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336 巫女の部屋

いよいよ、抱き枕カバーの発売日が目前に迫ってまいりました!

加えて、4巻表紙イラストのタペストリーも発売になります!


どちらもよろしくお願いします!

三百三十六



「ありがとう、じぃじ。勉強になったよ!」


 改善箇所をメモにばっちり記入したアルマは、心の底から礼を言う。


「この程度、お安い御用じゃ」


 快活に答えたミラはその直後、にやりと笑みを浮かべて「貸し一つでよいぞ」と告げる。途中からアルマの思惑に気付いていたのだ。だからこそ、あえて最後まで丁寧に仕事をして貸し一つを押し付ける。


「うっ……」


 九賢者の頭脳は安くない。その貸しの重さに言葉を詰まらせたアルマだったが、後悔はなさそうだ。「わかりました……」と答え、それを呑んだ。

 そうして城内の庭を一回りしたミラ達は、ようやく巫女が暮らす居室方面へと向かい始めた。

 巫女の部屋は、個人の部屋と思えぬほどの広さがある。天井までの高さは二十メートル、端から端までの幅は百メートル、そして奥行きが五十メートル。そのうちの面積の六割が庭園で占められており、三割が巫女イリスが生活する居室。残る一割は、その間に挟まれた場所。ベンチなどが置かれた憩いの空間となっていた。


「これもまた……とんでもない造りじゃな」


 森のような庭を抜けた先にあった憩いの空間。そこから見えたのは、個人の部屋ではなく集合住宅さながらな居住空間だった。

 まるで四階建てのマンションをはめ込んで、ベランダの壁部分だけを切り落としたかのような構造。ここが外ではなく、部屋の中であるからこそ出来る大胆な造り。いってみるなら、この庭と憩いの空間を大きな吹き抜けとする形で、巫女の居住空間は存在していたのだ。


「ここから見えるだけで、七部屋はあるのぅ……」


 吹き抜け部分から見上げるような状態のため、幾らか部屋の様子が見えた。そこから窺えるのは、最低でも七の部屋があるという事。しかも、どれもが大部屋である。

 どんな大富豪でも、これほどの部屋に住んだ者はいないだろう。規格外なそれを目にしたミラはそんな感想を抱きつつ、どこか呆れるように笑う。


「凄いでしょー」


 アルマはというと、何故か自慢げであった。聞いたところによると、この部屋の全ての要素はアルマの発案を基にしているのだそうだ。しかもアルマの私財が、ふんだんに注ぎ込まれているらしい。

 部屋から出られなくなるイリスのために様々な癒しを詰め込んだ空間。それがこの究極ともいえる引き篭り部屋だった。


「よくぞまあ、これだけの部屋を造ったものじゃな」


 ニルヴァーナという大国家だからこそ。アルカイトの数倍はある王城だからこそ、これだけの部屋が実現出来たのだろう。ミラは巫女一人のために、ここまで気合の入った部屋を用意したアルマに感心しながら、ふと思った事を続けて口にした。


「しかしここまでくると、お主の部屋よりも豪華じゃな」


 ミラが抱いた率直な感想。

 最初に訪れた十畳程度のワンルームは別として、次に訪れた執務室奥の煌びやかな私室。女王に相応しいほどに贅沢な部屋であったが、この巫女の部屋に比べれば大した事がない。そう感じてしまうほどに、ここは別格であった。


「いやぁ、気付いたらこうなってたのよねー」


 お人よしなのか、加減を知らないだけなのか。よりストレスなく暮らせるようにと考え続けた結果、このような部屋になってしまったのだとアルマは笑う。だが、その顔に後悔した様子は一片もなかった。むしろ満足そうですらある。

 ミラはそんな彼女を見直したとばかりに称賛し、その居住空間に向けて歩き出す。アルマのこだわりが詰まった部屋は、いったいどれほどのものなのかと期待しながら。




 巫女部屋の居住部分。その一階に当たる場所は、一見すると爽やかなホテルのロビーさながらだった。大きく間取りされたフロアにはテーブルと椅子が並び、奥には豪邸のホールで見かけるような大階段がある。

 だが、よくよく見ると、そこがロビーとは少し違う事がわかる。受付カウンターとでもいった顔で置かれた場所の裏には、沢山のボトルが並んでいるのだ。

 そう、一階はバーになっていたのである。それでいて夜の雰囲気が一切感じられないデザインであるため、ホテルのロビーのような印象を初めに受けてしまったわけだ。

 これまた巫女の部屋なのに、おかしなフロアを造ったものだ。十四歳の少女であるはずのイリスが、酒に癒しを求めるものだろうか。そんな疑問を抱いたミラであったが、カウンター裏のボトルを見て納得する。


「ほぅ、あずきオレとはまた初めて見たのぅ」


 そう、そこに並んでいたビンの中身は、あずきオレなる新種と様々なジュース類だったのだ。しかもさりげなく、高級そうなガラス張りの冷蔵ケースに入れられているではないか。珍しい和テイストに加え、そこらではお目にかかれない冷蔵ケースの組み合わせ。流石は女王の部屋すら超える巫女の部屋だ。


「それは、うちのシェフ特製だからね。和菓子好きのエスメラルダさんがリクエストしたものなんだけど、イリスも気に入っちゃって常備してあるの」


 言いながら冷蔵ケースをちらりと覗いたアルマは「あ、そろそろ補充しないとだった」と、残りの量を確認して呟き、そのままアイテムボックスを開いた。


「なんじゃ、消耗品の面倒もお主がみておるのか?」


 どこか手慣れた様子で冷蔵ケースのボトルを入れ替えていくアルマ。そんな彼女の手際の良さを前に、そう問うたミラ。

 それに対する答えは、肯定だった。彼女の話によると、この場へ自由に出入り出来るのはアルマのほか、いざという時に駆け付けるための十二使徒だけであるそうだ。ただ現在、大会の期間中という事に加え、水面下で遂行中の作戦もあり、十二使徒は多忙。加えて巫女のイリスは男性恐怖症。その結果、多忙である事に変わりはないが仕事は城内でほぼ完結するアルマが、そういった雑用を請け負っているとの事だった。


「ご苦労な事じゃのぅ……」


 そう労いの言葉をかけるミラだったが、ふとグラスなどが並んでいる棚を見て得も言われぬ違和感を覚えた。

 棚には、パーティでも出来そうなほどに沢山のグラスが並んでいた。だが、それだけではない。そこには、それこそバーのように、ワイングラスやショットグラス、ジョッキ、ぐい飲みに猪口など。おおよそジュースとは関係のなさそうな器も用意されていたのだ。

 明らかに巫女以外も利用している。そう直感したミラは、「こっちも補充しておかなくちゃ」と楽しげなアルマをじとりと睨む。

 アルマは、そんなミラの疑惑の視線に気付く事なく、冷蔵ケース内にある鍵付きの棚を確認する。そして「そろそろ氷を足しておくべきね」などと呟いていた。




 イリスのために用意された部屋、そして設備だが、全てがそうとは限らないのではないか。ミラの心にそんな疑問が浮かんだ後、バーカウンターから大階段の前にまでやってきた二人。


「イリスー。新しい護衛を連れてきたわよー」


 大階段から上に向けて、アルマが呼びかけた。既に部屋の中だがこのような構造という事もあり、イリスの完全プライベート空間は、この二階より上になっているようだ。ゆえに女王アルマも、ここから先へは直ぐに進もうとせず声をかけた。

 しかしである。五秒、十秒と待ったが、上からは何の反応もなかった。


「あれ? なんかおかしい?」


 そう困惑したように首を傾げたアルマ。いつもならば直ぐに返事があり、ぱたぱたと慌ただしく駆け下りてくるのだそうだ。しかし今回は、どうにもその様子が感じられない。

 もう一度アルマが呼びかけるも結果は同じであり、上の階は静まり返ったままだった。


「待ちくたびれて、眠ってしまったのではないか?」


 思えば予定よりも遅くなってしまった。時間は昼食時をずっと過ぎておやつ時。丁度いいくらいに眠気が差し込む時間帯である。


「ううん、何かあったのかも!」


 命を狙われているとはいえ、これだけ堅牢な守りの敷かれた部屋だ。刺客がどうという線は薄い。だが何かしらの事故や急性の病気という恐れは十分にあった。それを懸念してか、アルマは飛ぶように階段を駆け上がっていく。


「ふむ……」


 昼寝でもしているのではと思うミラだが、万が一もあり得るとアルマの後に続く。そして大階段を上がった二階の左側にある部屋にやってきた。

 扉を開けて勢いよく飛び込んでいったアルマ。少し遅れて顔を覗かせたミラは「どうじゃー?」と言いながら、その部屋を見回す。

 二階左の部屋は、雑多でありながらも理想が詰め込まれたリビングであった。

 そのままベッドにでも出来そうなソファー。広いテーブルや、簡単な水場と冷蔵ケースがあるのがわかる。

 また、壁には本棚が並んでいるが、そのうちの一つに収められているのは本ではない。レコードだ。見ると、これまた立派な蓄音機がそこには置いてあるではないか。

 だが、それだけでは終わらない。通信装置があったり、描きかけの絵や車輪のついた大きな木箱があったりなど、このリビングは様々なもので溢れていた。


(なんというのじゃろう……こう、引き篭りのような……)


 状況からして仕方がないと知りつつも、部屋を一目見てそんな感想を抱いたミラ。あとテレビやネット端末、そしてゲームでもあれば、現代っ子でも満足出来る部屋になるのは間違いない。

 そんな分析をミラがしている中、「じぃじ、イリスがいない……」というアルマの絶望染みた声がした。

 彼女が言うには何か特別な事でもない限り、イリスは大抵この部屋にいるらしい。だが定位置のソファーや蓄音機前のロッキングチェアに姿はなく、心配した表情のアルマ。


「なら、他の部屋じゃろう」


 まだ、数ある部屋の一つを確認したに過ぎない。大抵はそうだといっても、それ以外の日だってあるものだ。そう当たり前の答えを口にしたミラは同時に思う。今のアルマは、どこか過保護な母のようであると。

 それほどまでに巫女の事を大切にしているのか。だからこそ余計に慌て、少し頭の回りがおかしくなっているようにも見える。


「ふむ……──アルマや、ここの一つ上の階にいるようじゃぞ」


 落ち着けとばかりにアルマの肩を叩きながら、素早く《生体感知》で周囲を確認する。そしてイリスのものらしき反応を感知し、その場所を伝えた。場所は、丁度今いる部屋の上だ。


「上……そうか、わかったわ!」


 上の階には何があるのか。ミラにはわからないが、当然知っているアルマは、そこに合点がいったようだ。すぐさま部屋を飛び出していった。


「慌ただしいのぅ」


 少し心配し過ぎではないかと苦笑しつつ、ミラもまたその後に続き上の階へと向かう。そして階段を上っている途中の事だ。


「ああ、イリス!!」


 どこか悲鳴のようなアルマの叫びが聞こえてきたのである。


「む? 何事じゃ?」


 もしや、本当に何かあったのだろうか。とはいえ《生体感知》でわかる反応では、これといって弱っているという様子はない。だが万が一もあると、またミラは駆け出した。

 三階左側の部屋は、食堂のような造りになっていた。入って右側には本格的な調理場。左側には大きなテーブルと椅子が並んでいる。二十人くらいまでならば、十分に飲んで食べて騒ぐ事が出来る空間だ。

 そんな部屋の片隅にいたアルマが、金髪の少女をその腕に抱いている。その少女こそが巫女のイリスで間違いなさそうだ。だが、どうにも動く様子がない。

 もしや、本当に事故か急病か。いざとなれば治癒のスペシャリストである白蛇のアスクレピオスを召喚しようかと考えつつ、ミラは二人のもとに駆け寄っていく。


「いったい、どうしたんじゃ?」


 イリスの顔には僅かな苦悶が浮かんでいた。外傷はない。ならば何かの病気か。持病でも抱えていたのか。見ただけで判断は出来ずアルマに訊くも、持病といったものはないそうだ。

 もう、アスクレピオスの診断に任せるしかない。そう思い、召喚しようとした時だった。

 ゆっくりとイリスの目が開いたのである。


「イリス! どうしたのイリス!?」


 必死に声をかけるアルマ。するとイリスは、そんなアルマを見つめながら小さく口を開く。


「お腹……空いた……」


 その言葉は、弱々しくも精一杯といった声で告げられた。イリスは、とても腹ペコなようであった。




 イリスは空腹で力尽きていただけだった。一先ずミラが手持ちのアップルミックスオレを与えた事で急場は脱したようだ。イリスは照れたようにはにかんでいる。


「さて、今日から護衛する事になったミラじゃ。わしが来たからには、悪党どもに指一本触れさせぬ。安心してよいぞ!」


 テーブルを挟んで対面するように座ったところで、自信満々に名乗るミラ。これから担う役割は、イリスの命を預かる事でもある。ゆえにミラは一切不安を与えないよう、いつも以上の自信をその顔に湛えて言い切った。


「イリスです! よろしくお願いします!」


 見た目はイリスよりも子供なミラ。だが、それでいて余裕すら感じられるほどに堂々と言ってのけたからか、イリスは確かな頼もしさを感じたようだ。はきはきと名乗り返し、お願いしますと頭を下げた。そして頭を上げながら「……えっと、それと先程はお騒がせしました」と続け、またはにかんだ。


「いや、気にするでない。わしが、ちょいと戻るのが遅くなってしもうたのが原因じゃからな」


 事実、五十鈴連盟の通信装置で、みっちりと講義していたのが遅くなった原因だ。けれどミラはそう言わず、本拠地と連絡をとるには色々と時間がかかるものだと誤魔化し今に至る。なお、真実を明かす気はこれっぽっちもない。


「じゃが、それもこれも、あ奴が昼食の予定を言わなかったのが悪い」


 ミラは、そう完全に責任転嫁しながらキッチン側に目を向ける。そこには、昼食の準備をするアルマの姿があった。今日のこの初顔合わせから一気に親交を深めるための特別メニューだそうで、女王自ら最後の仕込みをしているのだ。

 何を用意したのかは準備が出来てからのお楽しみという事で、ミラ達からはアルマの手元が見えないようになっていた。


「エスメラルダさんも言ってましたー。アルマお姉ちゃんは、誰にも言わないまま思い付きでパーティとか食事会の準備を進める事があるって。それで前に突然誘われてついていったら、十二使徒結成三十年を祝うパーティ会場だった時があったそうです。沢山ご馳走が用意されていたみたいですが、とっくに夕食を済ませた後だったからほとんど食べられなかったって……」


「それはまた難儀じゃのぅ……」


 アルマは、サプライズ的な事が好きなようだ。だが肝心なところですれ違い、タイミングが合わないという。

 そのパーティの事を思えば、ただ遅れただけの今回は、まだ随分とましだったのではないか。ミラはそんな事を思いつつ「さて今回は、何を用意したのじゃろうな」と、期待を膨らませる。


「凄く楽しみですー!」


 力尽きるほど待った事もあってか、腹ペコ巫女の期待度はそれ以上な様子だった。







現在、冷蔵庫を買う予定ですが……


ここにきて、もう一つ欲しいものが出てきました。


それは、テレビです!


現在は、地デジ化した時に買った20インチのテレビなのですが、

それでエアロバイク中にゲームをすると……


距離が離れる事もあり、細かい文字がまったく見えないなんて事になるのです!

最近のゲーム、全体的に文字が小さくないですかね……。


もうじきデスストランディングも出ますし、大きめの型に新調するのもありかなと思いました!

調べてみると、2万円台でも今よりずっと画面が大きくなると知り、びっくりです。

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― 新着の感想 ―
ノインがミラを(性的な意味で)襲っても(物理的に)返り討ちにされるだけだろうけど。 かわいい巫女ちゃんの横にノインのようなロリコン紳士を置いて、よく襲われなかったね。 ミラ•ダンブルフの外見に欲情する…
[一言] 特別な才能を持ち、国や組織の最重要な人材で、腹ぺこで素直な中学生くらいの女の子・・・ どこぞのシスターみたいに何かにつけて噛み付く獰猛さがあればヒロインとして完璧だな?
[良い点] 腹ペコ ベタでいいですね
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