359 二人の相性
さて、藤ちょこさんの画集が発売されましたね!
是非とも、よろしくお願いします!
といいつつ、自分はまだ買えていません……。
何故かというと悩んでいるからです。
このご時世ですからね。
画集発売記念として個展が開催される予定だったのですが、それが延期されたからです……!
個展では、サイン入りの画集が販売されるとか……!
それを狙っていたものの……。
このまま行きつけのアニメイトで買ってしまうべきか……。
それとも、個展を待つべきか……。
悩ましい……。
三百五十九
あれよあれよと過ぎ去った夕食の時間。
エスメラルダは、まだまだ残っている仕事のため、また明日と職場に戻っていった。
大陸最大規模の祭典が開催中なだけに、エスメラルダが統括する救護班は昼夜を問わず大忙しなのだ。
カグラは、対『イラ・ムエルテ』の終盤戦ともいえる現状を放ってはおけないとして、暫くは残ってくれるそうだ。今はアルマが用意した部屋で休んでいる。
そして、真のボスがいるという場所を見つけるための術具を入手するため、ピー助をガローバの拠点に向けて放っている頃だ。
明日中には、一つ目が手に入る事だろう。
アルマは、『イラ・ムエルテ』の壊滅を目指す協力国に呼びかけての、緊急国際会議中だ。
先程話し合っていた、『名も無き四十八将軍』の派遣やら周辺諸国への出兵要請やら、トルリ公爵の術具の引き渡しといった交渉をしている。
なお、ユーグストの件で渡したいものがあるとの事で、出発前に一度アルマのところに立ち寄る予定である。
そのようにして皆が己に出来る事を遂行する中、ミラもまた準備を始めていた。
リビングに浮かぶのは、ロザリオの召喚陣が二つ。
いったい何が始まるのかと、イリスは団員一号を喚び出した時以来の召喚術に期待を高まらせている。
そうした中で、ミラはその言葉を紡いだ。
『天翔ける乙女に問おう。戦場にて、勝利を導く者の名は』
『問いにお答えします。その名は、シャルウィナ。数多の戦術を今ここに』
どこからともなく返ってくる声。それと同時に、ロザリオの召喚陣が眩く輝き出した。
『我がもとへ参じよ』
【召喚術:ヴァルキリー】
その言葉と共に魔法陣が一際輝いた直後、そこにふわりと一人の戦乙女が降り立った。
整った容姿に知性的な目をした彼女は、本をこよなく愛するヴァルキリー七姉妹の四女、シャルウィナだ。
ただ、今まで個別に召喚される事が少なかったためか、どこか緊張した面持ちである。
「ふぅ……よし! 召喚に従い参上しま──」
「──ヴァルキリーさんですー!」
ここが決めどころだと気合を入れて跪き挨拶を述べようとしたシャルウィナだったが、初めて見るヴァルキリーの姿を前にしてイリスが堪え切れなくなったようだ。それはもう、満面の笑みで叫んでいた。
「えー……っと……」
これでもかと屈託のない期待の眼差しを向けられたシャルウィナは、戸惑い気味にミラを仰ぐ。これは、どういった状況なのだろうかと。
「こほん、あー、シャルウィナや。こちらはニルヴァーナの巫女のイリスじゃ。そしてイリスや。この者は見ての通り、ヴァルキリーのシャルウィナじゃ」
興奮した様子のイリスを宥めるようにしつつ、まずはそのように紹介したミラは、更に振り向いてシャルウィナも紹介した。
「初めまして、シャルウィナさん! イリスですー!」
「あ、えっと、シャルウィナです」
輝くような笑顔でシャルウィナの手を取るイリス。
シャルウィナはというと、まだ戸惑った様子ではあるものの、イリスの無邪気さに少し絆されてきたようだ。そっと微笑み返していた。
「さて、シャルウィナよ。お主を喚んだのは他でもない。イリスの護衛を頼みたいのじゃ」
ミラは改めてそう説明した。単体で召喚した理由は、このイリスを護ってほしいからだと。
「護衛、ですか? ……しかしながら主様。それでしたら、アルフィナ姉様の方がよろしいのではないでしょうか?」
ミラからの要請を把握したシャルウィナは、少し考え込んだ後に、そう進言した。護衛という事なら、何よりも攻守に優れたアルフィナが最適だと。
事実、ヴァルキリー七姉妹の長女であるアルフィナは、姉妹の中で最強。誰よりも確実に護衛対象を護り切る事が出来るだろう。
だが今回の場合は、少しだけ状況が特殊であり、ミラの考えもまた少し違っていた。
「うむ、護衛だけでみればそうなのかもしれぬ。じゃが、今回はお主こそが適任なのじゃよ」
そう答えたミラは、そのままイリスに視線を向ける。そして「イリスも大の本好きでのぅ。きっと話が合うと思うてな」と続ける。
ミラがアルフィナではなくシャルウィナを選んだのは、二人の事を考えてでもあったわけだ。
「まあ、なんとそうなのですかイリス様!」
「もしかしてシャルウィナさんもですか!?」
ミラの一言をきっかけにして、両者の目の色がガラリと変わる。
片や、訓練と主しか頭にない長女を筆頭に、書物とはほぼ無縁の姉妹達ばかりなシャルウィナ。その中でシャルウィナ以外に唯一本を読むのは三女のフローディナだが、彼女が読むのは料理本のみだ。
本の内容について、そこで繰り広げられる壮大な物語について、シャルウィナが心の底から語り合えるような相手はいなかった。
ゆえに彼女は、同好の士を強く求めていた。
また、イリスも似たようなものだった。
安全のため、この特別な部屋で暮らす巫女のイリス。
外には出られはしないものの、ここには魔導テレビがある。更にイリスの大好きな沢山の本もあった。何時間でも何日でも楽しんでいられるほどに大量な本だ。
だが彼女にもまた、その楽しいを共有出来る相手がいなかった。
アルマやエスメラルダは多少話せるものの、本を、そこに綴られる内容を心から愛しているわけではない。そのため、想いの熱量が違うのだ。
そのためにイリスは、心の底から大好きな本の事で語り合える相手がいなかった。
そんな二人が、ここで出逢った。
「あの……『真夜中図書館』は、読みましたか?」
イリスが恐る恐る窺うように、それでいて期待するように問う。それはきっと本のタイトルだろう。しかも、特にイリスのお気に入りのようだ。
当然読んだ事のないミラは、シャルウィナの反応に注目する。
「ええ、プリム・ルヴァラン先生の真夜中シリーズの歴史的一作目ですね。読みましたとも! 一気に物語がひっくり返ったあの中盤は、今でも一字一句記憶に残っております!」
その反応は、想像以上であった。
イリスが挙げた本のタイトル。特にこういった場面において一番初めに口にするタイトルには、読書家としての自己紹介的な意味がある。
そのタイトルの本に含まれる様々な要素。そこから読み解ける趣味嗜好。どのような本を好み、どのように感じるのか。本好きとしてのパーソナリティが集約されるのが、この一番に口にする本であるからだ。
シャルウィナはイリスが挙げた本のタイトルから、それを読み取った。そして、察したのだと思われる。イリスとは、趣味が合いそうだと。
「わわ! 私もですー! あの場面は、もう忘れようにも忘れられません!」
シャルウィナに対するイリスの反応もまた、それはもう輝かんばかりのものだった。
ようやく分かり合える者と出逢えた、ようやく好きなものを思い切り話し合える者と出逢えた。そんな今まで叶わなかった感情が爆発したようで、次から次へとイリスの口からは好きという感情が溢れ出していく。
また、シャルウィナも同じだけの熱量をもって返していた。
二人は試すように、それでいて確かめ合うかのように言葉を交わし、互いの距離を縮めていく。
そして『夜は明けて、また次の夜が始まる』などと揃って口にした二人は、微笑み合った後に、まるで健闘を称えるかのように手を握り合った。
それはもう、友達を飛び越えて親友にでもなったかのようにも見える光景である。
「あのあの、シャルウィナさんは、他にどのような本を読んでいるんですか!?」
もはやミラの存在など忘れたかのように、シャルウィナにべったりとなったイリス。
「そうですね……やはり、その……最近は恋愛ものが多いでしょうか。特にミイロ・リング先生の著書は、その透き通るような表現が特に好きですね」
ヴァルハラには、イリスのような存在がいなかったからだろう。シャルウィナもまた、それはもうここぞとばかりに語る。
「わかりますー! あのキラキラした雰囲気、私も好きですー!」
「そうですよね! だから先生の本はどれも好きなんですけど、『黄色い空』は、なんだか中途半端に終わった感じなのが気になっています」
「え? それでしたら続編の『青色流星群』を読めば……まだ読んでいませんか?」
「え? 続編があったんですか!? うう……ヴァルハラって流通がほとんどないから、たまたま出入口近くを通る行商人から買い付けるくらいしか出来ないんです。まさか続編が出ているなんて……!」
スッキリしない結末の物語には、まだ続きがあった。その事実を知ったシャルウィナは、知らなかった事に落ち込むと同時に、続きがあるのかと喜んだ。
「あ、それでしたら上の階の書庫にありますのでご覧になりますか? 他にも本はいっぱいありますよー!」
イリスがそう提案した直後だ。これ以上はないくらいの笑みを浮かべて、シャルウィナは「お願いします!」と即答した。
「ではな、シャルウィナよ。イリスをよろしく頼んだぞ。ああ、それと読書はほどほどにのぅ。あとイリスや、シャルウィナの事もよろしく頼む。本の事になると、直ぐに徹夜するのでな」
いざ、ユーグストが拠点としているミディトリアの歓楽街に向けて出発する前。書庫に釣られて目的を忘れ気味なシャルウィナに念を押すと共に、イリスにも面倒を頼むミラ。
護衛という役目だけでなく、二人が友達になれればと考えての召喚であったが、どうにもシャルウィナのはしゃぎようの方が上だったからだ。
それは旅行先でテンションの上がった子供を、親族に預けるような状況に近い。
「お任せください!」
「わかりましたー」
そう答えたシャルウィナとイリスに、「では、いってくる」と答えて歩き出すミラ。二人の返事をその背に受けて進み、途中でふと振り返って手を振った。
余程待ちきれなかったのだろう、二人は書庫のある上の階に駆けていくところであった。
ミラは所在なげに右手を下ろし駆け出した。
ミディトリアの街は、アーク大陸の南部にある。位置的には、ニルヴァーナよりずっと西に向かった先だ。
一度アルマの部屋に寄った後、夜遅くにニルヴァーナを出たミラは今、空の上。
ガルーダが運ぶワゴンの中で、どのようにしてユーグストを捕まえようかと作戦を考えていた。
相手は大陸最大の犯罪組織とされる『イラ・ムエルテ』だ。その最高幹部ともなれば、相応の実力を有していると思われる。
加えて、かつてはかのキメラクローゼンともやり取りがあったという話だ。ガローバが精霊爆弾を持っていた事からして、ユーグストも切り札めいたものを何かしら所持している確率は高い。
「街中で精霊爆弾を使われては一大事じゃ──」
精霊爆弾か精霊武具か。はたまた別の何かか。ともあれ、禁制品の術具まで持ち出すような輩達である。油断は出来ない。街の住民を盾にするなどという非道な事も当たり前に行ってきそうだ。
そういった様々な要素を考慮しながら、ミラは幾つもの作戦を組み上げていった。
そうこうして時間は過ぎていき、次の日の朝。作戦を考えながら眠ってしまったミラは、むくりと起き上がり、寝ぼけまなこで窓の外に目を向ける。
見るとそこには、朝日に煌く草原が広がっていた。
「おお……キラキラな朝じゃのぅ」
ぼんやりした頭に映える、爽やかな朝の風景。鮮やかに広がる緑と、澄み渡る空の青、そして遠くには街の輪郭も見えた。目的地である、ミディトリアの街だ。
流石はガルーダである。一夜にして、ニルヴァーナの首都からここまで飛んでこれたわけだ。
しかも、目的の街が見えながらも目立たない場所にワゴンは下ろされていた。なんと行き届いた配慮だろうか。
ワゴンから出ると、寄り添うように待機しているガルーダの姿があった。そのまま不寝番もしてくれていたようだ。
「ご苦労じゃったな、ガルーダや。お陰でゆっくりと休めた。感謝するぞ」
朝まで眠れたお陰で気力は十分。そして標的がいるはずの目的地は目の前。万全の態勢である。ミラはガルーダに触れながら存分に労い礼を言う。そして感謝の気持ちとばかりに買い込んであった沢山の肉をガルーダに与えた。
「うむうむ、そうか美味いか。それは何よりじゃ」
ミラが手ずからという事もあってか、ガルーダは随分と嬉しそうだった。加えて、なかなか上質な肉を買っていた事もあってか、それはもういい食べっぷりだ。十何キロとあった肉が、瞬く間にガルーダの腹に収まっていく。
そうして満足した様子のガルーダを送還したミラは、朝の支度を済ませてから、続き自身の朝食を始める。
アイテムボックスから取り出したのは、レストランでテイクアウトしたふわとろオムライスだ。
「朝からがっつりいけるとは、やはり若さじゃのぅ」
朝起きて、まださほど経っていないというのに、大盛オムライスをぺろりと平らげる事が出来た。ミラは若さ弾ける身体に感心しつつ、食後のデザートとばかりに、マーテル特製の果物も一つ口にする。
朝からがっつり食べて、しかも果物ブーストまで重ねていく。それもこれも、今日これから始める大捕り物に備えてのものだ。
「さて、気付かれては面倒じゃからな」
精霊女王が来たと、街で噂されるわけにはいかない。そう考えたミラは早速ワゴンの中に篭り、変装を始めた。
ユーグストは、精霊女王が巫女の護衛のためにニルヴァーナにいると知っている。
その精霊女王が護衛を離れてまで、この街までやってきた。ガローバ捕縛の件が伝わっているならば、きっといち早くその理由を察するはずだ。
だからこその変装である。
ミラは、マジカルナイツの広報であるテレサにしてもらった事を思い出しつつ、髪を黒く染めていく。そして、その際に貰った服に着替えた。
これで、普通の可愛らしい町娘の出来上がりだ。かと思いきや、どうにもテレサのようにうまくはいかず、黒髪はグラデーション気味になってしまっていた。
一見すると、どことなくギャルっぽい印象だ。
「まあ、あれじゃよ。これは、オシャレというやつじゃ。うむ」
鏡で仕上がりを確認したミラは、そう誰にともなく言い訳を口にする。
ともあれ、一目見て精霊女王だと気付ける者はいないだろう出来栄えである。準備は完了だ。
道具を片付けワゴンを収納したミラは、その足でミディトリアの街に向かった。
厚揚げのなかった先週。
夕飯をどうしようかと考えていたところで、冷凍庫にあったとある食材が目に入りました。
それは、ご飯のお供として買っておいた鰤です!
3切れありました!
そこでふと閃いたのです。
これだと。
やっちゃいました。超贅沢食いを!!!!!!
鰤3切れを一度に食べたのです!
鰤だけでお腹を満足させたのです!
凄く美味しかったです!
そして、あの贅沢感と背徳感ときたら……。
魚なら健康にも悪くなさそうという免罪符も完備!
素晴らしい!




