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398 将軍

明けまして、おめでとうございます!

三百九十八



 公爵二位の悪魔との決戦。

 長期戦となりながら、それでもミラ達の勢いは衰えを知らず、更なるチームワークを発揮していた。


『アルフィナは、そのまま注意を引いておけばよいぞ。エレツィナはソウルハウルの砲撃を待て。セレスティナよ、ラストラーダの補助に回ってくれるか。パムや、ノインに《虹色の御楯》じゃ。レティシャは、《新緑のメロディア》を頼む』


 戦況を分析しつつ、その都度に指示を出していくミラ。

 召喚術は様々な状況に対応出来るだけの柔軟性を持つ術種だが、ゆえにそれを活かしきるのは難しい。けれどもミラは培った経験と知識によって、それを完璧にこなしていた。

 しかも、新戦力を加えてだ。

 ミラが追加で投入した新戦力。それはセイクリッドフレームを纏ったヴァルキリー姉妹である。

 前回は、ユーグストに対しての拘束であったが、今回は強化としての活用だ。今はまだ実験段階であり完成とは程遠いが、それでも姉妹らの力を三割近くは底上げ出来ている。

 特にアルフィナとの相性は良く、ただでさえ他の姉妹に比べ頭一つ抜けている実力が更にもう一つほど突き抜けていた。

 現在は、かのゴットフリートと並び剣を振るい、前線を支える戦力として大活躍中だ。



 ルミナリアは、その魔術でもってダメージ源としての役割をきっちりとこなしている。

 これまで行っていた牽制などはソウルハウルに全て任せて、ダメージ効率に特化した砲台と化していた。

 こうなった彼女の攻撃力は他の追随を許さず、ただただ圧倒的だ。


「やっぱり、ちゃんとした聖騎士がいると安定して撃てるな」


 ノイン達前衛陣が奮戦する中で、僅かに生じる悪魔の隙。ルミナリアは、その一瞬を決して見逃す事はなかった。

 得意の《詠唱保持》と《二重詠唱》を駆使して特大の魔術を撃ち込み、確実に悪魔の体力を削ぎ落していく。

 魔術士としての役目を忠実に全うしていた。



「ああもう、ラストラーダさん! だからそんな飛び蹴り躱されちゃうから駄目だって言ってるのに!」


「あらあら、またいつもの悪い癖が出ているみたいね。後で叱っておかなくちゃいけないわ」


 カグラとアルテシアは支援に徹底し、前衛陣を支えていた。

 前衛陣が防ぎきれないような攻撃が来た時や、強烈な一撃を受けてしまった際は、すぐさま結界などを用いてカグラが援護する。

 そんな中でも、仮面のヒーローの如き必殺の飛び蹴りを繰り出しては撃ち落されるラストラーダの面倒を見るのは大変だ。

 そしてアルテシアは、回復に注力する形となっていた。補助などは全てカグラに任せ、ノイン達が万全の身体で動けるように整えているのだ。

 この二人の的確な支援によって、格上ともなる公爵二位を相手にノイン達は対等に渡り合えているというわけだ。




「よし、地下通路はこんなもんか。サイゾーさんに伝えてくれ」


「うん、わかった」


 ソウルハウルとエリュミーゼは、妨害と牽制を担当中だ。

 戦場には、既にソウルハウルによって数多くの小塔に砦や防壁、塹壕、隠し通路といったものが出来上がっていた。

 サイゾーなどは、特にこれらを利用しては巧みに悪魔の認識から逃れ、幾度となく不意打ちを決めている。

 またメイリンが立体的に動く足場としても有用だ。目に見える足場と《空闊歩》による空中での軌道の変化によって、悪魔が動きを読むのを困難にさせているのだ。

 小塔に備え付けられた大砲は常に悪魔を照準しており、相手の動きを阻害したり牽制したりするために様々な砲弾を発射する。

 特にエリュミーゼ協力によるマッドゴーレムを基にした泥弾は、悪魔の動きを制限するのに大きな効果を発揮した。

 防壁は、悪魔が放つ範囲魔法を躱すためにも役立ち、更に張り巡らされた塹壕は工作用ゴーレムの移動に使われている。しかもエリュミーゼのマッドゴーレムも、この塹壕を使って悪魔の足元に忍び寄っては時折その足を搦めとっていた次第だ。

 相手からしてみれば、実に小憎らしい伏兵である。それでいて足元に注意を向け過ぎてしまえば、今度は前衛陣とルミナリアに隙を晒す事となる。

 悪魔にとってはホームであった場所だが、今は既にその優位性は見当たらない。

 だがミラ達は、それほどまでに場を整えて各自が役割をこなす事で、ようやく悪魔と渡り合えているというのが現状だ。

 上位のレイド級魔獣が相手でも、既に五体は討伐していたであろうダメージを与えてなお、悪魔は健在。その攻撃の手は衰える事がない。


「さて、何もなければこのまま押し切れそうじゃが……」


 直ぐに倒しきるのは難しいが、このままいけば確実に削り切れるはず。

 数が揃っているだけに対応力では勝るミラ達の連合チーム。一対一では勝ち目のない相手だが、現状のまま継続出来れば勝利は遠くないだろう。

 けれど、ミラ達は僅かながらも感じ取っていた。

 本当に、このまま勝てるのかと。

 そして事実、更に幾らか戦闘が続いたところで、その不安は的中する事となった。


「切り札を使っても、ここまで対応されるとは……やはり貴様ら、冒険者やトレジャーハンターの類ではないな。しかも、そこらの超越者とも違う……となると──」


 悪魔は大ぶりながらも他を寄せ付けない業火によって周囲を薙ぎ払い、そのまま大きく距離を取るなり、そのような言葉を口にした。

 曰く、悪魔は初め、名うての冒険者やらトレジャーハンターが、この地図にない島を見つけて意気揚々と乗り込んできたのかと考えていたようだ。

 だが戦ううちに、そのような生半可な相手ではないと気付いた。

 だからこそ悪魔は、この場にて構えを解くなり、その口上を告げた。


「我は、アスタロト・ラース・リーディルハウト。ヴァルナレスにおいて北方を支配し、毒葬騎士団を統べる公爵である」


 名乗りだ。騎士として、また己の全てを賭して戦うという意味合いも込めて口にするそれは、悪魔アスタロトが絶対の覚悟を決めた証でもあった。

 またアスタロトは、何も裏はないとばかりに佇んだままミラ達を見据えている。

 だまし討ちなりをするつもりはないのだろう。だが彼の名乗りには、こちらが何者なのかを知ろうという思惑がはっきりと浮かんでいた。

 ゆえに、わざわざ悪魔の矜持に答えてやる必要はないというものだ。

 だが、ここにいる者達は皆が、将としての矜持を持っていた。


「ニルヴァーナ皇国軍大将、及び特殊作戦群、十二使徒が一人、聖騎士ノイン」


 一歩前に出るなり、堂々とした態度で名乗り返したノイン。

 その立ち居振る舞いにその気迫、そして騎士然とした姿は、誰もが憧れるような英雄そのものだ。

 と、そのようにノインが決めたものだから、続く者達もまた気合が入っていた。


「アトランティス王国軍、特務執行部隊、名も無き四十八将軍(ネームレスライン)が一人、剣士ゴットフリートだ!」


「同じくアトランティス王国軍、特務執行部隊、名も無き四十八将軍(ネームレスライン)が一人、隠密のサイゾーでござる」


 更にアトランティスの二人も名乗りながら前に出る。

 こういったやり取りが好きなようで、力強く返したゴットフリート。ただ表に出る事を好まないサイゾーは、どことなく付き合いで、とでもいった様子だ。


「アルカイト王国軍、国王旗下特殊戦略部、九賢者が一人、降魔術士のラストラーダ、見参!」


「アルカイト王国軍、国王旗下特殊戦略部、九賢者が一人、武道仙術士のメイリン、推して参るネ!」


 続きラストラーダとメイリンも、名乗り返した。特にこの二人は、こういった名乗り合いが好きなようだ。それはもう見事なポーズまでも決めていた。実に堂に入った佇まいである。

 そうして前衛陣が名乗り終えたら、次は後衛陣の番だとばかりに悪魔の視線が移る。

 それに対して、ルミナリアが意気揚々と前に出た。


「アルカイト王国軍、国王旗下特殊戦略部、九賢者が一人、魔術士ルミナリアとは、オレの事だ!」


 言葉と同時に自ら火の粉を振りまき演出したようで、ルミナリアの周囲を輝く光の粒がちらりらと舞う様は、どこか特別感に彩られていた。


「あらあら、次は私の番でいいかしら。えっと、アルカイト王国軍、国王旗下特殊戦略部、九賢者。聖術士のアルテシアと申します」


「私はアルカイト王国軍、国王旗下特殊戦略部、九賢者。陰陽術士のカグラよ」


 アルテシアは少し控え目に、そしてカグラは簡潔に名乗った。

 流れでこなしたといった様子ではあったが、ルミナリアが勝手に演出を加えていたために、その簡潔さが、むしろ大物感を添えていたりする。


「アルカイト王国軍、国王旗下特殊戦略部、九賢者。死霊術士のソウルハウルだ。まあ、覚えなくてもいい」


 続くソウルハウルは、口上を述べるなり関心はないとばかりに一歩下がった。

 名乗りなどに何の意味があるというのか。一見するとそのような態度に思えるが、その心の内はそうではない。そのように見せるのが、彼なりのクールなのだ。


「アトランティス王国軍、特務執行部隊、名も無き四十八将軍(ネームレスライン)が一人、死霊術士のエリュミーゼです」


 ちらりとミラの様子を確認したエリュミーゼが、名乗りを続けた。ただ最後にぺこりとお辞儀をする彼女のそれは、名乗りというよりは自己紹介のようでもあった。


「わしは──」


 と、そうして皆の名乗りも終わり、いよいよ番が回ってきたところで、ミラはどうしたものかと考えていた。

 このままの流れに乗って堂々と名乗るのか、それともあくまで今の自分に合わせ冒険者のミラとして名乗るのか。どちらにすればいいだろうかと。

 冒険者のミラがダンブルフであるという事は、国家機密だ。それを、もっとも警戒するべき相手である悪魔に明かすなど言語道断というもの。


「──アルカイト王国軍、国王旗下特殊戦略部統括、九賢者が一人、召喚術士のダンブルフとは、わしの事よ!」


 言語道断であるが、ミラは嘘偽りなく言い切った。このような場面で偽りの身分を告げては、九賢者の名折れであると言わんばかりに。

 そして、それに対する仲間達の反応は様々だ。

 ノインにサイゾー、カグラ、エリュミーゼらあたりは、何を馬鹿正直にとでもいった苦笑顔である。

 対してゴットフリートにラストラーダ、ルミナリアはというと、ミラのぶっこみ具合を前にして、よくやったとばかりな盛り上がり様だ。


「アトランティスの名も無き四十八将軍(ネームレスライン)にニルヴァーナの十二使徒、そしてアルカイトの九賢者か。貴様達には、多くの同胞が敗れたと聞く。なるほどな、道理でここまで追い詰められるはずだ」


 アスタロトが言うのは、過去についてだろう。三神国防衛戦の時と、それ以前について。

 それはもう皆が大暴れしていた時代の事まで、史実として把握しているようだ。

 三十年前。ここにいる皆が、公爵級を含めてそれはもう沢山の悪魔を倒していた事まで。

 だからこそアスタロトは、そんな英雄達が集まった今を前にして驚愕する。


「しかも、九賢者だと? 情報では未だに八人が行方不明で、うち一人の弟子だけが姿を見せたとは聞いていたが──」


 言いながらアスタロトは、周囲へと視線を巡らせていく。そして九賢者と名乗った七人を見据えると、「──ほとんどがここに揃っているとは、どういう事態だ」と呆れたように笑った。


「まあ、つまりは、こういう事か。どのようにして特定したのかは知らないが、こんな有り得ない連合軍がここに来たってのは、偶然でも何でもないというわけだ」


 幾らか逡巡したアスタロトは、最終的にその結論へと至った。

 決して見つからないように大海原を漂う『イラ・ムエルテ』の本拠地。その航路は、商船などの様々なルートを避けるように設定されている。

 そういった船にたまたま発見されるなどという事は起こり得ない。

 あるとすれば、遭難なりした果てに辿り着くというくらいのもの。だが、ここにいる者達が、そうであるはずはない。

 また、国家戦力級がチームとして集まるとなれば、相応の目的があって然るべき状況だ。

 ゆえにアスタロトは、任務によって国家戦力がこの場所へと送り込まれてきたのだと悟ったわけだ。


「そうか……特定されたか。ならば、もう出し惜しみをする必要もないな」


 ここにミラ達がいるという事は、既にこの本拠地の場所が各国に露呈しているという意味でもある。

 そのように悟ったアスタロトは、ここに来て更なる切り札を切ってみせた。


「なん、じゃと……!?」


 アスタロトが両腕を広げた直後に異変が起きる。それも、目の前だけではない。島全体が鳴動すると共に黒い光が大地を奔り、そこに線を刻んでいくではないか。

 しかも方々に浮かぶ黒い光は、とある規則性をもっていた。なんと、魔法陣をそこに描いていたのだ。

 そう、広大な島の地面に巨大な魔法陣を作り上げようというのである。


「おいおい、こりゃあただ事じゃねぇな」


 ルミナリアは、次々と浮かぶ黒い光を確認しながら、その顔に緊張を浮かべた。

 島全体にまで広がっていく魔法陣。ところどころに記号や文字が並んでは意味を成して力を発現させていく。

 悪魔が言った通りだとしたら、これは切り札ともなるだけの何かを秘めている事になる。

 ともなれば、このまま完成させるわけにはいかない。だが周到に準備されていたものだったのだろう、その魔法陣はミラ達が行動を起こす間もなく完成してしまった。

 大地が脈動し、辺り一帯に黒い光が満ちていく。

 その効果とは、この魔法陣がもたらしたものとは、悪魔が用意していた切り札とはどういったものなのか。

 ミラ達が警戒する中で、魔法陣はその力を発揮した。

 なんと、これまでにミラ達が倒した魔物や魔獣の死骸から黒い何かが溢れ出し始めたではないか。

 それは、魔の属性力だった。けれど、その溢れたものがどうなるでもない。その現象は、魔法陣による副次効果に過ぎなかった。


「さあ、決戦といこうか」


 深く重い声で悪魔が笑う。

 見ると悪魔の身体は更に一回り程大きくなっており、溢れんばかりの力で満ち溢れていた。

 そして、その力は見せかけのものではなかった。

 睨み合いから一転、ノイン達前衛陣と悪魔が衝突した。

 油断など一切せず全力をもって悪魔に立ち向かうノイン。相手が公爵二位の力であろうと防ぎきるだけの実力を持つ彼だが、再び始まった決戦では始まりからして押されていた。

 防ぐのが精いっぱいどころか、幾度となく守りを崩されているのだ。

 その都度に他の前衛陣が割って入っては難を逃れているが、ゴットフリートらも完全に攻めきれてはおらず、防戦に持ち込まれている状況である。


「ふむ、どうやらこれは、魔属性を強化するためのもののようじゃな……」


 明らかに劣勢となる中、後衛陣は支援の手を更に強めながら、全体の状況を読み取る事に努めていた。

 見える範囲内に刻まれた文字列や記号。魔法陣による術式は、形や並びなどによって様々な意味を成す。

 その組み合わせは多く、無数に存在する。更には制限や制約というのも多い。

 ゆえに、組まれた魔法陣というのは複雑な文様となるものだ。

 だが、それでいて一定の法則というものもまた存在し、術士の頂点ともされる九賢者達がそれを理解していないはずもなかった。

 だからこそミラは、見える範囲だけで魔法陣が持つ効果を見抜いた。


「また、随分と大きいわね。他にも何かありそうな気がする」


「ああ、相当に重ねているようだ」


 カグラとソウルハウルもまた解読したようだ。その大きさに加え、複雑に絡み合う術式をも読み取った。

 そして当然ながらミラも素早くそれを把握しており、だからこそ直ぐに次へと行動を移していた。


「わしがどうにかしよう。暫し、時間を稼いでくれるか」


 ポポットワイズを召喚して空へと放ったミラは、そう言葉にするなり《意識同調》によって、その視界を切り替えた。

 目に映るのは、ポポットが見た景色。ぐんぐんと空に上っていくほど、その視界には大地に描かれた魔法陣の全容が広がっていった。


(ふむ、なるほど……とんでもない数が重ねられておるのぅ)


 全体を鳥瞰してわかったのは、この悪魔の切り札が数百という魔法陣を組み合わせて成り立っているという事だった。

 他にも全体が把握出来た事により、これを詳細に読み解けるようにもなった。

 どうやらこの魔法陣は、魔物の命を糧として魔の属性を極限にまで増幅するもののようだ。

 動力となる魔物の命は、ミラ達が大量に倒していた分で賄われていた。

 千を超える数の魔物の命だ。ともなれば原動力不足によってこの魔法陣が直ぐに止まるような事には、まずならない。

 しかも、この魔法陣の効果は絶大だ。

 悪魔の力が極限にまで増幅された今のままでは、先にこちら側が力尽きてしまうのが確実と言えるほどに。

 だからこそミラは、迅速に魔法陣の解析を始めた。加えてアルフィナのみを前線に残し、次女以下の姉妹をその場より撤退させる。別の役目を担ってもらうために。

 悪魔の猛攻は苛烈を極め、ノイン達は反撃の糸口どころか防ぎきる事も厳しくなっていた。後衛陣のサポートによって、どうにかその場に踏み止まれているような状態だ。

 しかし、そもそもノイン達でなければ十秒も持たずに突破されていた事だろう。紙一重ながらも凌げているのは、卓越した彼らの実力があってこそである。

 そして、だからこそミラは、そんな仲間達にその場を任せて魔法陣の分析に注力出来た。


(そこがこう繋がって……ここで中継して──)


 魔法陣を形成している記号と文字列、そして様々な図形。

 一見すると不規則に配置されているようにも見えるほど複雑だが、そこには確かな規則性が存在する。

 召喚術を究め、更には全ての術についての知識も豊富だからこそ、九賢者という立場にまで上り詰めるほどに研究していたからこそ、ミラはその魔法陣の構造を手に取るように把握出来た。

 規則性に則って、魔法陣を構成する要素を導き出し、相乗する繋がりを看破していく。

 そうして解析から五分ほどが経過したところで、ミラはその魔法陣の脆弱性までも見出した。


『今から指示する場所に急行し、これを破壊せよ──』


 緻密に練られ構築された巨大魔法陣。その構造は芸術的ですらあり、それを成す無数の魔法陣を手当たり次第に潰そうとも、マナが巡る回路が変わるように繋がれており、その効果を消滅させる事が出来ないようになっていた。

 これを破壊するならば、巨大魔法陣の全てを、それこそ島全体を吹き飛ばすしかないといえるくらいの大仕掛けだ。

 けれど現状では、そのような事など不可能である。

 だがミラは、そうせずともどうにか出来る方法を見つけた。それは魔法陣の術式を読み解けるほどの知識を持ち、その意味までにも精通していたからこそ導き出せた突破口である。


『はい、お任せください!』


 そう答えるなり島のあちらこちらへと散っていくのは、エレツィナ以下のヴァルキリー姉妹だ。

 エレツィナ達は悪魔に勘付かれぬよう静かに、それでいて迅速に駆けていった。

 後は時間の問題だ。姉妹達がミラの指示を完璧にこなせば魔法陣の効果は消失し、再び総合力でこちらが上回れるだろう。

 ただ、強化された公爵二位を相手にしている今、その一分一秒が恐ろしいほどに遠く感じられる状況だった。


「これだけ重いのを連発されるとな……。もう手の感覚がなくなってきた」


 強烈な悪魔の一撃を防ぎ続けていたノインだが、いよいよ限界が近づいていた。もはや大盾を持つ手に力が入らず、全身を使って構えるのがやっとであったのだ。

 しかし、そのような状態でも、ノインは渾身の気合で悪魔の前に立ち塞がっては仲間を護っていた。


「いやぁ、とんでもないぜ。強化ミスリルの壁でも斬っている気分だ」


 大きく肩で息をしながら、痺れる両手を誤魔化すように笑って見せるゴットフリート。

 悪魔の表皮は、それこそゴットフリートが口にした通り、鉄壁ならぬミスリル壁とでも言うほどの強度を誇っていた。

 多少の傷はつけられても切断は不可能だと痛感してしまうほどに、刃が通らないのだ。

 だがそれでも彼は、多少なりの足止めも兼て全力で剣を振るった。


「はて、どうしたものでござろうか……」


 塹壕に潜伏するサイゾーもまた困難な状態にあった。完璧に不意打ちを決めたところで、その表皮に阻まれてしまうからだ。

 とはいえ、それでも幾らかの時間稼ぎにはなる。悪魔に隙が生まれた瞬間、その真偽をしかと見極めるなり刹那に奇襲を仕掛けていった。


「……この緊張感は久しぶりネ!」


 現時点において唯一、有効打を決められるのはメイリンだった。仙術によって衝撃を内部にまで伝える事で、表皮の硬さなど関係なくダメージを与えられるのだ。

 けれど、だからこそ悪魔の警戒は徹底してメイリンに向けられており、僅かに溜めを必要とするその一撃を決めるのは、もはや困難である。

 とはいえメイリンが、それを良しとするはずもない。むしろ、その目は余計に爛々と輝いていた。


「急いでくれよ、司令官……」


 そうした激戦の中、攻撃は通じずとも劇的な活躍を見せているのはラストラーダだ。

 蜘蛛糸による妨害のほか、霧や幻影などを巧みに駆使し、遠くで破壊活動に精を出すエレツィナ達の姿を完璧に隠蔽する。

 この効果によってエレツィナ達の工作行動を、より加速させる事が出来たほどだ。


「ああ、流石は主様の……素晴らしい剣です」


 アルフィナは中衛ほどの地点に立ち、悪魔が後衛陣に向けて牽制するように放つ魔法を聖剣にて切り払っていた。

 セイクリッドフレームによる身体強化も相まって、どのような魔法であろうとも確実に撃ち落すアルフィナ。

 その活躍ぶりは確かであり、ノインの負担を大きく軽減する事が出来ていた。


「……」


 そんなアルフィナの隣に佇むのは、イリーナだ。

 彼女は悪魔が前衛陣を突破してきた際に、これを防ぐ壁として控えていた。

 対悪魔装備は効果的であり、数度ほど、アルフィナと共に悪魔を押し返す事に成功している。

 とはいえ、その際の損害は大きく、あと一度でも攻撃を受ければ瓦解してしまうだろう状態にあった。











さて、クリスマスに続き大晦日もまた、がっつりいっちゃいました!


前回に続き、今回も笑ってはいけないを見ながらのピザタイムでした。

ただ、少し前回とは違う点も……。


それは、ピザのサイズをLから一つ下げた事です。

というのも、Lの場合は一度に食べきれないため次の日の昼食用に回すのですが……


これまでと違い、今は食生活が変わっていますからね。

よって、次の日から再開するダイエットの妨げにならないように減らしたのです!


しかし、折角の年末ピザタイムです。

減らしただけでは終われないとして……


代わりに、トッピングを倍にしてやりましたよ!


零れ落ちる具の量に、いつも以上の贅沢感を味わう事が出来ました!


さぁ、今年の年末はどうしようかなぁ……。

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― 新着の感想 ―
なんで、このまま擬態しないのかな(笑) 「〜ダンブルフの弟子、ミラ=ダンブルフ!」くらいでよかったのに。
[良い点] 強敵アスタロト…書籍はヴァレンティン参戦!?これは激アツ展開間違い無い!期待してます。
[一言] 戦略部統括…カッコイイ! 司令官って読んでたのはそういう意味もあったのか
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