392 新軍勢
さて、14巻の発売日が近づいてきました。
発売日は11月30日となっております。店舗様によっては幾らか早くなったりするみたいです!
今回は小冊子付の特装版もあったりします。
詳しくはこちらに!
https://micromagazinestore.com/products/list?category_id=44
是非ともよろしくお願いします!
三百九十二
「どうだー、人間風情に傷をつけられた気分はー」
砕けた氷塊の下。憤怒する悪魔に対し、大声で挑発するように呼びかけるルミナリア。
すると途端に、クレーターの中心が破裂した。
否、それは悪魔が跳躍した反動によるものだった。とてつもない脚力で跳び上がった悪魔は、そのまま一直線にルミナリアを狙う。
砲弾よりも速く向かって来る悪魔。しかもその突進力は凄まじく、迎え撃つサイゾーを豪快に弾き飛ばした。
更に、その際にサイゾーが刻んだ印を起爆したが怯む様子もない。
「俺を忘れてもらっちゃ困るな!」
そんな主張と共に悪魔と肉薄するのは、ゴットフリートだった。城壁の上に立ち、向かって来る悪魔に対して真正面から剣で挑む彼は、悪魔にも勝るとも劣らぬ速度で跳んだ。
稀に見る剣士の空中戦。悪魔の剣とゴットフリートの特大剣が交差する。
だが、その攻防は一瞬で決着した。僅かに角度をつけて受け止めた悪魔が、そのままゴットフリートを受け流したのだ。
悪魔と違い翼を持たぬゴットフリートは、そのまま放物線を描き飛んでいった。
とはいえ、軽くあしらわれたままでは終わらない。悪魔の気を引いたほんの一瞬にて、ルミナリアが次の魔術を完成させていたからだ。
『──彼方より満ちて、未来を照らせ!』
【魔術:白日の大火】
白く燃え盛る炎の球が放たれた。
凝縮された熱エネルギーが白く輝く。おおよそ人の扱える限界を超えた炎の力によって、周囲一帯が急激に熱せられる。
チリチリと肌を焼く炎。それが球となって、悪魔に飛来する。
「それがどうした!」
回避を許さぬタイミングで放たれたそれに、悪魔は正面から突っ込んでいった。
そして豪快に剣を振るうと、まさか炎の球が真っ二つに斬り裂かれたではないか。
「おお、やるな!」
身体を焼かれながらも最短最速を貫く悪魔の姿に、一歩下がるルミナリア。
「さあ、これを受け止めてみろ!」
それほどまでに氷塊の一撃が効いたのであろう。悪魔の怒りは全てルミナリアへと注がれており、動揺した様子を見せた事に愉悦の笑みを漏らして斬りかかった。
悪魔の剣が振り下ろされる。
その鋭く激烈な一撃は、ルミナリアを……その幻影を斬り裂いていた。
幻影を残す回避技能の《ミラージュステップ》だ。ルミナリアほどの術士が使った場合、初撃初見において、それは公爵二位すらも謀る可能性を秘めたものだった。
しかもルミナリアのそれは、あまりにも鮮やかであり、幻影を斬った事すら一瞬感じさせないほどだ。
ゆえに、悪魔がルミナリアを再認識して今一度斬りかかるまでに微かな隙が生じた。
そして、カグラがその隙を見逃さなかった。
【式神招来・七星老花】
瞬く間に式符が悪魔を囲うと、五角錐の結界を形成した。
だがそれは、檻ではない。
「貴様……!」
悪魔が剣を振るうたびに、結界に綻びが生じていく。あと二、三撃で破壊されてしまうだろう。
けれども、カグラ達の方が一歩早かった。
「ソウルハウルさん!」
「ああ、出番だよ、イリーナ」
カグラの合図と共に悪魔へと飛び掛かるのは、対悪魔兵装で固めたイリーナだ。《英霊再誕》によって蘇った彼女が持つ戦斧には、式符が張り付けてあった。
『破軍一星、理を示せ。与えたるは、破魔の一撃』
カグラのその言葉と共に式符が虹色に輝き、結界と呼応する。
イリーナが戦斧を振り下ろした。大木すらも両断出来るだろう力の篭った一撃だ。
戦斧が結界に触れた時、その力の全てが解放される。
武具の性能を極限まで引き出す《七星老花・破軍》。その効果によって増幅されたのは、対悪魔用にソウルハウルが見繕った戦斧であり、その効果といったら、さしもの公爵二位とてただでは済まなかった。
「ぐっ……」
イリーナの一撃は凄まじく、役目を終えて結界が砕け散ると、悪魔はその衝撃の余波によって宙に弾き飛ばされていた。
その悪魔は、見てわかるほどの傷を負っていた。悪魔特効というだけあってか、ルミナリアの氷塊よりもダメージを与えられたように見える。
「そうか、そういう事か。貴様らは超越者だったか……」
けれど、それでも悪魔には、まだ十分な余力が残っていた。
翼を広げて急制動をかけると、そのままゆっくり地面に降り立つなり、どこか落ち着いた様子でルミナリア達を見回した。
加えて、何がどうしたのか雰囲気が変わっている。先程までの悪魔ならば、ますます激昂していそうなものだが、むしろ彼の者の声には確かな冷静さが秘められていた。
「さて、本番だな」
「ええ、本番ね」
様変わりした悪魔を確認して、ルミナリアとカグラは警戒度合いを最大にまで引き上げた。
ソウルハウルもまた、その変化を前に色々と戦場の調整を開始する。
城壁の砲台を開き砲手ゴーレムを配備、更に各所へ砲塔を設置して最終決戦モードへと移行させていった。
「気を引き締めていくぞ」
「おうよ!」
悪魔の正面に回り込んだノインとゴットフリートは、次の動きに対応するべく構える。
そんな中、メイリンが一歩前に出た。
「次は、私ヨ! 私が相手ネ!」
相手は、格上ともなる公爵二位の悪魔だ。
だからだろうか、堪らずとばかりに名乗りを上げたメイリン。けれど今は流石に、そういった状況ではない。
「メイリンさん、今はチームバトルですからね。わかりましたね?」
釘を刺すようにノインが言うと、メイリンは「……わ、わかっているヨ!」と動揺気味に、また心なしか残念そうに答えつつ一歩下がった。
過去にソロモンやダンブルフに何度か叱られた事もあって、彼女も一応その辺りは学習しているのだ。チームバトルと言われたら、チームバトルなのだと。
「一人でも全員でも構わない。さあ、果たし合おう!」
悪魔は、余裕たっぷりに言い放った。
人に害をなす事を目的とする悪魔は、その一方で人を見下している傾向にある。特にそれは、爵位が上がれば上がる程に顕著だ。
だが戦闘において相手の実力を把握し、それを認める事で態度が変わる。
相手を対等な実力者と認識した悪魔は、戦士としての一面を見せるのだ。
たかが人と侮らず、また驕らず、相応の敵としてこれを打倒する。完全な戦闘モードとなった悪魔は、これまで以上に手強くなる。
爵位級悪魔との戦いは、ここからが本番なのだ。
時は少し戻り、魔物の群れとの戦闘を繰り広げるミラは、最前線にて拳を振るっていた。
剣だ長槍だと使っていたものの、やはり素手が一番しっくりくると実感した結果だ。
翻るスカートもなんのその。しっかりと穿いておいたスパッツに全幅の信頼を寄せて飛び回る。これならば、きっとカグラとアルテシアに叱られる事はないだろうと信じて。
「ふむ、上出来じゃな」
武装召喚と仙術の相性は抜群だ。
様々な組み合わせを確かめたミラは、満足げに周囲を見回す。
凶暴さを増した魔物の群れは、これまで以上の爆発力を秘めたものだった。
ただ力任せに暴れ回るだけだが、その破壊力は小国を滅ぼせてしまえるほどだ。並大抵の兵士では、どれだけ軍略が優れていようとも強行突破されてしまうだろう勢いがあった。
けれども、そんな魔物の群れに対するは、より洗練された戦術を学んだヴァルキリー姉妹と、軍としての運用に適応した《軍勢》だ。
これらから成る軍は今まで以上の作戦遂行能力を有していた。凶暴な魔物の群れが相手であっても、これを封殺してしまうほどに。
「総員、防御構え!」
フローディナが指示を出すなり、聖剣隊が前面に大盾を揃えて衝撃に備える。
そこへ突撃してくる魔物達。その突進力は相当なもので、強靭な灰騎士であっても幾らか陣形を崩されてしまった。
しかしヴァルキリー姉妹達に統率された《軍勢》は、どのような状況においても最大限の力を発揮する。
すぐさま後列より補助が入り、陣形を立て直していく。
続けて長槍隊と弓隊も、順調な活躍を見せている。ルミナリア達と悪魔が戦う場には一匹たりとも通しはしない鉄壁のラインがそこには形成されていた。
「ふむ、順調そうじゃな」
防衛ラインよりも先では、セレスティナ率いる戦斧隊が活躍中だ。大型で足が遅い代わりに、極めて頑強な魔物達を相手に善戦している。
壁となるような魔物は、全て彼女達によって封じられている状態だ。
とはいえ魔物達とて、一筋縄ではいかない個体がところどころに交ざっており、これがなかなかに厄介であった。
それらを相手に奮闘していたジングラーラとウンディーネだが、スタミナとマナを大きく削られたため送還となる。
今はミラとアイゼンファルドが、中心地で盛大に暴れている状況だ。
「さて、こちらもぼちぼち片付いてきたのぅ」
見れば戦闘を始めた頃より、魔物の数が半数を下回っていた。既にそれだけの魔物を屠っているわけだ。
それでいてミラ達の勢いは止まらない。
更にここにきて加速とばかりに、ミラはロザリオの召喚陣を展開した。
『円環より参れ、漆黒の破壊者よ』
【召喚術:ロンサムバロン】
輝き出した召喚陣。だが次には黒く染まっていき、そこに闇の如き穴を生み出した。
その穴より現れたのは、黒い毛に覆われた巨躯の牡羊。
聖獣ロンサムバロン。立派な体躯に黒い顔、そして猛々しい真っ黒な角を戴いた姿は、そこいらの羊とは一線を画すものだった。
羊というと、どことなく温厚そうなイメージが浮かぶが、バロンを見てそれを感じる者など誰一人としていないだろう。
バロンの印象は、まるで暴君のそれであり、戦う姿は印象通りに苛烈なものだった。
「さて、バロンや。大いに暴れてよいぞ」
ミラがゴーサインを出すや否や、バロンは盛大に魔物達を蹴散らかしていく。
傷を負う事をいとわない戦い方であるため長期戦は不得手だが、あと一息といった戦況において、バロンは最高効率といえるほどの爆発力を発揮する仲間だ。
その突進は重戦車の如くであり、数体の魔物を一度に吹き飛ばしていった。
また、体長にして六メートルを超えるバロンは、やはり目立つようだ。幾らかの魔物の注意がそちらに向かう。
すると聖剣隊を突破しようとする魔物の数も減り、取りこぼしを処理していたエリヴィナとクリスティナが前線へと出る機会が生まれた。
「今ならいけるわね!」
「あ、私も行きまーす!」
二人は、ここぞとばかりに最前線へと躍り出た。そして迫りくる魔物を一つ二つと斬り捨てて、バロンに群がる魔物達に挟撃を仕掛ける。
その戦果は上々だ。明らかに正気を失っている状態であるためか、魔物達は注意が分散してしまうような策に脆いようだ。
ド派手に暴れるバロンに襲い掛かるところにエリヴィナらが横槍を入れる。すると魔物達は反射的に抵抗してきた。
そこを更に突いてやれば、魔物達の包囲が崩れ始めていき、ここぞというところでバロンが豪快に突破する。
そして散り散りとなった魔物達を、じりじりと進行していく《軍勢》が呑み込んでいった。
そのようにして魔物の群れは着実に数を減らしていき、幾らかの後にミラ達は魔物達の殲滅を完了した。
「ふむ、上出来じゃな」
もう生き残った魔物はいない。その確認を終えたミラは誇らしげに佇みながらも、褒めてくれとばかりな視線を向けてくるバロンを「ようやったぞ」と労う。
バロンは嬉しそうに足踏みをして嘶いた。
ただ、そこで黙ってはいられないのがアイゼンファルドだ。「母上、母上!」と駆けて来るなり、期待に満ちた顔を浮かべる。
「う……うむ、お主もようやったのぅ」
人形態のままで戦っていたものの、アイゼンファルドの戦果は、やはり優秀であった。
ただ、返り血などについては一切気にせずに暴れていたのだろう。全身が血みどろな状態であり、尚且つ手にした血まみれの剣も相まってか、一見すると悪夢に出てきそうな殺人鬼とでもいった有様だった。
そんなアイゼンファルドが、母上に褒められたと喜んでいた時だ。
不意にバロンが動きを止めて振り向いた。
それと同時にアルフィナも「主様、あちらも始まったようです」という言葉と共に傍へとやってきた。
「ぎりぎり間に合ったといったところじゃな」
それはルミナリア達が公爵二位の悪魔との激戦を繰り広げていた、もう一つの戦場での事だ。
その悪魔が纏う雰囲気が、迫力が、威圧感が、そして何よりも一帯を覆うマナが変化していった。
いよいよ悪魔が、本気になったようだ。これまでとは比較にならぬほどに空気が重くなっていく。
「さて、わしらも合流じゃ!」
敵は公爵二位である。少しでも戦力は多い方がいい。それをよく知っているミラは、《軍勢》を率いて主戦場へと向かう。
その最中だ。主張するように足を踏み鳴らしたバロンが、熱い眼差しをミラに向けた。
「ほぅ、あれをやりたいというのじゃな」
バロンの仕草を見て、ミラは彼が何をやろうとしているのかを直ぐに察した。
というより、それは彼の趣味嗜好のようなものであり、考えずともバロンをよく知るミラにとっては、いつもの事のようなものなのだ。
「まあ、よいじゃろう。思いっきりぶちかましてやるとしようか!」
そうバロンに答えたミラは、次いでクリスティナに振り返り、「では折角じゃからな──」と笑顔で続けた。
昨日、遂に注文していたアレが届きました。
そう、羽毛布団です!!
羽毛布団、買っちゃいました!!
しかし……!!
さぁ、早速その寝心地、そして温かさを試してみようとしましたが……
11月も後半だというのに、そんなに寒くないという今日この頃。
昨日の夜は、毛布一枚で十分でしたね……。
ああ……早く実感したい!!




