406 マジナイフリーク
四百六
アルマにお小遣いを貰っていたというイリスは、ここぞとばかりに本を買い漁っていった。
そのお小遣いには巫女としての仕事料も含まれているのだろう。かなりの金額であったため、際限なく増えていく。
結果イリスは、その重さと量で動けなくなっていた。
「まったく、仕方がないのぅ」
まだまだ先もあるのに何をしているのかと苦笑しながらも、ミラはそれらの本を全てアイテムボックスに収納する。
「ありがとうございますー!」
イリスは本がすっかり収まると礼を言うなり、「これがあれば、どこにでも本を……」と、羨ましそうな目でミラの腕輪を見つめた。
そしてイリスは「冒険者に……」などと呟いて、その目に真剣みを浮かべる。
どうやら沢山の本を持ち歩くため冒険者になろうなどと、半ば本気で考えているようだ。
「ところで、シャルウィナよ。お主は何も買わなくてよいのか?」
イリスと共にはしゃぎ駆け出していったシャルウィナだが、見るとこれといって本を手にしてはいなかった。
これだけの場所である。きっと気になる本は幾らでもあったはずだ。
「は、はい。今日は見られただけで満足です」
シャルウィナは、微笑みながらそう言った。だがミラは、それが本心でない事を見抜いていた。
そして告げる。
「お主が、その程度で満足するはずないじゃろう。折角の機会じゃ。それと、お主達姉妹にはわしも助けられておるのでな。遠慮など無用じゃよ。幾らでも好きな本を選ぶとよい」
支払いは全て受け持つと、ミラは太っ腹なところを見せつける。
するとシャルウィナは笑顔をぱっと咲かせて、「あ……主様! ありがとうございます!」と感涙するなり本を手にした。一冊、二冊、三冊と。
計十冊で二十五万リフ。なかなかの値段であったが、ミラはそれこそ孫に玩具を買い与える祖父の如く、嬉しそうに支払いを済ませるのだった。
古本市巡りを終えたミラ達は、次にマジカルナイツのファッションショーにやってきた。
こちらは、エリヴィナの希望だ。デザインなどの参考にしたいとの事である。
(ふむ、流石はこの道の第一人者。何とも素晴らしい光景じゃな!)
魔法少女風。それは一見するとコスプレのように見えるものだが、きっと元となったあれこれを知っているからこそ、そう見えているに過ぎないのだろう。
元いた世界では、大きなお兄さん達がカメラを手に集まりそうなファッションショーだ。
しかし今、ミラの周りにいるのは、ほとんどが女性だった。
そう、ここでは魔法少女風というジャンルが確かなファッションブランドとして確立しているのだ。
ミラは不思議な光景だと感じつつも、そのショーを大いに楽しんだ。
そうしてショーは、つつがなく終わった。エリヴィナは素晴らしいインスピレーションを得られたと嬉しそうだ。
ただ、離れた場所からの見学だけあって、細かい部分をしっかり確認出来なかったのが名残だという。
「それならば近くで見せてもらえるかどうか、ちょいと訊いてみようか」
そう言って立ち上がったミラは、早速とばかりにマジカルナイツのブース裏へ向かった。
マジカルナイツの広報であるテレサは知り合いだ。忙しい時なら難しいが、可能性はゼロではない。
「こちらにいるテレサという者に会わせてもらえないじゃろうか。ミラが来たと言えば通じるはずじゃ」
ブース裏の女性係員に、そう声を掛けるミラ。
するとどうだ。ミラの事をじっと見つめた後、女性係員の顔に驚きの色が浮かんできたではないか。
「も、もしかして……あの精霊女王のミラ様ですか!? テレサさんから話は伺っております。どうぞお通りください。彼女は広報なので第二テントにいるはずです」
どうやら、また訪ねてきた時のために話を通してくれていたようだ。女性係員は少々上気した顔で、さあさあどうぞとばかりに奥のテントを指し示す。
「おお、そうか。第二テントじゃな。感謝する」
そう答えて女性係員の隣を通り過ぎたところで、「あの」と呼び止められる。
ミラが「なんじゃ?」と振り返ると、彼女は「握手してください!」と右手を差し出した。
ミラは快諾して握手を返し、再び第二テントに向けて歩き出す。
「かっこいいですー!」
二つ名付きの冒険者。その人気の程を目の当たりにしたイリスは、ミラを見るその目を、ますます輝かせていた。
「あ、ミラちゃん。来てくれたんだ!」
第二テントに顔を覗かせるなり、声を掛けるよりも早くテレサが気付き駆け寄ってきた。
ミラはゴスロリに変装しているのだが、テレサにその程度の変装は通じないようだ。
それどころか、「それってミッドナイト・サーチャーの衣装だよね? すっごく可愛いよ!」と、それがどういった服なのかまで把握している次第である。
更にテレサは、ミラと共にいる三人にも目を向けるなり、「そちらはミラちゃんのお友達? 皆で揃えるなんて気合入っているね!」と、その目を輝かせていた。
彼女もまたコスプレ好きという一面を持つためか、イリス達にも相当な興味を持ったようだ。
するとミラが紹介するより早くに反応した者が二人いた。
「はじめましてテレサさん。イリスですー!」
「シャルウィナでございます。ところでテレサ様は、ミッドナイト・サーチャーをご存じなのですね!?」
そう、イリスとシャルウィナだ。
二人とテレサは、まるで引かれ合う磁石の如く一瞬のうちに仲良くなっていた。
あの物語のあの場面が凄い、あのシーンが最高だなどと盛り上がり始める。
イリス、そしてシャルウィナに新しい友人が出来た瞬間だ。
だが、それをただ見守っているわけにはいかなそうである。
「ところでテレサよ。……何やら随分と忙しそうじゃが」
第二テント内は、関係者があちらこちらと駆け回っている程に騒がしかった。それこそ若干、趣味の話で盛り上がるテレサにチクチクと視線が突き刺さっているくらいに。
と、そのようにミラが声を掛けた事で、テレサもようやく現状を思い出したようだ。
「そうだった!」
そう叫ぶなり、どうしようと足踏みを始め──そのまますぅっと視線をミラへと移し、「ミラちゃん、お願い──!」と瞬間で泣きついてきた。
テレサが言うに、何やら次のステージのモデルが一人、直前に来れなくなってしまったというのだ。
「──つまり、わしにその代役を……というわけじゃな?」
話の内容と現状から、ミラはテレサが言わんとしている事を即座に予想した。
そしてそれは、大正解であった。
つまりは、マジカルナイツのファッションショーに出てくれというわけだ。
それを理解したミラは、直後にその顔を渋さいっぱいに染める。
マジカルナイツといえば、魔法少女風。つまりこれから、こってこての魔法少女風衣装を着て大勢の前に立てという話だ。
慣れ始めてきたとはいえ、多くの人目に晒されるなど耐え難いと口をつぐむミラ。しかもモデルとしては素人である。
「何でも言う事聞くからお願い!」
ミラほど似合うモデルなど、そう簡単には見つからないと懇願してくるテレサ。
更にはイリスとシャルウィナも、新しい友人のためにとばかりな視線を送ってくるではないか。
「うむ、わかった……。じゃが、どうなっても知らんぞ」
気乗りはしないが、ここまで頼まれては断れない。
ミラは仕方がないと承諾し、「ありがとうミラちゃん!」と喜ぶテレサに更衣室へと連れていかれるのだった。
十分と少々。プロの手によって瞬く間に着替えとヘアメイクが完了する。
更にはランウェイの歩き方などを一気に詰め込まれ、瞬く間に本番となった。
(予想以上に多いと思っておったが、ここからじゃと更に多いとわかるのぅ……)
魔法少女風の新作でばっちりと決められたミラは、音楽と共にランウェイを進みながら観客の多さに圧倒される。
ファッションとしての魔法少女風の人気は、既に大陸規模だ。観客の全員が、それはもうキラキラとした純真な目でランウェイを見つめていた。
そうしていよいよランウェイの先端にまでやってきたミラは、最大限に注目を浴びている今の状況を感じ──そして思った。
もしや、好機なのではないかと。
そう気づいてしまったが最後。ミラは遠慮なく、それを実行した。
「小生にお任せあれですにゃー!」
イリス達と共にいる団員一号を送還すると、すぐさま再召喚したのだ。
肉球形の魔法陣よりぴょんと跳び出した団員一号は、その可愛らしさを観客達に全力でアピールしながらミラの肩にちょこんと座った。
すると、どうだ。一気に会場が沸き立ち、その可愛さを絶賛する声に包まれたではないか。
(ちょいとやり過ぎたかのぅ……)
最後にミラは、しっかりと衣装を見せつけるように回ってみせてから、ランウェイを戻っていった。
「最高だったよミラちゃん! しかもあそこでマスコットキャラを登場させちゃうなんて、もう完璧だよ!」
「ふむ……そ、そうか。なら良かった」
折角だからと召喚術アピールをしたが、新作衣装よりも沸いてしまった。
その事を懸念したミラだったが、魔法少女といえばマスコットという図式がしっかりと浸透しているようだ。むしろ完璧なランウェイだったとマジカルナイツ一同、大喜びであった。
モデルの代わりを務め終えたミラは、そのままプロ達の手によって元のゴスロリ──ミッドナイト・サーチャーのブリジットに戻されていた。
そしてイリス達はというと、特別展示室なる場所で、じっくりと新作衣装のデザインを間近で見学しているところだ。
それは、モデルになる対価としてミラが要求した結果だ。エリヴィナのため、何でも聞くと言うテレサに頼んだのである。
ついでにイリスとシャルウィナも魔法少女風に興味を持ったのか、そのまま付いていったという次第だ。
「ねぇミラちゃん。何かミラちゃんの知り合いだって子が来てるんだけど」
と、そのようにしてミラの着替えも終わったところで、テレサが顔を見せるなりそんな事を口にした。
「ぬ? わしの知り合いとな……?」
いったい誰の事だろうか。それ以前に、そもそもなぜここに自分がいるとわかったのだろうか。
そんな疑問を浮かべたミラだが、次にテレサが告げた名前でピンと来た。
「えっと、ミレイさんとマリエッタさん、あとネーネさんっていう子だったよ」
「おお、もしや……!」
覚えのある名に立ち上がったミラは、そのままテレサの案内でテント裏へと向かう。
そこにいたのは、やはり見覚えのある三人娘。ファジーダイスを捕まえにいったハクストハウゼンにて、インナーパンツ選びを手伝ってくれた子達だった。
「やはりお主達じゃったか。久しぶりじゃのぅ!」
ミラは驚きと共に三人を出迎えるなり、その再会を喜んだ。
「ああ、やっぱりミラちゃんだった! また会えて嬉しいよー!」
「まさかモデルとして出てくるなんて思いませんでした!」
「この出逢いは運命」
三人もまた余程嬉しかったのだろう、駆け寄ってくるなり輝かんばかりの笑顔を咲かせた。
「しかしまた、よくわしじゃと気付いたのぅ」
久方ぶりの再会を喜んだミラは、だがそこで、そんな疑問を口にした。
マリエッタの口振りからして、三人はランウェイを歩くミラを見て気付いたのだとわかる。
だがミラは髪を黒く染めており、更には服装も以前とは全然違うものだ。
すると三人は、どことなく自慢げに答える。髪の色を変えるのは魔法少女風フリークでは当たり前の事であり、さしたる問題ではないと。
更に極めつけは、団員一号だそうだ。その毛並みと模様で、あの日のケット・シーだと直感したという。
実に恐るべき観察眼だ。
今日の分のファッションショーは終わりだそうだ。よって三人娘もまたミラの知り合いという事で、控室にまで入る事を許されていた。
初めて出会った時の思い出話や、その後の事について語り合うミラ達だったが、魔法少女風フリークでもある三人娘の興味は、控室に並べられた新作に向いていた。
テレサが好きに見て構わないなどと言ったものだから、再会の喜びがそちらに上塗りされてしまったようである。
「勝手に触るでないぞー」
「わかってるってー」
「大丈夫です。まだ理性が生きてますから」
「素敵……」
と、相変わらずな三人娘の様子に呆れていたところだ。
マジカルナイツの係員達の動きが慌ただしくなったかと思えば、新作の衣装が次々と運び出されていってしまったのだ。
「ああー……」
もう見学時間は終了なのか。そう肩を落とす三人娘。
だが、それから少ししたところで、そんな三人が歓喜する出来事がやってきた。
「よーし、黒の一番から十番までは第一ラインに並べて。赤の一番から八番は第二ラインによろしく」
そのような指示の声が響いてきたと思えば、係員達がえっさほいさと衣装を運び込み始めたではないか。
「お……おおー!」
「これって、もしかして……」
「新ブランドの!」
次々と並べられていく衣装の数々。
それらを前にした三人娘は、これまで以上に興奮した様子で、その衣装を食い入るように見始めた。
そんな中、マリエッタが思い出したように振り返るなり「ミラさん、これは凄いですよ!」と駆け寄ってくる。
「ほ、ほぅ? そうなのか?」
彼女達ほどどころか、さほど愛好家ではないミラは、何がどのように凄いのかわからず首を傾げる。
するとマリエッタは、ここぞとばかりに懇切丁寧に、その凄さを説いてくれた。
いわく、今並べられているのは、明日発表予定となっている新ブランドだろうという事だ。
そして噂によると、その新ブランドは『魔女っ娘』なるものをテーマとしているらしい。
「ふむ、魔女っ娘か……」
魔女っ娘。ミラはマリエッタの説明を聞く中で、その単語に反応した。
というのも魔女っ娘といえば、かの九賢者の一人であるフローネが好んでしていたファッションだからだ。
はてさて、彼女はいったいどこで何をしているのだろうか。
ミラは熱弁するマリエッタの話を聞き流しながら、そんな事を思い浮かべるのだった。
お魚。美味しいですよね。
それでいてお肉よりもずっと健康的といいますし、とても素敵な食材です。
しかし、欠点があるのです!
それは、まずお値段。
やっぱり全体的にお肉より割高なんですよね。
まあ、それでいて今の自分ならば、ちょくちょく食べる事が出来ますけどね!!
フフフフフ。
けれど、もう一つの欠点というのがもう……。
それは……骨です!!!!
もう、何といってもこれの厄介な事、厄介な事……。
美味しく楽しく食べていても、口の中で感じるあの骨の感触……。一気に萎えます。
ブリの切り身と鮭の切り身は、だいたい骨のある個所を覚えたので的確に取り除けるようになりましたが……
それでもやはり、その都度箸が止まるので何とも……。
ですが!!!!!!
凄いものを見つけてしまったのですよ!
それは……
骨とりさば!!!!
何とその名の通り、最初から骨が取ってあるという代物なのです!
普通に買うよりもずっと割高になるのですが……
これはもう感動でしたね。
何といっても骨がないんですから!
好きなように食べられるのです!
なお、そんな骨とりさばを、いつでも食べられるようにと冷凍庫に常備しております。
フフフフフ。




