375 次の一手
三百七十五
ミラを乗せたガルーダワゴンがニルヴァーナの首都ラトナトラヤに到着したのは、丁度朝食時の事だった。
寝る前に頼んでいた通りガルーダの鳴き声で目を覚ましたミラは、寝ぼけまなこで押し入れからのそりと這い出る。そして、寝巻きからいつもの服に着替え始めたところで、得も言われぬ悪寒を感じて振り返った。
「ぁぁ──ぃぃ──」
見るとユーグストが目を覚ましていた。そして無防備な下着姿のミラを、その両目で食い入るように凝視していたではないか。
「……この変態が!」
基本、誰に見られたところで何とも感じないが、事この男だけは虫唾が走るとミラは反射的にその頭を蹴り飛ばす。
「ぁぁ──!」
苦悶……か愉悦かわからない声を上げて昏倒するユーグスト。ミラはその姿を前にして思う。この男は飛び抜けたまでのサディストでありながら、マゾヒストも持ち合わせているのではないかと。
ド変態ここに極まれりだ。寒気を感じながら素早く着替えを終えたミラは、ユーグストに目隠しを追加して、急ぎニルヴァーナ城に向かった。
ユーグストの身柄を引き渡したところで、直ぐに尋問が始まる。
とはいえ、やる事は簡単だ。エスメラルダの術によって、まともに話せる程度まで回復させた後、交渉だなんだといった事は一切省き、カグラの術でさくっと必要な情報の全てを引き出すだけである。
ただユーグストから新たに得られた情報は、そう多くなかった。既に大半をイリスが暴いているからだ。
けれど、そんなイリスの能力を前にしながらも、隠し通していた秘密が幾つか明らかとなった。
その中でも特に重要なのは、彼が切り札として隠していた最後の裏通商路と、もう一つのお宝──秘密の武器庫の場所だろう。
あの部屋に置かれていたお宝は、あれだけありながらも、まだ一部に過ぎなかった。
ともあれ、これでいよいよユーグストは丸裸となったわけだ。
そうして尋問が終わりユーグストを監獄深くに繋いだところで、ミラ達は会議室に集まっていた。
席には、ミラとカグラ、アルマにエスメラルダ、そしてノインが着いている。
「今回訊き出せた分については後で調査班を編成するとして、まずは改めてお疲れ様。ほんとにありがとう、じぃじ。これでイリスを外に出してあげられるわ」
ユーグストを連行してきてから三時間と少し。ようやく落ち着いたところで、アルマは嬉しそうに言った。
「折角、これだけ大きな祭りをしておるからのぅ。残りの期間は、存分に楽しませてやりたいところじゃな」
ミラもまた、アルマと同じ気持ちだった。礼を言われるまでもないとばかりにふん反り返りつつ、イリスの事を憂うように微笑んだ。
と、そんなやりとりから始まった会議は、そのまま現状の確認と次の動きについての話し合いの場となった。
まずは、現状だ。
ミラがミディトリアの街で行動している間に、カグラは難なくミッションを達成していた。
朱雀のピー助がガローバの隠れ家に到着したところで入れ替わり、無事に術具を発見。再び入れ替わる事によって最速で回収完了という次第である。
「この程度、朝飯前よね」
確実な尋問に加え、長距離での目標物回収。それを容易くこなしたカグラは、実に得意げであった。
次に、トルリ公爵だ。
ラストラーダ扮するファジーダイスによって、見事に悪事を暴かれ監獄送りとなったトルリ公爵。
そんな彼が所有していた術具は今、証拠品などと一緒にグリムダートの管理下に置かれている。
この件については、アルマがグリムダートに交渉した。『イラ・ムエルテ』を完全に壊滅させるため、これを借りたいと。
「でね、一応は貸し出してくれるって事になったんだけどさ。ちょっと面倒な事にもなってね──」
大陸全土を脅かす一大犯罪組織『イラ・ムエルテ』。その脅威を排除するための作戦ならば、喜んで手を貸そうというのがグリムダートの返答だったという。
だが、そこに一つだけ条件を加えられたそうだ。
その条件とは、選出したグリムダート側の軍人をその作戦に参加させる事だ。
見張り役というのもあるが、作戦が成功した暁には、その名誉の一端に与ろうという魂胆であろう。
とはいえ、大陸中に影響力を持つ三神国の一つだ。時には、そういって体面を整えるのも必要である事は理解出来た。
また何といっても、自国の公爵がそこに加担していたのだ。このまま他国に任せきりになど出来るはずもないというものだ。
「ふむ、まあ足手まといになるようでなければ、問題はないじゃろう」
「うん、そうよね。流石にこんな場面で役に立たない人材を送ってくるはずもないし、大丈夫でしょ」
ミラとカグラは、何とも気楽な反応だ。だがアルマ達ニルヴァーナ勢はというと、何とも難しそうな表情を浮かべていた。
グリムダートからやってくるのは、『イラ・ムエルテ』との最終決戦のために送り込まれてくる人材だ。ともなれば、軍所属の中でも相当なお偉いさんである可能性が高い。
そんなお偉いさんを迎えるともなれば、国として、かなり気を付けねばならぬわけだ。
「作法や礼儀にうるさい人だったら面倒だなぁ……」
女王暮らしが長くとも根本に根付いている庶民根性がそのままなアルマは、未だにマナー全般が苦手らしい。
「うちの女王様のハリボテ具合がバレなければいいのだけれど……」
そんな女王の代わりに様々な応対を請け負う事の多いエスメラルダは、何とも心配そうな目でアルマを見据える。
「まあ、最初の顔合わせだけして、後は大臣達に任せるのが無難か……」
付き合いが長い分、アルマをよく知るノインは、最低限必要な事以外は接触させなければいいという考えのようだ。
「さて、それじゃあ次ね! 次は、えっと……予定よりも早く終わる可能性が出てきました!」
若干憂鬱そうだったテンションから一転して、アルマは明るく告げた。
ガローバ、トルリ公爵、ユーグスト。そして『イラ・ムエルテ』最後の一人であるイグナーツについてだ。
アーク大陸の中央部を牛耳る、ヒルヴェランズ盗賊団。イグナーツは周辺の国軍では手が出せないほどに強大な力を持っている、この盗賊団の頭領でもあった。
そんな盗賊団を相手にするためには、周辺諸国の理解に加え、相当な戦力の投入が必要不可欠だ。
その戦力として期待していたのが、アトランティス王国の『名も無き四十八将軍』である。
その内の五名を派遣してもらえるという約束だったが、何とエスメラルダが交渉した結果、その数が十人に増えたというのだ。
「これまた、大盤振る舞いじゃな」
それはもはや、国盗りすら可能なだけの戦力である。
話によると、ヒルヴェランズ盗賊団の殲滅は『イラ・ムエルテ』の壊滅に必要な事だとエスメラルダが大いに利点を説いた結果だそうだ。
アトランティスは派遣を決めただけでなく、更に追加で五人を送ると約束してくれたという。
九賢者にも匹敵する将軍が十人も参加する事に決まった。しかもこの決定はヒルヴェランズ盗賊団に苦しめられていた周辺諸国を動かすためにも、かなり効いた。
あの『名も無き四十八将軍』が十人も協力してくれるならばと、現在多くの国が出兵を確約しているそうだ。
「というわけで、順調よ。きっと来週には本拠地に乗り込んで、目的のものを回収出来そうかな」
予定では盗賊狩りに一、二週間ほどかかるという計算だったが、この分ならばずっと早く終わりそうであるとして、アルマは話を締め括った。
「ふむ……それだけおるとなれば、このまま待っていてもよさそうじゃな!」
相手は、国軍ですらおいそれと手が出せない盗賊団だ。場合によっては参戦する事も視野に入れていたミラであったが、その話を聞くなり、あっさりと待機を決めた。
面倒というのもあるが、何よりもアトランティスの将軍が十人も揃っているとなれば、どれだけ巨大な盗賊団であろうとも壊滅は確実というもの。もはや行くまでもない状況だ。
このまま待っていれば、全ての術具が集まる。そして残すは、『イラ・ムエルテ』の真のボスを攻略するのみだ。
と、そうミラが思っていたところで、アルマが少しばかり懸念するべき点があるなどと言い出した。
「それで大丈夫──だったんだけどね。さっきグリムダートの方から追加として受け取った報告が、どうにも不穏な感じなのよね」
そんな言葉から始まったアルマの話は、グリムダート側でトルリ公爵を尋問した際に得られた情報についてだった。
トルリ公爵が『イラ・ムエルテ』として担っていた仕事。それは人身売買をはじめとした、生命の取引。その生命の中には、人の他にも数多くの種類があった。
密猟された動物に聖獣や霊獣。イリスのように特異な力を持つ者や精霊など、多岐にわたる。
そして、その中には魔物や魔獣といった類も含まれていたそうだが、トルリ曰く、そのうちの何割かはボスから直接の依頼によって用立てていたそうなのだ。
なお、それらの魔物や魔獣は、ボスが用意した船に乗せると、無人のまま海の彼方へ消えていったとの事だった。
「──って事でね。もしかするとボスがいる場所には、この魔物や魔獣がわんさか待ち受けているかもしれないわけなのよ」
いったいボスがどのような理由で、魔物や魔獣を集めていたのかは、まったくの不明である。
もしかしたら、ただのコレクターなのかもしれない。それとも、あまり考えられないがペット扱いをしているのかもしれない。
剥製にしている可能性だってある。そして何より番犬とでもいった用途で、それを配置している事も十分に有り得た。
ボスがいる拠点が多くの魔物と魔獣によって守られていた場合、その攻略はかなりの難度になると言わざるを得ない。
ミラ達の個の戦力が飛び抜けているとはいえ、やはり限界というものはあるのだ。
中でも要注意なのが魔獣である。アルマが言うには、『牙王グランギッシュ』を用立てていたという履歴まであったそうなのだ。
いったい、どうやって捕まえたとでもいうのか。その魔獣は、ミラやノインのような実力をもってしても骨を折るような難敵である。
しかもそういった魔獣が、他にも多く運ばれているとの事だ。
「ふむ……それは厄介じゃな」
「更に地の利は向こう側か。大変ね……」
もしも防衛戦力として配置されていたとしたら、ここにいる戦力だけでは、かなり手こずる事になるだろう。
ミラとカグラは、それは面倒だとばかりに眉を顰める。
「グリムダートからくる軍人とやらが将軍ならば解決じゃがな。流石に国からは出てこぬじゃろうしのぅ」
三神国が誇る護りの要。人類最強の三神将。その一人でも来てくれたのなら、どんな魔獣が待ち構えていようとも恐れる必要はない。
だが、護りの要である三神将が国から出る事はまず期待出来ない。
よって、『イラ・ムエルテ』のボスを打倒し組織を完全に壊滅させるには、たとえレイド級の魔獣が立ちはだかろうと、これを突破出来るだけの戦力をこちら側で揃えなければいけないわけだ。
「一先ずノイン君は確定として、じぃじとカグラちゃんもお願いしていいかな」
「うむ、構わぬぞ」
「当然、放っておけないもの」
改めるようにして協力を求めるアルマに対して、もちろんそのつもりだと答えるミラとカグラ。
そしてイリスの護衛を解任されてからフリーなノインもまた、「ですよね」と苦笑しつつ頷く。
現時点での戦力は、ミラとカグラ、そしてノインの三名。女王のアルマは当然ながら、エスメラルダもまた多忙なため国からは離れられそうにないという。
「ところで、お主達の中から他にも参加出来そうな者はおらぬのか?」
残る十二使徒のうちの十人の中に都合がつく者はいないのか。ミラがそう問うたところ、アルマはじっと腕を組んで考え始める。
それから十数秒ほどしたところで、難しいかもしれないと答えた。
「じぃじのお陰で敵さんの幹部が二人も片付いたから、幾らか警備体制を変更出来るかと思ったけど──」
そう言ってアルマは、現時点での状況を語った。
まずは十二使徒の配置。
現在『イラ・ムエルテ』壊滅のために、その命を張っている各国の重役が四人いる。その四人に、十二使徒が二人ずつ護衛として任に当たっている形だ。
その仕事ぶりは確かであり、既に襲撃してきた者を何人も捕縛していた。
ただ捕まえはしたものの襲撃者達は雇われの更に雇われといった者ばかりで、さほど有益な情報は得られていないとの事だ。
とはいえ、その功績によって悪事に手を染める中小組織が幾つか判明し、それを取り潰せたという。予定とは違うものの、意味のある効果といえよう。
「──でね、じぃじが変態を捕まえたから、イリスを狙う手が緩まると思うの。だって、イリスの能力を封じても、あの変態がこっちにいる以上、意味はないからね」
強気な顔でそう口にしたアルマは、では、どのように配置換えをするのかを続けた。
まず重役達の護衛である八人は動かせない。これは危険な役目を引き受けてもらうための条件としての配置であるからだ。
最高幹部の四人を確保したからといって、完全に安全と決まったわけではない。ゆえに八人は、そのままだ。
動かせる可能性があったのはイリスの部屋までの通路及び、王城内部の警備を担う二人だが、警備上二人同時で留守にさせるわけにもいかない。
加えて今は、新たに絶対防衛対象が増えた。
それは最高幹部の二人、ガローバとユーグストを幽閉している監獄だ。
うち一人には、その番を担当してもらう事になるという。
きっと『イラ・ムエルテ』側からしたら、何が何でも解放したいはずだ。
しかも監獄には、一度潜入された事もある。だからこそ十二使徒の一人を配備する必要があるとの事だ。
「ふむ、確かにそれでは難しいのぅ」
「確実性を求めるなら、そうよね」
状況的に考えると、十二使徒の参戦はノイン以外難しいと言わざるを得なかった。
しかしそれで仕方がないと、ミラとカグラも納得する。
とはいえ、このままでは戦力不足は否めない。そうミラとカグラは経験の上で発言した。
まだゲーム時代の事ではあるが、二人は魔物と魔獣が入り乱れる大乱戦を経験した事があった。
もしも『イラ・ムエルテ』の本拠地が、その時と同じような状態になっていたとしたらミラ達と同格が最低でもあと五人は必要。それが二人の判断だった。
それほどまでに、上位魔獣の存在は厄介なのである。
「うちの対魔獣戦隊も加えれば安定させられると思うけど……機動力がねぇ……」
少しばかり考え込んだアルマは、そう口にしながら難しい顔で唸った。
ニルヴァーナ軍が誇る対魔獣戦用の特殊部隊。その戦力を投入すれば、十分にミラ達のサポートが出来るはずだというアルマ。
しかしながら、その部隊は数百人規模からなる中隊相当であり、『イラ・ムエルテ』のボスの居場所が定まっていない今では、投入出来るかどうか判断出来ないとの事だ。
ガローバから訊き出した話によると、ボスのいる拠点は大海原のどこかである。ともなれば、部隊の移送に船か飛空船は必須となり、当然それだけ準備も必要で作戦進行が遅れるわけだ。
しかも、それだけの部隊を動かせば目立つのも必至。そこで気付かれて逃げられでもしたら作戦が水の泡となる。
よって『イラ・ムエルテ』との最終決戦は、目立たず迅速に行える少数精鋭が望ましかった。
「あとは、盗賊狩りに参加しているうちの何人かをそのまま寄越してくれないかってアトランティス側と交渉するくらいかなぁ」
ほかに少数精鋭として戦力として当てに出来る者となれば、やはり『名も無き四十八将軍』だ。アルマはどうにかうまい事、本拠地攻略作戦にも巻き込めないかと考えているようだ。
また当然ともいうべきか、もう一つの可能性も狙っており「じぃじの方は、どう? 誰かいない?」と続けた。
「ふむ……誰かのぅ……」
アルマが狙うのは、更なる九賢者の参戦だ。
現在、公ではルミナリア以外は所在不明となっているが、既にその半数をミラが発見している。だからこそ、どうにかして来れる者はいないかという期待がアルマの顔には浮かんでいた。
これまでのんびりとダイエットを続けてきましたが……
ここから更に本格的なダイエットに挑んでいきたいと思います!
身体を気にせずに美味しいものを食べるために!
実は持っていなかった体重計も買いました!
体脂肪率だなんだといったものも計れるやつです。
食事も野菜をより多く摂るようにしていきます。
当面の目標は、70キロ台!
目標をクリアできた暁には、いよいよ一週間宅配ご飯をしちゃう予定です!




