネは軌道を外れていくワントソに一直線で向かい、がっしりと受け止めたのだ。
そして次の瞬間にワントソは、その全身を余す事なく蹂躙されていた。
「ワントソくん懐かしい……もふもふ可愛い」
ワントソに顔を埋めるなり、存分にもふり始めるフローネ。
そう、彼女は猫好きのカグラと双璧を成すほどの存在であり、それでいて相容れる事のない愛犬家であった。
その可愛がりようといったら留まる事を知らず、瞬く間にトレードマークの探偵服を脱がされたワントソは、そのまま全身の毛並みを堪能されていく。
猫カフェ籠城などという問題は起こしていないものの、その愛はカグラに負けず劣らずであるフローネ。
そんな彼女にワントソを差し出したならどうなるか。わかっていたからこその最終手段であり、ミラは尊い犠牲となったワントソに敬意を表しつつ、そっと接近してフローネを確保するのだった。
という事で、買ってきちゃいました。
金賞のからあげを!!
詳しく見てみると、
東日本スーパー総菜部門の金賞
という事です!
なお、100グラムで160円もします!
そして冷凍のからあげは100円もいかないくらいなので、この時点で高級感もありますね。
いったい、金賞とはどれほどのものなのか……。
明日のチートデイが楽しみでなりません!!




