384 船内にて
※前話にて、ミラに対する将軍達の反応を追記しました!
三百八十四
ニルヴァーナを発って数時間後。それぞれが好きなように過ごしていた。
ミラとソウルハウル、カグラにルミナリアは、新しく考案した術だったり、術式の応用などだったりについて話し合っている。
「分解してみるとじゃな、この部分が一致するのじゃよ──」
「AからBへの変換時、ここで幾らかのロスが生じている──」
「何重にもすると負荷が累乗になるんだけど、間にルインシータを挟めば──」
「ほら、マナ燃焼時に酸素は必要ないだろ? だからここを──」
あれやこれやと意見を出し合う四人。それを、陰から見つめる者がいた。
それは、エリュミーゼだ。
死霊術士である彼女は、だからこそか、九賢者に憧れに近い感情を抱いていた。そして特に彼女が注目しているのは、同じ死霊術士であるソウルハウルだ。
(あのお城くらい大きなゴーレム、どうやって制御してるんだろ。教えてほしいな……)
普段はあまりやる気のない彼女だが、この時は違ったようだ。
あの輪の中に入りたい。けれどそこは、アトランティスの将軍をもってしても躊躇してしまうような、術技の最高峰が集う場所。生半可な覚悟では近づけそうにないと動けずにいた。
と、そんなところで、ふと振り向いたソウルハウルとエリュミーゼの視線がばっちりと合った。
咄嗟に顔を隠すエリュミーゼ。だが、そんな彼女の気持ちとは無関係に、ソウルハウルが声をかけた。「なあエリー、君の意見も聞かせてくれ」と。
顔を上げたエリュミーゼ。その目に映るのは、こいこいと手招きするソウルハウルと、にこやかに微笑むミラ達の姿であった。
「うん、わかった……」
若干、気後れするもののエリュミーゼは立ち上がり、その誘いにのった。そしてミラ達の色々な質問に答えながら、その話の輪に加わる。
エリュミーゼは、ソウルハウルに幾つものテクニックを教わり、満足げだ。
そしてミラ達銀の連塔勢もまた、アトランティス側の術について様々な知識を得られて満足顔だった。
(いざという時は、まずアルテシアさんだろ──)
船室の片隅にて、真面目に戦闘のシミュレーションを思い浮かべては幾つもの動きを決めているのは、ノインである。
前衛と後衛に若干の偏り──かなりの偏りがある分、唯一メインで壁役となれるノインが請け負う割合は大きい。敵の数によっては、手が足りなくなるなんて事も有り得るだろう。
ゆえにノインは、そういった際の優先度を確認していた。
最も優先するのは、回復役であるアルテシアだ。
そもそも、子供達の世話で離れられないだろうと思われていた彼女だが、ミラ達が出発する事情を聞いて様子が一変した。
その事情とは『イラ・ムエルテ』のボスとの決着。
そしてそれは、子供達を食い物にした組織の黒幕ともいえる存在だった。
ゆえにアルテシアは、鬼子母神と化してここにいるのだ。
そんな心強い味方である聖術士の彼女さえ無事ならば、幾らでも仕切り直しが可能だ。
(そして次は、カグラちゃんかエリュミーゼちゃんかミ……──いやいやいや。それは入れなくていいだろう。あれは召喚爺だ。自分の身くらい自分で簡単に守れる奴だ)
次に優先するのはか弱そうな女性、接近戦が不得手な術士だと視線を巡らせたノインは、思わず目に入ったミラを見つめていたところで我に返り首を振る。
召喚術士でありながら仙術まで操り、近接戦における弱点を克服した異端である。わざわざ優先して守る必要などないというものだ。
ノインは、その事を十分過ぎるほどに知っている。
(さて、次は……)
だがそうして見回せば、またミラの姿が目に入ったところで視線を止めてしまうノイン。理性すらも揺るがせてしまうほどに、ミラの容姿がどストライクのようだ。
「騙されるな、俺。騙されるな、俺──」
見惚れては我に返りを繰り返して自己嫌悪に陥るノインは、最終的にカグラとエリュミーゼをひたすら見つめるという強行策に出た。そうして次に優先するべき防衛対象がぶれないように頭へ叩き込むのだ。
と、そんなノインの様子を一から十まで把握する者がいた。
(あーあー、ドツボに嵌ってるな、アレは。いやぁ、これは楽しくなってきたぞ!)
それは、ルミナリアだ。彼女は葛藤するノインを見て、新しいおもちゃを見つけたとばかりに不敵な顔で笑っていた。
「はーい、メイリンちゃん。パンケーキ出来たわよー」
「感謝、感謝ヨー!」
食堂室にて、一足早くおやつの時間に突入しているのは、メイリンとアルテシアだ。
お腹が空いたというメイリンの声にすぐさま反応したアルテシアの仕事は早く、あっという間にふわっふわのパンケーキを完成させていた。
更にたっぷりの特製クリームをのせたなら、もはや名店もかくやという極上スイーツの完成だ。
「すっごく美味しいネ!」
「それは良かったわ。足りなかったら言ってね。幾らでも焼いてあげるから」
それはもう輝かんばかりの笑顔なメイリンと、それ以上に幸せそうな顔をしたアルテシア。
どうやらアルテシアにとってみると、ミラとさほど変わらぬ背丈のメイリンもまた、十分に子供となるようだ。
メイリンの口元についたクリームを拭ったり、コップにミルクを注いだりと、それはもう徹底した甘やかしっぷりであった。
そしてメイリンにおかわりを求められれば迅速に二枚目を焼き上げて、再びそれを食べるメイリンを嬉しそうに見つめる。
孤児院の子供達から離れているからこそ、余計にお世話熱を持て余しているのだろう。その目は慈愛に満ちていると同時に、お世話チャンスを見逃さないハンターの如きでもあった。
「いやはや、流石はアルマ殿。若干、残りが心許ないと思っていたでござるが、これだけあれば安心でござろう」
船室の一角にて、テーブルの上に無数の物騒な代物を並べているのは、サイゾーだ。
彼は五本の忍刀に加え、手裏剣や苦無、多種多様な暗器に毒物の数々などの確認と手入れをしていた。
その内の一部は、ヒルヴェランズ盗賊団戦において消耗した分をアルマが補充したものだ。
ニルヴァーナ製であるため、幾らか使い勝手は変わる。だからこそサイゾーは、その辺りを確かめていく。
いつも持ち歩いているのだろうか、年季の入った木人を取り出した彼は、それに向けて手裏剣などの使用感を試す。
「なるほど、ミスリルコーティングも使い易いでござるな」
仕様は違えど素晴らしいものであると満足したサイゾーは、続き、毒物を確認していった。いつでもどこでも真面目で慎重なのがサイゾーという男だ。
「今は、百二十種を超えている!」
「すげー! 流石スバルだ!」
船室にて、どことなく頭の悪そうな言葉を交わしているのは、ラストラーダとゴットフリートである。
熱血ヒーロー馬鹿と、ただの熱血馬鹿な二人は、だからこそ馬が合うのだろう。今は必殺技について、それはもう熱く語り合っていた。
「まあ、術の特性上、幅も広いからね。それで、君は幾つ出来た?」
「ああ、俺はまだ八十三ってところだ。スバルには全然敵わねぇな」
二人が話す内容は、編み出した必殺技の数についてだった。
ラストラーダの技の豊富さに脱帽し、尊敬の眼差しすら向けているゴットフリート。百二十種を超えたというラストラーダは相当にアレだが、八十三もの必殺技を持つ彼自身もまた、十分にやり過ぎの領域であろう。
「──ああ、そうだ。ちょっと訊きたいんだけどさ。ペルソナライダー御剣の超剣オロチスラッシュって、どんなだったっけ?」
どのような必殺技を編み出したかという話をしていた途中の事。ふと思い出したように言ったゴットフリートは、「こんな感じだったよな?」と、その場で剣を振るってみせた。
それは、日曜の朝定番の特撮ヒーローが繰り出す必殺技だった。けれどゴットフリートは、最後の部分がどうにもしっくりこないのだと不満顔だ。
「超剣オロチスラッシュか! また、難度の高い技を……凄くいいな!」
任せろとばかりに立ち上がったラストラーダは、「よし、もう一度やってみてくれ」と続ける。
「確か、こうきて……こうだろ。で、こうして、こう……。な? なんかちょっと違う気がするんだ」
先程と同じように、超剣オロチスラッシュを繰り出したゴットフリートは、意見を求めるように振り向く。
ゴットフリートの剣筋は、誰が見ても一流といってもいいほどに流麗で鋭いものであった。むしろ既に特撮を超えているほどの出来栄えだ。
けれど彼は、納得がいっていない様子である。そしてその理由を、ラストラーダは見ただけで把握していた。
「ちょっと貸してみてくれ」
そう言ってゴットフリートから剣を借りたラストラーダは、軽く身体をほぐすようにしてから、ゆっくりと構えた。
瞬間、ゴットフリートの目に、ペルソナライダー御剣とラストラーダの姿が重なっているかのように映る。そして直後に繰り出された超剣オロチスラッシュ。
それは、ゴットフリートがやってみせたものと同じようでありながらも違うものだった。
「すげぇ……! それだ! それだよ! どうすればいいのか教えてくれ、スバル!」
ラストラーダが見せたそれこそが本物だと感動したゴットフリート。いったい自分とどこが違うのか教えてほしいと懇願する。
対してラストラーダは、「もちろんだ!」と、それはもう快活に答えた。
そうしてラストラーダによる、超剣オロチスラッシュ指南が始まった。
「問題は、足の運びだ。この切り上げと斬り下ろしの間に、本来は重心が三度動くけれど、ゴットの場合は二度。この時と、この時でしか動いていないんだ──」
「なるほど……! こうか!」
片や剣をメインとしない術士が指南役。片や、剣一本で大国アトランティスの将軍にまで上り詰めたゴットフリートが弟子という立場。
一見するとおかしな状況であるが、よく知る者にとってみれば、特に気になるような事ではなかったりする。
ことヒーローについてとなれば、その立ち位置こそが当たり前なのだから。
それは十数年来であっても変わらない事だった。
「凄いな……」
「ああ、凄いな……」
まるで今が現実なのかどうかと確かめるように、そんな言葉を繰り返すのは、グリムダートより派遣されてきた士官達だ。
自国の公爵が、かの大犯罪組織である『イラ・ムエルテ』の最高幹部の一人だったという事実。その汚名を返上するべく、国の命によりこの本拠地攻略チームに組み込まれた男女五人。
その役目もあってか五人ともが団長、ないし隊長クラスという精鋭揃いだ。
そして彼ら彼女らは、この討伐隊の主導権を握り『イラ・ムエルテ』壊滅の名誉をグリムダートに、などという国からの裏指令も受けていた。
そんな五人だったのだが、今は既にそのような指令の事など完全に頭から消えた状態だ。
何故なら、その五人にとって憧れの存在が、ここに集まっていたからだ。
十二使徒のノイン。
名も無き四十八将軍のゴットフリート、サイゾー、エリュミーゼ。
そして九賢者のルミナリア、カグラ、ソウルハウル、アルテシア、ラストラーダ、メイリン。
五人が子供の頃に聞いた本物の英雄が、国境を越えてこれだけ揃っているのである。
むしろ士官達は、指令がどうこうという事も忘れ、完全に舞い上がっていた。
「サインとか、貰ってもいいのかな……」
「任務中だから、駄目だろう」
「ああ、終わってからにするべきだな」
部屋の隅っこに集まった士官らは、信じられないといった顔でその光景を何度も見回しては興奮し、またどうにか心を落ち着かせるのを繰り返していた。
「にしても、驚いたな。まさか九賢者が戻っていたなんてさ」
「だよな、凄いよな」
そんな事を口にしながらルミナリア達九賢者が集まる一角へと目を向ける。
グリムダートの士官達は、ここに九賢者がいる事について、ある程度の説明を受けていた。
曰く、とある様々な難問を解決して、最近アルカイトに帰ってきたという事。そして、その帰還の発表はアルカイト王国の建国記念日に行われるため、それまでは秘密であるという事などをだ。
「……で、あの子がダンブルフ様の弟子か」
「やっぱり九賢者が師匠ってなると、肝も据わるものなのかな。私、あの中に入ったらまともに話せる自信がないわ」
「大丈夫、俺もだ」
五人が興味深そうに見つめるのは、ルミナリアらを前に一切物怖じせず、それどころか積極的に発言するミラの姿だった。
流石は九賢者の弟子か、今はあれよあれよと名をあげて、精霊女王などと呼ばれる冒険者だ。
その猛進振りに、やはり九賢者の弟子は違うなと五人は笑い合う。
「しかしまあ、ダンブルフ様の弟子となると、ロウジュ団長が黙ってないだろうな」
「そういえばお酒が入るといつも言っていたわね。『何を隠そう、あのダンブルフの一番弟子は、この私なのだ!』って」
「本当かどうかはわからないが、実力自体は確かなんだよなぁ」
と、五人はそのような言葉を交わしながら、奇跡とも言えるような今の状況を存分に味わうのだった。
先週の火曜日にて、
チートデイという大義名分のもとで、久しぶりに豚バラのケチャップ炒めを作り、がっつりと白飯を食らいました!
脂の旨味とケチャップの甘味と酸味が調和して、ご飯がススムのなんの!
大満足のチートデイとなりました。
そして今週から……いよいよあの計画を実行……しようかと思います!
それは、アニメ化記念としての毎日出前生活です!
とはいえ!
まだまだダイエット中であるため、プチプチバージョンに変更しての実行です。
その内容は、チートデイの時に高級なおかずを買ってくるというものに決めました!
第一弾予定は、ずっと前に感想の方でオススメしていただいた、セブンの金の○○シリーズでいく予定です!
チートデイは火曜日。
今から明日が楽しみです!!




