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333 森に光、精霊に安らぎ

三百三十三



 五十鈴連盟ラトナトラヤ支部の応接室。そこはテーブルと椅子だけが置かれた、実にシンプルな部屋だった。


「まずはようこそ、五十鈴連盟のラトナトラヤ支部へ。私が支部長のクラウスです」


 そこに対面して座ったところで、そう口にした支部長のクラウス。どことなくだが、その挨拶には気合いが入っていた。


「わしは、ミラじゃ。しがない冒険者じゃよ」


 精霊女王などと呼ばれて流行中だが、その程度は何て事ないとばかりに謙遜してみせるミラ。明らかに、能ある鷹の自己演出だ。


「なるほど……それでは早速ですが、ミラ殿がこの支部を訪ねてきた秘密の用件というのを聞かせていただいても?」


 はて、クラウスはミラの正体に気付いたのかどうか。その辺りははっきりと見て取れないが、自己紹介が済んだ後、彼の様子が先程と比べ少し変わったように思えた。何やら、クラウスの声に期待のようなものが含まれているような感じがしたのだ。

 しかし、クラウスの表情は鋭いままで、どうにも読み辛い。


「うむ、それは……森に──あー……精霊──……ぬぬぬ? 森にじゃな……」


 どちらにせよ、ここでする事は変わらない。ミラは用件について片付けてしまうため合言葉を口にしようとした。しかし、はて、合言葉は何だったかと言葉を詰まらせると、「ちょいと、待つのじゃ」と口にしてメモ帳を取り出す。


「森と精霊がどうかしましたか?」


 ミラが言おうとしていた言葉。それを聞いたクラウスの表情が、心なしか明るくなる。だがメモ帳を確認しているミラは、「あー、ちょいとな」と答えるだけで、それに気付く事はない。


「森に、精霊……。もしかして、森に住む精霊に用事があるとかですかね? それとも──」


 何やら、色々と予想をし始めたクラウス。そしてその顔からは、いよいよ期待が溢れ出した。

 彼がミラに期待している事。それは、五十鈴連盟としての働きを望まれる事だった。

 五十鈴連盟のラトナトラヤ支部長として、この街にやってきてから十年ちょっと。住民との融和、情報収集、五十鈴連盟のイメージ改革として『エバーフォレストガーデン』を開店してから九年目。

 精霊達の協力と、五十鈴連盟に蓄積された森についての知識もあって、店は大繁盛。今ではラトナトラヤの東地区に知らぬ者はいないというほどまで、『エバーフォレストガーデン』の名は広まっていた。

 ただ当然、繁盛する店に比例して店舗運営業務も忙しくなる。結果クラウスは、店長としての仕事に追われる日々となっていた。

 そして今現在、五十鈴連盟としての活動は、助っ人としてやってきた副支部長がまとめている次第である。

 クラウスは、ずっと気にしていた。五十鈴連盟の支部長とは名ばかりで、店長の方が板についてきてしまっている事を。森と精霊を想い、五十鈴連盟に参加したにもかかわらず、その任務に関われていない事を。

 そんな時にやってきたのが、ミラだった。『エバーフォレストガーデン』ではなく、五十鈴連盟の支部としてこの場を訪れ、支部長に秘密の話があると言ってきたミラに、クラウスは幾久しく忘れていた支部長としての思いを再び燃やし始めたのだ。


「保護対象の幼精霊を見つけたとか──それとも新たな汚染地域が──」


 どのような役目を求めにきたのか。その可能性を列挙していたクラウスだが、その声は右から左へ。「いやー、そういうのではなくてじゃなぁ」と、流すように返すミラ。

 だが、それにもめげず次の可能性を探るクラウス。


「お、あったあった、これじゃ!」


 そうしたところで、ようやく以前に書いた合言葉のメモを見つけたミラは、はつらつとしつつも決め顔で、それを口にした。


「森に光、精霊に安らぎ、じゃ!」


 かつて、ヒドゥンのサソリに教えてもらった合言葉。それの意味するところは、本部へ繋がる通信装置の使用要請だ。ここにきてまた、あの時の合言葉が役に立つとはと思いつつ、ミラはクラウスの案内を待つ。

 だがしかし、どういうわけかクラウスの反応はまったくの別物だった。

 五十鈴連盟支部長として望まれる仕事。遂にはその希望までを語り始めたクラウスだったが、ミラが発した言葉を耳にして、ふと押し黙った。


「……えっと、それはどういった意味でしょう? 何かの暗号とかですかね?」


 暫く考え込んだ末に、クラウスはそう答えた。『森に光、精霊に安らぎ』。それが合言葉である事すら、わからないといった様子でだ。


「ぬ? いや、じゃから……森に光、精霊に安らぎ……」


 どこか間違っていたのだろうか。そう思いメモを再確認してからもう一度、合言葉を繰り返したミラ。けれどクラウスの反応は変わらず、何の事だとばかりな顔のままだった。

 見つめ合ったまま、互いに首をかしげるミラとクラウス。片や合言葉が通じないと焦燥し、片や何の意味かもわからず困惑する。


「ほれ、わからぬか!? 合言葉じゃよ、合言葉! セントポリーでは確かにこれで通じておったぞ!」


 いよいよ辛抱堪らずといった様子で、ミラは叫んだ。セントポリーの支部長であったマティは、直ぐに反応してくれた。そんな合言葉であるのに、なぜ彼はわかってくれないのかと。

 すると──。


「あ、ああ! そういう事でしたか!」


 困り顔から打って変わって、クラウスは合点がいったとばかりに表情を一転させた。


「おお、ようやっと気付いてくれたか!」


 その反応に、やっと通じたかと喜んだミラであったが、クラウスが続けた言葉は、そんなミラを容赦なく斬り捨てるようなものだった。


「えっと……我々が使う合言葉は、地域によって違っていましてね。セントポリーとなると、完全に地域が別です。だから申し訳ないですが、何の合言葉かは……」


「なん……じゃと……」


 場所ごとに、使われている合言葉が違う。今更ながらにその事実を知ったミラは、よもや、そのような決まり事があったとはと驚愕する。


(これは……どうすればよいのじゃ!?)


 自信満々に合言葉を知っているからとやってきながら、このままでは本拠地と連絡を取る事が出来ない。

 あれほど啖呵を切って出てきたにもかかわらず、用事は未達成。最終手段の女王の力に頼るしかないのか。そう考えたミラは、むしろ縋りついて頼み倒すという方法を模索する。

 自身はキメラクローゼンとの決戦で活躍し、精霊女王などという二つ名がついた当事者である。多少なりとも考慮してくれるのではないかと、クラウスの裁量に期待する方法だ。


「ところで、貴女はうちのメンバーというわけではなさそうですが、その合言葉は誰から聞いたのですか?」


 色々と考え込んでいたところで、ミラをまじまじと見つめていたクラウスが、ふとそんな事を口にした。

 ミラは焦った。五十鈴連盟の構成員ならば、合言葉が地域別であると知らないはずはない。ならば、その合言葉をどこで知ったのか気になるのは当然。そう察して疑われているのだろうと考えると同時、これはチャンスであると思考を巡らせる。


「今のはサソリに教えてもらったのじゃよ。五十鈴連盟の精鋭であるヒドゥンのサソリじゃ。ああ、その時は一緒にヘビもおったぞ!」


 ヒドゥン。それは五十鈴連盟の中でも特に優秀な者達の総称。支部長クラスならば、その存在を知っているだろう。

 ミラは、その反応が返ってきたところで自分の正体を明かし、サソリとヘビの名を借りて、どうにかこうにか通信装置を使わせてもらえないかと交渉するつもりでいた。

 しかし、その算段は思わぬ形で崩れ去る事となる。


「なるほど……サソリさんに。しかもヘビさんまで一緒となると決戦の手前。その時期は、アーロンさんともう一人、あの方が行動を共にしていたと聞いています。とすれば、やはり貴女が精霊女王のミラさんという事に?」


 キメラクローゼンとの最終決戦。それに関係する詳細な情報は、支部長達の間で共有されているようだ。彼はミラが言い出すまでもなく、精霊女王という名を口にした。


「おお! そうじゃ、その通りじゃ!」


 名乗ろうとしたところで当てられて多少驚いたミラであったが、むしろこれ幸いとばかりに身を乗り出す。そして、それを証明するかのように冒険者証をテーブルの上にばしりと置いてみせた。


「やはりそうでしたか。名前を聞いた時から予感はしていましたが、確認するタイミングがなくて。けど良かったです。そうとわかれば話は早い」


 冒険者証によって、正真正銘の精霊女王だと確認出来た。そう答えたクラウスは、これで何も問題はないと笑い言葉を続ける。


「実は、ウズメ様より指示がありましてね──」


 それは二ヶ月ほど前の事。クラウス曰く、全支部宛てにウズメの署名が入った指示書が送られてきたという。

 そこに書かれていた内容は、『精霊女王が支部を訪ねてきた場合、その望みを出来得る限り叶えるように』といったものだったそうだ。


「なんと、そのような……」


 ウズメことカグラは、ミラがこうして助力を求めてくる事を想定していたらしい。そして、事がスムーズに進むように先んじて、それぞれの支部へ話を通しておいてくれていたわけだ。

 なんて気が利くのだろう。お陰で、サソリがどうとかあの時の活躍ぶりだとかを語って説得する手間が省けた。

 そう喜んだミラは、ここぞとばかりに望みを伝えた。


「では早速なのじゃが、本拠地への通信装置を使わせてもらってもよいか!?」


「もちろんです」


 ミラが希望したところ、にこやかに答えたクラウスは、更に「では、ご案内いたしましょう」と続けて立ち上がった。

 なお、五十鈴連盟の支部長としての大仕事を期待していたからか、クラウスの表情は少しだけ残念そうであった。




 合言葉は不発に終わったが、どうにか本拠地直通の通信装置は使わせてもらえる事になった。

 ミラはクラウスの案内に従い応接室を出て廊下を進み、部屋から部屋へと抜けて、支部の奥へと入り込んでいく。

 そうして隠し扉のその先へ踏み込んだところで、見覚えのある光景が目に入った。白い部屋と、中央に置かれた黒い通信装置だ。


「では私は、廊下に出て向かいの事務室で作業をしておりますので、ご用件がお済みになったら声をかけてください」


「うむ、わかった。案内、感謝する」


 一礼してから仕事に戻っていくクラウスに礼を返したミラは、通信装置の前に立ち、セントポリーで初めて使った時の事を思い返した。

 通信装置は、昭和時代に使われていたという黒い電話機に似た形をしている。だが電話と違い、その受話器を取るだけで相手側に、この場合は本拠地に繋がるという仕様だ。

 その仕組みを、しかと思い出したミラは、初めての時のような失敗はもうしないと意気込んで受話器を手に取った。


「もしもーし、誰かおるかー。わしじゃー、ミラじゃー」


 受話器を耳に当てるなり、直ぐにそう呼びかける。前回はカグラに直接繋がったが、彼女は今、天使のティリエルと封鬼の棺巡りをしているはずだ。となれば今回は誰が出るのか。

 こういう場合は、やはり五十鈴連盟の頭脳担当だったアリオトだろうか。だが少しして受話器から聞こえてきたのは、少し不安になるような音だった。


『ーい……はぃはぃ……は──』


 何やら遠くから響いてくるような声は女性のもの。ただ、カグラとはまた違う声だ。しかも聞こえるのはそれだけではない。ドタドタとやけに騒々しい音が勢いよく近づいてくる様子が、受話器からでも窺えたのである。

 いったい向こう側では、どうなっているのか。しかも途中でスっ転んだようで、ドタンという音に『あ痛ー!』という悲鳴まで聞こえた。

 だが、その声の主に挫けた様子はない。更に慌ただしい足音がしたところで、遂に向こう側からの応答があった。


『ふぅ……よし。はい、こちら本部です。所属とコードネームをお願いします』


 どうやら、この通信担当は結構なドジであわてんぼうのようだ。ほんの数秒でそれを察したミラは、カグラへ間違えずに伝言出来るのだろうかと心配になりながらも答えた。


「わしは、ミラじゃ。所属はない。じゃがまあ、最近は精霊女王などと呼ばれる事が多いのぅ」


 立場的には部外者になるため、そのまま告げても相手を混乱させてしまいそうだ。そう考えたミラは、五十鈴連盟との接点になりそうな精霊女王の名を共に告げた。

 するとだ。その一言は、思った以上の効果を発揮した。


『え……ええ!? 精霊女王様!? 精霊女王様ですか!? わあ! 凄い! ほんとにかかってきました!』


 先程までの、どこか無理をして控えたような声から一変し、これでもかというほどにはしゃぐ声が受話器から聞こえてきたのだ。また、ほんとにかかってきた、などと口走っている事からして、支部長だけでなく彼女にも幾らか話は通っているように思われた。


「これこれ、何やらわからんが落ち着かぬか」


 ミラがそう言うと、相手が『あ……!』と黙り込んだ。それから数秒の沈黙の後、通信担当は『えっと、本当に精霊女王様でしょうか?』と、今一度確認してきた。


「うむ、本当じゃよ。この通信装置も、ラトナトラヤの支部長殿にそう伝えて使わせてもらっておるところじゃ」


 ミラは状況を踏まえて簡単に答えた。するとまたもや受話器から歓喜の声が響いてくる。


『お話出来て光栄です!──』


 そんな言葉から始まったのは、通信担当の一人語りだった。

 何でも彼女は召喚術士であるそうだ。そして、だからこそ憧れていますと興奮気味であり、もしかしたら精霊女王から通信がくるかもしれない、と聞かされたので通信担当に立候補したと次々に話してきた。なお、ミラの実力だなんだという事についてはアーロンから聞いたそうだ。


「ふむ、そうかそうか! お主も召喚術士か! よし、何か召喚術でわからぬ事があったなら、わしに言うのじゃぞ」


 召喚術士は皆兄弟とばかりにミラが言ったところ、『ありがとうございます!』と答えた通信担当は、早速とばかりに悩みを打ち明ける。そしてミラは、親身になってアドバイスを送ったのだった。







最近、どうも冷蔵庫の調子が悪いのです……。


ふと気付くと冷却されてなく、霜が溶けて床がびしょびしょになっていました……。


そしてアイスも溶け始めていたので、全部を一度に食べてしまう事に!

冷たいものを一度に沢山って、やはりハードですね……。


その後、スイッチを切ったりなんだりしていたら自然と冷却が再開されたのですが、止まった原因は不明のまま……。


またおかしくなる前に、ヨドバシに行ってくる予定です!

次は、冷凍庫の容量を重視して探しちゃいます!

冷凍食品に冷凍野菜、冷凍庫が広がるほど可能性も広がっていく気がします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 忘れっぽいし、話が本題から逸れる これは圧倒的なお爺ちゃん要素 決して中の人がポンコ、ゲフンゲフン
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