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402 報酬の行方

なんとありがたい事に、コミックライドにて賢者の弟子のスピンオフが始まりました!


ばにら棒先生による、「マリアナの遠き日」です!

そのタイトル通り、マリアナに焦点を当てたお話になっています。

是非とも、よろしくお願いします!

四百二



「それにしても皆、流石です。よくぞ、これだけの数を片付けましたね」


 感慨深げにアルマが言う。

 今度の議題は、『イラ・ムエルテ』本拠地に残る大量の魔物と魔獣の骸についてだ。

 多少ならば特に気にする必要もない案件なのだが、今回ばかりは量の桁が違う。数千という夥しい数が、今も本拠地の島には残されていた。

 これをそのままにしておくと、厄介な事になる恐れが強い。

 死の臭いと漂う魔が結びつき、その場を死霊の蔓延る忌み地へと変貌させてしまうかもしれないのだ。

 そうなってしまうと、これを浄化するために更に多大な労力が消費される事となる。

 アスタロトを打倒し『イラ・ムエルテ』の本拠地を壊滅させた今、海を漂うこの島は、ニルヴァーナの預かりとなっていた。

 使い方次第では、かなり便利に活用出来る島となったわけだ。

 ゆえに、これをむざむざと死霊の楽園にするなど出来ぬというもの。


「この件については今、保存チームを編成しています。明日には出発出来るでしょう──」


 エスメラルダが言うに、それら全ての死骸をどうにかするため、既にチーム編成を開始しているそうだ。

 島を忌み地にさせないため。そして何よりも、そこにある素材を無駄にしないために。

 何といっても数千という数だ。それらが秘めた価値というのは、国家レベルでも無視は出来ないほどだった。

 だからこそ一番に送り込まれるのが、品質の低下を防ぐための保存を可能とする技術者チームである。

 アルマ曰く、更に編成が完了次第、解体班も送り込んでいく予定だと言う。


「作業が完了するまでに、一月ほどかかる予定です──」


 数が数である。加えて特殊な解体技術も必要となる点から、その処理に有する時間は一ヶ月。

 その間は保存と解体、そして複数の聖術士による浄化が並行して行われる事になるそうだ。

 また得られた素材諸々は、全てニルヴァーナ側で買い上げる形となった。

 そこから手数料諸々を引いた額より、功労者であるミラ達に分配するという形だ。

 と、そのように話がまとまったところで、ゴットフリートがとんでもない事を口にした。


「あー、分配だとか面倒だからさ、俺は要らねぇや」


 そう言って分配の権利を放棄したのである。

 相当な額になると思われるが、ゴットフリートは一切気にならないといった態度だ。

 しかもそれだけに留まらない。更にサイゾーまで「拙者も、既に十分な報酬を受け取っているので結構でござるよ」などと続いた。

 その報酬とは、ニルヴァーナ製の忍具の事であろう。ニルヴァーナが有する特別な技術や術式が仕込まれたそれらは、サイゾーにとってこの上もない報酬となるようだ。


「私も必要ない。どこかに寄付しておいて」


 その流れからきてエリュミーゼまでも分配を辞退した。というよりは、その分をボランティアなどに役立ててくれという事だ。

 三人とも、何と謙虚なものである。とも言えるが、そこは流石の大国アトランティスの将軍というべきだろう。

 有り余るほどの資産があるからこその余裕である。

 簡単に計算しても一人頭数十億リフは下らない。それでいて一切気にした素振りもないというのだから大物だ。

 それに対して九賢者勢はというと、こちらは反対に大盛り上がりであった。


「高値で捌けるよう綺麗に仕留めたからな。平均より二割増しくらいにはなるはずだぜ」


 そのように手柄を主張するのはルミナリアだ。

 研究費として現金は幾らあっても足りないと、今回の臨時収入を大いに喜ぶ。

 試してみたかったあれやこれを思い浮かべては、今から楽しみだと笑っていた。


「あ、私が倒した分も、かなり綺麗なはずよ。ちゃんと注意してたから」


 そう続けたのはカグラだ。彼女もまた素材としての価値を保つために努力したと自信ありげな様子だった。

 そんなカグラは、森の保全が更に進むと喜ぶ。

 キメラクローゼンの残党処理などが終われば、彼女が総帥を務める五十鈴連盟は、精霊が住める森林を保全する団体としての活動がメインとなる。

 キメラクローゼンの影響で、未だ多くの森は精霊の管理が行き届いていない状態だ。

 そのような状態のため、寄付金だけでは、やはりやりくりが難しいようである。

 だからこそカグラは、今回の臨時収入にそれはもう大喜びだ。


「引っ越したばかりだから、助かるわね」


「ああ、色々とガタついたものもある。これを機に新調してしまうのもよさそうだ!」


 そのように喜びの声を上げたのは、アルテシアとラストラーダだった。

 最近になって、森の奥深くよりルナティックレイクの新しい孤児院へと引っ越してきた二人と大勢の子供達。

 ただ、越してきたばかりという事もあり、色々と入用であった。

 そこに降ってわいた今回の臨時収入で、子供達のために色々揃えられると嬉しそうだ。


「お金いっぱいなら、ご飯もいっぱいヨ!」


 それはもう輝かんばかりの笑顔を見せるのはメイリンだ。

 お金があれば美味しいものがいっぱい買えると、爛々たる希望に満ちた目をしていた。


「あれだけの数じゃからな、億は下らぬじゃろう。ともなれば、本格的にアンティーク巡りが出来そうじゃのぅ!」


 当然というべきかミラもまたご機嫌であり、その臨時収入を大いに歓迎する。

 新召喚術である屋敷精霊(マイホーム)での生活空間を、より快適に彩るために必要なのが様々な家具の人工精霊。

 それらは主に、大切に長年使われ続けてきた家具に宿っている。そして、そういったものは大抵がアンティークとして扱われていた。

 古くて味わいがある良いものというのは、得てして高額になるものだ。

 だからこそ、家具の人工精霊を揃えるには多額の資金が必要であった。

 今回の収入によって、その資金が潤沢になるのは間違いない。ミラは、家具精霊集めが実に捗りそうだとにんまりだ。


「俺の分は素材で頼む。これがリストだ。余剰分は好きにしてくれていい」


 残るソウルハウルは、手早く走り書きしたメモをアルマに提出した。

 そこに書かれていたのは、イリーナの装備を強化するために必要な素材一式だ。

 倒した魔獣の中には希少なタイプも多く存在しており、メモにはそういった素材が主に書き込まれていた。

 希少品が多く高価ではあるが、どちらかといえば市場に出回りにくい部類の希少である。

 分配される報酬と比べれば、一割程度の値段になるだろう。

 だが、嫁であるイリーナをこよなく愛するソウルハウルにとっては、素材の価値の方が高いようだ。

 これで更にイリーナは美しくなると微笑むソウルハウル。

 そして、どう活用しようかとそれぞれ勝手に盛り上がるミラ達。


「あの頃から、何も変わってないな……」


「ほんと、そうよね」


 ノインの呟きに答えるエスメラルダ。そこへ更にアルマが「まあ、これはこれで安心よね」と続けて苦笑する。

 またゴットフリート達も、未だ健在といった九賢者らの様子に笑うのだった。




 一通りの会議が終わったところで、今日は解散となる。

 グリムダートの士官達は、そのまま調査部の手伝いに向かった。

 残党狩りの主導権を得られた事で国から与えられた役目は十分に達成した彼らだが、悪魔の案件についても詳細な報告を上げた方がいいと判断したようだ。

 また、国のため家族のために少しでも役立ったという実績を作っておきたいらしい。そのように素直に申し立てたところで、アルマが快諾した形だ。

 この調査が完了するまでの間は、ニルヴァーナに滞在するそうである。




 旧友同士が顔を揃えれば話しも弾むものだ。と、そうして会議室にて雑談を交わす中、アルマが今後の予定についての一つを口にした。


「それでゴットフリートさん達なんだけど、相手がまだ調整中なのよね。力量差を考えると、なかなかなのよ」


 話によると、ゴットフリート達は闘技大会にて模擬戦を行う予定であるそうだ。

 それというのも、この大きく戦力を動かし辛い限定不戦条約下においてアトランティスの将軍を動かすには、そうせざるを得なかったからである。

 表向きの理由として彼ら『名も無き四十八将軍(ネームレスライン)』は、闘技大会の特別ゲストという扱いでニルヴァーナにまでやってきているのだ。

 と、そのような言い訳のために組まれた模擬戦だが、当の将軍達──特にゴットフリートはというと、それはもう楽しみだとばかりな様子であった。


「ああ。別に誰でもいいが、出来るだけ骨のある奴で頼むぜ!」


 そう答えるゴットフリートは、更に何人でも構わないと言ってヤル気を漲らせる。闘技大会という特別な舞台が、彼の熱意をより掻き立てているようだ。

 すると、そんな会話の間にそっと口を挟む者がいた。


「まだ正式に決まっていないというのなら、わしでどうじゃ? ご要望とあらば思い切り盛り上げる事も可能じゃぞ!」


 ミラだ。ここぞとばかりに、模擬戦の相手として名乗りを挙げる。

 闘技大会への出場は、十二使徒からの嘆願によって潰えてしまった。

 だがミラは、相手が十二使徒ではなく『名も無き四十八将軍(ネームレスライン)』ならば一切の問題はないだろうと考えたのだ。

 ゴットフリートほどの者が相手となれば、それはもう試してみたい事が沢山ある。試作段階のものから実戦データをとりたいものまで、それはもう怒涛のラインアップだ。

 更にこれが実現すれば、大陸中が注目する大舞台にて大いに召喚術を喧伝出来ると、ミラは大張り切りで自身を売り込む。

 実験が出来て喧伝も出来て、更には大会を盛り上げる事まで出来る。

 これ以上ないほどの名案だろうとばかりなミラ。

 対してゴットフリート達はというと、その顔を歪めて、明らかな拒否感を前面に押し出していた。

 どうやら『軍勢』の悪名は十二使徒に限った事ではないようだ。

 すると、ミラがそのような主張をしたものだから、これに続く者がいた。


「ずるいネ。わたしも戦いたいヨ!」


 メイリンだ。

 ゴットフリート達は今、その立場もあるため、試合という形でも簡単には戦えなくなった。

 だが今回は特別だ。しかも最高の舞台まで用意されているとあっては、メイリンも黙ってはいられなかったようである。

 こちらもまたタイプは違うものの、ミラと同じ九賢者の一人だ。

 だがしかし、そんなメイリンの立候補に対する反応は、まったくの正反対であった。


「おお、いいな。それは面白くなりそうだ!」


 メイリンが相手ならば、きっと最高に熱い試合が出来るだろう。そうゴットフリートが燃える瞳で答えたのだ。

 またサイゾーとエリュミーゼも、それならば悪くはないといった表情をしていた。

 同じ九賢者でありながら、えらい反応の違いだ。


「いやいや、ここはわしじゃろう」


 けれど、そのような違いなど気にも留めず、模擬戦の相手は自分が適任だと主張するミラ。

 なんといってもミラは、今をときめく新進気鋭の冒険者である精霊女王だ。

 その事を売りとしてプレゼンするミラ。

 生ける伝説である『名も無き四十八将軍(ネームレスライン)』と、今勢いのある冒険者との試合となれば、観客が沸き立つ事間違いない。

 そのように、さも闘技大会の事も考えていますよとばかりに語る。


「わたしネ、わたしが戦いたいヨ……」


 主張するメイリンだが、彼女は冒険者ではなく、通り名が付くような活動といった事もしてはいなかった。

 修行のために強いものを求めて、あっちへふらふらこっちへふらふらと放浪の日々を送っていただけだ。

 ゆえに精霊女王に対抗出来る看板がない。

 すると、そのようにメイリンが悩んでいたところで、ふとラストラーダがそれを口にした。


「そういえば愛の戦士プリピュアって、メイリン君の事だよね!? とんでもないのが予選にいると、観客だけでなく参加者の間でも凄く話題になっていたな! いやぁ、俺も見てみたいぜ、プリピュアが華麗に戦うところをさ」


 流石は怪盗だった男ラストラーダというべきか。既にかなりの情報を集めているようだ。

 中でもプリピュアといえばヒーロー好きなラストラーダにとって当然の守備範囲内であり、だからこそその話題は特に気になっていたのだろう。

 そして何より、予選時にメイリンが着ているプリピュアっぽい衣装は彼の発案である。

 そういった理由もあってか、それはもう期待に満ちた顔をしていた。


「そうなのカ? わたし人気ネ!? わたしも戦えるヨ!」


 現在、予選にて話題となっている愛の戦士プリピュア。そんな精霊女王に対抗出来る要素を手に入れたメイリンは、ここぞとばかりに勢いを取り戻した。


「いや、そのような一過性のものより、冒険者という確かな土台に裏打ちされたわしの方が話題性も抜群じゃろう。しかも大会には出場せず、その特別な模擬戦のみの登場ともなれば尚更にのぅ!」


 愛の戦士プリピュア。メイリンが対抗馬となり得るその要素を生んでしまった事に、ミラ自身もまた関係している。

 だが、それがどうしたとばかりに自身を売り込んでいく。これほど実験が捗るチャンスなど、そうは訪れないからだ。

 けれどメイリンも負けてはいない。


「わたしが戦うネ! きっとがっかりはさせないヨ!」


 そのように喰い下がるなりゴットフリートに駆け寄って、「わたしわかるヨ。貴方、わたしと同じネ」と言って挑戦的に笑う。

 戦う事が好き、強くなる事が好き。二人には確かにそういった共通点があった。

 そしてゴットフリートもまた、それを理解していた。だからこそ、メイリンが相手ならば一切の問題もなかった。


「ならばこそ、わしが適任じゃろう!」


 ミラもまたそう言って立ち上がり、ゴットフリートに迫る。

 戦う事が好きならば幾らでも相手をしてやれるぞと、それはもう自信満々だ。

 召喚術を使えば、戦闘相手を無尽蔵に用意出来る。よって訓練相手にも最適だと豪語するミラ。

 事実、訓練相手として世話になった者は多い。

 メイリンに加え、ルミナリアやラストラーダ、カグラなども、実戦を模した訓練で何度も利用したものだ。

 だが試合となれば話は別であると、ここにいる全員が理解していた。

 かつてのミラは訓練相手として、あくまでも受け手側という立場がほとんどであった。

 そのため反撃などの動きも最小限。主に術の効果を受けて、どのような影響があるかを把握するための訓練だった。


「いや、訓練で終わらせる気ないだろ……」


 両の目を爛々と輝かせるミラを見据えて、ため息を漏らすゴットフリート。ミラが明らかに何かをしでかすつもりだと確信している顔だ。


「ぬぅ……!」


 完全に見抜かれたミラは、だからといって諦めずに食い下がる。

 闘技大会の大舞台。そこならば召喚術の健在ぶりを大いに広める事が出来るのは間違いないからだ。


「わしじゃろう?」


「わたしネ!」


 ミラとメイリンは競い合いながら、どっちがいいのかとゴットフリートに迫る。

 そんな中、ゴットフリートは困惑した顔をしながらも、心の中で思った。『うわぁ、俺、モテモテじゃねぇか』と。

 実際のところ傍からならば、一人の男を二人の少女が取り合っているかのように見えなくもない。

 と、その様子を険しい目で見つめる男がいた。


(何だよ、あんなに熱くなって迫ってよ──)


 ノインだ。彼は、期待に満ちた目でゴットフリートに迫るミラの事を見据えながら眉間に皺を寄せ、険呑な雰囲気を滲ませていた。

 ミラが他の男に言い寄るなんて、などという嫉妬心に駆られ……その直後に『いや、なぜそうなる!』と心の中で叫ぶ。


(中身は召喚爺だ。しっかりしろ、俺!)


 そのように頭では理解しているノイン。けれども彼にとって、ミラの容姿はあまりにも完璧過ぎた。

 ゆえに未だノインは苦悶しているのだ。見た目と中身の途方もない違いに。

 そして、そんなノインの姿を、心配そうに見守るエスメラルダ。それはもうはっきりとわかる罠にかかりかける彼を憐れんでいるようだ。

 だが、その隣のアルマは、葛藤するノインの事を少しばかり楽しんでいる様子であった。











アマゾンについて、色々と情報をありがとうございます!

それらを元に調べてみたところ、


……どうやら自分が持っているのがガラケーだというのが問題である可能性が高そうです。


SNS? とかなんとかいうのに対応がどうやらこうたらという感じのあれだという?


送られてきたものをPCとかに転送するのがいいという事!


……ただ、試そうとしたところ転送の仕方が。

転送の文字がどこにもないんですよね……。

もしやCメールは、それほどまでに何もできない……とか……。

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― 新着の感想 ―
臨時収入の喜びのあまり、グリムダートの士官がまだ居るのに男口調に戻ってるルミナリアで草。
[一言] ノイン君はあれだよ、化粧箱使って鑑くん好みのイケオジになれば良いんだよ! 術士だとダンブルフになるんだろうけど、燻し銀聖騎士ならまた違った感じになるはず。 ミラ爺をメス顔wにするんだっ! な…
[良い点] 模擬試合めちゃ楽しみですー!
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