388 謎の部屋
三百八十八
番犬代わりだろうか。敵本拠地内部にも、ところどころに魔物の姿があった。しかもただの魔物ではない。Aランク相当の強力な魔物ばかりだ。
とはいえノイン達はAランクすらも凌駕する実力者揃いである。そのためAランクの魔物といえど、その進行を止める障害にはならなかった。
徘徊する魔物らは、ラストラーダとサイゾーの手によって静かに手際よく片付けられていく。
「内部は少数精鋭といった配置でござるな」
魔物が吠えるよりも先に口を塞ぐ。魔物が魔法を使う兆候をみせたなら迅速に封じる。そして気付かれるより前に首を落とす。
潜入工作においてサイゾーの腕前は、ここにいる誰よりも優れていた。その技は、正しく皆が思い浮かべる忍者のそれである。
「とはいえ広さの問題か、大型の魔物は見当たらないな。その分、強力な個体を置いているとみた!」
離れた位置から眠らせた後に、そっと息の根を断つ。蜘蛛の糸で搦めとってから的確に急所を貫く。そして証拠すら残さず塵に還す。
ラストラーダの術の中にも、隠密行動に適した種類が沢山あった。もはや戦闘の痕跡すら残らぬ鮮やかさで、魔物達を葬っていく。その姿はまるで奇術師のようだ。
(やはり凄い。流石としか言いようがない。ここまできても気付かれる要素は皆無だ。サイゾーさんは当然として、ラストラーダさんもここまでとは。アルカイトでは諜報を担当していたなんて聞いていたけど、ここまでの手際だとは)
二人の手腕を目の当たりにしたノインは、その熟達した技の数々に舌を巻く。
見た目からして忍者を意識しているサイゾーの技はもちろんの事、あの熱血ヒーロー馬鹿っぷりには似合わぬラストラーダの工作員スタイルに、もはや感動すら覚えるノイン。
(あの召喚爺やルミナリアさんにメイリンちゃん、ゴットフリート君がこっちだったら、絶対にこうはいかなかったな!)
そう彼は強く思った。きっと間違いなく、その内の一人でも潜入チームにいたら、既にド派手な痕跡を残していただろうと。
だからこそ、このチーム分けは完璧だったと、これを提案したカグラに感謝するノイン。
潜入調査チームは、そのようにして順調に『イラ・ムエルテ』本拠地の探索を進めていく。
ここはまるで、迷宮のような造りとなっていた。加えて、それらを構築しているのは石とも金属とも知れない素材だ。壁も床も天井も、不思議な光沢のある赤黒い何かで出来ているのだ。
しかも細い通路と小部屋、そして無数の階段が至る所にある。複雑に入り組むばかりか似たような場所が多いため、注意していても現在位置を見失いそうになるほどだ。
だがここで、ラストラーダの降魔術が光った。迷宮蝙蝠から獲得出来る降魔術によって、概ねの全体像を把握出来るからだ。
更にサイゾーもまた、無形秘術による位置確認が可能だった。
もはや二人が揃えば、マップ要らずである。初見の迷宮ですら初手で全体像を把握出来てしまうだろう。
加えてアルテシアの聖術による強化が加わっているものだから、二人の技の冴えは一段と鋭くなっているときたものだ。
ノインは安心して守りにのみ集中出来ていた。だが、それでいて彼の脳裏には、ちらりちらりと出発前に見たミラの姿が浮かんでは消えていく。
(くっ……惑わされるな、俺!)
外面がどストライクなだけで中身は好みとは別物だと自分に言い聞かせながら、ノインは瞼の裏に浮かぶミラの下着姿を振り払った。
「あら、お人形さんね」
数体の魔物を闇に葬り、更に進む事暫く。遠く前方向。そこにふと現れたのは、獰猛な魔物ではなく不気味な等身大の人形だった。
まるで操り人形のようにカクカクと不自然に動く姿は、極めてホラーチックだ。そして、その気味悪さの通りというべきか、それはステアパペットという悪霊系の魔物だ。
悪霊が宿った人形、ステアパペット。精神系の魔法を使うほか、呪いという厄介な力も持つ。だが、その戦闘力はさほど高くない。Aランクの魔物ばかりと遭遇する中で、明らかに数段格落ちする相手だ。
けれど、そのような魔物がこの場所に配置されている事について疑問に思う者はいなかった。
しかも、呪いを祓えるだけでなく、悪霊などに対して特効性のある聖術を操るアルテシアがいるにもかかわらず、緊張感が増したほどである。
理由は、ステアパペットの持つ能力にあった。
それは警報だ。魔物以外を見つけると、警報を発して魔物を呼び寄せるのである。今回、魔物が集まる事はさほど問題ではないが、その事で侵入がばれてしまうのは避けたいところだ。
「あれは、任せて」
そう告げて前に出たのは、死霊術士のエリュミーゼだった。彼女は生み出したマッドゴーレムをすぐさま液状化させて、地面を這うように進ませていった。
じっくりと周囲を見回すステアパペット。泥溜まりは、その足元に集まり徐々に広がっていく。そして、ステアパペットが次に移動しようとした直後だ。
地面から一気に伸び上がったマッドゴーレムが、あっという間にステアパペットを包み込んでしまったのである。
するとどうだ。襲われれば直ぐに警報を鳴らすはずが、うんともすんとも言わぬではないか。
「これは、お見事」
安定していてなお、静かな仕事ぶりに称賛を送るノイン。
最後に近寄って、短剣でマッドゴーレムの上からステアパペットを貫いたエリュミーゼ。その一撃によって、あっさりと決着した。
「楽勝」
ちょっと得意げなエリュミーゼは、いったいどうやったのかというノインの質問に答えた。
ステアパペットが警報を鳴らさなかったのは、マッドゴーレムに《霊縛》が付与されていたからだそうだ。ゆえに、このマッドゴーレムに閉じ込めてしまえば、悪霊系の魔物が持つ特殊な能力の大半を封じられるという。
(繊細な操作と、確実な戦略。流石はエリュミーゼさんだ)
きっとミラ達ならば、警報を鳴らす前に跡形もなく消し飛ばしてしまえばいいなどと言っていた事だろう。そんな光景をありありと浮かべながら、エリュミーゼがいてよかったと安堵するノインだった。
見事なチームワークで魔物を片付け、奥へ奥へと潜入していくノイン達。そうしてまた、これまでと似たような小部屋にやってきた時だった。
「むむ、待つでござる。この部屋、どうにも違和感があるでござるよ」
見た目も何も見分けのつかないその部屋を見回しながら、サイゾーがそう言ったのだ。
「違和感? ──見たところ、これまで通りだが……」
足を止めて注意深く部屋を見回すノイン。一見すると、これといった変化は見られない。とはいえ、潜入調査のプロフェッショナルであるサイゾーの直感だ。その能力は確かである。
ともなれば、何かがあるのかもしれない。
「よーし、一先ず探ってみるか!」
サイゾーが言うのならと、直ぐにラストラーダが行動を開始する。《目明しの鱗粉》という降魔術を使い、光の粉を周囲にまき散らした。
それは微細な圧力、更にはマナの変化といったものに反応して明滅する特性を持つ。目に見えない敵や、蚊ほどにも満たない小さな対象の動きを捉えるために役立つ術だ。
また、もう一つ便利な使い道があった。それが、隠し扉といった類の発見だった。隙間などから漏れ出たりする些細なマナ圧の変化に反応するのである。
ただ今回は少々、普段とは反応が違った。
「おっと、こいつは尋常じゃないな」
部屋の片隅。ラストラーダはその壁を見据えて眉根を顰めた。更にノインらもまた、それを前に困惑の色を浮かべる。
光の粉が輪郭を浮かび上がらせて、そこに隠し扉があるという事を示していた。だが本来は、扉と壁の境界線に沿って微かに明滅する程度のものだ。しかし今はどういうわけか、そこの一部が強烈に明と暗を繰り返しているではないか。
つまり、その先から漏れ出てくるマナが異常だという証拠だ。
ラストラーダは言う。この先に待ち受けているのは、確実に日常とはかけ離れた状態だと。
「あらあら、大変そうだわ」
「嫌な予感しかしない」
アルテシアとエリュミーゼは、そこから直感的に禍々しさを感じ取ったようだ。警戒した様子である。
「さて、調べてみるとしようか!」
明らかに尋常ではない。けれども隠しているという事は、それ相応の理由があるはずだ。しかも、巧妙に隠されたこの島の中で更に隠された場所だ。
この隠し扉の先には何があるのか。それを確かめるためにラストラーダはすぐさま扉を開ける方法を探し始めていた。
きっと先にあるのは、相当にろくでもないものだろう。しかし、虎穴に入らずんば何とやらだ。
もしかしたら、この先に『イラ・ムエルテ』のボスが潜んでいるかもしれない。そんな期待を胸に周辺を探っていくノイン達。
それから少しして扉を開ける方法を見つけたのは、やはりともいうべきか、サイゾーであった。
「どうやら鍵となる術具に反応して開く仕組みのようでござるな。かなり上等な代物でござる。けれども拙者の手にかかれば──」
仕組みを見破ったサイゾーは、続けて後は任せろとばかりに隠し扉の前に立った。
そしてサイゾーがかさこそとし始めてから一分弱。カタンという音と共に隠し扉が開いていったではないか。
「流石、サイゾーさん。術式による鍵も開けられるんですね」
余程のものでない限りは、物理的な鍵よりも術式による鍵の方が破り辛い。だが、その違いなど感じさせないほど鮮やかに開錠してみせたサイゾーの手腕を絶賛するノイン。
そんなノインに対して、サイゾーは自信満々に答えた。「アトランティスの魔導技術はぴか一でござるよ!」と。
サイゾーが手にしていたもの。それは忍術だ忍具だといった類ではなく、極めて高性能な術式解除用の術具であった。
便利なものは何でも使う。それがサイゾー式忍者道なのだ。
「これは……臭うでござるな」
僅かに開いた隠し扉の隙間。そこから微かに空気が漂ってきたところでサイゾーが表情を顰めて後ずさる。
「確かに、これはきついな……」
どれどれと寄っていったノインもまた、隙間から漏れ出てくる臭いを感じた途端にその場を離れた。
そんな中で一人、その臭いの正体について口にした者がいた。
「これは、死臭」
エリュミーゼだ。死霊術士という事もあってか、そういった臭いに触れる機会も多いのだろう。ずばりと言い切った彼女だが、それでいて浮かない顔だ。
「死臭って……つまりこの先には……」
何かの死体、またはゾンビといった類の魔物がいる。そう察したノインは、あからさまな嫌悪感を表に出していた。彼はグロテスクなものが苦手であったのだ。
「あら、どうしましょうね……」
「この臭いからして、なかなか……」
とはいえ、そういった類が得意という者は珍しいだろう。ノインのみならず、アルテシアにサイゾーも気乗りしないといった表情だ。
そして唯一耐性のありそうなエリュミーゼは──「私は、ここを見張っている」などと、頑なに拒絶するような目で告げた。死に触れる機会は多いが、かといって慣れたというような事もないようだ。
「まあ、ようやく見つけたんだ。行ってみるしかないな!」
この先には、明らかに生理的嫌悪感を催すものが待ち受けている。臭いからして直感出来るそれを前に、一切揺るがなかった者はラストラーダであった。ここまで探し回って、ようやく出会えた魔物以外の手掛かりを前にして満面の笑みだ。
悪の組織の秘密基地に隠された、秘密の扉。その先から漂って来る不浄の臭い。そこに彼のヒーロー魂がビンビンに反応したようだ。是非とも追及するしかないと全身で語っていた。
「行くしかないかぁ……」
事実、ラストラーダの言葉はもっともだと心を決めるノイン。入り口が隠されていたという事は、この先に、そうするだけの何かがあるともいえる。調査する以外の選択肢などないのだ。
とはいえ死臭の満ちる場所にそのまま無防備に踏み入るような真似はしない。臭抗薬を飲むだけでなく有毒ガスが発生している事も考慮して、アルテシアに清浄な呼吸が可能となる聖術を掛けてもらった。
「よし……行くぞ……」
準備は万全だ。万全になってしまった。けれど、この先にはきっと見たくもない光景が広がっていると予想される。ゆえにノインが踏み出した一歩は重かった。
ただ、肝心の一歩目さえ踏み出せれば、二歩三歩と続けられるものである。そうしてノイン達は隠し扉を越えて、その奥へと進んでいった。
「無理、こういう雰囲気、ダメ」
エリュミーゼが真っ先に音を上げた。
進めば進むほどに嫌な臭いは纏わりつき、得体の知れない何かが迫ってきているような気配が漂って来る。
臭抗薬で堪えられてはいるものの、精神的にきつくなるような臭いだ。加えてノインとサイゾー以外の術士組は、その先に渦巻く淀んだマナをも感じ取っていた。
「これは確実に何かあるな。悪の研究場か、それとも邪悪な大幹部のお出ましか!」
間違いなく、自然には有り得ないマナの淀み。ラストラーダだけは、その存在を前にしても一切揺らいだ様子はない。むしろ絶好調なほどだ。
そのようにして長い通路を進む事、百メートルと少々。いよいよ隠されていた部屋にまで辿り着いたノイン達は、そこに広がる光景を前にして絶句した。
「何だ、これは……」
「まあ、酷い……」
嫌悪感を露わにするノインと、沈痛な面持ちで俯いたアルテシア。
そこは、この拠点で見た中で一番広い部屋であった。高さにして二十メートルはあるだろう。幅も五十メートルは超えるのではないかというくらいに広い。大きな倉庫とでもいった場所である。
そんな部屋にあったのは、夥しい数の死体だった。
大量の魔物のみならず、野生動物の他、ところどころに聖獣の類までもがそこには転がされていた。
いったい、ここは何なのか。墓か、それとも処理場か何かだろうか。そのような思いが僅かに浮かんだものの、そういった優しさのあるものとは違うとノインは直感する。
「見たところ人の姿は……無さそうだ」
千を超える死体の山を前に皆が怯む中、前に出て状況を確認するのはラストラーダだ。様々な死体に埋め尽くされた部屋を一望するなり、少なくとも思い付く最悪にまではなっていないと告げる。少なくとも、見える範囲の死体の山に人はいないと。
「正に、悪の所業でござるな」
この場所は何なのか。どういう意図で、このような場所が造られたのか。それを調査する事が先決だ。
サイゾーは、あまりにも悪趣味な光景に眉を顰めつつも、その目的を探るべく動き出す。
ただ死体を集めただけ、などとは考え辛い。ただの死体置き場だというのなら、わざわざ隠し扉の先にする必要などないからだ。
何かしら秘密があるはずだ。その考えを基に、ノイン達は手分けして部屋の調査を進めていった。
「これは不思議ね。どれも傷一つないわ」
多くの魔物の死体を見て回ったアルテシアが、一つの共通点に気付く。
それは、死体の状態だ。見て取れる限り全ての死体に、目立った傷というものが一切見られなかったのだ。
つまり、争いや外傷が原因で命を落としたというわけではないという事。加えて腐敗しているものも多いため、素材などが目的で狩られたわけでもなさそうである。
果たして、この部屋の意味は。更に探る事暫く。「皆、こっちに来てくれないか」というラストラーダの声が響いた。
「なんだ、これは……」
ノインはラストラーダが見つけたそれを前にして息を呑み、慎重に歩み寄っていった。
無数の死体が転がる広い部屋の片隅。特に大きな死体の山の奥側。そこにあったのは、何かの装置染みたものと、そこに設置された二つの大きな器だった。
「なんだか、邪悪な儀式とかやってそう」
パッと見て感じた印象をずばりと口にしたのはエリュミーゼだ。
彼女の言う通り、その装置のようなものには複雑な術式が刻まれており、いかにもといった怪しさがあった。
見ると石段で上れるようになっていて、その先には棺桶のような石造りの箱が置かれている。そして、その箱の下部より、器の上に向かって細い導管が出ているという形だ。
「拙者としても、まだ儀式だと願いたいところでござるが……これはしかし……」
見た目のまま判断するならば、それは圧搾機のようなものに近かった。つまりは上の箱に何かを入れて、何かを抽出するといった仕組みだ。
また、術式が刻まれている事からして、果汁を搾るだなんだといった優しいものではないだろう。そして、このような場所にあるという時点で、これがどのように使われるものなのかという疑問に自然と答えが出てしまう。
「この黒いのは、血……ではなさそうだな」
あまり気分のよくない想像が脳裏を過り、目を逸らし気味のノイン達。だがラストラーダは、左の器の底に残っていた真っ黒なそれに注目していた。
液体のように見えるそれは、まるで闇を煮詰めたのかというくらいに深い黒色で、見ていると怖気立つような不気味さがあった。
おおよそ、血だなんだといった単純な物質ではないと思わせる何かを秘めたものだ。
「こっちの透明なのは……水……なはずはないな」
ラストラーダは続き、右の器の底に目を移した。そこには僅かながらも、透明なものが溜まっていた。
一見するならば、ただの水だ。けれども、やはりそれからは得体のしれない何かが感じられた。
けれども先程の黒いものとは違い不気味な印象を受ける事はなかった。かといって感じられるものについて名状出来るような言葉がないほどに、それは不思議な透明だった。
フフフフフフ……。
遂に
遂にやってやりましたよ!
70キロ台突入です!!
昨日の昼頃、何気なく体重計に乗ってみたところ
79.3!!!!
このままいけばクリスマスは、いつも通りにチキンとケーキでフィーバーできそうです!
そして年末は去年のように……ピザ祭りに出来そうです!
去年はニューヨーカーでしたが、今年は何にしようか……。
今から楽しみですね!!




