331 好待遇
前話の最後のあたりを少し変更しました……!
三百三十一
メモを忘れてきたため、ワゴンから五十鈴連盟に連絡が出来なくなった。だが、ニルヴァーナに支部があれば可能性はある。
さあどっちだと注目するミラに、アルマは暫し考え込んでから答えた。
「支部なら確か……東門の近くだったかな。出来れば森に近い方がいいって事だったから、ちょうどあった空き家を格安で紹介した気がするわね」
十年ほど前であるため、そのあたりの記憶は薄れ気味のようだ。東門近くの、どのあたりだったかまでは思い出せないと苦笑するアルマ。
とはいえ、それはミラにとって十分過ぎる情報だった。
「ほぅ! 東門というと、この街に支部はあるのじゃな。でかしたぞ!」
大陸全土をまたにかける五十鈴連盟であるが、カグラに聞いた話によると、国によっては国境のはずれの街にぽつんと支部があったりするそうだ。
しかし、このニルヴァーナでは、堂々と首都に支部が置いてあるらしい。しかも、出来るだけ望み通りの立地に。
実に寛容な対応である。いちいち別の街へと行かずに済んだミラは、上機嫌にアルマを称賛した。
「あ、なんか褒められた? って、ところで五十鈴連盟の支部がどうしたの? それよりカグラちゃんの……──んん?」
珍しく褒められたと少し照れたのも束の間。それとカグラに何の関係があるのかと疑問を浮かべたアルマは直後、何か思い当たったのか言葉を止めた。そして「ところで、うちの情報部が掴んだ噂程度の話なんだけど──」と前置きして、その噂とやらの詳細を語り始める。
アルマが話す噂。ニルヴァーナの情報部が独自の情報網を駆使して得たそれは、キメラクローゼンとの戦いの中心となった人物の事についてだった。
「世間に出回っているのは、ジャックグレイブ君とかエレオノーラちゃんとか、あとじぃじとか、有名な冒険者やギルドばっかりだけどさ。そんな人達をまとめる『アリオト』って人がいたって聞いたのよ」
そう口にしたアルマは、更にそこから核心をつくところまで一気に続けた。
何でも、五十鈴連盟の支部を置かせてほしいと頼みにきた人物と、その『アリオト』という人物がそっくりだったと報告にあったそうだ。
更にそこで話は終わらない。その『アリオト』の上に、『ウズメ』という人物がいるという事まで情報部は突き止めていた。
「五十鈴連盟の活動内容って、精霊の住む森を守る、だったよね。なら、キメラクローゼンとは確実に敵対していたでしょ」
そう言い切ったアルマは、だからこそ、あの戦いにかかわっていても不思議ではないとも口にした。
「でね、私はこのウズメって人が五十鈴連盟の大将だって思ったんだけど、当事者のじぃじなら何か知ってるよね? それに、凄腕の陰陽術士だって聞いたのよ。じぃじが急に支部がどうとか言い出したのって、つまりそういう事だよね?」
アルマは話しながらも、色々とばらけていた情報を整理していたようだ。そして今、それらを統合し、その真実に辿り着いた。五十鈴連盟のトップこそが、カグラであるという真実に。
「ほぅ、流石はニルヴァーナの情報部じゃな。そこまで正確な情報を掴んでおったか」
支部の場所を訊いただけで、そこに気付くとは。そう感心しながら、「その通り、五十鈴連盟の総帥はカグラじゃよ」と、アルマの出した答えを肯定したミラは、その件について簡単に話した。
キメラクローゼン打倒を目指していた以前のカグラと、天使ティリエルと共に各地を巡っている今のカグラの事。彼女が編み出した自白の術と入れ替わりの術の事。そして支部にある本拠地直通の通信装置についてを。
「──というわけでのぅ。支部から向こうに連絡を入れておけば、きっとカグラに伝わるはずじゃ。そうすれば、余程の事でもない限りは来てくれるじゃろう。少なくとも薬でなんちゃらという二ヶ月よりは、ずっと早くのぅ」
カグラの事だ。時間などまったくないという状態でなければ、手を貸してくれる。後は、どれほどの頻度で本拠地と連絡を取り合っているかだが、流石に二ヶ月もほったらかしにはしないとミラは考えていた。
あれだけ大きな組織だ。キメラクローゼン討伐という最大の役目は終えたものの、その後処理で今も多くのメンバーが奔走中である。一日でも、各所からの報告やカグラの判断が必要な案件が色々と集まっている事だろう。
「なるほど。だから支部だったんだね。それでうまく連絡がとれてカグラちゃんが来てくれれば……うんうん、希望が出てきた!」
ミラが話した内容を整理しきったアルマは、そう気合を入れて立ち上がり、「それじゃあ、頼みに行こうか!」などと言い出した。しかも、こういう事は責任者である自分から話すべきだと、それらしい理由まで付け加えて。
だがミラは、気付いていた。よく知っていたのだ。そのアルマの態度と言動が、たまにみせるソロモンのそれに似ている事を。
「いや、わし一人で十分じゃ。そもそも、女王をふらふらと街に出すわけにはいかんじゃろうが。お主は仕事をしながら待っておればよい」
何かと理由をつけて、政務から抜け出そうとする王の挙動。それをはっきりと確認したミラは、アルマを制するように答えながら、こちらもまた立ち上がった。
アルマの動機はどうであれ、この後、巫女の護衛につく事を考えると、今のタイミングで連絡を済ませておくのが得策だ。
「う……!」
ミラの見立て通り、やはりアルマはそのつもりだったようだ。明らかな動揺を浮かべて声を詰まらせる。けれど、彼女の目はまだ諦めた者のそれではなかった。何かしらの理由を求めて思考の深みへと潜行していく、底の見えない目である。
「それと、支部の通信装置は、誰でも使えるというものではない。合言葉を知る者のみが、それのある部屋に入れるという仕組みになっておる。女王とはいえ、いや、女王だからこそ、そこで無理を通すわけにもいかんじゃろう」
諭すように、だがやはりどこか得意げにミラは言った。
支部に置かれている本拠地直通の通信装置。当たり前だが、それは部外者がおいそれと使えるような代物ではない。五十鈴連盟のメンバーのみに許された、重要な連絡手段である。
きっと、ニルヴァーナの女王であるアルマならば、そこを押し通る事が出来るだろう。だが、そんな大事なものがある場所に権力を振りかざして入るのは、どうだろうか。そうミラは、もっともらしい理由を並べ始めた。
そして最後に「当然わしは、その合言葉を知っておる」と、更に胸を反らせてドヤった。
そう、ミラは以前に、そんな通信装置を使うための合言葉を五十鈴連盟の精鋭であるヒドゥンのサソリから教えてもらっていた。ゆえに、ここは一人で行くのが最適だと、なおも食い下がってこようと企んでいるアルマに告げる。
「あ、ほら、じぃじは支部の場所わからないでしょ? 案内してあげる」
閃いたとばかりに、そんな事を口にしたアルマ。だがしかし、ミラはその嘘を即座に見抜いた。
「何を言うておる。先程、どのあたりかまでは覚えておらぬと自分で言うておったじゃろう」
最初に支部の場所を訊いた際、アルマは東門の空き家を紹介したと話すついでに、詳細な場所については覚えていないとも口にしていた。つまり、案内など出来るはずがないのだ。
「……わかりましたよー、拷問のようなデスクワークをしながら待ってますよー」
どうにか思い付いた案も、自身が発した言葉によって無効となった。その結果、アルマは説得を諦めたようだ。唇を尖らせながら、目いっぱい不貞腐れるようにして答えると、のっしのっしと執務室へ戻っていった。
だが、完全に諦めたわけではなさそうだった。ミラも続き執務室に戻ったところ、アルマはこれみよがしに書類の山に手を置いて、「はぁ……」と深いため息を吐きつつ、当てつけるような目を向けてきたのだ。
「これはまた大変そうじゃな。これだけ国がでかいと、仕事の量も半端ないのぅ」
大国だけあって政務を分担する大臣も多いが、それでも女王でなければ処理出来ない仕事というのも大量にある。
ご苦労な事だとミラが労うと、アルマの顔に期待が浮かぶ。息抜きのために、ほんの少しでもこの仕事から脱出する手助けをしてほしいと。
ヨーグに効果的な尋問をするための適任者と、直接交渉をしてくる。そのような言い訳を並べれば、女王の外出許可が正式に出るだろう。だがそれには、その事情を把握しているミラの口添えが必要だった。
「ゆっくり行って、ゆっくり帰ってくるのでな。しっかりと励むのじゃぞ」
必要だったが、ミラは容赦なく、そんな期待をばっさりと切り捨てた。そして「じぃじの意地悪ゥー!」と叫ぶアルマを置いて、そそくさと五十鈴連盟の支部があるという東門に向かうのだった。
王城から出てペガサスに乗り空を行く事、五分と少々。足元を流れる街並みを眺めつつ、首都ラトナトラヤの東側に位置する大門前に到着したミラ。
高さにして五十メートルはある巨大な防壁の間に、二十メートル級の巨大な門が聳えている。だがその門は今、閉じられたままであり、これが開く事は滅多になかった。
ただ、それもそのはず。東門の先は広大な森が広がっているだけであり、町や村などは、この先にはないのだ。
ここより東へ向かう者は、素材や魔物を狙う冒険者や狩人くらいとなっている。そして、そういった者達は東門の近くにある小門から出入りするため、やはり大門が開く事はない。
ここ数年で開いたのは、森で行われる軍事演習の際に軍列が通過した時くらいだ。また、そういった場所であるため、街に四つある大門の中で、この東門前が一番静かな場所でもあった。
「しかしまあ、でっかいのぅ」
ペガサスを労い送還した後、東門の前に立って、更に高く続く防壁を見上げる。
あまり使われない門ではあるが、この辺りは他の北門、南門、西門とは違う特徴があった。それは、見た目通りの高さだ。
背の高い森と隣接している分、そこから木を伝い魔物が飛び越えてくる事があるため、このような高さになっているのである。
(そういえば、ここで防衛戦に参加した事があったのぅ)
東の森に現れた上位魔獣。その討伐のために十二使徒と共闘したなと、しみじみ思い出しながら、ミラは門の脇にある詰め所に向かった。そこに勤めている門番ならば、きっと東門付近の事について詳しいだろうと考えたからだ。
そう、五十鈴連盟の支部の場所がわからないのなら、知っていそうな誰かに訊けばいい。
門番達の詰め所。そこは、どことなく交番のような場所だった。帯剣した兵士が見張りのように立ち、その近くの掲示板には指名手配と書かれた賞金首の張り紙が並んでいた。
指名手配犯だけあって、殺人だなんだといった罪状が多い。それでいて人相は、いかにもといった顔から、そうは見えない者まで幅広かった。中にはとびきりの美女までもが、そこには含まれている。
そんな美女の罪状は『窃盗』。男が枯れ果てた隙に、金目のものを根こそぎ奪っていくのだそうだ。
(きっと、本望……だったじゃろうな)
いくらか掲示板に目をやったミラは、そんな感想を抱きつつ、門番の前に歩み寄っていった。
「のぅのぅ、ちと、よいじゃろうか?」
ミラがそのように話しかけたところで、門番はにこりと微笑みながら向き直り言った。「ん? どうしたのかな、迷子かな?」と。
瞬間ミラは、「迷子ではない!」と叫びたくなる衝動を抑え、冷静に首を横に振って答えた。
「いや、迷子ではない。ただ、道を尋ねたいだけじゃ。この近くに五十鈴連盟の支部があると聞いたが、それがどこか教えてはもらえぬじゃろうか」
迷子だなんだと間違われるのは、もう慣れた。というより、そうなる確率が高い事を受け入れ、受け流すという技術を磨いたミラは、至って簡潔に用件だけを伝えた。
「なるほど、お使いだったんだね。それなら簡単だ。向かいにある、あの雑貨屋の裏側にある屋敷が、その五十鈴連盟の支部になっているよ」
門番は、大通りの向かいにある雑貨屋を指し示しながら丁寧に教えてくれた。だが、迷子ではなくお使い。結局子ども扱いに変わりはなかったが、それも仕方のない事だ。
「ご教授、感謝する」
そんな門番に対し、少し大人ぶりながら礼を返したミラは、教わった通りに雑貨屋の方へと向かった。ただ、その途中の事。
(はて? お使いとな?)
五十鈴連盟の支部に対して、お使いという言葉が返って来た。あの場所に、お使い要素などあっただろうかと疑問を抱くミラ。
セントポリーで訪ねた五十鈴連盟の支部。それは小さな一軒家であり、そこにいたのは、荒野を森にする研究をしていた支部長のマティ。その時の事を思い出せば、むしろあんな場所に何の用だと問われそうなものだ。
とはいえ、そんな些細な言葉を気にしていても仕方がない。そう判断し、ミラは雑貨屋の脇の道に入り更に奥へと進んでいった。
贅沢ご飯に外食……確かに贅沢!!
しかしながら自宅でテレビを見ながら食べるというのが一番の理想なのです。
テイクアウトしてくるという手もあります。
実際、引っ越し記念として王将で餃子と天津飯を持ち帰り、君の名はを見ながら食べたあの時は、最高の至福でした。
そしてもう一つの可能性も、ありました!
宅配、いいですね!!
思えば引っ越してからというもの、ポストには色々なチラシが入っています。
その中にはピザをはじめとして、色々な宅配ご飯が……!
流石に割高ですが……月に一度くらいで、超贅沢ご飯の日とかにすれば……。
なんだが、楽しみになってきました!!
追伸
フリークエストで集めた石で、
ギルガメッシュが出たーーーーー!!!!!!




